99 幕間劇 ご褒美は金曜日
82 夏にそなえて
の後日談です。
忘れている方は、よかったらそちらのほうも、読み返してくれると幸いです。
妖異界にただひとつ、人間の店主が営む茶屋 《カフェまよい》。
営業は月曜から金曜まで。土日の週末は定休日である。
店主である真宵は人間界へと戻り、従業員の妖怪たちは一部を除いてそれぞれ好きな時間を過ごす。
そして、この金曜日の夜を楽しみにしている妖怪もいる。
「おつかれさまー。」
真宵は、最後の皿を片付けた後、従業員にねぎらいの言葉をかけた。
完全週休二日制とはいえ、《カフェまよい》は朝の仕込みがはやく、かなりの長時間労働だ。
真宵自身が一番働いているとはいえ、やはり従業員にはしっかり休んで疲れをとってほしい。
「小豆あらいちゃん、暗くなってるから気をつけて帰ってね。」
唯一通いで働いている従業員小豆あらいが勝手口から帰るのを見送った。
「さてと・・・。」
真宵が次の行動に出ようとすると、厨房の冷凍庫から声が響いた。
「オーイ。マサカ、忘レテナイダロウナ!」
冷凍庫の扉がドン、ドン、と叩かれる。
「はい、はい。忘れてませんよ。ちょっと、待ってください。」
真宵は冷凍庫の扉をあけた。
すると中から、ソフトボールより少し大きめの氷の塊が飛び出してきた。
厨房のテーブルの上に着地する。
冷凍庫の責任者。『冬将軍』である。
妖異界に本格的な冬を呼び込む役割を持つ『冬将軍』であるが、夏場はわりと暇なようで、雪女の紹介で数日前から《カフェまよい》の冷凍庫で働いてもらっている。
『冬将軍』氷でできた五月人形のようなみためで、鎧をまとっている。
まとっていると言っても、鎧も氷でできているので、もしかしたら、鎧に見えるだけで全部が冬将軍の体なのかもしれない。
「約束ダ!酒!アノウマイ酒をノマセロ!」
冬将軍はピョンピョンと飛び跳ねる。
「はいはい、すぐ用意しますから待っていてください。そんなに飛び跳ねると、転んで砕けちゃいますよ?」
なにしろみためは雪か氷でできた五月人形だ。
いかにもツルツル滑りやすそうで、氷でできているので、簡単に砕けてしまいそうだ。
「イイカラ、酒!」
待ちきれない冬将軍は、また飛び跳ねる。
冬将軍は給料代わりに金曜の仕事終わりに、人間界の酒を一杯、もらえることになっている。今日はその初給料日というわけだ。
実のところ、今日は金曜だが、冬将軍は数日前から働き出したので、一週間まるまる働いたわけではない。
なので、一週間分の給料がわりである酒をそのままあげなくてもいいのかもしれないが、なにしろ、週に一回、御猪口一杯の日本酒で働いてくれるという破格の条件だ。そこまでケチくさいことをいう気はない。
真宵は戸棚から一升瓶を出すと、冬将軍の前に御猪口を置き、並々と注いだ。
「はい。どうぞ。お仕事お疲れ様でした。来週もよろしくお願いしますね。」
正確には、冬将軍やつらら鬼は、冷蔵庫、冷凍庫の管理が仕事なので、週末も働いてもらうことになるのだが、それはこの際、気にしないことにした。
「オオ!マッテイタゾ! コレダ!コノ香リダ!」
冬将軍は溢さないよう、最初に一口、口をつけて吸い上げると、後は一気に御猪口を持ち上げて飲み干してしまった。
「プハァー。」
氷と同じで、少し乳白色が透けて見える透明の体は、みるみるうちに赤みを帯びてくる。
まるでイチゴミルクのアイスクリームか白桃味のシャーベットのようだ。
「だいじょうぶですか? そんなに一気に飲んで。」
たかが御猪口一杯とはいえ、体のサイズや体重を考えると、人間が一升瓶まるごと飲み干したくらいの量があるかもしれない。
冬将軍はくるくると踊るように回ると、コッテっと倒れて込んで、テーブルの上で寝息をたてはじめた。
「あら?寝ちゃったわ。どうしよう。」
「冷凍庫に放り込んでおけばよかろう。つらら鬼がめんどうみてくれる。」
見ていた座敷わらしが呆れる。
「そ、そうね。つらら鬼ちゃんに任せましょうか。」
真宵はそっと冬将軍を持ち上げると。冷凍庫の中に戻した。
起こさないように小声でつらら鬼に頼む。
「つらら鬼ちゃん、あと、よろしくね。」
キィキィ。
言葉はわからないが、任せておけ、と言っている、気がする。たぶん。
「あ、それからこれ、あまりもののおまんじゅうなんだけど、よかったら食べてね。」
真宵はつらら鬼たちに『よもぎ饅頭』をひとつ、プレゼントする。
キィキィキィ。
言葉はわからないが、喜んでいるのは間違いない、気がする。たぶん。
真宵はつらら鬼に手を振ると、そっと、扉を閉めた。
「それじゃあ、ほんとにおつかれさま。また来週もよろしくね。」
今日は金曜日。
忙しい《カフェまよい》の面々には、明日から束の間の休息の二日間が待っている。
読んでいただいた方、ありがとうございます。
幕間劇でございます。
幕間劇は短めのお話ばかりですが、どうぞおつきあいください^^。




