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終末のアラカルト  作者: 大地凛
第二章・魔術編
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軍師との再会

 その後の一日程、サーマンダの瓦礫の処理などの作業を行った二人は、ゲレインへと帰らねばならなくなった。皇帝、イヴァンからの勅命が降ったからである。その内容までは詳しく明かされなかったが、察するに、失踪事件に関することであるのは間違いなかった。そのために急遽準備されたのは、小さな飛龍二頭であった。


「これで、ワルハラ鉄道の駅までは行けるはずです。本当は、これでゲレインまで向かえればいいのですが、何分、この龍は速くても体力がないので……」


 そう、早口で述べるフォラムは、やはり、平静を繕っているように見えた。そこには、怪我故に、復興のための作業に携わることができないというもどかしさもあるのだろうが――。


「とにかく、お二人とも、息災で……」


 別れの挨拶は、極めて短いものだった。だが、各々が苦しみを背負いながら、また新たな目標に向けて歩き出すためには、長すぎる程であった。



 二人を乗せた飛龍は、人を乗せて飛ぶのは慣れたもので、森と山を次々と飛び越していく。こうして上から見ると、往路はかなり曲がりくねっていたのがよく分かる。しかし、その森からは、サーマンダに向かう途中で見た、不思議な生物の鳴き声や、狩りを行う者たちの勇ましい大音声は聞こえてこない。一連の魔術儀式が、マナの流れをすっかり変えてしまったからである。


「ねぇ、ヒカル……。私たち、一体何をしに行ったんだろう……。私たちが行かなかったら、事件は起きなかったんじゃ……」


 元々、二人の目的は、失踪事件に関係のある、黎明の書の内容について知る、ということであった。しかし、図らずもその黎明の書に関する魔術儀式に巻き込まれ、二人の強力な魔術師が犠牲になった。カリスの手に落ちた双子を含めれば、四人。さらに、戦いの中で無差別に攻撃された者の中には、生死の境を彷徨い、終に死神に屈した者もいる。それが、ヒカルとアテナの心中で、二人を責め立てる材料となっていた。


「いや、どちらにせよ、カリスは襲撃をしてたと思う。それに、エレフィアさんを引き入れることだって、恨まれてる大魔導師の人たちじゃあ、無理だった……。全部、結果論だけど……」


 そのエレフィアであるが、転移魔法によって森に移動させられた直後に、誰にも気づかれることなく、姿を消していた。計画が失敗に終われば、自分がここにいる理由もない、という風な態度であった。そんなエレフィアを、アンリから引き剥がしたことに意味はあったのだと、ヒカルは考えていた。


 だがまぁ、もしもを語りだしたらきりがない、あくまで全ては結果論である。だから、アテナが悔やむのも、道理である。


 さて、戦いの中で指導者を失ったカリスは解体した。今までのカリスは、首領、アンリの求心力によって成り立っていたために、その喪失は構成員たちに大きな衝撃を与えたようだ。それでも尚、黒魔術の道を選ばんとする者もいたが、儀式の全容を知った彼らは、顔色を変えた。ここまで、自分の野望をひた隠しにしていたアンリの狡猾さは、筆舌に尽くしがたいものがある。とはいえ、これでサーマンダ公国を始めとする白魔術陣営に仇なす組織が一つ、壊滅したのだ。成果であろう。


 もちろん、そのような背景があるにせよ、二人の気持は晴れる訳がなかった。



 飛龍は何にも遮られることなしに飛び続け、往路の三分の一程の時間で、駅に到着した。ちょうど、ゲレインに向かう列車が出発するところであった。これを逃すと、一日待たねばならないため、二人は一応、胸を撫で下ろした。


「あっ、おい、ヒカル? どうしてこんなところに……?」


 駅の雑踏の中から、不意にヒカルに声をかけてくる者がある。ヒカルは、その声に聞き覚えがあった。声の主は、ヒカルをワルハラに連れてきた男、イヴァンにいいように扱われている、陸軍参謀のヨハン・シモーニであった。


「よ、ヨハンさん!? 俺は、事件の手がかりを探しに……、っていうか、ヨハンさんこそなんで……」


 ヒカルは、彼が作戦の失敗の咎で、左遷は免れないという旨を、騎士団のマルクから聞いていた。因みにそのマルクは、体調がまだ戻らない、と言ってサーマンダに残りながら、作業を手伝うと言っていた。


 ヨハンは顔を顰めながら、駅舎の外のベンチに腰掛けた、やけに艶やかな生地の服を身に纏った老人を指差して、ヒカルの質問に答えた。


「あそこにいるのが、参謀総長……、いや、元参謀総長だ。我々はまとめて東部軍に左遷されたんだが、サーマンダにいる旧友に会いたいと言って聞かんのだ。まったく我儘な……、あれにはなりたくないのだが」


 話をしている内に、どんどん機嫌が悪くなっていったヨハンは、懐から煙草を取り出して、いつも通り、火のつきにくいライターと格闘を始める。しかし、それをまじまじと見つめるアテナと目があい、煙が苦手なのか、と納得したような顔になって、それらを懐に戻した。


「えぇっと、ヨハン、さん? 今は、サーマンダには行かない方がいいと思います……。皆さん、自分たちのことでいっぱいいっぱいだから……」


 アテナの言葉に、ヨハンは頷いた。しかし、彼に対して、あの老人は上司なのだ、その命令が降れば、逆らえる訳もないのである。


「復興支援のために滞在すると言ってあるから、無下に入国を断られることはないだろう。……この状況を利用しているようで、気が引けるのだが……」


 ヨハンは、大層気まずそうに額を掻いた。負担にならないようにという、せめてもの彼の心遣いであろう。ヒカルは、彼の見かけと中身がまったく正反対であることを改めて実感した。苛立ちながら時計を睨む彼は、きっと平和を望んでいるはずだ。彼が再び第一線に戻ってくる日がいつか来ることを、ヒカルは人知れず心の中で願った。

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