リリアの話
この話は、リリア視点になります。
3月31日、誤字修正。
私はリリア。
幼い頃に母を亡くした私は孤児院で暮らしていた。父は知らない。
物心ついた時から孤児院で生活していたが、そんな日々は意外と早く終わった。
ある日孤児院に見知らぬ大人たちがやってきた。彼らは孤児院の子供たちを手際よく調べ、選別していった。
その結果、私は孤児院から連れ出された。
孤児院を出た私が連れてこられたのは、また別の施設だった。
そこで私は魔法の勉強をさせられた。魔法文字を習ったのもこの時だ。思えば私は、普通の文字よりも先に魔法文字を習得している。
魔法は面白かったので頑張って勉強した。それが良かったのか、悪かったのか。
三ヶ月ほどで私はその施設から出ることになった。
次に私が連れてこられたのは、すごく大きな建物。お城みたい、と思ったら本当に王城だった。
そこで私は、『リリアーヌ=ミストレイク』という名前と『王女』という肩書を与えられた。
私は人の名前が変わることがあると、その時はじめて知った。
それに、『王女』って突然になるものなの? 名前も知らないお父様は王様だった? 謎は尽きない。
王城でも勉強の日々だった。ただし種類が増えた。魔法の他に、読み書き計算、地理、歴史、礼儀作法。
私のような『王女』は何人かいた。中には施設で見た顔もあった。
『王女』の人数は十人程度で、たまに増減する。減った『王女』が何処へ行ったのかは知らない。
王城に来て魔法の勉強も内容が変わった。『儀式の間』と呼ばれる部屋で魔法陣を光らせる練習が加わった。この魔方陣を光らせられない王女がいなくなるようだった。
一年も経つと、私にもいろいろと分かってきた。私たちの役割は、勇者様を召還する『召喚の巫女』になること。『召喚の巫女』になれるのはミストレイク王家の血を引く女子だけだから、私たちは『王女』と呼ばれるのだ。
しかし、孤児院育ちの私が『召喚の巫女』になれるものだろうか。一人や二人ならば王様の隠し子かもしれないけれど、『王女』は十人以上いる。いなくなった『王女』も含まれば候補は数十人になるだろう。
答えは簡単だった。『召喚の巫女』の資格があるのは王家の血を引く女子。別に今の王様の子供である必要はない。つまり、王家の血は広く薄く、平民にまで広がっていたのだ。
そして、勇者召喚の儀式が行われた。
召喚の儀式には魔法陣を安定して光らせることのできた五人、全員参加した。『召喚の巫女』になったのは、その中で最年長のパトリシア王女だった。
儀式は無事成功し、勇者様が現れた。失敗していたら、年齢順に次は私の番だったのだろう。
勇者様が召喚されたから、私達の仕事もこれで終わりかとも思ったが、『王女』の立場はそのままだった。ただ、勇者召喚の練習は行われなくなった。
勇者様は二年間活躍して死んだ。
病死だと言われたが、ちょっと怪しい。勇者様は前日まで王城で元気な姿を見せていたのだ。
勇者様が亡くなってしばらくして、勇者召喚の練習が再開された。新しい『王女』もやって来るようになった。再び勇者召喚を行うつもりなのは明白だった。
そんなある日、私は一人呼び出されて、パトリシア王女から直接指導を受けることになった。パトリシア王女の予備に過ぎない私に何故そこまで、と思ったが、その理由も説明された。
一度勇者様を召還した『召喚の巫女』は、召喚した勇者様を送還するまでその能力を失う。つまり、勇者様を送還する機会を失ったパトリシア王女は二度と勇者召喚を行うことができない。
実際に勇者召喚の儀式を行った時の所感を伝えるだけの簡単な個人指導を行った後、パトリシア王女は王城を去った。どこかの公爵家に嫁ぐのだそうだ。
予想通り、私が『召喚の巫女』となって新しい勇者様が召喚された。
その数日後、私は別の王女に勇者召喚の指導をするように命じられた。これには私も驚いた。もう次の勇者召喚の準備を始めているのだから。
先代の勇者様の時の反省からなのだろうが、召喚したばかりの勇者様が亡くなった後の準備を始めるのは早すぎるのではないだろうか。
私もお払い箱決定だろうか。まあ、勇者様が生きているうちは城にいられるだろうけど。
などと考えていたのだが、私の予想は外れることになった。
私は勇者様の仲間として一緒に旅立つことが決まった。
「あと、ミストレイク国王の言うことを聞いていると死ぬから。少なくとも国王は俺が死ぬ前提で考えているようだし、今頃次の勇者を召還する準備でもしているんじゃないかな。」
うん、その通り。すでに次の『召喚の巫女』は決まっている。
「二人とも、他人ごとじゃないぞ。勇者を見捨てて途中で離脱する命令を受けてないなのなら、一緒に死ねと言われているようなものだぞ。」
それも知っている。弱い勇者しか呼び出せなかった私はもう用済みだから、『最弱勇者』と一緒に死ねということ。
あれ、でもナオユキは本当は弱くなかった。ヒュドラ討伐なんて伝説の英雄並みの偉業だ。もしかすると、生きて帰れる?
旅立つ前から諦めていた私の心に、少しだけ希望が蘇る。
けれども、現実は残酷だった。
「まさか……、『奴隷の首輪』?」
私はこれを知っている。
孤児院では、街に出て仕事の手伝いを行う『勤労奉仕』というイベントがしばしば行われた。
子供にも手伝えるほど簡単で、けれども普通の大人はあまりやりたがらない。そんな仕事に参加する大人の中にこの首輪をつけている者がいた。
それが強制労働させられている犯罪者であることは子供たちも薄々知っていた。王城では初代勇者の偉業とともに、犯罪者以外に『奴隷の首輪』を使用してはいけないことも習った。
勇者様を犯罪奴隷扱いする暴挙に加えて、書き込まれていた命令も殺意が高い。
これって、無事に帰ってもミストレイク王国そのものが勇者一行を殺しに来るんじゃない?
「それで、結局どうするつもり? クーデターでも起こす?」
なんだか、国ごと潰さないと生き残れない気がしてきた。
「最悪、それしかないかもな。どうだ、女王になっててみるか? 勇者の仲間として活躍すれば王位継承権をすっ飛ばして王位に就けるんだろう?」
いや無理! 絶対に無理! 私の『王女』の肩書は対外的な辻褄合わせなに過ぎない。ただの孤児に王様が務まるわけがない。
「私より、ナオユキが王になったらどう。勇者なら、王配ではなく王位に就けるわよ。」
勇者様は悪い王様を倒して、国王になりました。めでたしめでたし。という話の方がよほどあり得るでしょう。縋るような気持ちでナオユキを見る。
「俺はこの世界の住人ではない。この世界の問題にかかわるべきではないだろう。」
なんだか正論で返されてしまった。もともと召喚時に「勇者の役目が終われば、いつでも元の世界へ送還いたします。」とか、約束しているので断れない。
それに、誰が王様になるかで悩む暇はないかもしれない。
勇者に『奴隷の首輪』を着けようとするだけでもとんでもないことだが、そこに書かれていた命令が問題だった。
ナオユキは何も言わなかったけれども、記録されていた魔力パターンは、魔族ならば誰であれ反応するような大雑把なものではなかった。
特定の個人、あるいはその血縁者あたりまで反応する詳細なものだった。そんなものをどこから採取してきたのか?
考えられることは一つ。
ミストレイク王国は、魔族と通じている。
それも、魔族と共謀して勇者を亡き者にしようとしているのだ、人類の裏切り者だ。
国ごと滅ぼされても文句は言えない。
「いやぁ~、青春ですなぁ。私も彼女が欲しい。」
ジョージはちょっと能天気すぎると思う。
リリアの年齢は15歳という設定です。
先代勇者を召還した時点で10歳、それでも勇者召喚可能な王女の中で上から二番目です。肉親や後ろ盾のない孤児の中から集められているので、平均年制低めです。




