けっとしーのゆううつ
俺は運命を信じない。
だから、こいつを見つけたのはただの偶然。。。そう信じている!
コンビニの簡素なラックの上に怪しい雑誌が並んでいる。
いつもお世話になっている雑誌を一冊、手に取ろうとしたところで気づいた。
大仰な西洋の甲冑が表紙にでかでかと載っている、割とぶあついムック本
おいおい趣味に走りすぎだろ、とよくよく見てみると、首がない!?
まじかよ!?デュラハンかよ!!と心の中で叫ぶと、手がするりと伸びていた。
もう一度言う。こいつを見つけたのはただの偶然。そう信じている。。。
雑誌を手に取った瞬間、外で雨が降り出した。
ぽつりぽつりとアスファルトを濡らし、瞬く間に豪雨になる。
その間3秒。
唖然として見ていると、
でろでろでろでろでんでんと聞き覚えのあるような無い様な不穏なメロディが聞こえた気がした。
試し読みしようかと思っていた気も薄れ、さっさと帰ろう、そう心に決めて雑誌をラックに戻そうとしたが、
あれ?なんか置けない。手が離れない。
あれ、あれ、あれ、
3度くらい手を振ってみるが雑誌が手から離れない。
ぱーの状態で雑誌が張り付いてるなんて手品かよ!?
困り果てた俺は雑誌を持ってレジに向かった。
店員なら何とかしてくれるんじゃないか。こんな商品置いたのは店員だろ!と怒り心頭で向かうと、
そこには白い毛むくじゃらがコンビニの制服を着て立っていた。
頭に耳、顔にひげ、腰に尻尾!?
猫じゃん!
猫は面白そうにニヤニヤと目を細めてからかう様に言ってきた。
「お客さん呪われましたにぇ」
「お前猫だろ!」
当然の疑問に対し、猫は顎を上げ不愉快そうに首を傾げた。
「猫とは失礼にぇ、誇り高きケットシーとよぶにぇ」
「そういう問題じゃない!」
俺が叫ぶと、不審な猫は自然な動作で手を動かした。
「ではどういう問題にぇ?」
こいつ顔を洗ってやがる。
一瞬消えた怒りがまたふつふつと巻き起こるが、そこは東京都民クールに決めて、できるだけ静かにレジ台に置いた。
雑誌は手から離れない。
「この商品どうなってんだよ。」
「ああ、うちの新製品にぇ。昨日拾ってきたばかりにぇ」
猫は手をひときわ大きく伸ばすと、ぴんと立った耳を優しく折りながら、顔を撫でていく。
明日は晴れだな。
「拾い物を置くのか、このコンビには?」
一瞬流されそうになった気持ちを振り払って、当然の疑問を聞く。
「拾い物には運があるにぇ。お兄さんラッキーにぇ。呪われてるけどにぇ」
「呪われてる!?呪われたのか?呪われてるのにラッキーなのか??」
飄々と嘯く猫に対し、俺は呪われたという事実に青ざめる。
「ラッキーにぇ。呪いが解けたらいいことあるにぇ。たぶんにぇ。今なら呪いを解く方法はサービスにぇ。ラッキーにぇ」
「本当か!?教えてくれ、どうやったらこれが取れるんだ?」
思わず猫の肩を掴むとぐにゃっと柔らかい毛の感触が気持ちいい。
「お客さん乱暴はよすにぇ、訴えるねぇ」
おっと、熱くなりすぎた。いけないな、そこは東京都民クールに決めないと。
「おっと、すみません」
俺は名残惜しさを胸に秘め肩から手を離すと、猫は不愉快そうに肩の埃を払った。
「まあ呪われたのは可哀想にぇ。同情するにぇ。仕方ないから教えてやるにぇ。」
猫は一所懸命手を舐めながら、俺にはてきとうに応えてきた。
「呪いを解くのは教会にぇ。定番にぇ」
「教会だな!行ってくる!」
猫の言葉を聞くやいなやコンビニを駆け出した。
しかし、俺は無宗教。教会の位置など知らない。外は豪雨。なぜだ!?なぜこんなにも俺は不幸なんだ。