最弱勇者は叛逆する1
その日の夜、俺は全員を宿の一室に集めた。と言っても、一人部屋のリリアを俺とジョージの部屋に呼んだだけだが。
「これからの予定について、話しておきたい。」
そう言いながら、俺は取り出したマジックアイテムを起動する。
『勇者のアイテムボックス』のスキルは特殊で、通常のアイテムボックスの魔法にはない特徴がいくつかある。その一つが、代々の勇者に受け継がれるということ。つまり、初代から先代までの歴代の勇者が集めた結構な数のアイテムが最初から入っていた。
今取り出したアイテムもその一つ。この手のひらサイズの三角錐は、起動すると一定範囲内の音をその外に伝えなくなる。つまり、この部屋で行われた会話は外部に漏れることはない。
「まず最初に言っておくが、これから先、ミストレイク王国国王の指示に従うつもりはない。」
まずは一発、爆弾発言をかましてみる。
「お、王命に逆らうのですか! 国家に叛逆する気ですか!!」
大きく反応したのはジョージだった。平民のせいか、近衛騎士団で教育を受けたのか、王に逆らうことは考えられない重罪なのだろう。
「ジョージ、うるさい。」
対してリリアは冷静だ。ジョージの発言は迂闊すぎる。人に聞かれたら要らん誤解とトラブルを呼び込みかねない。さっさと黙らせるのが一番だ。まあ、そのために遮音済みなので問題ないが。
「そもそも、俺はミストレイク王国の国民でもないし、望んでこの世界に来たわけでもない。たとえ国王相手でも無条件で従う義理はない。お前は無理やり見知らぬ国に連れてこられて、王命だから従えと言われて納得できるか?」
「え、いや、しかし、……」
正論を突き付けられてしどろもどろになるジョージに更に畳みかける。
「それに、たとえ国王であっても勇者に命令を下すことはできない。これはミストレイク王国の国法および国際条約で決まっている。」
「へっ?」
「そうなの?」
やはり知らなかったらしく、ジョージが変な声を上げる。というか、リリアも知らなかったのか、王女なのに。
「ジョージは勇者パーティーに加わるときに、近衛騎士団を退団しただろう? 勇者はどの国にも属さず、誰の命令も受けない。それは勇者の仲間にも適用されるから、近衛騎士団の命令系統から外れる必要があった。」
初代勇者が人類の危機を救ったのち、当時のミストレイクの王家は勇者に対して非常に感謝するとともに、安易に勇者に頼らないようにとの戒めを込めて法律や制度の整備を行ったのだそうだ。
『ミストレイク王国は召喚された勇者の意思を尊重し、全力でその支援を行う。』
残念ながらその精神は受け継がれなかったようだが、その時作られた法制度は現代まで続いていたということだ。
それに、ことはミストレイク王国一国の問題ではない。勇者は人類の希望の象徴であり、勇者というだけである種の権威が存在する。勇者が特定の国に肩入れすると表明しただけで国家間のパワーバランスが変わるくらいの影響力があるらしい。まるで実感はないが。
だから、勇者召喚を支援した国々は、資金を提供することで勇者の運用に発言力を確保するという側面がある。そして特定の国が勇者を独占しよいなうに条約を結んでいるのだ。
召喚したミストレイク王国も例外ではなく、できるのはアドバイスとお願いまでで、命令してしまうとアウトになる。
召喚されてから一ヶ月の間、ただむなしい訓練をしていただけではない。勇者の立場についてもしっかりと勉強させてもらった。
「あと、ミストレイク国王の言うことを聞いていると死ぬから。少なくとも国王は俺が死ぬ前提で考えているようだし、今頃次の勇者を召還する準備でもしているんじゃないかな。」
「いや、さすがにそれはないでしょう。」
勇者は人類の希望であり、その死を願う人間はいない。それがこの世界の常識であり、常識人のジョージにはにわかに信じられなかったようだ。だが、悲しいことに事実だ。ミストレイクの王城で、『最弱勇者』を見にやってきた貴族の子息が馬鹿にする言葉とともにいろいろとほのめかしてくれたので、国王とその取り巻き連中がいくら隠してもまるわかりだった。ミストレイク王国は防諜というものを勉強し直した方がよい。
一方、リリアは何か心当たりがあるのか、黙って考え込んでいる。
「疑問に思ったことはないか? 例えば、このパーティー弱すぎないか?」
先代の『最強勇者』のパーティーは国内から選りすぐった四名を従えた五人、その後旅の途中で一名追加して六人で行動していた。いずれも国外にまで名の知れた優秀な人材だったらしい。
一方、『最弱勇者』の俺に付けられたのは二名のみ。ジョージにしても、リリアにしても目立って強いわけでも実戦経験があるわけでもない。戦力的には、使い捨てて惜しくない人材と言える。王女を使い捨てて良いのか、という疑問は残るが。
「リリアがメンバーにいるのも問題だ。王女を最前線に送るのもどうかしているが、リリアは俺を召還した本人だ。彼女に何かあれば俺は元の世界に帰れない。状況によっては俺はリリアを守ることを優先せざるを得なくなる。」
この世界の勇者召喚は、召喚して終わりではなく、ちゃんと元の世界へ送還することができる。ただし勇者の送還を行うことができるのは、勇者を召還した者、俺の場合はリリアのみだ。つまり、リリアに死なれると困るので、彼女を守るため戦場で俺の動きが制限される可能性がある。このあたり、勇者以外には関係ないのであまり知られていないようだが。
そして、もう一つあまり知られていないことがある。勇者を召還したものは、召還した勇者を送還するまで、次の勇者召喚を行うことできない。もともと召喚できる勇者は一人のみなので、俺が勇者をやっているうちは次の勇者召喚を行うことはできないが、俺が送還された場合、次の勇者が必要ならばリリアがもう一度勇者召喚を行うことができる。しかし、俺がこの世界で死ぬとリリアは二度と勇者召喚を行うことができなくなる。
一般には知られていないことだが、ミストレイク王国国王および勇者召喚にかかわったものならば知っているはずだ。なぜならば、先代の勇者は送還されることなくこの世界で死んだのだから。五年前に召喚された先代勇者は、二年間活動した後、送還されることなく三年前に死んでいる。先代勇者を召還した術者はリリアの姉だそうだ。会ったことはないけど元気に暮らしているそうだ。重要な仕事は実績のある者が任されるのが普通だろう。俺を召還したのがリリアなのは、先代を召還した王女がその能力を失ったからだ。
つまり、俺が死ぬ前提ならば、リリアが勇者召喚の能力を失うことも決定事項で、勇者召喚できない王女はもう不要?
辻褄は合うのだが、王女の扱いが酷い。この話題には触れないでおこう。ただ、これだけは言っておく。
「二人とも、他人ごとじゃないぞ。勇者を見捨てて途中で離脱する命令を受けてないなのなら、一緒に死ねと言われているようなものだぞ。」




