葛藤 〜リアルタイムの殺人部屋へようこそ〜
第1章
高校生が8人突如として姿を消した。首都、東京に無数に存在する防犯カメラに1つとしてその瞬間は撮られていない。午後7時、彼らの私物だけその場に残し暗い森の中に姿を消した。
真綾が目覚めると見覚えのない景色が広がっていた。
「ここはどこ?」
座ったら壊れるのではないかと思うほどボロボロのベッド。ノート1冊分しか広げられない小さな机。壁には大きな茶色いシミ。真綾は怖くなって部屋から出た。
「あなたはだれ?」
「ここはどこですか?」
真綾が部屋から出ると別の高校の制服を来た人がキョロキョロと周りを気にしている。
「ちょっと、移動してみましょう」
何人か列をなしてゾロゾロと歩いていく。真綾は少し離れてゆっくりとついて行く。しばらくすると暗闇に小さな明かりが遠くに見えた。彼らは誘蛾灯に虫が吸い寄せられるかのように明かりの方へ進む。
電気のついた部屋には8つのイスが円になって向かい合う形で並んでいる。その真ん中に1人の少年が立っていた。
「はじめまして、ようやくお目覚めですか?」
少年は振り返るとニッコリと微笑んだ。
「お前、誰だよ。何の為に俺たちをここに連れてきた」
金髪の少年が声を荒立てた。
「残念ながら僕も知りません。僕もあなた達同様連れてこられたのです」
氷のような瞳で淡々と話す少年に金髪の少年はますます声を荒立てた。
「すっとぼけるな。早く俺たちを帰らせろ」
しかし炎は氷に取り込まれ、ほどなくして戦火は消えた。
突然古いテレビがついた。テレビの画面には無神経な文字が列をなして歩いている。
『はじめまして、皆さんととあるゲームをしたいと思います。皆さんの部屋に役職を書いたカードがございます。ゲーム説明が終わり次第、確認してください。
まず、役職についてです。殺人犯チームは殺人犯1人、愉快犯1人。逃亡犯チームは逃亡犯1人。村人チームは村人3人、記者1人、客人1人で分けられております。このゲームはチーム戦です。
殺人犯は毎晩誰かの部屋に行き、役職の書かれたカードの隣にある凶器でその部屋にいた人を殺してください。村人全員を殺した場合殺人犯チームの勝利となりますが午後9時に行われる告発で凶器と一緒に殺人犯だと断定された場合は銃殺されます。
愉快犯は午後10時にタブレット上で自分の持っている凶器をその部屋のものとすり替えます。部屋に何もなかった場合、部屋に凶器を置いて自身は何も持っていない状態になります。殺人犯と同じ部屋へ行った場合、銃殺します。
逃亡犯は毎晩部屋にあるタブレットで部屋を選択しその部屋にある逃亡の手がかりを探します。真っ先に手がかりを探し当てここから脱出したら勝利です。手がかりは逃亡犯にしか分かりません。殺人犯と同じ部屋を見たら銃殺します。
愉快犯と逃亡犯は告発によって正体がバレても銃殺します。
村人チームは全員、告発できます。客人と記者は初日から告発できますが、村人は2日目からしか出来ません。殺人犯と凶器の告発、逃亡犯と愉快犯の告発ができます。正解したら犯人を銃殺しますが不正解なら告発した人を銃殺します。
村人と客人は1度だけタブレットでどの部屋にどの凶器があるか見ることができます。その日は自分の部屋に凶器があるか、見ることは出来ません。殺人犯が移動した部屋の凶器を見たら銃殺します。複数の場合、ランダムで1人だけ銃殺します。殺人犯が村人陣営の部屋に侵入しようとした際、その部屋の人物が別の部屋を見ていた場合、鍵が自動で締まり、死体は出ません。
殺人犯以外の人は告発が終わり部屋に戻ったら朝8時まで部屋の外に出てはいけません。
最後に、ゲームを邪魔するような行為をした場合、銃殺します。』
真綾は頭が真っ白になった。
「悠くん、怖いよぉ」
茶色い内巻きツインテールの少女が隣にいる先程の金髪の少年の袖をそっとつかみながら言った。
少女の声に続くように口々に言った。
「どうなってるの?意味わからない」
「学校はどうなるの?学校休むなんて……」
「ふざけるなよ、なにがしたいんだよ」
「僕をこんな目に合わせるなんてどうなるか分かってるのか?おい」
真綾は声は発さないものの、涙で頬が濡れた。
「とりあえず、自己紹介しませんか?」
この辺りでは有名な進学校の制服を校則通りキッチリ着こなして、鎖骨まで伸びた髪をお下げにした少女が真っ先に落ち着きを取り戻した。彼らは一斉にその少女を見る。
お下げの少女は反論が出ないことを確認して続けた。
「時計回りに自己紹介お願いします。まず、私の名前は雲井真帆です。高校2年で生徒会長をしています。」
「私は浅居菜緒。高1。」
「俺は桐島悠。高2。隣は内田胡桃で同じく高2。」
先程の金髪の少年が隣に座るツインテールの少女を指して言った。
「よろしくお願いします。」
胡桃は高い声でペコリと頭を下げて言った。
「僕は西園寺慎也。高3です。」
『西園寺』という名字を聞いた途端、彼らは一斉に慎也の顔を見た。
「西園寺って、あの病院の?」
どことなく上がったその声に慎也はうなづいた。
「僕のお父様は西園寺総合病院の院長です。」
……どうしよう、こんなすごい人の後に挨拶するの?……
さっきまで慎也に向けられていた視線が真綾に向いた。真綾は心臓がバクバクと音を立てている事に気づいた。
……早く、言わなきゃ……
「あ、あの、成田真綾、高2です。」
真綾は消え入りそうな声で言った。真綾に向けられた視線が隣へ移った。ガンッガンッガンッ と椅子を叩く音が響き渡る。
「あのぅ……どう、しました?」
真帆が化け物でも見たような顔をして言った。
椅子を叩いていた少年がようやく口を開いた。
「……っぼ…ぼぼぼぼぼっくは…せせせせせせ関口…りょ…りょりょりょりょりょう、亮です…」
しばらく沈黙が続いた後、この部屋は大爆笑に包まれた。
「何その喋り方。ウケる」
「キモっ耳が腐る」
亮は目に涙を浮かべて俯いた。それを見て、真綾の頭に血の気が上った。
「あのっ」
「最後は僕ですね。泉誠人。高3です。」
真綾の言葉を遮るように誠人が言った。先程の笑いの大合唱が一瞬にして止まる。
「自己紹介も終わったことですし、役職の確認しましょうか」
8人は一気に現実に引き戻された。
続く