葛藤 〜リアルタイムの殺人部屋へようこそ〜 第3章
「私、この人を告白します」
菜緒が指さしたのは亮だった。
「なんでっ嫌だっ嫌だぁぁ!!」
亮は椅子から勢いよく立ち上がった。次の瞬間バンッという音が鳴り響き、左胸から血を流し、亮は倒れた。
「キャーッ!!」
ある者は顔を覆ってその場に座り込み、またある者は部屋の隅に逃げて呆然と立ちすくむ。そんな中、慎也が亮にゆっくりと近づき、首筋に手を当てた。顔を上げ、首を横に振る。
「……亮をどこかに運ぼう」
悠がゆっくりと口を開いた。
「ちょっと待ってよ、悠くん」
「運ぶって本気で言っているの?それをしたら死体遺棄よ。犯罪よ」
胡桃と真帆が声を上げた。
「じゃあ死体をこのまま置いておくのか?それに俺たちが生き残るには人を殺さなきゃならない。どっちみち同じだろ。それともあれか?犯罪犯さないで黙って死ぬの待つか?」
悠の言葉に反論する者はいなかった。
「じゃあ決まりだな。誰かちょっと手伝え」
悠と慎也で死体を隣の部屋に運んだ。
「心臓を撃ち抜かれてる。僕達もこうなるのかな」
慎也は近くにあった布を亮に被せながら言った。
「小さい頃、ハマってたゲームがあってさ。俺たちはプレイヤーからただの、キャラクターの1人になったんだなって。俺はゲームのキャラクターを命だなんて考えてなかった。ゲームという名の殺害してたんだよな。これを企てた奴も今、俺たちをニンゲンとして捉えてないんだよな」
「ダイナソー、昔流行ってた。最後クリアしたか?あれ、集めた恐竜に自分が恐竜にされるんだよな」
慎也はそういうと皆の元へ戻った。
「そう、それ。てかお前、最後クリアできたのか。すげぇな。え……でもお前……確か……」
悠と慎也が戻ると菜緒が問い詰められていた。
「何勝手なことしてるの」
「そうだよ。人殺し」
「うるさいうるさいうるさい!!」
菜緒が突然大声を上げる。それまでほとんど言葉を発さなかった菜緒の変わりように彼らはギョッとした。
……あの頃の私は幼稚すぎた。この幸せが一瞬にして崩れ落ちるなんて夢にも思わなかった。お母さんもお父さんも仲良しだと思いこんでいた。2つ上のお兄ちゃんも優しくて、私は我が家のプリンセスだった。
ある雨の日、お母さんはお兄ちゃんを連れて買い物に出かけた。いつもは私も連れて行って貰ってたのにその日だけは『菜緒は連れて行けないから』って言ってお母さんがいつも首にかけていたネックレスを私にかけて家を出た。いくら待ってもお母さんとお兄ちゃんが戻ってくることはなかった。……
「ちょっと、大丈夫?」
真帆が菜緒の顔を覗き込む。菜緒はそこで初めて自分が泣いている事に気がついた。
「私が2歳の時、母は兄を連れて買い物に行くと言って家を出た。でもいくら待っても母も兄も帰っては来なかった。それから2ヶ月たって、3歳の誕生日に父から離婚した事を聞いた。当時よく分からなかったけど大きくなるに連れて分かった。私は母に捨てられたんだって。自分は捨てたくせに子供には母親の事を覚えていて欲しい、だからあの日、ネックレスを私に渡したんだって。
父は一生懸命私を育ててくれた。でも半年前、父は事故を起こして人を殺した原因は過労だって言ってたけど殺人であることには変わりない。それからあっという間に友達がいなくなった。叔母に引き取られたけど私に冷たく当たった。
殺人犯の娘の居場所はどこにもなかった。誰からも必要とされない。私が消えて喜ぶ人はいても泣いてくれる人はいない。
もう死んでもいい。でもだったらこの命、ただ殺されるなら誰かの為に使いたい。だから客人の私は告発することにした。
今日告発するのは誰でも良かった。でもあんなに貶されてたのに、みんなの輪の中にいる亮が許せなかった」
「で……でも」
胡桃が反論しようとするが菜緒の圧力がそうはさせなかった。
「別に良いじゃない。亮が死んだってことは亮は私達の敵だったってことなんだから」
「うわ、コイツ、開き直ったよ」
「もういいよ。行こ行こ」
菜緒を、睨みつけるようにしてゾロゾロと部屋を出た。
真綾はポケットからハンカチを取り出し、まだ泣いている菜緒に手渡す。
「早く、戻った方がいいよ。また明日ね」
真綾はそういうと走って部屋から出た。
1人残された菜緒は座り込んで涙を流した。そんな菜緒を見つめる影が廊下に長く伸びていた。