メイドさんの話
ここまで直接登場していない、勇者専属メイドのアイリスさん視点の話です。
私、アイリス=カーマインと申します。勇者様付きのメイドでございます。
メイドと申しましても、王家の私費で雇い入れている城内のメイドとは異なり、ミストレイク王国政府の勇者支援室に属する、れっきとした公務員でございます。
命令系統も給与の出どころも、制服のデザインも異なるのですが、国王陛下はその辺りをよく分かっていらっしゃらないご様子、残念でございます。
勇者支援室は、遡れば初代勇者様まで関与する由緒正しい部署でございます。その業務内容は多岐にわたり、勇者様の活動に関してありとあらゆる支援を行うのでございます。
勇者様付きのメイドである私の役割は、王城における勇者様の生活の支援及び、旅立った後の勇者様との連絡の窓口でございます。
ですが、公にはされませんが、もう一つ大切な使命がございます。それは、勇者様の指導と見極めでございます。
勇者支援室には、初代勇者様のお言葉が伝わっております。
「勇者召喚の儀式は、召喚したものに勇者としてふさわしい力を与えてくれる。しかし、勇者に相応しい人格や使命感を与えてくれるわけではない。逆に、突然与えられた力に酔って暴走してしまう者も出るだろう。
だから、今後もし新しい勇者を召還しなければならなくなった場合、召喚された勇者が道を踏み外さないようにしっかりと指導してやって欲しい。
そして、もし勇者の任に堪えられないようであれば、無理せず早めに元の世界へ送還してやって欲しい。」
私共勇者支援室では初代様の遺志に基き、勇者様の指導を行ってきたのでございます。しかし、先代勇者様におきましては力及ばず、大変残念な結果に終わったのでございます。
先代様は見るからに力に溺れて暴走しそうなお方でございました。それでも城内にいる間は私共がお諌め致しまして、召喚直後の情緒不安定な様子は鳴りを潜めたのでございます。
しかし、ミストレイク王国を旅立った後、先代様は粗暴な行動が目立つようになったのでございます。勇者様の仲間として、旅立った後も勇者様を指導できる者がいなかったことが悔やまれるところでございます。
勇者様の仲間として共に旅をし、勇者様を指導できるものを育成すること、これが喫緊の課題でございます。かつては近衛騎士団がその任に当たっていたとのことですが、実力主義が形骸化した昨今、実力的にも人格的にもその任に堪えられるものがいないのが現状でございます。
先代様と共に旅をした仲間は、国王派の貴族の推薦により選ばれたと聞いておりますが、どうやら彼らが彼らが先代様を増長するように仕向けた節がごさいます。全く何を考えていたのでございましょうか。
しかし、先代様も多少粗暴なだけならば、そこまで問題にはならなかったのでございます。特に辺境では強くて粗暴な冒険者など珍しくもございません。
最大の問題は、先代様が不届き者に唆されて、辺境の小国を奪い取る計画に加担しようとしたことでございます。
標的となった王国は、軍事的には弱小国ではありましたが、巧みな外交と冒険者を活用した魔物対策で平和と安全を維持しておりました。また、善政を布く国王は民からも慕われ、小国ながら辺境の模範とも言われる国でございました。
勇者様の武力をもってすれば、征服することは可能かもしれません。しかし、そのようなことをする大義がないため、成功しても失敗しても勇者様の名声は地に落ちること間違いございません。
何よりも、勇者様がかかわった時点で察知されてしまう杜撰な計画でございます。碌な結果にならないことは、誰の目から見ても明白でございました。
先代様に考え直していただこうにも聞き入れていただけず、元の世界への送還も提案いたしましたがこれも断られてしまったのでございます。勇者様を支援する各国・各組織とも協議いたしましたが、勇者様の名誉を守るためには勇者様を弑する事も止む無しという結論に至ったのでございます。
この時、国王陛下が先代様の暗殺を企てていたのは偶然でございます。しかし、先代様が行動を起こすまでに一刻の猶予もなかったため、陛下の計画に協力する形で先代様を弑することになったのでございます。
陛下は他国には知られていないとお考えのようですが、実際には私共が了承を取った後だったのでございます。そうでなければ暗部の方々も動かなかったことでございましょう。
さて、当代の勇者様ですが、先代様とは対照的に落ち着いた方でございました。召喚直後こそ不安そうでございましたが、先代様のように情緒不安定になることもなく、力に酔いしれる様子もございませんでした。また、謙虚で礼儀正しく、この世界の知識が足りないことを自覚しておられ、勉強を怠らない方でございました。
指導する立場としては、いささか面白みにか――ゲフンゲフン、失礼いたしました――非常に手のかからないお方でございました。
勇者様に問題はなかったのでございますが、今度は国王陛下の行動が無視できない問題となったのでございます。
勇者様が召喚されてから三日目、ステータスの測定が行われた翌日の夜のことでございました。私は国王陛下に呼び止められ、勇者様への言伝とともに一つのアイテムもを持っていくように命じられたのでございます。
『代々の勇者が使用した防具で、勇者の生存を確認する機能もあるので必ず装備するように』
はい、大嘘でございます。先代様はこのようなものを装着しておりませんでしたし、そんなものがなくても勇者様の生存は城内の魔法装置で確認することができるのでごさいます。勇者支援室の者としては常識でございます。
しかし、悲しいかな、私に陛下に意見する権限はございません。本当は、陛下の命令を受ける立場でもないのですが、拒否しても他の者が行くだけと思いまして、承りました。
私は、勇者様の部屋を訪れ、陛下の言伝を伝えるとともに、その言葉のおかしさを伝え、勇者様に注意を促したのでございます。しかし、勇者様は私が忠告するより前に国王陛下に不審を抱いておられたのでございます。
詳しく伺ってみると、陛下が『勇者の宝物庫』――一般的に『勇者部屋』と呼ばれる場所――から無断で物品を持ち出していたというのでございます。持ち出された品については、勇者支援室で追跡調査することといたしました。
さて、陛下から手渡された物を調べると、案の定『奴隷の首輪』でございました。最悪の結果でございます。
たとえ陛下と言えども、いえ、陛下だからこそ、やってはならないことでございました。国王が関与したとなれば、国の罪と捉えられかねません。すなわち、ミストレイク王国存亡の危機でございます。
対応を誤ると、私が実行犯として処分される流れもあり得ました。危ないところでございました。
勇者様と協議した結果、『奴隷の首輪』が作動しないように一部を壊した上で、何も知らずに装着しているふりをすることにしたのでございます。
勇者様は聡いお方でございます。作戦が失敗したと陛下が知れば、より厄介な次の手を打ってくるであろうことを危惧していたのでございます。
このことがあって以来、勇者支援室は陛下の謀から勇者様を守ることを最優先にすると決めたのでございます。
ございます口調で統一するのは結構大変でした。
アイリスさんは有能ですが、その背景には勇者支援室という組織の力があります。




