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終末のアラカルト  作者: 大地凛
序章・黎明編
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そも魔法とは

 ヨハンと共に乗り込んだ軍艦は、その大きさ故に、揺れが少ない。船酔いするのではという不安は杞憂に終わり、何事もなく、二時間程でワルハラに到着した。


「さて、ここからが長いぞ。ワルハラは東西に広い。今到着したエオナから数時間かけてカルーレアンに向かい、そこから鉄道で一週間かけて首都、ゲレインを目指す」


 てきぱきと荷物を片づけながら、ヨハンが説明する。もっとも、彼らの荷物は極端に少ないので、時間はほとんどかからなかったが。その道中に、彼が、ヒカルの知らない様々を説明してくれるらしい。



「乗ったな。……おい、出発だ」


 あらかじめ手配されていたらしい馬車に乗り込む。大きな馬かと思われたそれは、実際は巨大な亀のような生物だったため、馬車というより亀車と呼ぶ方が正しいかもしれないが。ともかく、この車で次の町を目指すらしい。


「何です、あれ」


「あれか、あれはクールマ種の龍だ。見た目より速いから、気をつけろよ」


 なるほど駄洒落か、とくだらないことを考えてみた。しかし、その見た目とは裏腹に亀車は速かった。



「さて、まず最初に聞きたいのだが。お前、魔法は知っているか?」


 魔法というと、物語の中に出てくるような、空を飛んだり瞬間移動をしたり、杖を振って望みを叶えたりできるアレか。ヒカルが一人で納得している様子を見たヨハンは、どうやら理解できていないと判断したらしい。


「……いいか? 魔法というのは、火、木、水、金、土の五つの属性からなる超常的な現象全般を指す。木のマナを使えば花を咲かせることもできるし、火や水のマナを使って気流を操作すれば、空を飛ぶことも可能なのだが」


 なるほど、とヒカルは頷いた。因みにマナとは、大気中を漂うエネルギーの塊であり、人体を循環して魔法の行使を助けているらしい。


「私は金の属性。お前は……、僅かだが火の属性の色が見えるな。弱すぎて魔法を使うには至らぬだろうが」


「色ですか? 全然見えないんですけど……」


 ヨハンの説明から推察するに、身体の縁がぼんやりとマナの属性の色に光って、大気中と体中のマナの授受を行っているというが、いくら目を凝らして意識を集中させても、その様子は見えなかった。


「結局、俺の魔法の力はからっきしってことですよね。ってことは、ヨハンさんが感じた俺の力ってなんなんですか」


「それもれっきとした魔法の一種だ。ただ、かなり複雑なものなのだが……」


 その複雑なものこそが、海を隔てた国にいながらヒカルの発見を成功させた、いわゆる()()である。


「能力は、五属性全てのマナの含まれた結晶を有する者が使える特殊な魔法のことだ。様々な力が合わさり、普通の魔法ではできないことができるのだ」


 特殊な魔法であるため、能力者は必ずしも通常の魔法が使えるとは限らない。むしろ自身の能力が身体に馴染みすぎて適性が消滅することもあるという。


「能力者同士なら、お互いの輝石、つまりマナの結晶が共鳴し合うという。私がお前に気づくことができたのは、共鳴が起こったからだ」


「じゃあ、なんで俺はヨハンさんに気づかなかったんでしょう」


 この質問に、ヨハンは顔をしかめて答える。


「そんなこと、私は知らん。魔法や能力の専門家に聞けばいいだろう。……まぁ、考えられることがあるとすれば、お前の能力が開花していないからか。目を開けていない者は文字を読めないからな」


 そういうことなのだろうか、と首をひねるが、ヨハンはそういうものだ、ということを煙草に火をつけるという態度で示した。



 いつの間にか亀車の揺れが止まっている。ということは、目的地に着いたということだ。たしか町の名はカルーレアンといったか。鉄道の終着駅の町としてはひなびた印象を受ける町だ。人の姿はまばらで、老人が目立つ。まさか、この町も失踪事件が起きたのか――。


「お前が何を考えているのかは、なんとなく分かるのだが。この町はただ出稼ぎ労働者が多いだけだ」


 ならば、ヨハンの故郷はここではないということだ。事件がどれ程拡大しているかは分からなかったが、平和に暮らす人々を見ると、少し安心した。同時に、今後彼らにもあの災厄が降りかかるかもしれないと思うと、いたたまれなさに襲われた。


「えっと、次は鉄道ですよね」


「ん、そうだ」


 顎でしゃくって示された方を見ると、石煉瓦のどっしりとした建物から煙が立ち上っている。あれは蒸気機関車の煙だ。ならば、あの建物が駅舎ということになるが、そこに入る列車の大きさたるや如何ばかりか。倭国の小さな港町に育ったヒカルからすれば、まったくもって規格外の大きさである。


「あれが走るんですか……?」


「その疑問はもっともだが、動力の不足は火の魔力鉱石で補っているから心配ない。……あぁ、もう乗り込んでもいい時間か」


 また魔法の話である。自分の生まれ育った国を離れると、これ程に文化の差異が生まれるのか。新鮮な心地は小気味よいけれども、早く慣れた方がいいかもしれない。


 荷物を持ち、乗車しようとした時、後ろからヨハンを呼ぶ声が聞こえた。振り返ると、恰幅のいい中年の男と、それにつき従う少女が歩み寄ってきているところだった。


「……大臣!! もう発たれたはずでは?」


 大臣と呼ばれた男は、濃い藍色の髪が撫でつけられた頭を掻きながら、ぼやくように返す。


「会談も交渉も駄目だ。やっこさん、慎重にすぎる……。それよりお前、ちょっと顔を貸せ。きな臭ぇ話があるんだが、どうしたってお前さんには知っといて貰わなきゃなんねぇ」


 ヨハンは困惑したような表情を浮かべながらも、とりあえず頷いた。大臣なる男の後に続いて歩き出したヨハンは、ふと思い出したようにポケットをまさぐって、紙きれをヒカルの掌に置いた。


「急用だ。話の続きはまた今度するから、とりあえずその部屋に行っていてくれ」


 紙きれには、『三号車・十二番』の文字が走り書きしてあった。

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