俺、友人と話したり前夜祭配信しました。
到着後、夜——。
俺は個々に貸し与えられたコテージにて目野とアプリ通話していた。
『で、どうよ。コテージの居心地は』
「広すぎるな……。もともとファミリー向けなんだって。機材があるとはいえ、なんかぽっかりしていてうすら寒い」
俺は言いながらあたりを見回した。
リビングルームにパソコン、モーションキャプチャの機材や、VRヘッドセッドが万全にセットされている。
特にVRヘッドセッドは最新モデルで、実際に使用する俺たちが閉会後にレビューすることになっていた。いい宣伝になるとはいえ、人数分用意しているからスポンサーもすごい気合が入っているな。
あと、さっき冷蔵庫開けたら生ものは少ないとはいえ食料とエナドリが入っていた。もうここに籠って生活できそう。まあ毎時の食事はスタッフの人が届けてくれるそうだけど……。
壁に貼られた『第一回』と『第二回』のポスターを眺めながら俺はぼやく。
「さっき、中の人たちとスタッフさんたちと顔合わせしたんだけどさ、結構やりにくかった」
『ふうん?』
「ぴりぴりしているっていうか……。早々と解散したけど、仲よくする空気ではなかったな」
『そりゃあリアルで仲良ししに来ているわけじゃないからなあ。なによりバトルをしにきているんだから』
「だな。賞金もかかってるし、一位になれば知名度は爆上がり。周りに構っているヒマはないってことか」
俺はもう予選突破の段階で知名度があがっていてアップアップなので満足している状態なのだが。
もっともっと上を目指している人たちは、この戦いに魂をかけているのだろう。
『そういうこと。バーチャルで話してくれるならそれでいい、という考えでいったほうが楽だと思うぞ』
「とんでもねえ世界に入っちゃったもんだなあ……」
『月に一回は言っているなそれ』
「うっせえ」
俺は椅子にもたれかかる。
このゲーミングチェアめっちゃ座り心地良いな……。帰ったら注文しよう。
『というか前夜祭配信の予告時間そろそろだろ。他のVはみんなしてるぞ』
「あ。今からしようとしてた」
「母親に叱られた小学生かお前は」
はいはいと通話を切る。
Vになって一年は経つけれど、なんというか俺の配信に合わせて生活をする人とか、期待したり待ち侘びているという人がいることにいまだに戸惑いを覚えてしまう。
アザミがかわいいというのもあるだろうけど。
そんなことを考えつつ配信準備を始める。
すでに動作確認や使用方法は確かめていたのでスムーズに動かすことが出来た。
ボイスチェンジャーもONにして、と……。
――配信開始。
「……聞こえてる?」
ダウナー系。それで売っているので、俺はわざとだるそうな声を出す。
【待ってました】
【ばんわー】
【アザミんこんばんはー】
画面右横をコメントがすさまじい速さで流れていく。さすがに俺も慣れた。
「明日から、大会だから……早めに終わらす」
【早く寝て】
【めざせ一位】
【寝坊すんなよ】
【明日の抱負は?】
抱負ねえ……。
「がんばる……」
【草】
【四文字で終わらせるな】
【他の人たちもっと長く語ってたぞ】
【他のVの話題ここで出すな】
【がんばってね】
「まあ、別に……応援してもしてくれなくても、いいけど……」
【する】
【する】
【熱くなれよ!】
いくつか投げ銭が来た。それは明日に取っておいてくれ。
中の人どうだった? というコメントには運営からあらかじめ話さないようにお達しが来ていたのでやんわりと逸らす。リテラシーは大事なので。
しばらく俺はリスナーを相手にぼそぼそと他愛のない話をした。
こういう俺の話を楽しんでくれるリスナーもいれば、リリーさんや《昇龍龍田》《ねこネコまお》みたいな快活で軽快なトークを好むリスナーもいる。
みんなが夢中になるエンターテインメントか……。それってどんなものなんだろう。