母の話
これは僕が小学生の頃、母に聞いた話。
僕が小学校に上がると、社交的な人間である母は色んなママ友と知り合いになるようになった。
ある日、ママ友の集まりで話をしていたら、霊能とか、そういう話になったらしい。僕も母も霊感ゼロ。そういうものは一切信じない。
その話の場で、「面白い話ね」と母が笑うと、
「あるのよ、本当にあるの。馬鹿にすると、とんでもないことになるわよ」
てな感じでママ共に総攻撃喰らって囲まれたそうで。母は帰るなり、
「馬鹿らしい」
と、憤慨するように話していた。
ちな、母は身長170cmオーバーのデカイ人で、物理も強い。
学年が上がるとコミュニティも変わる。
ある日、何処かの集まりから帰った母が、
「誰々ちゃんのお母さんが体調悪いと言ってずっと来てなかったのだけど、人を馬鹿にして、在り得ないわ」
と、憤慨していた。
どうやら何かの集まりに不参加なママさんがいて、その人の仕事を押し付けられていたのだとか。母はPTAにも関わっていたようだから、そっちの人間関係かもしれない。母曰くサボリだろうと、僕もそう思う。
母が腹を立てたのはその不参加の理由で、何だか霊能めいた話だったのだとか。母がその理由を聞くと、ママ友さん達の雰囲気が急に深刻になり、そのママさんが休んでいた経緯を教えてくれたのだそうだ。
そのママさんは別に持病のある人ではない。精神的なことは分からないが、普通の人なのだそうだ。普通ってなんだ。
でも、体調を崩した。どういう症状なのか僕は知らないけれど、少なくともPTAの仕事が出来ないような症状だったのだろう。
それを治したのは、ママさんの旦那さん。
ママさんが体調を崩したその日、旦那さんは帰宅するなり、
「お前、ヤバイぞ……」
と、ママさんを見て言ったそうだ。
この旦那さんという人が不思議な人で、何かの勘を持っている人だったとか。
そういう能力があるだのないだの、自分で言いふらすような人格ではない。物静かな人で、酒やなんやの、今で言うパリピやウェイ系ではない。職業もママ友さん達的に「羨ましいわー」な感じだったそうなので、まともな人だったのだろう。
でも、買い物の帰り道で急に回り道をしようだとか。お店に入って席を案内されると、その席を避けて他の席にするよう頼んだり。そういうことを年に一、二回。常識の範疇内なのだけど、たまに突飛なことをする。
旦那さんの言うことに従わなかった場合どうなるか、僕は知らない。でも、そのご家族は旦那さんが急に言い出したことには絶対に、黙って従うそうだ。
で、ママさんの体調の話に戻るのだけど、旦那さんはその日から、帰宅して夕飯を食べると、ママさんを散歩に連れて行ったらしい。
二週間か一ヵ月か、結構長い期間。毎日毎晩、ママさんと散歩に出掛けたそうだ。そして、最後の日だけ、別のルートを通って帰ってきた。
そのルートというのは、日本にはよくある道。特定の民家に行くためだけの、細い道。そういう、用が無ければ絶対使わない道を間に挟んで帰ってきたらしい。
すると、次の日にはママさんの体調が回復していたのだとか。
「運動するようになったから、健康になっただけよ」
母はそう言っていたが、僕もそう思う。一日二日じゃないところが、実にそれっぽくない。ちな、母はウォーキングがてら散歩に行くと言って、話に聞いたルートを辿り、
「気味が悪いとは思ったけど、何にもなかった」
と、ケロッとした様子で帰ってきた。物理。
ママ友さんたちにもその話をしたそうだが、
「絶対やめた方がいい。二度としない方がいい。馬鹿にすると、とんでもないことになる」
と囲まれたのだそうで。やはり憤慨したように、
「馬鹿らしい」
と言っていた。
母のオカルトに対する態度は、今も変わらない。
そして、今も生きている。




