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最弱勇者は叛逆す  作者: 水無月 黒


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最弱勇者は叛逆する2

 「しかし、勇者殿に万が一のことが起きた場合に備えただけということではないでしょうか。」

 多少冷静になったのか、ジョージがまともなセリフを言う。その通りだとしても、死んでもよい人扱いしていることも、勇者の足を引っ張っていることも変わらないのだが、せめて積極的に勇者の死を望んでいることは否定したいようだ。

 しかし、事態はさらに酷い。

 俺が最初にミストレイク王家に不審を抱いたのは召喚された最初の日の夜だった。

 召喚初日は簡単に経緯の説明を受けた後、与えられた部屋で休むことになった。が、暇だったので、自分の能力の確認を行うことにした。幸い、『鑑定』のスキルがあったので自分のステータスは自分で調べることができた。

 武器術や魔法を室内で試すのはためらわれたことと、パラメーターの値は比較対象がないとわからない、ということで、『鑑定』と『勇者のアイテムボックス』を中心に見ていった。

 特に興味深かったのが、『勇者のアイテムボックス』だ。物を出し入れできるという基本機能は想像通りだが、他にもいろいろと機能がある。もっとも特徴的なのは、ミストレイク王城の一室、通称『勇者部屋』とリンクしていることだろう。

 『勇者のアイテムボックス』に格納したものは、『勇者部屋』に配置することができる。逆に『勇者部屋』に置いたものは、『勇者のアイテムボックス』経由で取り出すことができる。つまり遠く離れても勇者とミストレイク王城とで何時でも物のやり取りができるのだ。

 さらに、セキュリティのためか、勇者部屋に出入りできる人の制限をかけられたり、勇者部屋に出入りした人や物の履歴をログとして参照できたりした。

 そのログの中にあったのだ。俺が召喚されたその日に、勇者部屋から物品を持ち出すミストレイク王国国王。勇者召喚の儀式に顔も出さずに何をしているかと思ったら、コソ泥の真似事かい!

 持ち出されたものは主に金銀財宝や高級そうな名前のアイテム、勇者専用の装備らしいものもあったが、この件に関しての説明はその後も一切なし。まあ、元々俺の物というわけではないので、それ自体はよいのだが。

 何故国王自らそんなことをしていたか、更に調べていくとわかった。先代の勇者が勇者部屋への全ての人間の出入りを禁止していた。俺が勇者になったことでその設定がリセットされ、現国王のみ出入りできるようになったらしい。

 そして、先代の勇者が何を考えてそのようなことをしたかと言えば、

 「残念ながら、ミストレイク王国はすでに勇者殺しをしている。先代勇者は毒殺された。」

 本日の爆弾発言その二。さすがに二人とも固まった。勇者殺しは大罪だ。公式には病死と発表されているが、俺は知っている。

 『勇者のアイテムボックス』の機能の中に任意の文章を記録できるメモ機能がある。本来は物品管理用と思われるが、歴代勇者は日記を付けたり、行動予定を書いたりと好きに使っている。先代はほとんど利用した痕跡がないが、死ぬ間際にダイイングメッセージを残していた。自分を裏切ったミストレイク王国への怨嗟の念を込めて……

 「ミストレイク王国は隠しているつもりだろうが、とっくに他国にばれている。問題にされていないのは、先代が粗暴な行為を繰り返していたからだ。」

 さらに追撃の一言を放つ。それにしても、ミストレイク王国の防諜はザルだ。

 勇者支援国に対して行われた『お披露目』は、各国の一般大衆に勇者の姿を見せるパレードだけでなく、政府高官や王侯貴族といったお偉いさんとの顔合わせもあった。意外なことに、俺は各国のお偉いさんからは好評だった。それが単なる社交辞令でないことは、後でその国に常駐していたミストレイク王国の外交官にも確認したので間違いない。『最弱勇者』は伝わっていはずなのに、と疑問に思ったのだが、「礼儀正しく道理をわきまえている」ことが理由だそうだ。先代はどれほど粗暴だったのやら。

 そんな、俺に好意的だった複数のお偉いさんからほのめかされたのだ、先代が殺されたことを。婉曲な表現だったので、これもミストレイク王国の外交官に確認した。外交官の彼も先代の暗殺の件は知っていたが、「本国からではなく、他国の人間に教えられて困惑した」そうだ。

 先代は『最強勇者』の名に恥じぬ強さで魔物や魔族相手に大暴れしただけでなく、人間相手にも勇者の権威を振りかざして横暴な振舞いをしたらしい。直接の武勇が求められる辺境とは異なり、中央の大国ではだれもが憧れる英雄としての勇者が求められていた。そのため、わざわざ中央の大国まで遊びに出向いて勇者のイメージを落としていく先代は問題になりかけていた。

 だから、先代勇者が殺された時も、下手に追及してさらに勇者の悪行が知れ渡ることを恐れて、口を閉ざしたのだ。

 「先代勇者のことはもう片が付いているからよい。だが、ミストレイク王国は、国王は全く懲りていない。」

 まあ、隠しおおせていると思っているようなので、懲りるも何もないのだろうが。

 「これが何かわかるか?」

 俺は、自分の首に付けていたアイテムを取り外して机に置く。

 「勇者殿がいつも着けているアクセサリーですか。これが、何か?」

 さらに、外側にかぶせてある豪華な装飾を取り外すと、中から出てきたのは武骨な首輪。

 「まさか……、『奴隷の首輪』?」

 何故かリリアが知っていた。

 『奴隷の首輪』とは、名前から想像がつくように、人の自由を奪い、強制的に従わせるためのマジックアイテムだ。あらかじめ設定された命令に反すると徐々に締まり、最悪命を落とす非人道的な道具である。

 この世界には奴隷が存在する。が、待遇はそれほど悪くない。奴隷であっても私的財産の所有は認められるし、故意に死なせれば殺人罪に問われる。『奴隷の首輪』が使用されるとすれば、重犯罪者を強制労働させる場合くらいで、それ以外の使用は違法行為になる。

 「こいつは国王から、『代々の勇者が使用した防具で、勇者の生存を確認する機能もあるので必ず装備するように』という伝言付きで渡された。」

 本日の爆弾発言その三、物証付き。実際に持ってきたのは、俺に世話係としてつけられたメイドのアイリスさんだったが、ばれたらアイリスさんに全ての責任を押し付ける気だったのだろう。

 もちろん、一度嵌めてしまえば外せないようにできているのだが、先に首輪のロック部分を壊しておいた。これで、自由に取り外せるだけでなく、首輪が動作しても首が締まらなくなる。初日から王家に疑念を持っていたことと、持ってきたアイリスさんも不審に思って注意してくれたことで事なきを得た。

 今まで首輪を着けたままにしていたのは、国王を欺くため。『奴隷の首輪』が失敗したからといって、第二第三の策を講じられても面倒だ。

 首輪を操作すると、文字が浮かび上がった。

 「リリア、読めるか?」

 これは魔法文字と呼ばれるもので、マジックアイテムの魔法の効果や発動条件などを記載する際に用いられる。『奴隷の首輪』の場合、設定された命令が書いてある。魔法使いならば必ず習得しなければならない文字だそうだが、俺は『言語理解』のスキルの効果で最初から読める。

 「……ミストレイク王家の者に危害を加えることを禁止、ミトスレイク国王の命令を遵守、特定の魔力パターンを持つ相手への攻撃の禁止。……この魔力パターンは、魔族!」

 リリアの読み上げた内容を聞いて、ジョージが青くなる。

 魔力パターンというのは、魔力を持つ生物が自然に放出している魔力の特徴で、指紋のように個人ごとに異なる。種族ごとの特徴もあるので、記録された魔力パターンを見れば人間か、魔物か、魔族かくらいの見分けはつく。

 この首輪をつけたまま魔族との戦闘になれば、指定された相手が出てきた時点で戦えなくなり、俺は死ぬ。ミストレイク国王への服従も記載されているので誰が首謀者かも明白。決定的な証拠だった。

 「ミストレイク王国を出発する前に、国王から受けた命令は三つ。辺境に入ったら毎日現在地を報告すること。出発後、パーティーメンバーを増やさないこと。魔族との戦争には状況が不利でも必ず参戦すること。」

 さらにダメ押し。一つ目はともかく、二つ目は勇者パーティーの強化を阻害するし、三つ目は首輪の件と合わせて確実に殺しに来ている。国王真っ黒、弁解の余地なし。


 「それで、結局どうするつもり? クーデターでも起こす?」

 真っ白になっているジョージに対して、リリアは存外肝が据わっている。冗談めかしているが、目が真剣だ。

 「最悪、それしかないかもな。どうだ、女王になっててみるか? 勇者の仲間として活躍すれば王位継承権をすっ飛ばして王位に就けるんだろう?」

 リリアは王女とはいえ、王位継承権はないに等しいらしい。しかし、勇者とともに活躍したとなれば話は違ってくる。英雄にふさわしい待遇をしなければ国民も納得しないし、王家の権威にも傷がつく。

 今回の陰謀を知らない者にとって、特に凄腕でもない王族を勇者の共に付ける理由など、実績を上げて箔をつけるため以外考えられないだろう。しかも王位を狙えるくらいの実績となれば、国王が皇太子を排してリリアを王位につけようとしている、と思われても不思議ではない。何もしなくても、リリアに取り入ろうと、人が集まり、一大勢力ができる。対して国王側は真実を語ることもできず、ばれれば国ごと滅びかねない弱点を抱えている。

 うん、うまく持っていけば無血革命も夢ではない。案外現実的な案だった。むしろ、政権取った後の方が面倒くさそうだ。

 「私より、ナオユキが王になったらどう。勇者なら、王配ではなく王位に就けるわよ。」

 意訳:面倒ごとを全部押し付けないで、少しは手伝いなさい!

 ジト目でこちらを見ながら言うリリア。さすがに状況は把握しているようだ。

 国王を廃してもミストレイク王国のやらかした事実がなくなるわけではない。先代勇者の件だけではなく今回の陰謀もいずればれる。公にされなくても国際的な地位は下がるだろう。

 直接の被害者である俺が先頭に立てば、風当たりもかなり弱まるだろう。だが、

 「俺はこの世界の住人ではない。この世界の問題にかかわるべきではないだろう。」

 意訳:俺は帰りたいだけだ。この国のごたごたに巻き込むな!

 同じくジト目で見返す。俺は無理やり召喚されただけで、魔族との戦争だろうが、国の存亡だろうがどうにかする義理はない。

 「いやぁ~、青春ですなぁ。私も彼女が欲しい。」

 意訳、する必要はないな。ジョージは現実逃避した!!

 王配云々からの連想だろうが、王族の婚姻は政略結婚に決まっている。変な夢を見るんじゃない。

 「勇者の仲間なら、王配まではいけるぞ。」

 「いえ、自分には荷が重すぎます!」

 即答しやがった。今のは近衛騎士団流の断り方なのだろうか?

 「後のことはともかくとして、当面は国王に従うふりをする。その上で生き延びて、適当な功績をあげてミストレイクに戻る。あとは向こうの出方次第だな。」

 俺だって穏便に済むなら済ませたい。ただ、最悪を想定して準備しておく必要がある。

 「それと、分かっていると思うが今の話は他言するなよ。ミストレイク王国に知られたら刺客を送ってくるだろうし、他の国に知られたらミストレイク王国が滅びる。」

 「わかっているわ。」

 「こんなこと、恐ろしくて口に出せません。」

 実はミストレイク王国に関するヤバい話はまだあるのだが、それはおいおい話すとしよう。


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