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終末のアラカルト  作者: 大地凛
第三章・虚妄編
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重なる偶然

「……ああぁ、やっぱりぃ……?」


 予測していたであろう、最悪の可能性が現実のものとなり、フェルディナンドは、深いため息をついた。


「すみません、俺が側にいたのに……」


「いや、君が謝ることではないよ」


 思い詰めた表情で、先程の別離を悔やむヒカルに声をかけたのは、昨晩まで二人と行動を共にしていたフェルディナンドではなく、ワルハラ派遣軍を統率する参謀、カイルであった。


「……あぁ? 何でテメェが、んなこと言うんだよ」


 ヒカルと同じように怪訝な顔をしていたハンネスが、部下のカイルを睨みつける。だが、確かにこの破落戸体の男の言う通り、ヒカルの言葉に対する受応えとしては、若干の違和感がある。その違和感の正体こそ、ヒカルの知らない事実なのだろう。


「何か、裏があるみたいですね……」


「えぇ、もっとも、私の推測の域を出ませんがね」


 そう言いながら、ちらりとフェルディナンドの方をうかがうカイル。正直なところ、やはりか、とヒカルは思った。フェルディナンドという男、その性状は奔放にして放縦、軽薄粗野な自由人、しかして切れ者という印象。だが、それは決して、国家の動きや陰謀に与しないということを意味しないのである。


「思うに、この状況を作り出したのは、ヒカル君の力をどうにかして手に入れようと、そういう考えがあったからだと思うのです。さて、どうでしょうか?」


「ええぇ……、どうって言われてもさぁ……。俺一人の判断じゃぁ、その質問には答えらんねぇなぁ……」


 しどろもどろになりながら、そう溢すフェルディナンド。しかし、その反応は、カイルの予想が、かなり的確であったことを如実に表していた。


「おい、じゃあこいつ、敵か!?」


「……まぁ、そう早まらないでください。もしそうだとしても、いくつか、気になることがあります」


 息巻いて、フェルディナンドに掴みかかろうとする、血の気の多い上官を何とか押さえながら、カイルはゆっくりと言葉を紡いでいく。


「ヒカル君という、強力な能力者の蕾を、我が物にせんとする作戦。フェルディナンド殿が立てたにせよ、参謀本部が立てたにせよ、それは、ヒカル君がヴェイル国内にいないと、成立しませんよね」


 カイルは、アトラスから、ヒカルが何故ヴェイル王国に向かったのか、その子細を聞いていた。ヒカルがイヴァン帝と仲違いし、そして裁き人の討伐を認めさせるために、アトラスと共にヴェイルを訪れる。あまりにもそこには、偶発的要素が多かったのだ。イヴァンと決裂し、王宮内で童女から助言を貰い、アトラスにかけ合い、そしてヴェイルからの許可を得て入国する――。どれが欠けても、ヒカルはヴェイルに来ることはなかっただろう。


「ですが、その偶然が重なった。まぁ、偶然ではないのかもしれませんが……。いずれにしても、貴方たちにとっては渡りに船でしょう」


 そして、ヴェイルに到着して後、ヒカルは、強大な魔力を有している、フェルディナンドやシャルロッテと共に、斥候の任に当たった。これ程の魔力が集まれば、当然のことながら、黒魔術師に気づかれる危険性が高まる。これではまるで、襲ってくれといっているようなものである。


「守りを薄くする時があるとすれば、それは、相手に攻めてほしい時でしょう。罠にかけたり、或いは相手を集めるために……。ですが、フェルディナンド殿の場合、そのどちらでもないですね。……恐らく、戦いによって魔力を消費、吸収、そして循環させ、能力の開花を促す。そういったところでしょう」


「……確かに、それなら筋が通る。アトラスさんと俺を切り離したのも、戦わせるためだったって考えれば……」


 カイルの推論は、事件の点と点を次々とつないでいき、ヴェイル王国の企みの全体の姿を、五人の前に晒していく。話が進むにつれて、フェルディナンドが追い詰められていくのが、横から見ているヒカルにも分かった。


「だから、疑問は二つです。一つに、ワルハラ王宮の、ヒカル君が会ったという少女。彼女とヴェイルにつながりがあるのかどうか。そしてもう一つに、命の危険がありながら、能力開花の手段として黒魔術師を用いたのは何故か。……この二つです」


 二本の指を立てて、フェルディナンドの鼻先に突きつけるカイルに対し、当のフェルディナンドは無言のままだ。彼の頭の中には、ヴェイル参謀本部の面々が、浮かんでは消えてを繰り返しているのだろう。


「どうなんだよテメェ、正直に言わねぇと、さっき言ったみたいに……」


「あぁー、分かった、分かったからよぉ……」


 凄むハンネスに、しどろもどろになりながら、フェルディナンドは慌てたように手を振った。その手をそのまま頬にやり、気まずそうに掻きながら、彼はぽつぽつと話し始めた。


「第一の質問、それに対する答えは、(ナン)だねぇ。ワルハラ王宮に間諜潜り込ませられるんだったらさぁ、まどろっこしいことしないでヒカル氏をとっとと拐っちまえばいいんだからよぉ……」


「あくまで、偶然と……」


 釈然としない様子のカイルであったが、少し考え込むように俯いて、やがて納得したような表情で顔を上げると、二つ目の質問を促した。


「第二の質問、これは俺も予想外だったんだよなぁ……。何せ、黒魔術師は人拐いにこそ特化しているけれども、戦闘には向かない、効率重視の連中だって、あいつ言ってたんだぜぇ?」


「言っていた、ですか…………」


 いくらかいつもの調子を取り戻したフェルディナンドの、流れるような語り口、その言葉尻が気にかかったヒカルは、フェルディナンドに尋ねてみた。いやしかし、彼がそのような口振りをする人間、ヒカルには一人しか心当たりがない。にやりと笑ったフェルディナンドは、ヒカルの予想通りの人物の名を口にした。


「そう、ギルドマスター、メルエス・メルクリウス。あいつ自身、知ってか知らずか、俺たちは偽の情報を掴まされたみたいだなぁ……」

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