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ニポン国の行き倒れ姫  作者: 蒸留ノボレ
2/2

再会と誓い。

僕の名は伊藤たけお。


時は過ぎた。


僕は体調が悪くなり、もう二か月は入院している。

身体がだるくて動けない。

日常生活全般が出来なくなりここに落ちた。


だからと言って気持ちは楽にはならないけれど、

病室のベッドは何だか楽だな。


そう思ってしまうんだ。


僕はなんで生まれたのかな。

誰かに望まれて産まれてきたとは思いたいが、

それが夢のない夢だといたく知っていたから。


父母が事故で亡くなったのを知ったのはつい最近。

せめて生きてさえいれば救いはあったが、

今では生きていてもいなくてもどうでもいいとまで

考えが後ろ向きになった。


病気には勝てない。

暗い気持ちばかりだ。


病室で出会った同い年の青年は、


「きっといいことある、生きていれば。」と

ふわっとする希望を持っていたみたいだ。


僕もかつてはそうだったよ。

夢を描いた、夢に生きた。

いつか治って働いて、お嫁さんをもらって

家族を持ち、たとえ貧しくても楽しく暮らすんだ。


それがかなわないと知っていた。

だから安直に「夢」などと口にする奴は

本当の絶望を見たことないんだろうなと思った。


僕も本当の絶望は知らない。

なんとなく、「生きるのを望まなくなる」と

感じてはいたけれどね。


そうか、僕は死にたかったんだ。

そんなことを考えたら気持ちがすっとした。


何も失うものがないんだから。


ただひとつ、ただひとつ。

一瞬ともいえる時間を過ごした異性。

行き倒れのマツの事だけは考えてしまう。


僕にとっては母以外の初めての異性。

幼いようでしっかりしたマツ。


僕の部屋から半ばさらわれるように

消えたけれど、今もなおどこかで生きている。


結婚の話とかしてたけど、しあわせだろうか。

何をもってしあわせかは人によって異なる。


金持ちになることがしあわせである人もいていい。

専業主婦になる道を選ぶのもまたいい。


どう自分に納得するか。


僕はいいんだ。


ただ、マツのことがあったから。

マツの事がなかったら、僕はとっくの昔に

生きる意志さえ無くしていただろうから。


そう、僕はマツに生かされていた。

最後の希望なのか。


「たけお。」


急に名前を呼ばれた。


「たけお、いるか?」


また呼ばれた。


「たけおは...僕だ。」


いきなり誰かが僕めがけて突っ込んできた。

そして問答無用に抱きしめられた。

かるくキスもされた。


その姿は10歳くらいの女の子。


「マツ...なのか?」


「マツ以外の何者でもない。」


なんてことだろう。

まさか再会が病院だなんて。

僕はもうすっかり生きるのに疲れたというのに。

マツの顔を見ていたら、また少し命が惜しくなる。

マツは半泣きで言う。


「私は結婚していないぞ、たけおに嫁ぐ以外考えない。」


「いやそれ無理でしょ。」


「治れ、治ってしまえ。」


「そうしたいのはやまやまなんだけどな。」


ああ、夢が見たいな。

自分の中で見ないように塗りつぶしていたけれど

僕はマツとしあわせに暮らしたい。

それは可能なのか?


僕はこんなになってしまったのに。


マツが泣く。


「死んでしまったりしたら悲しいよ...。」


いや死なない。

ただ疲れてしまっただけ。


「母もいない私には素顔も知らぬ父と、

夫であるたけおだけだよ....」


いや、いつの間に夫になった。


それはいっかいひと晩兄妹のように寝たけどさ。

それで人生決まったのか。


僕は言った。


「僕は動けない。これから先もそうかもしれない。

だけどマツを生きがいにして生きていきたい。」


「それはプロポーズか?」


「同義だけどダメかな。」


「そんなことない。」


マツはいよいよ涙ぐんだ。


「自分だけが病気だとか思うな。私も成長したくても

10歳程度から成長できない病気を抱えている...。

どうか自分だけが不幸だなんて思わないでほしい。」


僕はハッとした。

世界で一番生きづらいのは自分。

その考え方に染まっていたからだった。


自分がしあわせかどうかは自分で決める。

病床にあっても、こうしてマツの顔を見られる

だけでも僕は充分しあわせじゃないか。


そうか、そうだったんだね。


その後、しばらくは入院生活をしていたけれど、

僕は戻りたくなり退院をした。


日常生活は大きく制限を受けるけれど、

マツがいたから。


僕の大好きなマツがいるから。


思えば初めからこうしていれば良かったんだ。

初めて愛した異性のマツはちょっと変わっているけれど

僕を愛してくれた。


その事実で充分なんだ。

僕たちはしあわせなんだ。


何も変わったことを求めなくていい。

ただこのひと時を大事に、大事に。


明日は来るよきっと。

その時にはまた違ったマツが見られる。

かわいいよマツ。


それだけでいいんだ。

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