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終末のアラカルト  作者: 大地凛
第二章・魔術編
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非道い意趣返し

 すくと正立するエレフィアに、戸惑いを隠せぬ一同。双子の力を合わせた、高火力の魔法をはね返す余力は、彼女の中には残っていないはずである。


 だが、その疑問はすぐに解決した。エレフィアの足元で、ぐったりと倒れ伏す人間、フルールの姿が、あの弾幕の中で何があったのかを、如実に物語っていた。


「…………クソ非道い意趣返しです……」


「自業自得だ、と言っておこう」


 双子は、アテナが設置した脱出用の盾を、先行して砕こうと攻撃を集中させた。それが、エレフィアへの攻撃を弱めることに繋がったのだ。エレフィアは、ここぞとばかりにフルールの魔力を吸収し、一応の復活を遂げた、という訳である。これは、アテナにとって、状況の好転か悪化か――。フルールに駆け寄った彼女は、戦況を注視する。


「エレフィアさん……、貴女は、()()()()()()()?」


「私の味方は、自分自身だけさ」


 アテナの問いに、エレフィアは即答した。明朗に答えながらも、どことなく悲しみを帯びたその声音は、彼女が、今まで味方のいない人生を送ってきたことを、アテナに痛い程に感じさせた。


 しかし、同時にその返答は、エレフィアの攻撃がアテナの身にも及ぶ危険性をも内包したものである。アテナは防御魔法を展開するために、ゆっくりと意識を右手に集中させた。


「許せない! 私の思う通りにならないなんて!!」


「許さない! お前ら一人残らず消えちゃえッ!!」


 先に動いたのは、以心伝心の攻撃をしかける、ブランカとノアーラであった。再び出現する数多の火球に、力を取り戻したエレフィアはまったく動じることはない。


「『守衛せよ(ディフェンシオ)遍く(ウビキトゥス)』……!」


 それは、アテナたちがよく用いる、一般的な防御魔法であった。しかし、使い手がエレフィアともなれば、その効力は桁違いである。濃緑の壁が街路を塞ぎ、それに触れた火球を、一瞬の内にマナに還元していく。


(私たちを、守った……?)


 アテナは、訝るようにエレフィアを見つめる。エレフィアにその気がなければ、彼女は防御魔法の効果範囲を、自分だけに限定し、マナの消費を抑えようとしたはずである。それをしなかったということは、つまり――。


「やっぱりエレフィアさん……!」


 しかし、希望を込めてかけた言葉は、そのエレフィアによって、鎧袖一触に打ち砕かれた。彼女は、苦しみと悲しみを煮詰めたような、一言では形容できないような顔で振り向くと、確認するように言った。


「だから、私は味方なんて必要としないの。貴女を守ってあげたのは、アンリの思惑通りに貴女がやられるのが気に食わなかったからよ」


 確かに、アンリの計画に対する読みが正しければ、ここでアテナが倒れることは、巡り巡って彼の利益となる。アテナという、膨大な魔力を有する人間が、その計画の歯車の一部となってしまえば、今までの避難や戦闘の努力が水泡に帰してしまう。アテナの魔法によって機会を得たとはいえ、エレフィアはあくまでも合理的であった。


「無駄話なんかしないで……!」


「よそ見なんてしないで……?」


 苛つきを隠そうともしない双子によって、三度放たれる火球。しかし、今度は今までのそれとは違う。真っ直ぐ突き進んでくるもの、左右に揺れながら迫るもの、高所から落下するもの、大地から突き上げるもの、その軌道も速度も様々で、一度の防御魔法では防ぐことはできない。その光景に、エレフィアの表情は強張る。一発の威力は、自分の身体で証明済みだった。


「だったら……」


 歯噛みするエレフィアの横に躍り出たのは、五枚の盾を現出させたアテナであった。何事かと呆気に取られるエレフィアを尻目に、アテナはまず、先頭の火球を相手取る。


「一体、どうするつもり?」


 エレフィアの言葉に、アテナは答える余裕はない。だが、勝ちの目は既に見えた。合理的なエレフィアなら、きっと自分に合わせてくるはずだと、アテナは半ば確信していた。


「熱い……、でも、フォラムさんの魔法程じゃ……、ないっ!!」


 火球を突破したアテナを、怒りと焦りの感情でもって迎えた双子は、全ての火球の軌道を、アテナに降り注ぐものに変更した。四方八方に散らばっていた火球が、一斉に少女めがけて、凄まじい弾幕攻撃をかける。


(あれは……、まさか、フォラムとの鍛錬の再現……? でもそれはエレフィアの操作で……)


 ぼんやりと目を開けたフルールは、アテナの頭から抜け落ちた事実を、彼女に知らせる力すら残されていなかった。今はただ祈ることしかできないのか、と青髪の少女を見つめる大魔導師に、エレフィアは乾いた笑い声を飛ばした。


「へへっ、マナ操作の魔法具、実は予備があったんだよね。主導権を奪い返せるかな、と思っていたんだが……。あそこまで読んでるなら、あの子のために使うのもアリ、かな?」


 袖口から覗いた黒い半球は、我を忘れて危機に対処しようとする双子の気づくところにはないだろう。ともかく、それがあればアテナの攻撃は、双子に届くはずだ。


(まぐれです……、でも二人は、運命に愛されている……。だからまぐれも手繰り寄せることができるんですよ……)


 元より一縷の望みだけが残されていたとしても、ヒカルとアテナは、それを手繰り寄せることができる。それは運とも、実力ともつかぬ何かである。偶然、運命、或いは因果律ともいうべき、数ある道の中から、最良の一本を見つけ出す力の存在を、フルールは肌で感じ取っていた。



 火球の衝突による爆風と熱波、思わず目を細める双子に、影が覆い被さる。風圧を利用して飛び上がったアテナである。盾を構えることで、爆発の威力を最大限に活かした彼女は、高く飛び上がり、そうして慣性に任せて落ちていく。


「嘘っ、来ないでッ!!」


「嫌っ、助けてッ!!」


 双子からしてみれば、予想外の攻撃。しかし、アテナたちにとっては、予定されていたようなものであった。


 だが、爆風など、マナの流れを変えたとて、操作し切れるものではない。アテナの騎乗する盾は、双子の頭上を飛び越して、背後の石畳に落ちていく。盾を緩衝材にしたアテナは、空中で回転しながら、どうにか着地に成功した。


「……この女郎、こんな時位はちゃんと操作してくれたって……!」


「分かってるって。同じ策を何度も使う程、私は莫迦じゃないってことさ」


 墜落したアテナに、尚も警戒を解かない双子。後退りしたノアーラは、何かに足を取られて、派手に転んだ。驚いた顔のまま、続いてブランカも転倒する。首を起こして足元を見た彼女たちの目に飛び込んできたのは、細い足首を締め上げるように巻きついた、太い蔓だった。


「『生いよ蔓草(ポセット・ウィーテス)』ッ!!」


 エレフィアの高らかな詠唱と共に、双子は自分たちの負けを悟り、項垂れた。直後に石畳を割るようにして出現した、一回り大きな蔓草によって、双子は手を握りあった形で、磔になった。

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