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最弱勇者は叛逆す  作者: 水無月 黒


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エピローグ

 そして俺はそのまま日本へ帰還、とはいかなかった。

 まあ、無理もない。国王を筆頭に、国政を担う人物がまとめて何人も失脚したのだ。このままでは国が回らない。

 ある程度根回しはしてあるとはいえ、国の立て直しには時間がかかる。勇者関連は優先順位が高いはずだが、そこまで余裕がないらしい。

 それに、俺にもやることがあった。

 俺はこれまで、旅先で何ヵ所か、信頼できる人物を見つけてちょっとしたものを預かって貰ていた。それは国王の不正を示唆する文書。

 直接的な証拠にはならなくても、他国が疑いの目を向けるのにはそれで十分。特に勇者が不審な死を迎えれば徹底的に調べることになるだろう。

 このことは故意にリークし、暗部に対する牽制に使用する予定だった。俺を殺せば国が滅びかねないぞ、と。まあ、ラムズベルク辺境伯が味方に付いたことで必要なくなったが。

 用が済んだのだから、このような危ない文書はさっさと回収したほうが良い。俺が無事で、国王が失脚済みだから、大した問題にはならないはずだが、厄介ごとにならないとは限らない。

 国王派の者の手に渡らないようにと、不審者に渡さないよう念を押して預けたものだから、俺が自分で回収するのが最も確実だ。

 全ての場所に仕込めるほど転送石の数はないので、歩いて取りに行くしかない。帰りは転送石で戻るけど。俺とジョージは帰路を逆行する形で再び南下した。最初に預けたリセルまで戻ることになる。

 その間、リリアは何をしていたかというと、戴冠式の準備である。結局王位はリリアが継ぐことになった。本人は嫌がったけど他に適任はいないのだから仕方がない。

 現国王は引退の後、実質的に幽閉される。皇太子もどっぷりと陰謀にかかわっていたため、廃嫡となった。他の王族も、王位継承権が高いほど黒に近いのだ。王位を安心して任せられる者はいなかった。

 どうせ王位継承権が低く、後ろ盾の弱い者が王位に就くならば、勇者と共に戦った英雄であるリリアが一番文句が出ないのだ。さらに国王の罪が露見した場合にも、被害者側であるリリアが王位に就いていた方が他国の風当たりも和らぐ。他に選択肢は無かった。

 なお、近衛騎士団の良心、ギュンター=レイニールは王位継承権もそこそこ高く、本人は一切悪事にかかわっていない。しかし、「あいつに任せると国が亡びる」というのが以前からの共通認識となっているため、次期国王候補に挙がらなかった。ただ、本人にその気がなくても悪意ある者から唆されたり、担ぎ上げられる危険性があるため、しばらくは幽閉されることになった。今回罪なくして処分されたのは彼だけだそうだ。

 王位に就いた後、リリアの最初の仕事は、勇者の功績を国民に知らしめ讃えるために凱旋式を開くことだ。うん、やっぱりやるそうだ。国王が代わったくらいで中止していては、国民が納得しないそうで。


 俺とジョージがばらまいた文書の回収を終えて戻ってくると、国政の立て直しは一段落していた。

 国王派の人間は、貴族も平民の役人も要職から外された。国王の影響力を残すわけにはいかない。

 さすがに、勇者暗殺とか魔族と内通といった重罪にかかわったものは少ないが、国王の権威を笠に着て好き勝手やってきた連中だ。問うべき罪に不自由しなかったそうだ。

 普通に裁くだけで、処刑される者、爵位を剥奪される者、投獄される者、家財を没収される者等々続出だったらしい。

 手の回らなかった小物も、後ろ盾を失って何もできないだろう。

 国王のやろうとしていたことも分かってきた。

 勇者を利用した金儲け、言わば『勇者ビジネス』を行っていたのである。

 勇者を召還する際に、中央三大国を中心とした勇者支援国から多額の支援金が支給される。この支援金目当てに、魔族と共謀して危機を演出して、勇者を求めるように仕向けたのである。

 そうして召喚されたのが、先代勇者だ。先代勇者の強さを見た国王は、さらに欲を出した。積極的に魔族の村を襲わせたり、辺境で荒稼ぎさせたりして、得られた財貨を自分の物しようとしたのだ。

 その結果、増長した先代勇者が手に負えなくなり、暗殺するに至る。国王の誤算は、先代勇者が最後の嫌がらせに、勇者部屋を封鎖したことだろう。

 国王は、勇者の封印した財貨を得るため、また新たな支援金を得るために再び勇者召喚を画策する。ちょうど先代勇者がかき回したことで不安定になっていたテルミヌス川周辺の情勢を何とかする必要があったため、それは叶った。

 こうして再び召喚された勇者が、俺である。国王は、俺のステータスの低さを知ると、即座に共謀している魔族への生贄にすることを決めた。

 最初の予定では、魔族との戦争の中で俺が魔族に殺されるはずだった。俺を殺した相手は魔族の中の英雄となり、人類側には、魔族の卑怯な手段により勇者が殺されたと宣伝することで三度目の勇者召喚に繋げるつもりだったらしい。

 計画が失敗してなお俺の命を狙ってきたのは、勇者の死を無理やりにでも魔族の仕業に仕立てるつもりだったらしい。遅効性の毒とか、呪いとか言って、強引に『魔族の卑怯な手段で勇者が殺された』という既定路線に戻すつもりだったようだ。

 本当にそんな出鱈目が通用すると思っていたのだろうか? もしかすると、計画が先行して止められなくなっただけかもしれない。

 国王が『勇者ビジネス』を始めた原因は、先代の国王に遡る。先王は、国の財政危機に対して、勇者召喚の支援金を活用して財政を立て直したのだそうだ。

 先王と異なり、ただ利益目的で勇者を利用する行為は国内からも非難された。それを国王は、手に入れた支援金を景気良くばらまくことで黙らせた。金で黙らない者は左遷して遠ざけ、自分の言うことを聞く者のみを近くに置いた。こうしてできたのが国王派である。

 だが、所詮は金で集まった連中だ、派閥を維持するにも利益を与え続ける必要がある。手にした支援金は早々に底をつき、王家で確保していた魔石も放出し、次々に勇者召喚を行い支援金をせしめなければ立ち行かない状態になっていた。

 ダメじゃん。勇者召喚の自転車操業になってるよ。真似するなら、財政を立て直したところを真似ろよ。そこが一番肝心なんだから。

 放っておいても自滅したんじゃないか、いろんな人や国を巻き添えにして。


 暫し時は流れ、リリアの戴冠式も、勇者の凱旋式も滞りなく終わった。

 いや、凱旋と言っても王都に戻ってきたのはだいぶ前だし、魔族よりも国王――すでにリリアが即位したから、前国王と戦っていた気分が強いから、あんまり凱旋した気がしないのだが。

 それでも、慶事が二つ重なったということで、王都は賑わっている。

 勇者の功績として、ヒュドラ退治とか、ゴブリンキング討伐とか、ネズ占領地の奪還戦などがかなり誇張して発表された。

 こういった話を基に、物語が作られたり、演劇が上演されたりして庶民の娯楽になっていくそうだ。

 しかし、ゴブリンキングとの一戦はともかくとして、ヒュドラは出会って一瞬で終了。ネズ占領地では戦いらしい戦いはなかった。いったいどれほど脚色されるのやら。

 一通りのイベントを終えた後、ようやく待ちに待った日がやってきた。俺が日本に帰る、勇者送還の儀式が行われる日だ。

 ……長かった。本当に、長かった。

 俺達は今、俺が最初にこの世界に来た場所、王城内の『儀式の間』と呼ばれる部屋に来ていた。

 それにしても、大掛かりな儀式だ。儀式を主催するリリア以外にも、何人ものスタッフが部屋のあちこちで装置を操作したり、確認したりしている。しかも、このような魔法装置の置いてある部屋は王城内に何ヵ所もあるらしい。

 国を立て直すために王城内がごたごたしていた時期に送還できなかったのも頷ける話だ。

 やがて、スタッフの作業は終わり、後はリリアの行う儀式だけとなった。

 「本当に帰るの? こちらに残れば、お金も名誉も何でも手に入るわよ。」

 正直いらない。こちらの世界で贅沢な暮らしをしても、面倒が多いだけな気がする。

 勇者としての仕事が終わった以上、元の世界への帰還は俺の意志が優先される。たとえ、女王になったリリアであっても止められない。それが、召喚された最初からの約束だった。

 「それでも俺は帰る。帰って、やらなければならないことがある。」

 どうしても日本に帰らなければならない理由ができたのだ。

 俺は、この世界に来て『せつな』を習得したのだ。

 これは絶対に日本に帰り、師匠に自慢……報告しなければならないのだ。

 そして、俺が帰れば『せつな』へ至る方法を伝えることができる。白川武末に近付く大いなる一歩だ。

 「後、勇者様の活躍を描いた舞台劇がもうすぐ上演されるそうよ。見なくていいの?」

 「それはむしろ見たくない! ジョージと二人で見てきてくれ。」

 ちょっぴり興味がないわけでもないが、怖いもの見たさというやつだ。実際に見に行く気にはなれない。

 「私だってごめんよ! はぁ。」

 「自分も、遠慮させていただきます。」

 二人とも即答だ。

 勇者の冒険譚には当然仲間であるジョージとリリアも登場する。ジョージは魔法剣が使えるようになったし、リリアは上級魔法まで使いこなす。きっととんでもなく派手な大活躍が描かれているだろう。

 凱旋式の時に、その片鱗は味わった。

 「それでは、勇者送還の義を始めます。勇者様は、中央へ。」

 気持ちと態度を切り替えたリリアが、儀式を開始する。

 俺は部屋の中央、魔法陣らしき模様の中心に立って待つ。

 今の俺の格好は、最初に召喚された時と同じ、つまり日本で来ていた服装だ。手にした鞄には、日本に持ち帰る少量の記念品が入っている。

 『勇者のアイテムボックス』の中身は日本へは持ち帰れない。日本に持ち帰る品は全て身に着けていなければならないのだ。

 やがて床の魔法陣から光が溢れ、周囲の光景が歪みだす。召喚された時と同じ現象だ。

 「じゃあな。」

 一言だけ言い残し、俺は日本へと帰還した。


これにて簡潔です。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 斬新な導入部、テンポ良く無駄のないストーリー展開、世界観をうまく描き切っている点、無理筋やトンデモ話も一切なく、最後まで楽しく一気に読ませていただきました。 [気になる点] 白川流の”解説…
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