勇者の休日
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あの後、他の冒険者の調査報告が上がってきたらしく、正式に北の森は立入禁止になった。やはりスタンピードの兆候があるらしい。
翌日、予定していた訓練は中止となり、せっかくだからこのまま休日にしようと思っていたのだが……
「朝っぱらから呼び出してすまんな。」
朝からギルバートに呼び出されていた。
「お前たち三人のランクを上げておいた。全員Cランクだ。窓口へ寄ってギルドカードを更新しておいてくれ。」
冒険者にはA~Fの六段階のランクが付けれれている。一応Aランクの上にSランクというのがあるが、これは、英雄的な業績を上げたAランク冒険者に対する称号のようなもので、通常のランクとは別枠らしい。
まだこの世界に来て数ヶ月の俺はもとより、ジョージやリリアも最下位のFランクだった。
それが、いきなりのCランク。二階級特進どころか、一気に三ランクアップだ。
「いきなりCランクか? 普通は一ランクずつ上がるんじゃないのか?」
「結果的に一ランクずつ上がっていくことが多いだけで、実は一度に複数ランク上げてはいけないという決まりはない。」
ギルバートが珍しく真面目に解説する。
「冒険者のランクは本人の実力とギルドへの貢献で決まる。これまでの訓練で三人とも十分にCランク並みの実力は付いた。つーか、ナオユキは実力だけなら余裕でAランクだ。」
冒険者のランクは実力とギルドへの貢献の両方が必要ということは以前から聞いていた。剣技の初級の武技を全て使えるジョージや水系と土系の攻撃魔法を使いこなすリリアがFランクだったのは、ギルドへの貢献がなかったためだ。
何しろ、ミストレイク王国では冒険者の仕事が皆無なのでギルドに貢献しようがない。ミストレイク王国の大半の国民はFランクだそうだ。
因みに、冒険者の仕事のないミストレイク王国の国民が冒険者ギルドに登録している理由は、第一に、冒険者ギルドのギルドカードが身分証明書として下手に国が発行したものよりも信頼性があること。第二に、ギルドカードによって本人のステータスを知ることができることだ。
実際に、歴代勇者のステータスもギルドカードを発行して確認しているそうだ。俺のような鑑定スキル持ちは少ない。
「後はギルドへの貢献なんだが、お前たち、カヤの町でヒュドラを倒しているだろう。ギルドからの依頼ではないが、結果として町一つ救ったからな、貢献として認められた。それと、訓練用に受けた依頼の分を合わせて、Cランクだ。」
なるほど、ヒュドラの一件か。ギルドへの貢献にカウントされるとは思わなかった。
「まあ、勇者サマ一行にはあまり関係ないかもしれないが、ランクが上がって邪魔になることはない。箔付けくらいにはなるさ。ナオユキならばいずれSランクにもなれるんじゃないか。」
いや、そこまでこの世界に長居する気はない。
さて、ついでなので、こちらも事務作業を済ませてしまおう。
俺は勇者のアイテムボックス経由でミストレイク王国と繋がっているので、ミストレイク王国からの連絡事項や問い合わせなどがたまに来る。緊急のものはほとんどないので、時間があるときにまとめて処理している。
そういうわけで、勇者のアイテムボックスから事務書類を取り出す。
まずは、ジョージとリリアの給与。実は勇者パーティーのメンバーには給与が支払われている。支払っているのは勇者を支援する国家及び組織の連合体だ。各国・組織の提供する拠出金は一度窓口となるミストレイク王国に集められ、その中から勇者の活動費やパーティーメンバーの給与が支払われる。
支払われる給与は、危険手当込みで一般的な労働者に比べて大きな金額になるのだが、勇者一行として活動している間は個人の金はほとんど必要ない。勇者の活動費でだいたい事足りるからだ。
そのせいか、ジョージは給与を全額実家に送るようにしている。なので、ジョージの給与は明細を確認するだけだ。
リリアは普通に給与を受け取っているが、意味なく大金を持ち歩くのも不用心なので、結局俺が預かっている。ミストレイク王城の勇者部屋にはリリア用の貯金箱が置いてある。
それから、ジョージ宛に家族からの手紙が届いていたので渡しておく。ジョージから返信する場合も俺が預かる。こちらからの手紙は冒険者ギルドを利用して届けることもできるが、俺が預かった方が早くて確実だ。勇者部屋に置いておけば、あとはアイリスさんが適宜処理してくれる。その代わり、ミストレイク王国の検閲を受けることになるのだが、その辺りはジョージも割り切っている。
そして、残るは見覚えのない書類。さて、なんだろう?
「それは?」
リリアも気になったのか聞いてくるが、俺も知らない。とりあえず読んでみる。
「……最近のミストレイク王国の話題をまとめてくれたようだな。読むか?」
「何か面白い話題はある?」
「……ラムズベルクで、白い全身鎧を着て『オーギュスト=ロイド』を名乗る謎の白騎士が出没して、闇討ちを繰り返しているそうだ。」
「え? 自分で名乗っているのに『謎の白騎士』なの?」
「あまりに堂々と名乗っているので別人が騙っているのだと、国王が断定したそうだ。まあ、ロイド侯爵は国王派の貴族だから庇っているらしい。」
アイリスさんがまとめた補足資料によると、ラムズベルクは国内で唯一魔の森が存在する要地だが、それ故に野蛮な辺境と思われている。また、王都からも離れていることもあり、国王の不興を買った者の左遷先として多くの反国王派の人間が送られている。その結果、領主のラムズベルク辺境伯が国王派と距離を置いていることもあり、反国王派の巣窟と化しているらしい。
国王自ら敵対勢力を強化しているとしか思えないが、何を考えているのやら。
だから、国王派の貴族が反国王派を攻撃しているという図式は間違っていない。ただ、堂々と闇討ちするというその方法が頭悪すぎるだけで。
「オーギュスト殿ですか。確かに彼が犯人というのは考えにくいですな。」
家族からの手紙を読んでいたジョージが、顔を上げて話に加わる。
「何か知っているのか?」
「オーギュスト殿は近衛騎士団に所属しておりました。二年ほど前に『家庭の事情』で退団しましたが。」
なるほど、そういう繋がりだっわけか。
「彼は国王派の侯爵家ですので、序列は十位以内だったはずです。これくらい上位になると、御前試合になる場合もあるので、『きれいに勝つ』ことが求められます。その任に堪えられない場合、『家庭の事情』という建前で退団することになります。」
なんだか、実力主義が形骸化した代わりに別の能力が必要になっているようだ。
「オーギュストは、演技が下手だった、のか?」
「……オーギュスト殿は、上手に負けるのが難しい方でした。慣れている我々ならばともかく、貴族の方は非常に苦労していました。」
予想外の方向で苦労しているな、近衛騎士団。
「剣術スキルを持ち、初級の武技も一通り習得していましたが、使用した武技が途中で不発に終わったり、避けるまでもなく外れたりと合わせるのが大変でした。」
剣術スキルがあっても剣の扱いが巧くなるわけではない。武技を使えても、使いこなせるとは限らない。ステータスに問題はなくても、戦いに向いていなかったのだろう。
「確かにその実力では闇討ちを続けることは難しそうだな。」
「ええ、特にラムズベルク辺境伯領の領兵は精強と聞きます。相当な腕がなければ逃げることも難しいでしょう。」
魔の森を有するラムズベルクでは、魔物への対応を領兵が行っている。ミストレイク王国唯一の実戦経験のある兵士だ。弱いはずがない。しかし、被害者のリストを見ると文官だけでなく武人も手傷を追っている。死者までは出ていないようだが。
「……ラムズベルクは帰りによる予定なんだよな。まあ、そこまで騒ぎが続いているとは思わないが。」
これ以上は考えても仕方がない。本当に出会ったら、その時はその時だ。
その後、その日は予定通り休日として、俺たちはそれぞれ自由行動とした。
ジョージは家族への土産物を買ったようだ。給金は全て家族に送っているが、ギルドの依頼に対する報酬は貰っている。ジョージもそのくらいの金は持っているのだ。
俺も、アイリスさん達用に土産物を買って送っておいた。




