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最弱勇者は叛逆す  作者: 水無月 黒


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朝の鍛錬1

 翌日の早朝、俺は日課の鍛錬を行っていた。

 うん、やはり鍛錬は早朝に限る。宿のすぐそばに手ごろな空き地があったのだが、早朝ということで人気もなく、好きなだけ剣を振ることができた。

 一度習得すれば体が勝手に動いてくれる武技(アーツ)とは異なり、俺の剣技は練習しないでいれば腕が落ちる。一日二日さぼったくらいでそうそう差は出ないが、白川流はこの世界で俺の生命線となりかねない。手を抜くつもりはない。

 それに、ヒュドラ退治でレベルが上がった。それも、2レベル上がって、今の俺はレベル3になっていた。パラメーターもほとんどの項目が+20上昇し、ATKやDEFの値は30と、最初の三倍になっている。この影響を確認しないわけにはいかない。

 武技(アーツ)の場合はATKが上がればその分威力が増すだけらしいが、白川流の技には繊細なもの結構ある。昨日のうちに日常の動作と、剣を振るなどの基本的な動作では問題ないことを確認したので、今朝は型稽古を中心に技に対する影響を確認している。

 今行っているのは、『なゆた十二式』と呼ばれる型だ。

 『なゆた』というのは白川流で『せつな』の対極とされるもので、特定の技を指す言葉ではなく、概念や理念に近いものだ。すごく簡単に説明すると、一つの技の終わりの動作を次の技の始まりの動作とすることで技と技の隙をなくし、相手の反撃を許さずに攻撃し続ける、といった感じだ。言ってみれば、「ずっと俺のターン」を実現するものである。

 連続技と異なる点は、始まりも終わりもない点だろう。通常の連続技は複数の攻撃技を一つにまとめたもので、最初の技があり、次の技があり、最後の技がある。しかし、『なゆた』には特定の最初の技というものはない。どこからでも始まり、状況に応じてその場その場で最適な攻撃を繰り出し、そして相手を倒すまで終わらない、それが『なゆた』だ。

 『なゆた』は最終的には技そのものが消え、ただ攻撃している状態だけが終わることなく続く、というのが完成形だそうだ。ただし、そこまで至ったものは、開祖白川武末を含めてだれもいない。

 で、そんなよくわからない理念を実現しろと言われても、どうしてよいかわからないから、練習用の型が存在する。

 『なゆた一式』

 一つの技の最初と最後を繋げて、連続して繰り返す技。一つの技を繰り返すだけだから単調だし、実用性皆無の練習専用の型だと言われている。

 まあ、何事にも例外はあり、開祖白川武末は『なゆた一式』一本で百人斬りを行ったというエピソードがあるらしい。

 「あれはまともじゃないので、普通の人はマネしてはいけません。」というのが、白川流の結論である。

 『なゆた二式』

 二つの技を交互に繰り返すもの。やはり単調な攻撃になりがちなので、練習専用の型とされる。

 『なゆた三式』

 三つの技を順番に繰り出す技。このあたりから、連続技的に使うことができるようになる。

 以降、四式、五式と続くわけだが、型としては作られていない。なぜかと言うと、『なゆた三式』の組み合わせを途中で切り替えていけば四式でも、五式でもいくらでも作れるからだ。

 ただ、単調な一式~三式を延々と繰り返するは正直つらい。そこで型稽古用に練習しやすいように考えて作られたのが、十二の技を集めて作られた『なゆた十二式』である。

 さて、だいたい問題がないことは分かったので、次に行こう。

 『なゆた』で重要なことは、臨機応変な対応である。相手が突飛な行動をとろうと、想定外の事態が発生しようと、即座に対応して『なゆた』を継続することが求められる。だから、型稽古であっても、そこに様々な『変化』を取り入れる。

 「あれ?」

 十分ほど前から黙って見学していたリリアが声を上げる。どうやら気が付いたようだ。

 俺がやっていたのは武器の持ち替えだ。型稽古を行いながら、途中で武器を別なものに変える。白川流でよく行われる稽古の一つで、師匠が放り込む武器を受け取ったり、あらかじめ置いておいた武器を拾って持ち替えたりする。

 せっかくなので、『勇者のアイテムボックス』を利用して武器を持ち換えてみた。これ、すごく便利だ。技の流れを阻害することなく、いつでも自在に武器を持ち替えられる。便利すぎて修行にならない気もするが、これはこれで練習しておけば実戦で役に立つだろう。

 長剣、短剣、大剣、曲剣。歴代勇者が集めた武器だけあってなんでもある。

 白川流は武器を選ばない。開祖白川武末曰、「最高の武器を持ち、その武器の力を最大限発揮する技に特化して鍛えれば、確かに最強だろう。だが、その武器を失ったらどうする。」

 決められた武器を使うことに特化するのではなく、手にした武器は何でも使いこなす。それが白川流が戦場で生きるために選んだの戦略だ。

 「獲物がなければその場で手に入れろ。戦場にはいくらでもある。落ちているものを拾え。死者からもらい受けろ。敵から奪え。味方から拝借しろ。」

 白川武末という人物は、あちらこちらの戦場を渡り歩き、同じ陣営に長期間居続けることがなかったのだが、『味方から拝借』をやりすぎて居られなくなったのではないか、というのが白川流内での通説になっている。

 「槍まで使いますか!」

 五分ほど前から、同じく黙って見学していたジョージが驚きの声を上げる。複数の武器術スキルを持っているだけで器用貧乏と言われるこの世界では、この反応が普通なのだろう。

 この世界では、武技(アーツ)もこともあり、武器が違えば全く異なる技術として扱われる。しかし、白川流では違う考え方をする。槍だろうと、刀だろうと、拳だろうと、相手を攻撃するという基本は変わらない。基本さえしっかりと習得すれば、後は使う武器に合わせて応用するだけだ。それはほんの些細な違いでしかない。

 白川流ではこれを、『千変万化の一を取る』という。千にも万にも変化する、その根源の唯一つを押さえれば、後は些細な違いに過ぎずいくらでも応用が利くということだ。とはいえ、刀と槍くらいならまだしも、弓や鉄砲まで『些細な違い』と言い切る白川武末はどこかおかしい。

 開祖白川武末がこの世界に来たならば、「剣士だから槍を持って戦えない、槍使いだから剣があっても戦えない、それで死んでもよいのか。」と言うだろう。

 この世界では、「それは仕方のないこと」、と割り切っているようだが、白川流では戦っている最中に武器を持ち替えることくらい普通だ。

 開祖白川武末の発想はもっと過激だ。『なゆた』で弓や鉄砲を扱おうとしただけではなく、『せつな』まで組み込もうとしたらしい。一瞬ですべてを終わらす『せつな』を、終わることなく攻め続ける『なゆた』に組み込むなんて矛盾しているとしか思えない。

 余談だが、白川流では稽古に集中している時でも、こっそりと覗き見に来た人を見落とすことはない。そんな無様をさらせば、師匠からどのようないたずらを仕掛けられるか分かったものではないのだ。

 一通り色々な武器を試した後、鍛錬を切り上げる。『なゆた』は稽古用の型であっても終わりがないので、自分で区切りをつけて打ち切らないといけない。

 「お疲れさま。毎日よく飽きないわね。」

 リリアが労っているのか呆れているのかよくわからない言葉をかけてくる。

 「まあ、日課だからな。鍛錬をさぼると腕が落ちるし。それより、ジョージは訓練とかしなくていいのか。」

 「いえ、自分は剣術の初級武技(アーツ)は全て修めていますので。」

 ああ、そういえば、こいつも近衛騎士団だったんだな、とあらためて思い知る。

 ミストレイク王国近衛騎士団はほとんど訓練とか練習とかを行わない。訓練と称して行っているのは上位の者が下位の者をいたぶる謎の儀式だ。

 謎の儀式の他に、武技(アーツ)を習得するための練習が行われる場合がある。初級の武技(アーツ)は発動後の動きを真似しているうちに習得できるので、武技(アーツ)の真似をしながら剣を振るのだ。

 しかし、一度武技(アーツ)を習得してしまえばこの練習は不要になるし、中級以上の武技(アーツ)はこの方法では習得できないので、初級の武技(アーツ)を全て習得すると練習自体をやめてしまうのだ。

 ちなみに、中級以上の武技(アーツ)の習得方法は確立されておらず、「実戦で身に付けろ」状態。ミストレイク王国近衛騎士団で中級以上の武技(アーツ)を使えるものはほとんどいない。

 ともかく、近衛騎士団を離れて謎の儀式さえも行わなくなったジョージは、戦いの準備を何も行っていないということだ。

 「そういう考え方だと、この先死ぬぞ。」

 一応、ジョージには軽く警告しておく。意識改革の方法はまた考えるとして、武技(アーツ)を使用した戦闘方法を指導してくれる人が欲しい。リリアには魔法使いの戦い方を教えてくれる人も必要だ。

 あと、何も考えない猿真似だけの練習と型稽古を一緒にするな!



この物語はフィクションであり、実在の流派、技、武術理論等とは無関係です。特に白川武末にはモデルとした人物はいません。

主人公の背景説明用に名前だけ用意した白川武末なのですが、不思議とこの人のエピソードはポンポン思いつくのです。。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] レベル1でしかもATKが初期から変わらないのにヒュドラの首を切れるのか…一般人レベルの力ではいくら技がすごくても難しいのでは。 そしてヒュドラ倒してレベルが2しか上がらないのもどうかと…
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