葛藤 〜リアルタイムの殺人部屋へようこそ〜 第2章
第2章
8人は最初に目覚めた部屋に入る。小さな机の引き出しには例のカードとタブレットが入っていた。ボロボロの部屋には合わないタブレットがより不気味さを醸し出している。
真綾はカードを手に取る。真綾の手の中には『村人』という文字。
……良かった。私以外にも同じ人がいる……
真綾はほっと胸を撫で下ろした。
タブレットに手を伸ばす。電源を入れると、案内図のような物が映し出される。真綾の部屋の場所をタップするとひとつの写真が出てきた。
「なにこれ……シアン化合物…?」
真綾は写真の真ん中に映る小さなビンのラベルの文字を読み上げた。
その時、
「痛っ」
という声が響き渡った。真綾は慌てて外に出た。
「何?どうしたの」
「なんの騒ぎ?」
続々とみんなが集まってきた。
「胡桃の部屋に入るのにドアノブ触ったら電流が流れた」
悠は 右手を抑えながら言った。
「ささささ……さっ殺人犯以外の人がべ……別の人のど…ドアノブにさ……ささ…触ったら電流が流れるってことですかね?だから…」
「順番に別の人の部屋にさ触れていけば殺人犯が誰か分かるかもしれない」
真帆が亮の発言を遮るようにして言った。その言葉に亮はうなづいた。
真帆、亮、慎也、悠、誠人、菜緒と順番に電流を浴びた。
「早くしろよ、おい」
残った真綾と胡桃に冷たい視線が向いた。
「お前らのどっちかが殺人犯か」
「違う!私じゃない!」
真綾と胡桃は叫ぶように言った。
「なら早くやれよ」
「10秒以内にやってね。10.9.8.7……」
カウントダウンのせいでますます鼓動が早くなった。
……やるしか、ない……
真綾は意を決してドアノブに触れた。
「痛いっ」
あまりの痛さにしゃがみ込んだ真綾に見向きもせず胡桃を見つめる。
「私じゃないわ。わかった。触ればいいのでしょ」
胡桃はゆっくりとドアノブに触れた。
「痛いっ痛いよぉ……悠くん、胡桃、頑張ったよ」
涙を流した胡桃を悠は抱きしめた。
「結局何も分からなかったじゃない」
菜緒が鼻で笑って去ろうとしたその時
「待って!」
真帆が引き止めた。
「さっきの説明によると殺人犯の部屋にはカードとタブレットの他に凶器があるって事よね。全員の部屋に凶器ないかチェックすれば殺人犯が分かるかも」
「ドアノブに触れないのよ?どうやって確認するって言うの?バカバカしい。せっかくなんだし、ゲーム、楽しみましょうよ」
「それってお前、俺たちを連れてきた犯人ってことか?告発するぞ。おい」
菜緒の言葉に悠が勢いよく立ち上がって言った。
「したければどうぞ?貴方が死ぬだけだけどね」
菜緒はそう言って部屋に戻った。
「ほ……本人に開けてもらえれば簡単に入れる。だ…だっだけどげ…ゲームの邪魔をする行為をしたら殺される。別の人の部屋に入るのがじゃ…じゃ…邪魔をする行為になるかどうか……」
「あぁもう。うざい。満足に喋れねぇバカがでしゃばってんじゃねぇよ。さっきだって得意気に推理してたけど外れてたじゃん」
つい何秒か前まですすり声をあげていた胡桃が低い声で言った。皆驚いて胡桃を見つめる。
「でもこの方、だんだん普通に話せるようになってるよ」
「それに、推察が外れたのは私も同じよ。関口亮さんだけの責任じゃ……」
真綾と真帆が胡桃をなだめるように言った。
「なんでよ。なんでこいつなんか庇うのよ」
胡桃はますます逆上し女子3人で言い争いが始まった。男子はただ眺めることしか出来なかった。
言い争いを辞めさせたのは亮だった。
「ぼぼぼ僕だって、ちゃんと話せるようになりたいんだ。でも、話そうと思うと喉が鷲掴みにされて声が出ないんだ。大人は落ち着いて話せば話せるようになる。落ち着いて話しなさいって簡単に言うけど、落ち着こうと思えば思うほど僕の喉は…声は言うこときいてくれない。ちゃんと話せって言うなら、僕の吃音治してよ。」
亮が泣き叫ぶようにして言った。
「ちゃんと話せてるじゃん」
「そうですよ。違和感なかったですよ」
「前、本で読んだ。感情が高ぶると話しやすくなるんだって。」
男子は口々にそう言って亮に駆け寄った。
「……ごめん」
胡桃は消え入りそうな声でそう言うと走り去った。真綾と真帆は胡桃を追いかけた。
「本で読んだって…勉強大好き人間なのか?医者の息子ってそういうものなのか?」
「いや、僕は親に本しか買ってもらったことがないんだ。ゲームとか漫画とかそういうのは買ってもらったことがない。物心着いた頃には既に身の回りには本しかなかった。親に漫画読んだりゲームしているのがバレたら怒られるんだ。だから、自然と本を読むようになっただけ」
「医者の息子じゃなくて良かった。僕。」
男子は現実から逃げるようにたわいもない話を始めた。
それは女子も同じだった。
「悠くんに嫌われちゃったかな…」
「大丈夫だよ。胡桃ちゃん、可愛いし。ギャップってよく聞くじゃん」
「あなた達が地味すぎるんでしょ」
「ちょっと、こっちは励ましてるのよ」
3人は顔を見合わせて笑った
………こんな楽しい時間がずっと過ぎればいい。そう、あんなことなんか忘れて。 あんなこと…
真綾の脳裏に1つの写真が浮かんだ。
「あっ写真」
真綾は勢いよく立ち上がった。
真帆が全員を集めた。
「話があるの。真綾、お願い。」
真帆が真綾に話すよう促した。
「私のタブレットに、こんな写真があったの。真帆ちゃんも胡桃ちゃんもこんな写真はないって言ってた」
慎也が写真の文字を読み上げて言った。
「シアン化合物…いわゆる、青酸カリだよね」
「そう、凶器と殺人犯を見つけるって話だから、これは凶器解明の手がかりになると思う」
「でも、ここに何があるのか分からない状態で凶器を見つけるのは不可能に近い。僕たちをここに連れてきた奴はゲームをやらせたがっている。ということは、どこかに凶器の一覧みたいなものがあると思う」
真帆と亮が付け足すように言った。
8人は一斉に探し始めた。
「あっこれ」
テレビ台の下から誠人が模造紙とペンを引っ張り出した。床に模造紙を広げる。
「ロープ、ナイフ、鉄パイプ、青酸カリ……この4つが凶器ってことか」
悠が模造紙に貼られた写真を見て言った。
「でも、青酸カリは見つかったから違う」
誠人はさっき見つけたペンで青酸カリに大きくバツをつけた。
その時ゴーンと鐘がなった。時計の針は9時を指していた。皆、最初座った椅子に腰かけた。一気に緊張が走る。
「私、この人を告発します」
真綾の横でバンッと銃声が鳴り響いた。