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妖怪道中甘味茶屋  作者: 梨本箔李
第四章 青嵐
92/286

92 削り氷にこれかける?

登場妖怪紹介


山童やまわろ

山に棲む小学生くらいの子供の妖怪。

髪で片方の目を隠しているがもともと一つ目。

握り飯や菓子などのお礼を約束すると、きこりや山菜取りなどの仕事を手伝ってくれる。

最近では、山の幸を《カフェまよい》に卸して商売をしている。



妖異界にただひとつ、人間の店主が営む茶屋 《カフェまよい》。

夏本番にむけて、いよいよ新しい品がメニューに加えられた。

初めて食べる妖怪も多いが、評判はなかなかのようだ。

そして、その新メニューに貢献したある妖怪が初日に招待されていた。




「いらっしゃい。山童やまわろくんにオシラサマ。来てくれてうれしいわ。」


店主である真宵が今日のゲストを出迎えた。

ゲストといっても普段どおりの営業であったが、新メニューの初日にぜひにとふたりを招待していた。


「どうぞ、こちらへ。一応、お席を用意しておいたんですよ。万が一招待して、満席にでもなっていたら、かっこつかないんで。」

真宵は笑いながら、ふたりを席に案内した。


「お招きありがとうございます。でも、どうしてボクなんかを? とくになにかお礼されるようなことをした覚えはないんですけど。」


山童は不思議そうに首をかしげた。

招待状は受け取ったものの、何故、自分が招待されるのかは書かれていなかった。

オシラサマは臼や杵、燻製用の木屑チップなどを店に贈ったり、座敷わらしや迷い家とも旧知の仲なので招待されても不思議はないのだが、今回はなにやら、山童のほうがメインで、よければオシラサマもご一緒に、とのことだった。


「ふふふ。それは新メニューを見てからのお楽しみってことで。」

真宵は楽しげに微笑んだ。


「すぐ、お持ちしますので、少々お待ちくださいね。 オシラサマも同じメニューでよろしいですか?」


「ヨホホ。もちろんじゃ。今回はどうやら、ワシはついでのようじゃしのう。」


「ふふ。ついでってわけでもないですけど。じゃあ、用意してきます。」


真宵は厨房へと消えていった。






「右近さん。山童くんとオシラサマがいらっしゃいました。例のやつをふたつおねがいします。」


従業員には新メニューのことはすでに伝えてある。

一応、味見もしてもらったが、概ね好評だった。


「了解した。・・・しかし、まさか、アレをカキ氷の蜜に使うとはな。思っていなかった。」


「ふふ。けっこういけるでしょう? 和風の茶屋にあってるし、手作りだしね。」


実際に味見したのは、今日が初めてなのだが、思った以上にうまくいったと真宵は思っている。

新メニューの『カキ氷』。その『黒蜜きな粉』『抹茶金時』ともうひとつの味。

それに、一役買っている山童にぜひ一度、食べてほしくて招待したのだ。






「おまたせしました。こちら、新メニューです。」


真宵はふたりの前にガラスの器を並べた。


「うわ。これ、雪ですか? こんな夏場に?」


山童が驚いた。

ガラスの器には、雪のようにきめ細やかな氷が山盛りになっており、上から琥珀色の液体がかけられている。


「雪女さまでも、雇ったんですか?」


「え? まあそんなとこかな?」


真宵は笑って言葉を濁した。

当たらずとも遠からず、といったところだ。

雇ったのは、雪女ではなく冬将軍であるが。

しかし、迷わず「雇った」というあたり商売人気質の山童らしい。


「ヨホホ。しかし、きれいなもんじゃのう。真っ白な雪みたいな氷に琥珀色で色づいて。ん?こりゃあ、もしかして?」


オシラサマは氷の器にひとつだけのった丸い球体に気がついた。

わずかに緑色が残る琥珀色の実だ。

見慣れている状態のものとは違うが、山や植物に詳しいふたりには、この形と香りには覚えがあった。


「これ、梅ですよ! オシラサマ。」


山童はおもわず声が大きくなった。


「ふふ。正解です。 これ、カキ氷っていう氷を削って、上からいろんな蜜をかけて食べる、夏の風物詩なんです。それで、前に山童くんに頼んだ梅の実をシロップ漬けにして、蜜にしたんですよ。」


真宵はニッコリ微笑んだ。


「だから、山童くんには一度、食べてほしくって。カキ氷はとけちゃうんで、持ち帰りもお届けもできないんで、来てもらうしかなかったんです。」


「それで、招待してくれたんですか。」


山童は納得した。

確かに、以前、真宵に頼まれて、梅の実をたくさん調達した。

ただ、無料でプレゼントしてしまうオシラサマと違い、山童はきっちり代金をもらっている。いうなれば商売なので、ここまでしてもらう理由はなかったりするのだが、せっかくの招待だ。甘えておくことにいた。


「頼まれたときは『梅干し』をつくるって聞いてましたけど、そっちはやめたんですか?」


「ううん。梅干しもつくったのよ。それに梅酒も。そっちはまだ時間がかかるんだけどね。梅シロップは十日くらいでできちゃうから。」


「なるほど。」


「あ、どうぞ。早めに食べないと解けちゃいますから。あとで、感想聞かせてくださいね。」


真宵は、軽く頭を下げるとどこかへ行ってしまった。


「ヨホホ。それじゃあ、解けないうちにいただくとするかのう。」


オシラサマは匙を取ると、崩れないようにそっと氷をすくい口に運ぶ。


「ヨホホホホホホホ。こりゃあ、ウマイ。」


「おいしいですね!」


山童もおなじように食べ、同じ感想を口にした。


「すごいです。暑い日に冷たい氷をこんな風にして食べると、こんなにおいしく感じるんですね。」


夏場の冷たいものといえば、山の湧き水くらいしか縁のない山童にとって『かき氷』の存在はまさに驚天動地だった。


「ヨホホホ。この『梅のしろっぷ』というやつもうまいのお。甘いんじゃが、梅の酸味でさっぱりして、夏には最高じゃわい。」


オシラサマもはしゃいでいる。


「ふふ。これ、ボクの採った梅で造ったらしいですよ。」


「ヨホホ。ワシの山で採れた梅の実でつくったんじゃろう?」


ふたりは軽口をたたきながら、カキ氷を口へと運んだ。


「ヨホ。この梅の実はたべれるんじゃろうかのう?」

オシラサマが匙で梅の実を持ち上げる。


「そりゃあ、器に入っているくらいだから、食べられるでしょう? 昔の人間は、青い梅は毒になるって信じてたみたいですけど、これは、完熟してた梅だし。でも、蜜にこれだけ梅の味が移ってるとなると、味のほうはどうなんでしょうね?」


山童はちょっと警戒しながら、梅の実を少しだけかじった。


「ん?おいしいですよ。これ。たぶん、砂糖で煮てるんだと思います。やわらかくって甘酸っぱくて。飴みたいです。」


それを聞いて、オシラサマも梅の実にかじりつく。


「ヨホホ。ほんとじゃ。やわらかくってねっとりして、ホレ、あれに似とるわ。干し柿のやわらかいやつ。」


「ええー?? 干し柿ですか? 似てないですよ。酸っぱいし。」

山童が異論を唱える。


「ヨホ? そうかのう。やわらかいとこが似とるとおもうたんじゃがのう。」


「だったら、ふつうに梅干しでいいじゃないですか? 梅干しをすっごく甘くした感じ。」


「ヨホホホ。なるほど。それもそうじゃな。」


ふたりは、あれこれ言いながらも、あっという間にカキ氷を完食し、器に残った液体も器を持ち上げて飲み干した。




「お味はどうでしたか?」


ふたりが食べ終わるのを見計らって、真宵がお茶をもって現れた。


「おいしかったです! こんなふうに氷を食べたのも、こんなふうに梅を食べたのも初めてです。」


「ヨホホ。うまかったわい。夏に氷を食うとはなかなかおもしろい経験じゃった。」


ふたりとも大満足の表情だ。


「よかったわ。 これ、お煎茶です。体が冷えたと思うんで、温めてくださいね。」

真宵は湯気のたつ湯飲みをテーブルに置いた。


「せっかく、冷えて涼しくなったのに、また温めるんですか?」

山童が聞いた。素朴な疑問だった。


「え? あんまり体を冷やすのは健康によくないっていうのが、人間の考えなんだけど・・・。妖怪さんは平気なのかしら?」


しかし、右近や小豆あらいはカキ氷で頭痛がしていたので、まったく人間とは違うというわけでもないはずだ。


「ヨホホ。わしはお茶は熱いのも冷たいのも大好物じゃぞ。」


オシラサマはうれしそうにお茶をすする。

オシラサマは真宵の煎れる茶が大好物だった。


「ふふ。あ、それとほかに食べたいものがあれば言ってくださいね。今日は、せっかく来てくれたんだから、お店がご馳走させてもらいます。最近はお菓子のほかにおにぎりとかもやってるんですよ。」


「おーい。注文頼む。」

そこに、ほかの客から注文がはいった。


「あ、ちょっと失礼しますね。メニューを置いていきますので、見ててください。遠慮しないで、いっぱい食べていってくださいね。」

そう言って、真宵は席を離れた。



「・・・かき氷かあ。すごい菓子ですよね。」

山童がつぶやいた。


「ヨホホ。そうじゃのう。夏に冷たい氷を食うとはのう。」


「なに言ってるんですか? そこじゃないですよ!」


オシラサマに山童が反論した。


「いいですか? あの『カキ氷』って削った氷なんですよ? つまり、もとは水。」


「そりゃ、そうじゃろう?」


「ああ、なんでわかんないんですか? これだから、浮世離れした妖怪は。 水ですよ。湧き水でも川でも井戸でも手に入る水。 つまり原価はほぼタダなんです。」


「ほう。たしかに。」


「水を凍らせて、削っただけ。蜜のほうも、人間界じゃあ砂糖は簡単に手に入るらしいですからね。ボクが卸した梅の値段を考えても、このカキ氷って、おはぎやおまんじゅうに比べてずいぶん原価が安くすむと思うんですよ。」

山童は少し声を落として言った。

お金の話なので、あまり大声で言うと、店に迷惑がかかると思ったのだろう。


「・・・ボクね、まよいさんのことみくびってたのかもしれません。もちろん、いままで馬鹿にしてたとかじゃないですよ。ただ、まよいさんってあんまり商売っ気のないひとだと思っていたんですよ。」


「商売っ気とな?」


「ええ。だって、この店にしたって、ライバルはいないし、ここでしか食べられない料理やお菓子ばっかりなのに、すごく安く売ってるじゃないですか?」


「まあ、たしかにのう。」


「値上げしたって、お客は来ると思うんですよ。でも、そんな気、全然なさそうじゃないですか。今日もご馳走してくれるって言うし。もしかしたら、お金を稼ぐのあんまり興味ないのかなって。」


たしかに《カフェまよい》の価格設定は財布にやさしい。

多少値上げしたところでだれも背をむけたりはしないだろう。

だが、真宵にそんな気がないのは明白だった。


「・・・でも、まさかこんなメニューを隠し玉でもっていたなんて。どうやって氷をつくっているのかにもよりますけど、たぶんすごい利益率ですよ。夏だけでもバカ売れしたら大儲けです。ボク、まよいさんを見直しました。尊敬します!」


山童は瞳をキラキラと輝かせる。

まるで宝の地図でも見つけた子供のようだ。


(おぬしは、子供のくせに商売っ気がありすぎじゃとおもうがのう・・・。)


口にはださなかったが、オシラサマはそう思った。





読んでいただいた方、ありがとうございます。

カキ氷回でございます。


秘密?にしていた三つ目の蜜は『梅』でございます。

活動報告で回答していただきました 詩月さま おみごとでございました^^。


一発で当てられたかたがいましたので必要ないかと思いますが、いちおう言っておきますと、ヒントとしては76話の『梅』『氷砂糖』と、真宵さんの「もうすこし時間がかかる」の科白あたりでしょうか。


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