2
次の日、一番大きなお兄ちゃんが家を出てしまいました。
お兄ちゃんを見送るその時の先生の表情は悲しそうでもなく、怒っているようでもなく、幼い私には何を思っているのか分かりませんでした。
私は泣きました。なんでお兄ちゃんは出て行ったのか、いつ戻ってくるのか、誰に言っても満足する答えは出てきませんでした。
それから、一人兄弟が抜けた家族の暮らしが続き、そして次の年、今度は一番大きなお姉ちゃんが家を出て行ってしまいました。
年が経つごとにどんどんお兄ちゃんもお姉ちゃんも家を出ていき、最後に残ったのは次女に当たるお姉ちゃんと末っ子の私だけ。
そして、忘れることのないあの日。
いつからか寝たきりになった先生はご飯を自分で食べることも出来なくなり、私とお姉ちゃんで介護をしてたのですが、その日先生の容体が急変しました。
先生はゆっくりと手を上げお姉ちゃんの頭に乗せます。
「リザ……ありがとうね……これからも……ララを守って……おくれ……」
「うん……」
長髪で男勝りのリザ姉が泣く姿はその時初めて見ました。そして先生は次に私の頭に手を乗せます。皮と骨だけのような細くなってしまった軽いその手で。
「 ララも……ありがとうね……私の……この家を……守って……おくれ」
「分かってる! 先生の家は私がずっと守るから! だからまだ……」
私が泣きながら言葉を続けようとした時には、頭の上の手は落ち、先生は笑顔で眠っていました。