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妖怪道中甘味茶屋  作者: 梨本箔李
第三章 雨月
78/286

78 幕間劇 ねこねここねこ

66 猫はたまにふえる

の前話です。



カリッカリッ。


ニャオ。ニャーゴ。


んにゃあ。



「んー。なんだにゃあ。今日は朝から騒がしいにゃ。」


ねこまたは眠そうに顔をこする。

その手にはふわふわの体毛とぷにぷにの肉球がついている。

住処にしている小さな家は、豪華ではないが、猫の好きな狭い隙間や薄暗い場所、ジャンプして上れる天井の梁などがあり、猫妖怪にとっては居心地がいい。日当たりのいい庭があるのも高ポイントだ。

いつもは静かなその住処に、今日はなにやら予定にないお客がいるらしい。

戸の鍵を外して開けると、そこには五人の子供が集まっていた。


「ありゃー。今回はまたたくさん来たにゃあ。ひーふーみー・・・全部で五匹か。スジの悪そうなのはいにゃいみたいだけど。」


ねこまたは驚きもせず、子供たちの様子を確認する。

子供たちはそれぞれ虎やら黒やらの体毛をしており、皆、頭におおきな猫の耳がついていた。

子供たちはねこまたと同じ猫妖怪。違いといえばねこまたの尻尾がふたまたに分れているのに対し、子猫たちの尻尾は一本のままだった。

こういったことは初めてではない。

どういう理由かはわからないが、妖異界に来たばかりの猫妖怪は同じ猫妖怪のねこまたのところにやってくるのだ。


「うーん。玄関先だとにゃんだから、とりあえずみんなはいるにゃ。」


ねこまたは五匹の子猫妖怪をなかに招き入れた。



子猫妖怪たちは、家の中に入るといろいろ珍しいらしく、遠慮も手加減もなく走り回った。


(うーん。元気なこたちだにゃ。)


子猫たちは、家中追いかけっこをしたかと思うと、柱をつたって天井の梁まで駆け上がり、足を滑らせて落ちたかと思えば、ふわりと着地し、また箪笥の上まで駆け上がった。


(さて、どうするかにゃ?)


この程度のことはいつものことなどで、いちいち驚いたり呆れたりはしてられない。子猫とはこういうものなのだ。疲れたらそのうちバタッと倒れて寝てしまうのだ。

下手に注意したりいうことをきかそうと労力をつかうより、それを待ったほうがいい。


(でも、この様子だと、みんな元飼い猫みたいだにゃ。)


猫妖怪になるものは大きく分けてふたつだ。

長生きしすぎたものと想いが強すぎたもの。

長生きしすぎて妖怪に転じたものは、その時点でしっぽがふたつにわかれている。

なのでこの子猫妖怪たちは、想いが強すぎて妖怪になったくちだろう。

想いが強いのにも、二種類ある。愛情と憎しみだ。

主人への想いが強すぎて妖怪になる猫。誰かへの憎しみが強すぎて妖怪になる猫。

今回は五匹とも、愛情からなったほうだろう。

憎しみから妖怪になった猫妖怪はここまで無邪気ではない。


「とはいえ、いつまでここにいるのかにゃあ?」


ねこまたは子猫たちをみつめた。

べつに、はやく出て行ってほしいなどと思っているわけではない。

猫妖怪とはそういうものなのだ。

猫は狐、狸、狼などに次いで妖力が高い動物だ。

けっこう簡単に妖怪になってしまう。

反面、気分やで集中力があまり持続しない。

人間への想いや恨みで妖怪化しても、その人間が妖異界にいないとわかると、いつのまにやら消えてしまうのだ。


(そのぶん、本気で恨みつづける『祟り猫』になんかなったら、あぶにゃいんだけどにゃあ。)


忘れっぽい猫だけに、本気で祟ったときの恐ろしさは並ではない。

恨んだ本人だけでなく、一族郎党、子々孫々まで恨み祟り続けた猫妖までいるくらいだ。


(まあ、こいつらはそんな心配なさそうだにゃ。)


この猫たちはどう見ても、飼い主への愛情から妖怪化した猫妖だ。

大事に大事にされて想いが募ったか、なにか事故で突然亡くなって、自分が死んだことに気づかないで妖怪化したのだろう。

こういった猫妖怪のなかにも、なにかのはずみか巡り合わせかで、そのまま妖異界に居つくものもいないではない。

だが、そういったものでも、いつの間にか出て行ってしまう。

猫は気ままで、単独行動が基本なのだ。

夫婦にでもならない限り、そのままいっしょに暮らし続けるようなことはないのだ。


(どうせすぐいなくなるとはいえ、同じ猫妖。めんどうくらいはみてやらにゃいとにゃあ。)


ねこまたがそのまま子猫妖怪の好きにさせていると、そのうちの一匹、黒猫の子供が、そばにやってきた。


「おなかすいたにゃぁ。」


すると、それを聞いたほかのものも、次から次へとやってくる。


「ボクもおなかへったにゃ。」

「ぺこぺこー。」

「おいしいものたべたいにゃ。」

「にゃん。」


「うーん、どうしようかにゃ。」


ねこまたの家には、あまり食料はない。

普段自分ひとり食べる分くらいなら、何とでもなるので、あまり保存食などは置かないのだ。


「そうだにゃ。あそこにいくかにゃ。」


ねこまたは思い出して立ち上がった。


「おまえたち、あまいものは好きかにゃ?」


「すきー。」

「ほしーい。」

「たべーたーい。」


「よし!だったら、ついてくるにゃ。ちょっとあるくけど、そのぶんおいしいから我慢するのにゃ。」


そう言って、ねこまたは子猫妖怪を連れて家を出た。


行き先はきっと峠にある人間の娘が営む甘味茶屋であろう。






読んでいただいた方ありがとうございます。

ねこまたさん回でございます。



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