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終末のアラカルト  作者: 大地凛
第五章・強欲編
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鎧を纏う

(……、どうしよう。いくら防いでも、次から次へと……)


 アテナは戸惑った。もう既に何十、何百と攻撃を受け流し続けた後だ。自分の背後に人の影はもうほとんどないが、その代わりに、自分の目の前の黄金像は、その数を増していた。どこからか供給され、次々と襲いかかってくるブリキの兵士たち。アテナが避けたことで砕けた体は、いつの間にか寄り集まって修復され、新たな形となって剣を構える。


 黄金に対して耐性があることは、そのまま攻撃を無効化することを意味しない。少女の体には、至る所に鋭い傷がついていた。今は剣が掠った程度であるが、それがいつ、骨を砕き、また生存在の根幹に触れるか、分かったものではないのだ。故に、彼女は大きく息を吐いた。


(考えるんだ……、私……! 絶対に手はある……、はず……!!)



「ちょっと、ぼさっとしてると、あなた金ぴかになっちゃうわよ」


 背中にかかったのは、端々に棘のある声。しかし、その声にアテナは聞き覚えがあった。


「レティさん!? こんなところにいて大丈夫なんですか!?」


 レティこと、『王の鎧』、スカーレット・ガルシア。深い紫の前髪を切り揃えた裏から、切れ長の目が覗く。彼女はじっと、黄金の軍勢を睥睨しながら、傍らのアテナに声をかける。


「王宮に戻りなさいと、連絡したのに。あなた、何で来ないのよ?」


「え、それ、いつですか……?」


「今さっき……、って、あぁ、そういうことだったの」


 レティは首から下げたネックレスに着いた、仄かに光る紫色の鉱石、すなわち伝送鉱石を弾いてみた。しかし、アテナの持つ石に共鳴は起こらない。裁き人の操り人形が大量に押し寄せたことで、マナの伝達が阻害されているために他ならなかった。これなら、連絡が届かなくても仕方ないことだと、スカーレットは嘆息した。


「心配で来てしまったけど、まぁ、まだいけそうね」


 小柄なスカーレットは、息を切らしながら戦っていたアテナを見やった。青髪の少女は、手の盾を地につき、支えにしながら答える。


「でも、きりがないです。……このまま盾を振ってると、魔力切れを起こしそう、で……」


 その時、アテナはふと気づいた。もしかすれば、黄金の軍勢を止める手立てがあるかもしれない。少なくとも、これ以上の混乱の拡大を防ぐことは、できるであろう。


「……レティさん、王宮に魔鉱石の備蓄は?」


「知らないわよそんなの。私じゃなくて、あの武器庫の管理人に……」


 言いかけて、スカーレットは口をつぐんだ。苦しみの床にある彼女のことを思えば、配慮に欠けていたと思い直すと、咳払いを一つし、声音を一つ落とす。


「……まぁ、あなたが余程バカみたいに使わない限りは、保つはずよ」


「もしかしたら、バカみたいに使うことになるかもしれません」


「……えぇっと、ホントに何考えてるのよ」


 訝しげな目を向けてきたスカーレットであったが、真剣に悩んで、そうして答えを出したようなアテナの表所を見、こくりと頷いた。踵を返し、王宮に向かって全速力で駆けていく。


「万が一危なくなったら、叫びなさい!! どこからでも助けにいくから!!」


 それは、スカーレットの意志だろうか、それとも、皇帝の意向だろうか。……いや、余計なことは考えるまい。そんな余裕はないのだから。アテナは、改めて手元の盾を構え直す。黄金の軍勢は、彼女の対抗術式のことに、ようよう気づいていた。そのために、先程までは数を生かして波状攻撃を仕掛けてきていたが、今はゆっくりとした動きで隙をうかがっている。作戦を変えてきた。


(ただ、もし彼らに意志があったとしても、マナなしには動けないはず……)


 原理はどうであれ、体を黄金に置換するという術式であることは確かである。しかし、それだけでは金の彫像が一体、できるだけだ。それを動かそうとするならば、何某か、外部からの力を加えなければならない。


「えい!! ……ふぅ。とにかく、今はレティさんを待とう……」


 脇が甘いと見るや、飛び出してきた一人を、予期していたかのように受け流す。その隙をついて突進してくる者には、敢えて防がず、体をよじって回避する。


 こうして動いていること、人形は、人形だけで動くはずはない。ともすれば、魔力を使うか、動力を使うか、である。メリアの能力によって生を受けたロロは、ボディのマナと輝石が反応し、動いていた。しかし今、目の前に二重三重に重なる影の全てに、輝石が入っているとは思えない。それに、関節も残らず黄金に固められた彼らに、動かす余地など、あろうはずもないのである。


 考えられるとすれば、裁き人から伸びた、能力の糸。操り糸によって、動くはずのないものでさえも動かすと、そう考えた方がよい。ならば、その糸を切り捨てることで、彼らの動きを止めることができるのではないか。魔力切れという言葉でひらめかれた、アテナの推論であった。


 もちろん、確証はない。それに、裁き人への対抗術式を埋め込まれた者でなくては、こんな作戦、できようはずもない。失敗すれば、大きな跳ね返りがあるだろう。――しかし、やらぬということはできなかった。



『アテナ、生きてる?』


「レティさん!! ……伝送鉱石は使えないはずじゃ?」


『魔力が通じてるか確かめたかったのよ。今、魔鉱石からあなたに魔力を流してる。その流れを媒介に話せてるのよ』


 スカーレットの声は、明瞭に聞こえた。この混沌とした状況で、一筋の光が見えたように思えた。


『ま、あんまりごちゃごちゃ言うつもりはないけど。でも、頑張って』

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