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妖怪道中甘味茶屋  作者: 梨本箔李
第四章 青嵐
96/286

96 白い狐はよく化ける

登場妖怪紹介


『ほいほい火』

《カフェまよい》の厨房で働く『かまど鬼』のひとり。元鬼火。

ふたつある釜戸の右側を担当している。

多少、調子にのりすぎる感があり、たまに、おこげを作ったりしてムラがある。

火力は『かまど鬼』の三人の中で最強。

曰く「料理は火力。」

好物は使い終わった油。


妖異界のなか、もっともおおきな都である『古都』。

大妖怪、白面金毛の妖狐『九尾』が治めている。

妖狐の世界は、九尾の下には金狐、銀狐、黒狐、白狐の側近が。さらにその下に他の妖狐。さらには管狐や野狐と、完全な階級制度で成り立っている。

その側近のひとり白狐ハクコの耳になにやらいろいろと情報がもたらされていた。




古都の一角、白萩邸ハクシュウテイと名付けられた邸宅で、白狐は配下の狐が持ち返った情報に耳を傾けていた。

白狐は、ひざ小僧が見えそうな位、丈の短い白絹の着物を着ており、まるで十歳くらいの幼女のようだった。

姿も言動も幼い。

だが、彼女を侮るような狐は一匹もいない。

たとえ見た目は幼くとも、白狐が長い年月を生きた高位の妖狐であることはその妖力を感じ取って知っているからだ。


「金狐さま、銀狐さま、おふたりは躍起になって例の甘味茶屋の菓子を持っている妖怪を探しております。」

「黒狐さまは最近、前にも増して足繁く花街に通っているようです。」

「例の甘味茶屋に狸が現れた模様。」

「例の甘味茶屋で、見たこともない氷の菓子が提供されているとの情報が。持ち帰り不可、とのことで詳細は不明です。」

「定期的に、『遠野』を巡回していますが、いまだ例の甘味茶屋の発見にはいたっておりません。」

「例の甘味茶屋から、菓子ではなく握り飯を持ち帰る妖怪の存在を確認。」


様々な情報の中から、すでに知っている情報と新たに確認された情報を選別する。

なかには興味深いものもいくつかあった。


「狸が例の店に現れたというの?」


白狐が配下の狐の一匹に尋ねた。

《カフェまよい》とかいう甘味茶屋の情報の中では初耳だ。


「はい。これはまだ未確認なのですが、その狸というのが『久万郷くまごう』の『隠神刑部狸いぬがみぎょうぶだぬき』ではないかというものが。」


「なに? 八百八狸の頭領が自らあの店に赴いたというの?」


「はい。噂ですが。・・・それに、『分福狸ぶんぷくだぬき』の姿を見たというものも。」


「『茶の湯の分福』? あの茶人まで、あの店に?」


「はい。まだ確証まではとれていませんが・・。」


「なんだか、ずいぶん大事になってきたわね。」


白狐は親指の爪を噛んだ。

考え事をするときの癖だ。


「『遠野』に狸にあたしたち狐、たしか従業員には『鞍馬山』の烏もいたんだっけ・・・。」


もともとは、『遠野』の妖怪どもが、戯れで人間をこの世界に連れてきただけだと思っていた。

それが、その人間がつくった菓子に『九尾』さまが興味を持ち、その寵を競った狐が争ってあの店の菓子をを手に入れようとしている。

狐が絶対的君主たる『九尾』さまの寵を競うのは珍しいことではない。今回はたまたま人間の作る菓子であったというだけだ。それが白狐のいままでの認識だった。

だが、それもここにきて、改めなければならないかもしれない。

狸の頭領、『隠神刑部』自らが足を運び、『茶の湯の分福』の名前まで出てきた。

分福は高名な茶人で、狸でありながら、『九尾』さまの前で茶を点てたこともある妖怪だ。

権力や勢力争いからは距離を置いているが、所詮は狸。何を考えているかわからない。

それに『鞍馬山』だ。

『天狗』があの店に行ったという情報は入っていないが、配下の烏天狗は多数出入りしているのが確認されている。

しかも、従業員として右近とかいう烏天狗が店に入りこんでいるらしい。

この右近が、調べてみれば『御側衆おそばしゅう』のひとりで、『天狗』の懐刀であったらしい。『天狗』の娘とつがいにさせるという話まであったようだ。

そんなものが、山を降りて、人間の営む茶屋で働き出したなど、なんともキナ臭い話だ。

気がつけば、『古都』の狐、『久万郷』の狸、『鞍馬山』の天狗、妖異界の三大勢力があの《カフェまよい》にこぞって注目している。しかも、その店に協力しているのが『遠野』勢だ。


「このまま、傍観しているわけにもいかないわよね。」


金狐や銀狐が張り合っているだけなら、どうでもよかった。

白狐は『九尾』の関心を引くにしても、あのふたりとおなじことをする気はなかった。

自分には自分にしかできない仕え方がある。そう自負してきた。

だが、ここまで話が大きくなりつつあるのなら何もしないわけにはいかない。

白狐は気侭きままと言われようと、奔放と言われようと気にしないが、無能とだけは呼ばれるわけにはいかないのだ。


「でも、白狐さまでも、あの店には入れないと思いますよ。」


狐の一匹が言った。

低位の野狐ヤコだろうと、高位の妖狐だろうと、誰も《カフェまよい》に入れたものはいない。そもそも店そのものを見つけることすらできずにいたのだ。


白狐はニコリと笑む。


「いきなり突貫するほど馬鹿じゃないわ。闇雲に探し回るほど馬鹿でもないしね。」


「じゃあ、どうするんですか?」


「考えがあるのよ。陰険金狐と高慢銀狐を出し抜いて鼻を明かしてやるのもいいかもね。ふふ。」


白狐は愉快そうに笑んだ。







本日は土曜日。

《カフェまよい》は定休日である。

店主である真宵は人間界へと戻り、残りの従業員たちは思い思いの休日を過ごしている。


従業員のひとり小豆あらいは唯一、店に通いで働いている。

休みの日は自宅の近くの河原で、ざるに小豆をいれ、ひたすら洗っていることが多い。

なんのために?と問われても、小豆あらいだから。と答えるしかない。

そもそも、本来、小豆あらいは河原で小豆をあらい、その音で人間を不安がらせたり怖がらせたりする妖怪で、こちらのほうが本当の姿といってもいいくらいなのだ。



「フッ。あの子供ガキが、例の甘味茶屋で働いているという小豆あらいか。」


小豆あらいの姿を影から観察するものがいた。

白狐だ。

白狐は配下の狐が集めた情報のなかに、つかえそうなものがあるのを思い出した。

あの店で働く従業員でわかっているのは『座敷わらし』『烏天狗』それに店そのものである『迷い家』だ。

他に、鬼火が何体か働いているとか、水神の気配がするとかの情報もはいっているが確認は取れていない。

そしてもうひとり、『小豆あらい』が働いているらしいとのことだった。

どうやら、あまり客の前にはでないらしく、頻繁に通っている妖怪でも知らないものが多いらしい。おそらく金狐も銀狐も知らない情報だ。


「なかに入れないなら、内部のものをつかえばいいのよ。」


白狐は近くにあった樹から一枚葉っぱをちぎると、フッと息を吹きかける。

すると、真っ白な白絹の着物が、どこにでもありそうな木綿の着物に変わる。

それだけでなく、白狐の髪の色も瞳の色も変化していた。


(年齢はこのままのほうが、相手が油断するわよね。)


狐の得意な変化へんげだ。

大抵の妖怪は人間に化ける術をもっている。

だが、見るものが見れば何の妖怪かはだいたいわかる。

姿は変えられてもその妖力の波長から、ばれてしまうのだ。

しかし、高位の狐、とくに白狐の変化は完全に狐の気配をなくしてしまうことができる。

このレベルの変化ができるのは狐のほかは狸か天狗くらいしかいない。


白狐は警戒されないよう、偶然を装って小豆あらいに近づいた。


「こんにちは。ねえ、あなた、小豆あらいでしょう?」


小豆あらいは振り返るとギョロリとした目で、白狐を見る。


「ナンダ?おまえだれダ?」


「え、えーとあたしは、『木の子キノコ』よ。ちょっと、山から降りてきたの。」


白狐はあらかじめ考えておいた嘘の自己紹介をした。

『木の子』は子供の姿をした山に棲む妖怪だ。

小さいものは二、三歳児の姿のものから上は十歳くらいの子供のものまで幅広く、さらに数が多い。

身分を偽るなら都合がいい妖怪だ。

当然、妖力の波長も木妖のものに変化させてある。

よほどのことないかぎり、ばれることはない。


「フーン。なんの用ダ? オレは忙しいんだゾ!」


(なにが忙しいよ。さっきから、おなじ小豆をずっと洗っているだけじゃない。まったく、なにが楽しいのかしら。)

白狐はそう思ったが、顔には出さなかった。


「忙しいところゴメンね。実は、あなたが《カフェまよい》ってお店で働いてるって聞いて。」


「そうだゾ! それがどうシタ!」


(あら。とぼけるかと思ったんだけど、普通に認めるのね。話がはやくてたすかるわ。)


「あたし、あのお店行ったことないんだけど、すっごい興味があるんだ。」


「店は今日と明日は休みだゾ。行くなら、明後日だゾ!」


そう言うと、小豆あらいはまた小豆を洗いだした。


(そんなことは、もうとっくに知ってるのよ! 聞きたいのはそんなことじゃないのよ。まったく、気のきかない子供ね。)


「う、うん。それはわかってるのよ。でも、あたし、なかなか行けなくって。ねえ。もっと、あの店のこと教えてよ。どんなお客さんが来るの?」


「知らないゾ!」


「え?知らないって、お店で働いているのよね?」

(意外と、クチが堅いわね。口止めされてるのかしら?)


「オレは、厨房でいるから、どんな客が来てるかなんか知らないゾ!」


「あ、あら、そうなの?」

(ずっと、厨房でなにしてるのよ。 まさか、妖怪のクセに人間に扱き使われているの?)


「厨房でどんな仕事してるの?」


「小豆を洗っているゾ!」

小豆あらいは胸をはる。


(今と同じじゃない。)

「他には?」


「米を洗っているゾ!」


「・・・他には?」


「野菜を洗っているゾ!」


「・・・他には?」


「食器を洗っているゾ!」


(なによ。洗ってばっかりじゃない! ほんとに人間の店で下働きしてるの?馬鹿じゃない?)

白狐はイラつきながらも、笑顔を装った。


「ね、ねえ。最近、狸妖怪が店に行ったらしいんだけど、アナタなにか知らない?」


「狸? アア、この前、分福ってヤツが、来てたゾ!」


「本当?」

白狐は目を輝かせる。

(そういう情報が欲しかったのよ!なんだ、この子供ガキ、チョロイじゃない。)


「ねえ?その分福って狸、なにか言ってなかった?」


「言ってたゾ!」


「なんて? 教えて教えて。」


「ヤカンハダメテツビンニシロ、って言ってたゾ!」


「え?なに? それ暗号かなにか?」


「よくわからないゾ!でも、テツビンを置いてったゾ!」


「テツビン? 鉄瓶?なんで、そんなものを・・・。」

(でも、分福狸があの店に出入りしてるって確証は得られたわ。しかも、贈り物までしてる。鉄瓶になんの意味があるかわからないけど。)


「ねえ。他のお客さんは? 例えば狐は来たことない?」


「知らないゾ!」


「じゃあ、天狗は?」


「知らないゾ!」


「うーん。じゃあ、お店をしてる人間の娘のことを教えて。たしか、名前は・・・。」


「マヨイだゾ!」


「そうそう、マヨイさん。マヨイさんてどんな人間?」


「マヨイのつくる菓子はうまいゾ!」


「そう。他には?」


「マヨイのつくる飯はうまいゾ!」


「そう、他には?」


「それだけだゾ!」


「そ、そう。」

(なによそれ?仮にも一緒に働いているんでしょう?)


「マヨイさんはなんで、妖異界に来てるの?」


「店をするためだゾ!」


「どうして妖異界で店をするの?人間界じゃなくて?」


「知らないゾ!」


「どうやって『遠野』の妖怪と知り合ったの?」


「知らないゾ!」


白狐は他にも情報を得ようとしたが、めぼしい物は何も得られなかった。


(うーん。結局たいしたことは解らなかったわね。たぶん、この子供ガキは下働きさせられているだけね。大事な情報はなにも教えてもらってないのよ。でも、そういうヤツこそ情報のパイプにしやすいのよ。これからも情報を流してもらいましょう。)


白狐はふと思いついた。


「ねえ。あたし、どうしてもあの店のお菓子が食べてみたいんだけど、なんとかならない?」

(もし、手に入れることができたら、金狐や銀狐はきっと悔しがるわよ。)


「月曜に、店に来れば食べられるゾ!」


「う、うん。でも、店にはいけないんだ。それに、できたら、今日、欲しいのよ。」

(察しの悪い子供ガキね!)


「今日は店は休みだゾ!」


(融通が利かないわね。この子供ガキ! そんなこと、最初からわかっているのよ!)

「ねえ?店は休みだけど、店に行けばなにかあるんじゃない?お菓子とかおまんじゅうとか?」


「・・・たぶん、あるゾ!」


「ほんと? じゃあ、おねがい!ちゃんとお金は払うから!」


白狐は半ば無理矢理、小豆あらいの腕を引っ張っていった。






「もうすぐ店だゾ!」


小豆あらいが前方を指差す。


(たしか、銀狐が店が消えたって言っていたのもこの辺よね。)


《カフェまよい》に行ったただひとりの狐が銀狐である。

その後、同じ場所を訪れたが、店はあとかたもなく消えて、その後、妖狐やその眷属にいたるまで、だれも《カフェまよい》に行くことも見ることもできなくなった。

これはおそらく店が消えたのではなく、『迷い家』が狐が出入りするのを拒否したのだと思われる。

『迷い家』はどんな山奥でもどんな遠い場所でも好きに現れることができる。そして、気に入った人間の前にだけ現れる。拒んだ人間にはどんなことをしても見つけることができない。おそらく、その能力は人間にだけでなく妖怪にも適用されるのだろう。

つまり、店は消えてなくなったのではなく、狐には見ることも入ることもできなくなったのだ。


「え?」


突然、目の前を歩いていた小豆あらいが白狐の前から消えた。

走って逃げたとか、飛んで逃げたとか、考え事をして見失ったとかではなく、いきなり消えたのだ。


(つまり、あたしも拒絶されたってことかしらね。)


おそらく、店はこの近くにあるのだろう。

小豆あらいが消えたのは、店に近づいたか、店に入ったかして、小豆あらいごと白狐が視認できなくなってしまったのだろう。


「ここで、待つしかないかしらね。」


現在、白狐は木の子に変化しており、見た目はもちろん妖力の波長まで木の子そのもののはずだ。狐の気配など毛ほどもないはずなのに。

さすがは迷い家というところだろうか。


「いまので、あたしが狐だってバレたかしら? でも、いままで拒絶された狐がなにかされたって情報はないし、もう少し様子を見てみようかしら。」


白狐はとりあえず、この場所で小豆あらいを待ってみることにした。






一方、小豆あらいは、白狐がついてこないのは特に気にせず、《カフェまよい》の裏口から厨房へと入っていた。


「だれもいないゾ。」


休日の店の厨房なので、だれもいないのは当たり前だった。

母屋のほうに行けば、もしかしたら誰かいるかもしれないが特に用はない。


「たぶん、羊羹があるはずだゾ。」


小豆あらいは冷蔵庫を開ける。

羊羹は賞味期限が長いので、多めにつくってストックしている。

そのため土産として人気が高い。

人間界のようにアルミの包装紙やラップがあるわけではないので、何ヶ月もというわけにはいかないが、それでも二週間程度は普通にもつのだ。


しかし、今日に限ってその羊羹が見当たらなかった。


「おかしいゾ! ひとつもないゾ!」


そんなはずはないのだが、どんなに探しても羊羹は見つからなかった。


「困ったゾ。」


他のおはぎやまんじゅうは月曜まで置いておくと固くなってしまうので、残っても従業員で食べてしまうかお土産に持たせてくれたりで残っていない。

小豆あらいが頭を悩ませていると、厨房のテーブルの隅に折り詰めが置いてあるのを見つけた。

中を覗いてみると、おはぎがはいっていた。それも折り詰めがふたつあって、全部で十個もはいっている。


「よかった。おはぎがあったゾ!」


昨日の残りだとしても、まだ一日しか経っていないし、痛んでいる様子もなかった。もしかしたら、少し固くなっているかもしれないが、そこは我慢してもらおう。

小豆あらいは、上機嫌でおはぎの折り詰めを包んだ。






「待たせたナ!」


白狐の前に突然、小豆あらいが現れた。


「あ、ううん。ぜんぜん待ってないわ。」

(あたしが狐だってことはバレていないようね。)


「羊羹はなかったゾ!でも、おはぎがあったゾ!」

小豆あらいはまるで戦利品の如く、おはぎの包みをおおきく掲げる。


「そ、そう。うれしいわ。」

(おはぎね。たしか、店の看板商品って聞いたわ。)


「いつもはおはぎの持ち帰りは六個までだゾ! でも今日は定休日だから、たぶん気にしなくていいんだゾ! なかに十個はいってるゾ!」


「そう? うれしい。」

(よくわかんないけど、いいわ。とにかくおはぎが十個手に入るってことね。」


白狐は懐から財布を取り出すと、小豆あらいに銀貨を十枚渡す。


(さすがに、こんな子供に金貨はやりすぎよね。銀十枚もあげればいいでしょ。)


すると、小豆あらいは一旦受け取ったものの、なにやら指で数を数え始めた。


「なによ?それで、足りないって言うの?」

(みかけによらず、ガメツイ子供ね。でも、今後のこともあるから、へそを曲げないようにもう少しあげといたほうがいいかしら。)


小豆あらいは、今度は銀貨を数え始め、二枚だけポケットに入れると、残りの八枚を白狐に返した。


「『おはぎ』はふたつで銭四枚だゾ! 十個はいってるから、銭二十枚だゾ! だから銀二枚だゾ!」


「え? い、いいのよ。全部とっておいて。残りはあなたへのお礼なんだから。」

白狐は意表を突かれた。


「ダメだゾ! マヨイが割引もボッタクリもしないって言ってたゾ!だから、オレもしないゾ! おはぎは十個で銀二枚だゾ!」


「そ、そうなの? じゃあ、そうさせてもらうわね。」

(・・・なによ、こいつ。)


「じゃあ、オレはもう行くゾ!」


「え、ええ。ありがとう。」


「今日は早く帰って、爺ぃにうまい茶を煎れてやる約束をしたんだゾ! それじゃあナ!」


そう言って、小豆あらいは早足で帰っていった。


(なによ。アイツ・・・、けっこうイイヤツじゃない。)


白狐は小豆あらいの後ろ姿を見ながら、なにやら毒気を抜かれてしまっていた。







その後、白萩邸に戻った白狐は、配下の狐の前でおはぎの入った折り詰めを披露していた。


「すっごーい。白狐さま、いったいどうやって手に入れたの?」

「これ、『おはぎ』ってやつですよね? すごいおいしいって評判の。」

「さっすが白狐さま。」

「銀狐さまや金狐さまがきっと悔しがりますよ!」


「ふふ。あたしにかかればこんなの簡単よ。金狐や銀狐とは頭の出来が違うんだから!」

白狐は笑った。


「これ、全部、『九尾』さまに献上するんですか?」


「そうね。九尾さまもこんなには食べられないでしょうし、こっちの四個はいったほうを献上するわ。こっちのはあたしたちで食べましょう。万が一のために毒見もしないといけないしね。」


無論、毒の心配などしていない。

なにより、自分が評判のおはぎを食べてみたいのだ。


「ほんとですか?」

「やったーーーー!」

「おはぎ!おはぎ!」


配下の狐が皆、競うように人間の姿に変化する。

やはり、狐の姿では食べにくいのだろう。


「じゃあ、食べましょう。ふふ。」


白狐は、皆におはぎを配ると、せぇのでかぶりついた。


「・・・・・。」


「・・・・・・。」


「・・・・・・・。」


「まっずーーーーーい!!」


「まずい!なにこれ?ほんとにあの茶屋のおはぎ?」


「どろどろでべちゃべちゃで、甘いのにへんにしょっぱくって。」


「なんか豆の変なにおいするし。へんな味ーーー!」


白狐も、あまりの不味さに声が出なかった。


「あの店のおはぎってこんなまずかったの?」


「そんなはずないよ。だって、いろんな妖怪がわざわざ通ってるんだもん。」


「じゃあ、これって・・・・。」



「あ、あの子供ガキーーーーーーー!!!!」


白狐は怒り狂った。


「アイツ、あたしが狐だってわかってたんだわ。それなのに、知らないふりして、こんなふざけたマネをーーーー!!! 覚えてなさいよ! この白狐を馬鹿にしたら、どうなるか教えてあげるわ!」


(でも、どうしてバレたのかしら? いったいいつから知ってたの? 店にはいってから?店に行く前?それとも最初から?)


あのとぼけた小豆あらいの顔を思い出して、白狐は歯噛みするのだった。








次の日。

日曜の朝。右近は《カフェまよい》の厨房で探し物をしていた。

そこに、座敷わらしが通りかかる。


「なんじゃ?右近。日曜の朝から、なにをガサガサしておる?」


「ああ、座敷わらしか。いや、昨日、ここに折り詰めを置いておいたんだが、無くてな。知らないか?」


「いや、知らぬが大事なものか?」


「いや、大事ってわけじゃないんだが、昨日、俺がひとりでつくったおはぎをここに置いておいたんだが・・。」


「・・・・おはぎをつくったのか?おぬしひとりで?」


「ああ、マヨイどのの手伝いをしているだけでは上達しないと思ってな。許可をもらって、昨日、また試作してみたんだ。今日、鞍馬山に持っていって、古道あたりに味見させようと思っていたんだがな。自分じゃ公正に採点できるかわからないし。」


「それは、古道も災難なことじゃのう。」


「どういう意味だ?」


「そのまんまの意味じゃ。・・で、そのおはぎが見当たらんのか?」


「ああ。ここに置いておいたはずなんだが、無くなっていてな。べつに、誰かがつまみぐいしたのならかまわないんだけどな。」


「おぬしのつくったおはぎを、自分からつまみぐいするものなどおらんじゃろう。」


「・・・どういう意味だ?」


「そのまんまの意味じゃ。」



かくして、親切にしたはずの小豆あらいは、白狐に恨まれることになり、右近は試作したおはぎの出来を確かめることができなくなった。


ただ、鞍馬山の古道だけは、白狐に感謝すべきかもしれない。





読んでいただいた方、ありがとうございます。

狐、今回は白狐でございます。

いちおうこれで、金銀白黒の四天王w的な狐が出揃いました。


今後、バトルとかに発展したりはしませんが、ちょこちょこ登場してくると思います。

ながーい目でおつきあいくださると、幸いです。

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