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天の窓、淵の源




私は神様です。



星をつくって、光をつくって、雨を降らせ、乾いたところを現しました。緑をたくさん植えました。たくさんの生き物も作りました。土を使って、私にそっくりのニンゲンを作りました。



世界の完成です。

全てのお仕事を終え、ぼーっとしていました。とても疲れてしまったのです。


大きな世界という箱を覗くと、地上にはたくさんの生き物が楽しそうに暮らしています。

満足な私はそのまま、長い長い時間を過ごしていました。





ある日のことです。

私はうっかりしてしまいました。世界という箱の中に落ちてしまったのです。

ぼんやりしていた私は無抵抗に落ちていきます。どんどん、どんどん落ちていきます。




やがて私は海に沈みました。


暗い、冷たい静かの世界です。


そのまま沈んでいると、甲羅を背負った生き物と長細い生き物がこちらをじっと見つめてきました。



「こんな所へ、一体どうしたんだ」

「うっかりして、落ちてしまいました」

「それは大変だね」

「上の方へ連れていってあげよう」

「そうしよう」



甲羅の生き物は私を背負ってすいすいと泳ぎます。

海面に辿り着くと、長細い生き物は私の腕に絡みつき、遠くの方を指して言います。「あの壁を知っているかい」



大きな、大きな壁がありました。私の世界に、私の知らないものがありました。

空の天辺に届きそうなほど高く、とてつもなく広く横に伸びています。



「わかりません」

「とても大きな箱が突然現れたんだ」

「箱なんですか」

「陸と海が半分取られてしまった」

「住みにくくて仕方がない」

「大変ですね」

「大変だとも」



甲羅の生き物と長細い生き物にさよならをし、私は元いた場所に帰りました。

落ちないように、気を付けなければ。



それにしても、私の世界に私の知らないものがあるとは、なんとも解せません。作ったのは誰なのでしょう?

ここは一つ神様らしく、犯人を懲らしめてやろうと世界を覗きました。



箱は六面全てが塞がれ、まるで頑丈な檻でありました。どうしても中に入ることは出来ず、あらゆる衝撃をものともしない。実に厄介なものです。

諦めて眠ろうかとしたところ、私の作品につと目が留まったのです。



地上には、それはそれは豊かな文明がありました。

森が拓かれ、川の畔に人々は街を築いて暮らしていました。

私は感心しましたが、よくよく見てみますと、ああ、そのなんと醜いことか!


弱いヒトは強いヒトに支配され、強いヒトだけが豊かに暮らす、なんともおぞましい世界であります。

他の生き物はお互いを守りあって生きているというのに、私はひどく心を痛めました。

傷つけあい、享楽と快楽に溺れる私の作品はなんとも、なんとも見るに耐えるものではありません。


この世の諸悪の根源とは、悪い地上の生き物とは、まさに世界を我が物顔で荒らすヒトでありました。



地上はもう、ほとんど人のものです。

でも、もう人に支配させるわけにはいきません。私は、失敗作を生んでしまいました。

悲しいですが、私は地上を一掃することにしました。いえ、いっそ、地上をもう現さないことにしました。


この世界は、海です。私は、海の世界の神様なのです。




淵の源を破り、天の窓を開きました。




止めどなく流れ落ちる水柱はみるみるうちに乾いた所を覆います。沢山の地上の生き物が、あっという間に沈んでしまいます。




世界が海に満ち、淵の源と天の窓を閉じました。




海に潜ってみますと、甲羅の生き物や長細い生き物、沢山の海の生き物が私のもとにやってきました。

みんな、私のお仕事に感謝しているようです。




しかし、なんということでしょう。

海の世界になっても、大きな箱はびくともしませんでした。

人の作ったものではないのでしょうか?不服ですが、一先ず大きな仕事を終えて私は満足です。私はまた、長い長い時間を過ごしました。


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