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最弱勇者は叛逆す  作者: 水無月 黒


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ギルバートの話

ギルドマスターのギルバート視点の話です。

 俺はギルバート=ラスフォード。要塞都市リセルで冒険者ギルドのギルドマスターをやっている。

 一応、田舎の貴族の三男坊だったんだが、家を出て冒険者になった。辺境ではよくある話さ。それが、いろいろあってギルドマスターにまでなっちまった。まったく世の中何があるかわからねぇ。

 ぶっちゃけ、冒険者ギルドのギルドマスターは下手な小国の王様よりもエライ。大出世というやつだ。

 「ギルギルゥ~、勇者様来たよぉ~。」

 ノックもせずに入った来た彼女はメリッサ。ギルドの職員で、つまり俺の部下になる。

 「……メリッサ君、ギルギルは止めてもらえないか。」

 冒険者達が、ギルドマスターのギルバートを略して、ギルマスのギルと呼んでいるのは知っているが、ギルギルは略しすぎだろう。

 「えぇ~、いいじゃないですかぁ、職員はみぃんなギルギルって呼んでますよ~。」

 「勇者サマにまでギルギル呼ばれたらどうしてくれる。」

 「嫌ならぁ~、勇者様と遊んでないでぇ~、仕事してくださいねぇ~。」

 釘を刺されてしまった。


 「だからぁ~、勇者様と遊んでいないでって言いましたよねぇ~。なんで試合とか始めちゃうんですかぁ~。」

 「い、いや、勇者の実力を知るのもギルドマスターの重要な仕事で……」

 「それにぃ~、勇者様達の訓練まで引き受けちゃってぇ~、そんな時間あるんですかぁ~。仕事だってこぉんなに溜まってるんですよぉ~。」

 どさりと音を立てて机に置かれる書類の山。

 畜生、ギルドマスターなんて、荒くれ者の冒険者達に睨みを利かせるだけの簡単な仕事だって聞いてたんだぞ。なんでこんなに書類仕事が多いんだ!

 「それはぁ~、リセルが中央の大国との交易の拠点でぇ~、ギルド全体の予算のぉ~三割くらいを~、管理しているからですよぉ~。」

 「メリッサ君、人の心を読まないで欲しいな。」

 「顔に出てましたよぉ~。ギルギル素直だからぁ~。」

 そんなに分かり易いか、俺。

 「まあ~、勇者様達の面倒を見られる冒険者が少ないのも確かですぅ~。こちらでできる範囲はやっておきますのでぇ~、勇者様達のことはお願いしますぅ~。」


 メリッサ君が退室して俺一人になったところで、ギルドマスターにしかできない仕事をしよう。

 一般には知られていないことだが、冒険者ギルドでは全ての冒険者の情報を蓄積・管理している。

 誰が何時何処で冒険者ギルドに登録したか。

 どのような依頼を受け、その結果はどうなったか。

 それぞれの時点でのレベルやステータスはどうなっているか。

 ギルドマスターならばそれぞれの情報を自在に取り出すことができる。

 この情報こそが冒険者ギルドの本当の力なのだ。ダリウス王国にある冒険者ギルドの本部は、冒険者の情報を蓄積・管理するアーティファクトを維持するためだけにあるといってよい。

 さて、勇者ナオユキの情報を見てみよう。

 最初に登録したのは、ミストレイク王国王都にある冒険者ギルドの出張所。これは当然だな。

 その時のステータスは、……一般人以下か、これは極端な大器晩成型だな。過去の勇者の記録から、初期の数値が低い者はレベルアップ時の成長が著しいことが分かっている。

 おいおい、あいつらカヤの町でヒュドラを倒しているぞ。カヤの町も混乱していて未確認情報になっているが……。ヒュドラの死体あり、持ち込んだのは勇者ナオユキ、本人はレベルが一度に二つも上がっている、とくれば、間違いねえな。

 ヒュドラもまだ若い個体だったようだが、まさかレベル1でヒュドラ退治なんて……あいつならやりそうだな、まだ何か隠し玉もありそうだし。

 それと、気になるのは『最弱勇者』の噂だな。発信源はミストレイク王国。というか、他の国には全く広まっていない。

 何も知らない素人があのステータスを見たら戦闘向きじゃないと思うだろうが、ミストレイク王国だって大器晩成型の勇者のことは知っているはずだ。まあ、即戦力型の先代勇者サマのことを『最強勇者』とか言っていたらしいから、初期のステータスだけ見て勝手なことを言っている奴がいることは確かだろうな。

 しかし、あの国は勇者サマの威光だけで持っているようなものだ、勇者が弱くていいことなど何もないはずなんだかな。なんか、キナ臭えな。

 それにしても、ナオユキは、先代とは正反対だな。

 俺は五年前、先代勇者サマとも戦っている。当時はまだギルドマスターではなく、ランクもBだったが、リセルに来た先代勇者サマが高ランクの冒険者に片っ端から試合を申し込んできたのだ。

 戦った感じ、先代勇者サマは高いステータスに振り回されているガキだった。だが、そのステータスによるごり押しに押し負けて、俺はボロボロに負けた。

 あれから俺は、必死になって腕を磨いた。まあ、頑張りすぎてギルドマスターになっちまったのだが。今ならばあの時の勇者サマならば軽くあしらえる自信はある。

 今日、模擬戦を申し込んだのは、それを確かめたいという気持ちがあったことも確かだ。これはメリッサ君には内緒だ。

 先代勇者サマみたいな奴を想像していたから、全く違って驚いた。同じ勇者でもこうも違うとはな。

 言葉と態度で煽ったが、まるで乗ってこない。それどころか、勇者の実力を見たいというこちらの意図を酌んで攻撃を仕掛けたっぽかったな、あれは。

 初撃は武技(アーツ)でもないのに重く、受け流してもまるで隙を見せなかった。そのうえ即座に次の攻撃を繰り出す。あれは間違いなく何らかの戦闘訓練を受けているな、絶対に素人じゃない。

 その後は……正直思い出したくない。あれは悪夢だった。今回は武技(アーツ)を使って強引に脱出できたが……

 先代勇者サマがステータスの化け物ならば、ナオユキは技術の化け物といったところか。

 レベルが上がればいずれステータスでも先代に追いつく。

 今後の成長が楽しみだ。


間延びした話し方をするメリッサ女史ですが、超有能です。ギルバートの事務仕事の大半を肩代わりしているので、ギルバートは彼女に頭が上がりません。


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