決闘
この話のために、R18設定しました。
グレゴリオ=ベック。ベック公爵家の長男にして、ミストレイク王国近衛騎士団の序列第二位。
序列上位の貴族団員にしては珍しく、彼は近衛騎士団の実力主義の形骸化を嘆いていたという。
まあ別に、実力さえあれば平民でももっと評価されるべきだという考えを持っていたわけではなく、単に自分が一位になれないことが不満だっただけようだが。
常々、彼は実力ならば自分の方が上だとこぼしていたらしい。
そして、そういうことを言うだけの理由があった。
グレゴリオは近衛騎士団で唯一、レベル6に到達した者だった。序列一位のギュンターでさえ、他の貴族団員と同じくレベル5だ。
この世界では、自分よりレベルの低い魔物を何体倒してもレベルは上がらない。レベルを上げたければ同レベル以上の魔物を相手にする必要がある。同レベルの魔物を二、三十体倒せば1レベル上がるらしい。この法則は相手が人間の場合でも成立する。
また、効率は悪いが、相手に止めを刺さなくても数をこなせばレベルアップは可能だし、相手の方が高レベルなら必死に戦って生き延びるだけでも効果がある。
魔物と戦う機会のない平民団員の中にレベル2の者がいるのはこのためである。どれだけ必死に負ける演技をしているのやら。
グレゴリオの場合、近衛騎士団の鍛錬の中でレベル6に達したという。大雑把に計算して、百回以上貴族団員相手に大怪我をさせてきたことになる。これはとんでもない努力の結晶なのだ。
レベルの他にも、中級の武技や武技の連結といった『高度な技術』も習得しているという。
グレゴリオの持つクラス『重剣士』の効果と、レベルアップ毎に集中的に伸びたATK、そして中級の武技の威力をもってすれば、攻撃力だけならば召喚直後の先代勇者に届くと言われている。
そのため、先代勇者亡き今、自分こそがミストレイク王国最強、ひいては世界最強という思い込みがあったらしい。
ちなみに、リセルのギルドマスター、ギルバートはレベル11。ラムズベルクの領兵もレベル7くらいまでは行くらしい。俺は現在レベル16。先代勇者の最終レベルは29だそうだ。
ジョージがレベル9で、魔法剣まで習得している。ジョージが近衛騎士団に復帰すれば、グレゴリオのアイデンティティが崩壊すると思うのだが、それはこの際関係ない。
ともかく、国外の状況や俺達の現状を理解していないグレゴリオは、『最弱勇者』に負けるはずはないと思ったのだろう。
「勇者よ、オレは貴様に決闘を申し込む!!」
暗部の兵士が即座にグレゴリオを捕縛しようと動きかけたが、それは俺が制した。
「いいだろう、その決闘、受けよう。」
俺とグレゴリオは部屋の中央で対峙した。それなりに広い部屋なので、屋内であっても剣による決闘くらいはできる。
国王と参列者たちは、兵士に囲まれたまま、邪魔にならないように部屋の隅へ移動している。
俺が決闘を受けた理由は、グレゴリオと同じように考えて突っかかってくる者や、逆恨みして闇討ちをしようとする者を牽制するためだ。観客はいても困らない。ここまで来たら、『最弱勇者』を返上するのにためらいはない。
立会人は、ラムズベルク辺境伯だ。
「それでは、始め!」
開始の合図とともに、二人とも剣を構える。
グレゴリオは鞘から抜いた剣を上段に構える。
グレゴリオの装備は剣も鎧もマジックアイテムだ。剣には切れ味の向上と多少の刃こぼれならば自動修復する能力が、鎧には防御力の向上とわずかながら回復効果が付与されている。
俺はアイテムボックスから取り出した大剣を八相に構える。パワー重視のグレゴリオ相手に、簡単に折れないようにと選んだのがこの頑丈な大剣だ。
互いに剣を構えて向き合ったまま、……動かない。
……動かない。
……動かない。
……まだ動かない。
別に、ミリ単位で間合いを潰し合っているとか、見えない攻防を繰り返しているとか、そういう高度な話ではない。
グレゴリオの構えは武技の予備動作、溜である。構えからして、中級の武技『パワースラッシュ』で間違いない。使えるようになっただけで、使いこなしていないから溜にやたらと時間がかかっているのだろう。
対して、俺はただ待っているだけだ。ただ勝つだけ、殺すだけなら、この隙に首を刎ねればそれで終わりだ。その程度なら、召喚直後でも可能だった。
だが、今回の俺の目的は強さを見せつけることだ。困ったことに近衛騎士団には、「溜の最中に攻撃するのは卑怯者」という謎の風習がある。ここで手を出すと、「卑怯な手段でグレゴリオを殺した」とか言す奴が出かねない。
待つこと暫し、そろそろ溜も終わりそうなので、八相から上段へと構えを変える。しかし、溜に十秒以上かかる武技に何の使い道があるというのか。しかも、構えを見るだけで武技の内容も仕掛けるタイミングもまる分かりだ。
やがて溜の終わったグレゴリオが動き出す。やはり『パワースラッシュ』だ。そこに合わせてこちらも技を出す。
―― 一之太刀『兜割』
中級の武技、それも威力重視の『パワースラッシュ』に武技でも何でもない白川流の技を真正面からぶつける。結果は、俺の『兜割』が打ち勝った。
たいしたダメージはないはずだが、弾き飛ばされて呆然とするグレゴリオ。周囲の観客も驚いて固まっている。
このまま止めを刺してもよいが、せっかくなのでもう一押ししてみる。
「どうした、もう終わりか?」
「くっ、この程度で調子に乗るな!」
まだ闘志は萎えていなかったようで、ちょっと煽っただけで立ち上がってきた。
そして今度は剣を水平に構えるグレゴリオ。
……実に分かりやすい。中級の武技が効かなかったから、次は武技の連結か。それも、最も簡単な、『スライス』から『スライス』への連結、通称『ダブルスライス』。
『パワースラッシュ』が弾かれたのに、『スライス』が止められないと思っているのか、という突込みは置いておくとしても、『ダブルスライス』を実戦、特に対人戦で使う者はまずいない。
『ダブルスライス』への対策は簡単なのだ。確かに、一週目の『スライス』を躱した後、迂闊に飛び込めばより速度を増した二週目の餌食となる。しかし、二週目も見送れば、後は隙だらけになるのだ。
……武技発動後の硬直時間に攻撃してはいけないという意味不明の不文律のある近衛騎士団の中だけなら問題ないのかもしれないが。
そして、実はもう一つ、『ダブルスライス』の対処方法がある。
俺は、グレゴリオの剣、『スライス』の一週目を避けると、即座に踏み込んだ。
グレゴリオが横眼で見ながらニヤリと笑う。
「え?」
その向こうで見ていた暗部の兵士が驚いた顔をする。
そして、――
『ダブルスライス』のもう一つの対処方法、これも実に単純だ。二週目が来る前に剣の間合いの内側まで入り込めばよい。
俺は、グレゴリオに密着しそうになるほどの距離まで入り込み、そしてさらに加速した二週目を振る腕に向けて大剣を振り下ろす。
舞い散る血飛沫。そして……
グレゴリオの剣は、切断された両腕ごと彼方へとふっ飛んで行った。
「うっ、グアァァァァァァーーー」
武技が終了し、回転が止まったところでようやく斬られたことに気付いたかのように、グレゴリオが苦鳴を上げた。
「そこまで! 勝者、勇者ナオユキ。」
そこで、ラムズベルク辺境伯が俺の勝利を宣言した。
『縮地』という言葉を御存じだろうか。
最近は漫画や小説でもよく使われるから、知っている人も多いのではないだろうか。
漫画等ではまるで瞬間移動のように描かれることもあるが、『縮地法』は実在の技術だ。現実にはそんな超常現象めいた技はあり得ない。
……いや、『せつな』とか使うお前が言うな、という突込みは至極ごもっともなのだが、とりあえずそのことは横に置かせてもらう。
そもそも、『縮地法』の主眼は速いことではない。
「全く同じように踏み込んだと見えるのに、何故か足は遠くまで届いている。まるで地面の方が縮んだかのようだ。」
故に、『縮地』と呼ばれる。
ポイントは、見た目から推測される距離と実際に進む距離が異なること。つまり、間合いを狂わされるのだ。これが恐ろしい。
届かないと思った攻撃が届き、躱しきったはずの刃に斬られるのだ。僅かな間合いの違いでも生死を分ける。
先ほど俺がグレゴリオに使用したのがこの『縮地法』だ。
一週目の『スライス』をやり過ごして踏み込んだ時、グレゴリオにはちょうど二週目で斬られる位置に飛び込んだように見えただろう。だが、実際には俺はその先まで踏み込んでいたのだ。
離れたところで見ていた兵士は、その違和感に気付いて驚いていたのだろう。
実のところ俺は未熟なので、ここぞという一瞬で使うことくらいしかできない。これが師匠になると、通常の歩法に『縮地法』を織り交ぜた変幻自在な動きを見せてくれる。あれを見切るのは難しい。
俺はアイテムボックスから取り出した紐でグレゴリオの腕を縛って止血した。これで死ぬことはないだろう。
回復魔法を使ってもよいのだが、俺の回復魔法では切断した腕を繋げることはできない。下手に回復魔法で止血すると、腕を繋げる時に塞がった傷口をもう一度切り直さなければならなくなるらしいので止めておく。
そうこうするうちに、暗部の兵士たちが即席で担架を作り、切断された腕も回収して、グレゴリオを運んで行った。城内には専門の治療師もいるので、腕もちゃんと繋がるだろう。さすがに一度切断された腕が剣を振れるまで回復するには時間がかかるらしいが。
国王やその取り巻きの貴族たちもまとめて連れていかれた。この場にいない者達も、既に手を回しているそうだ。大物から順に捕縛しているので、残った小物が悪あがきしてもたいした脅威にはならないらしい。
これで、ミストレイク王国の問題はだいたい片付いた。あとは日本に帰るだけだ。
ラストバトルです。
お気付きかもしれませんが、この物語は話が進むにつれて敵がしょぼくなります。
直接的な脅威としては、第一話のヒュドラが最強でした。




