ミストレイク王国近衛騎士団
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あまり長い話にはならない予定なので、よろしかったらお付き合いください。
「けど、実力主義の近衛騎士団で訓練していたのなら、すぐに誤解は解けたのではないの?」
リリアの言葉には皮肉も嫌味もない、純粋な疑問だ。まあ、部外者からすればもっともな疑問である。だが、内情を知っている俺とジョージは苦笑するしかない。
ミストレイク王国近衛騎士団。国内最強の騎士団と自称し、実力主義を標榜するその組織は、確かに平民出身の団員も在籍するし、定期的に試合を行って序列をつけている。
しかし、その実力主義が建前でしかないことは、序列を見ればよくわかる。
まず、序列の上位は貴族、下位は平民ときれいに分かれている。だが、そのこと自体は実力主義と矛盾しない。貴族の騎士団員と平民の騎士団員ではレベルが違うからだ。
この世界でレベルを上げるためには魔物を倒す必要がある。しかし、ミストレイク王国に魔物はほとんどいない。唯一国内に存在する魔の森も、出入りが厳しく管理されている。
つまり、ミストレイク王国でレベル上げを行えるのはコネと金を持った貴族かそれに近い大商人のみ、実際にレベル上げを行うのは武門の貴族くらいしかいない。
だから、平民よりも貴族の方が強いこと自体は不自然ではない。
問題は、貴族内での序列である。見る人が見れば一目瞭然らしいが、近衛騎士団内での序列が当人の実家あるいは後ろ盾の社会的立場の強さと完全に一致するらしい。騎士団の序列の変動を見れば政変があったことがまるわかりなのだそうだ。
このため、近衛騎士団には暗黙の掟が存在する。『序列が下位の者は上位の者に勝ってはいけない。』これが実力主義の実態である。それでいいのか? 国内最強。
実力主義が形骸化しているのは実戦経験がいないからだろう。近衛が実戦を経験するような事態は稀だろうが、それ以前にミストレイク王国は記録に残る限りで戦争をしたことがない。千年前の魔族の大攻勢の際も、魔族の侵攻ルートから外れ、戦火を免れている。人類側の国からも、勇者を召還できる唯一の国として、侵略を受けることはなかった。勇者召喚には、ミストレイク王城全体を使用した魔法装置と、ミストレイク王家の血を引く術者が必要で、どちらか一方でも失われれば、二度と勇者を召還することはできなくなる。
長い平和の末にできたこの本末転倒な暗黙の掟は、序列を決定する試合だけでなく、日ごろの訓練――と称する試合形式の何か――にも適用され、特に平民が貴族に対して勝利するどころか一撃入れることさえタブーとされている。
平民の騎士がうっかりこの掟に抵触すると、当然公式なペナルティーは何もないが、理由を付けて袋叩きにされたり、闇討ちに遭ったり、ひどいときは親類縁者が悪質な嫌がらせを受けることもあるそうだ。
さて、勇者の場合、後見はミストレイク王国の王家になる。つまり序列は一位になる。実際に、先代勇者は貴族の騎士団員を悉く下していったそうだ。まあ、先代の場合それができるだけのステータスだったので、暗黙の掟自体知らなかっただろう。
俺の場合、王家が後ろ盾なのは同じだが、早々に『最弱勇者』認定されてしまったため、貴族の団員よりも下、平民の団員よりも上、という扱いになってしまった。
いや、最初は俺も実力を示そうとしたんだよ。序列の仕組みも暗黙の掟も知らなかったし。幸いというか、勇者と試合をする、特に勇者に勝利することは名誉になるらしく、貴族の団員と試合を行う機会は多かった。
正直に言って、ミストレイク王国近衛騎士団は弱い。断言できる。
確かにレベルは上で、ステータスの分、身体能力も高い。武技も使ってくる。しかしそれだけだ。技術がない。駆け引きもしないし、戦術・戦略も考えていない。相手の動きすらまともに見ていない。武技は強力だが動きは見え見えで簡単に避けられるし、回避してしまえば後は隙だらけである。
自分の実力を示すだけでなく、武術指導もしてやりたいくらいの気になったのだが、それは叶わなかった。弱すぎて相手の実力がわからない、どころの話ではない。連中は、『寸止め』を理解してくれなかった。当たっていないのだから関係なし、と無視する。軽く当てても、ダメージなしとして気にしない。どうも武技以外の攻撃は攻撃とみなしていない節がある。
極めつけは、剣を弾き飛ばしたり、折ったりした場合。貴族の連中は平然と待ったをかけて剣を取りに行く。なお、平民団員が貴族団員の前で剣を手放すと、そのまま武技の練習台になるそうだ。
そうこうするうちに、俺は近衛騎士団の不文律を知ることになった。まあ、俺の場合暗黙の掟とか言ってもあまり関係はない。仮にも勇者なので平民団員のように袋叩きにできる理由は付け難いし、闇討ちされても余裕で返り討ちにできる。この世界に特に親しい者もいないわけだから、代わりに嫌がらせを受けたり人質にされる心配もない。ただ、そういった制裁が俺に向かない分、平民団員にしわ寄せというか八つ当たりが行くと聞いて、心底あほらしくなった。
そんなわけで、俺は途中から『最弱勇者』の返上と近衛騎士団の技術向上を諦めた。まあ、最悪殺してしまってもよいならばいくらでも実力を示すことはできたのだが、さすがにそこまでする意味はない。というか、近衛騎士団で評価されても虚しいだけだ。仕方がないので防御の練習と割り切った。おかけで今では初級の武技くらいは余裕で受け流せるようになった。
ジョージと一緒になって近衛騎士団の内情をリリアに暴露……説明していたのだか、予想以上に盛り上がってしまった。ジョージも平民出身の近衛騎士団員だったので、貴族団員の悪口ならばいくらでも出てくる。
だがな、ジョージよ、俺から見れば、平民団員だって問題山積みなんだぞ。
リリアはあきれ顔で聞いていたが、近衛騎士団の内実にあきれていたのか、嬉々として語るジョージにあきれていたのか……。
その日は何事もなく、魔物の一匹にも出会うことなく次の町へ到着した。




