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終末のアラカルト  作者: 大地凛
序章・黎明編
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会議の通知

「皇帝陛下って、いつもあんな感じなんですか?」


 元来た道を辿りながら、カスパーと共に出口に向かう。同行してきていたヨハンは、報告の続きがあると言って部屋に残った。


「まぁ、陛下は自分の考えに自信を持っておりますから。恐らくヒカル様が調査を行う中で、能力が開花するとお考えなのでしょう。倭国と違い、ワルハラはマナが潤沢ですし、よい刺激となるかと」


「そういえば俺、自分の能力が何なのか分からないんですけど、それって今、分かるもんなんですか」


 なにせ魔法とも無縁の人生を歩んできたヒカルである。この男は、遠く離れたところを見ることができるそうだが、自分はどうなのだろうか。カスパーは少し歩く速度を遅くして答えた。


「それは、私には分かりかねます。ですが、能力を調べる方法がない訳ではないので、ゆくゆくはそれを試してみては」


 それもまた、能力というものなのか。だとすれば、能力というのは、様々な種類があるということになる。もしかしたらヒカルの能力が調査に役立つかもしれないので、なるべく早く検査してもらおうと決めた。



 王宮を出て少し歩くと、石造りの倉があった。


「あの倉の中には、調査本部の現在唯一の所属員がおります。名はアテナ、ヒカル様と同じ十六歳……、ということになっております」


「なっている、ですか。なんか裏がありそうですね」


 カスパーは、周囲を気にするように見回して、声を潜めて言った。


「実は彼女は、ワルハラの人間ではありません。ヒカル様と同じように、陛下の命で非公式に連れて来られたのです。表向きには、ワルハラの失踪事件によって孤児になった少女、ということになっておりますが……」


 そうしてカスパーは、アテナがワルハラに来た経緯を語り始めたのだった。



 話は一週間前に遡る。


「えっ、諸王侯会議開催の知らせが来たのかい? 前回から三ヶ月も経ってないじゃないか。発起人は誰なんだ?」


「それが、シレヌムのルードヴィヒ帝と、シメリアのカタリナ皇太子の合名で……」


 イヴァンが驚くのも無理はない。諸王侯会議とは、各国の王侯が年に一度、山岳国家であるノアキス公国に集結し、政治や外交についてを議論し合う場のことである。その開催のペースが崩れたのは、ワルハラの前皇帝が急死し、イヴァンが皇位を継いだ時以来である。


 彼の懸念は、その開催のタイミングだけにとどまらない。シレヌム、シメリアを中心とした同盟とワルハラの関係は、過去に類を見ない程に冷え切っていた。その二国の代表が緊急の会議を開くというのは、何とも穏やかでない。


「ルードヴィヒ帝のことです、何かの罠かもしれません。参加を見送っては……」


 カスパーの提案を、イヴァンは片手で制した。


「いや行こう。会議の不参加は、国際的な信用を損なうことになる。それに、仮に僕を暗殺しようと彼が企んだとしても、会議の場では手出しできないだろうし。どちらにせよ、行かなければ彼の思う壺、というところだろうからね」


 そう、罠であることには違いない。だが、暗殺などしようものなら、直ちに各国がシレヌムを、ルードヴィヒ帝を見限るだろう。ならば、直接出向いた方が安全である。イヴァンはそう考えていた。


「よし、早速列車を手配してくれ」


 イヴァンは立ち上がってコートの襟を正し、傍らの執事に命じたのだった。



 皇帝の御召列車は、ワルハラ帝国王宮の壁とは対象的な、漆黒の車体(ボディ)が特徴である。室内の調度も王宮内部のものと遜色ない、まさに走る玉座といったところか。――もちろん、御召列車に乗り込んだところでイヴァンの気持は優れなかったが。


「何をご覧になっておられるのですか?」


 同乗するカスパーの質問に、イヴァンは手元の紙の束を見せた。


「……失踪事件の調査記録ですか」


「ヨハン君がまとめたものさ。……どうだい、まさに内憂外患の情勢じゃないか」


 心なしか、少しやつれたように見えるイヴァン、その心痛は察するに余りある。失踪事件による国民の不安が拭えぬ中での、今回の会議――。カスパーは、何かよくない力が動いているのを感じていた。


「カスパー、君の千里眼でも、失踪した人間は見つけられないんだね?」


「はい。マナの障壁といいますか、つなぐことができなくて……。お役に立てず、申し訳ございません」


 イヴァンは、いや、いいんだよ。と手を振りながら微笑んだ。しかし、目に力がないのは隠しようもない。


 この男に仕えて数年、ここまで精神が弱っているところを見たことがない。今のイヴァンには覇気が感じられない、この状態で、曲者ぞろいの王侯たちと、果たして渡り合えるのか。せめて、彼が本調子に戻りさえすれば……。


 意外にも、その機会はすぐに訪れた。列車はすでにノアキスに入っており、雪山をずるずると進んでいるところであった。


 突如として引っ張られるような衝撃に襲われ、イヴァンは持っていた資料を床に取り落とした。何事かと考える暇もなく、緊迫した悲鳴が聞こえてきた。


「り、龍だーっ!! 龍が出たぞーっ!!」

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