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最弱勇者は叛逆す  作者: 水無月 黒


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20/35

スタンピード3

魔物を惨殺するシーンあり。

 それから小一時間ほど経ったころ、森からひときわ大きな集団が現れた。集団の数が多いのではない。ゴブリンにしてはあり得ない大きさの個体の集団だ。

 「出やがった。あのでかい奴らはホブゴブリン、その真ん中のとびきりでかい奴がゴブリンキングだ。」

 ゴブリンの集団と合流すると、その大きさがよくわかる。まるで大人と子供だ。ホブゴブリンは成人男性と遜色ない大きさがある。ゴブリンキングにいたっては二メートル半はある。

 ゴブリンキングたちがゴブリンを押しのけるようにして前へ進む。普通なら総大将が前に出過ぎるのはよくないことだが、ゴブリンキングが近付くほどゴブリンの士気が高まり、攻撃が熾烈になる。あまり近付かれると柵の位置で食い止めている前衛の冒険者の手が足りなくなる恐れがある。

 そして、ゴブリンキングが命じれば、ゴブリン共はこちらの足止め策など無視して全力で突っ込んでくるだろう。この戦いで最大のピンチなのだが……

 「つまり、あれを倒せば勝ち、ということか。」

 「そうだ。唯一絶対の王を失えば、ゴブリン共は烏合の衆だ。戦意も失って逃げ出すだろう。……できるか?」

 ゴブリンキングのゴブリンに対する支配力は強力だが、その分失えば代わりはない。残ったゴブリンが組織を再編するには時間がかかる。何より、ゴブリンキングを倒すような相手と戦う気にはならないだろう。

 そして、ボスモンスターを倒すのは勇者の役割だ。

 「試してみよう。」

 ギリギリ弓の射程に入ったので、射かけてみる。ついでとばかりに、周囲のホブゴブリンも含めて二射、三射と連続で射かけるが……

 「……遠距離攻撃では無理か。」

 周囲のホブゴブリンは矢を受け、急所に当たったものは倒れているが、肝心のゴブリンキングは手にした大剣で矢を斬り払ってしまった。これでは、矢よりも速度の遅い魔法を放っても避けられてしまうだろう。

 遠距離攻撃がだめならば、接近して直接斬るしかないが、それには間にいるゴブリン共が邪魔だ。数が多いからいちいち相手にしていられない。

 「リリア、あいつのところまで道を作れるか?」

 近くで待機していたリリアに声をかけると、既に呪文の詠唱を始めていたリリアはハンドサインでOKを返してきた。

 「じゃ、やってくれ。」

 一応、無言で頷くギルバートを確認してからリリアに頼む。

 待つことしばし。長い詠唱の後、魔法が完成した。

 「ダイダルウェイブ!」

 水の上級魔法が発動した。一定範囲を大量の水で押し流す魔法だが、アレンジを加えているらしい。範囲を狭める代わりの射程距離を伸ばしたのだろう、鉄砲水のような水流が細く長く一直線に、進路上のゴブリンを押し流しながら進んでいく。

 これならば、いける!

 俺は弓を剣に持ち換えて飛び出した。

 前衛の冒険者の間をすり抜け、柵と溝をまとめて飛び越し、ゴブリンを飲み込んで進む水流の後を追ってぬかるんだ地面を走る。武技(アーツ)も使用して水流に迫る勢いで加速する。ゴブリンを押し流す水の後ろが一番の安全地帯だ。

 やがて水流はゴブリンキングの元へと迫る。射程ぎりぎりで勢いが弱まっていることもあり、ゴブリンキングも周りのホブゴブリンも流されることはなかったが、水を被り視界が塞がれた一瞬を突いて邪魔なホブゴブリンを斬り捨て、そのままゴブリンキングに斬りかかった。

 ―― ガキン!

 俺の一撃はゴブリンキングの大剣で受け止められていた。そう簡単にはいかないか。

 俺は無理せずに一旦引く。でかぶつ相手に力勝負しても仕方がない。と、

 「ウォォォー!」

 雄たけびを上げながら剣を振り下ろすゴブリンキング。これは、武技(アーツ)だ。人型の魔物の中には武技(アーツ)を使うものがいると聞いたことがあったが、これがそうか。

 武技(アーツ)とは、魔物に対抗するために神が与えた奇跡だ、などと主張する人がいるらしいが、大嘘だな、などと大剣を避けながら思う。

 そのまま前に出て、すれ違いざまに斬りつけるが、軽い斬撃では皮の表面を削るだけでほとんど切れない。ならばと、武技(アーツ)状態で軽く斬りつけると、今度は皮を裂いて血が流れた。これならば、強めに斬れば致命傷に届くだろう、と見当をつける。

 大剣が当たらなくて苛ついたのか、斬られて怒ったのか、ゴブリンキングは大剣を滅茶苦茶に振り回し始めた。武技(アーツ)ではないが、当たればただでは済まない威力だろう。まあ、大振りなので冷静に見れば避けられるが。

 俺はゴブリンキングの周囲を回りながら、『なゆた』による連続攻撃を加えていった。武技(アーツ)状態で斬りつけているのだが、大剣を避けながらなので浅い傷しかつけられない。

 途中、不要に近づいてきたホブゴブリンがいたので、ゴブリンキングの前に蹴りだしてやったのだが、あっさりと大剣で真っ二つにされていた。うん、盾にもならない。予想はしていたけど。

 だが、おかげで周囲のホブゴブリンが巻き添えを恐れて距離を取った。余計な横槍がなくなる分、やりやすくなった。

 しかし、浅い傷を付けても回復能力が高いのか、すぐに血が止まってしまい、たいしたダメージになっていない。それに、未完成とはいえ、『なゆた』が成立しているのに、防御力と回復力の高さに任せてこちらの攻撃を無視されるので、相手の攻撃を妨害することができていない。

 これは、『なゆた』が通用しない相手がいるとみるべきか、このような相手にも通用する『なゆた』を目指すべきか。開祖白川武末だったらどうしただろうか? 『せつな』で瞬殺というのは別にして。

 突然、ゴブリンキングの動きが変わった。

 ―― ブウォン!

 唸りをあげて大剣が横薙ぎに振られる。これも武技(アーツ)だ。今までの大振りはこの攻撃の布石だったらしい。よく考えている、と言いたいところだが、俺の場合は武技(アーツ)の方が避けやすい。武技(アーツ)で俺に不意打ちしたければ、せめて溜なしで武技(アーツ)を放てるようになるんだな。

 俺は足を止めずに体勢を低くして大剣を躱す。なまじ体が大きい分、下へは避けやすい。ついでに剣を突き上げて大剣を持つ右手の手首の健を斬る。

 傷は浅いとはいえ、手首の健を切られたら握力を維持できない。ゴブリンキングの手から大剣が離れて飛んでいく。

 ―― ブゥン!

 ゴブリンキングは飛んで行った大剣を無視して、今度は左拳を打ち下ろしてきた。危ない危ない。一瞬でも立ち止まっていたら喰らうところだった。

 俺は拳を剣で受け流してその場を離脱し、ゴブリンキングの背後に回る。自ら刃に当たりに行った形になったゴブリンキングの左腕からは血が噴き出す。今までで一番深い傷になったようだ。

 ここが勝負所だろう。俺はゴブリンキングの背後から足首を斬りつけ、そして再び正面へ躍り出る。

 いまだ闘志の衰えぬゴブリンキングは、俺を捕まえようと踏み出し、そのまま倒れ込んだ。

 両足首のアキレス腱を切ったのだ。激しい動きができるわけがない。思わず地面に両手をつくゴブリンキングだったが、その両腕も斬られており、衝撃で血が噴き出す。

 ―― 二之太刀『兜割』

 ゴブリンキングの動きが止まった一瞬を狙って放った『兜割』がその首を落とした。こうして、ゴブリンキングは断末魔の叫びをあげることもなく倒れた。


 さて、ゴブリンキングを倒して勝利は確定したが、戦いはもう少し続く。ゴブリン共はゴブリンキングの死を察知してじきに逃げ出すだろうが、その前にある程度は間引きしておいた方が後々良いらしい。

 まず、俺とゴブリンキングの戦いを遠巻きにしてみていたホブゴブリンを始末する。こいつらには統率能力はないが、上位種ではあるので生き延びるとまたゴブリンの勢力拡大につながりかねない。

 ゴブリンキングが倒される瞬間を見ていたせいか、一瞬動きを止めて呆然としていたので、サクッと殺していった。我に返っても戦意は残っていなかったのでたいして手間はかからなかった。

 その後はゴブリン共の間を走り回って斬りまくった。周囲のゴブリン達はゴブリンキングの死を感じて不安になっていたらしく、攻撃を受けるとパニックを起こして逃げ出すようになっていた。せっかくなので、それを利用してゴブリン達を一か所に追い込んでみた。

 そろそろいいかな、と思ったところで一度ゴブリンの集団から距離を取ると、複数の範囲魔法が飛んできた。特に事前の打ち合わせはしていなかったが、ギルバートにはこちらの意図が伝わっようだ。

 一か所にゴブリンを集めたことと、殲滅を目的に魔法を選んで使用したことで、最初の時よりも多くのゴブリンが巻き込まれて死んだだろう。

 あとは前衛の冒険者総出で残敵の掃討を行った。そのころにはもうゴブリン達は森へ向かって逃げ出しており、逃げ遅れたものを冒険者たちが狩っていった。

 やがて、戦場から生きたゴブリンは姿を消した。森へ逃げ帰ったゴブリンも多いが、もともと餌不足で出てきた連中だ。弱い個体から集落を追い出され、飢えて死ぬ。死んだゴブリンは他の魔物の餌となり、やがて魔の森の生態系は均衡を取り戻すのだろう。

 こうして戦いは終わりを告げた。しかし、まだ後処理が残っていた。大量のゴブリンの死骸を片付ける必要がある。可能な限り魔石を回収し、残りは一か所にまとめて焼却処分だそうだ。焼却に必要な油も持ってきている。魔石は今回参加した冒険者への報酬の足しにするらしい。

 もっとも、後処理を行うのはリセルで待機しているバックアップチームの担当になる。既に伝令がリセルに向かっていて、バックアップチームが到着次第、俺たち迎撃チームはリセルに戻ることになっている。ギルバートはまだ残るみたいだが。

 こうして、今回のスタンピード騒ぎは幕を閉じた。


要塞都市リセルでの話はここまでです。

次回より、魔族との戦争に向かいます。

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