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妖怪道中甘味茶屋  作者: 梨本箔李
第三章 雨月
69/286

69 女のひめごと

《カフェまよい》 メニュー


羊羹ようかん

《カフェまよい》特製の餡子を寒天でしっかりと固めた「煉羊羹」。

ねっとりとした食感が魅力。

おはぎやまんじゅうに比べて、賞味期限が長いので土産としても人気である。

一人前は二切れ。

持ち帰りは一本丸ごと可能。(約五人前)。



妖異界でもっともおおきな都、『古都』。

大妖怪『九尾』が治めるこの場所に『花街』が存在する。

女達が花を売り身を売る、もっとも華やかでもっとも欲が渦巻く、苦界とも評される街。




花街の置屋『すがの』は街の一角にその風格ある建物を構えていた。

置屋とは、花街で働く女性が生活し、料亭やら茶屋に女を派遣する場所である。

『すがの』は通りからはいる入口こそ狭いものの、いわゆる鰻の寝床のような立地になっており、門を入ると、広くはないが手入れされた庭と、華美はおさえた風格と伝統ある建物が客人を迎えてくれる。

その『すがの』にひとりの老婆が足を踏み入れていた。

老婆はもともと小柄な上、腰が極端なほど曲がってしまっていたので、さらに小さく見えた。

杖をつき、おおきな編み笠をかぶっていたので、顔は半分ほどしか見えていなかったが、その下半分の顔に刻まれた皺からみても、かなりの高齢であることが伺える。

彼女は『白粉婆おしろいばば』。

置屋『すがの』の住人ではないが、ある用事で定期的にここを訪れている。



白粉婆は『すがの』のなかでも、高級妓女にしか与えられない部屋のひとつの戸をたたいた。


「じゃまするよ。」


白粉婆が部屋に入るとそこには、艶やかな翡翠色の着物を着た『骨女』が座っていた。

十二畳ほどの広めの部屋には高級そうな調度品や衣装が所狭しと並べられ、部屋の主の懐具合が垣間見えた。

細かい細工が施された文机ひとつ、螺鈿の香炉ひとつとっても、庶民にはとても手が出ないような代物だ。


「あら、白粉婆。待っていたのよ。もう、白粉がなくって。」


骨女はいつものように美しく着飾り、いつものように髪を結い上げていたが、その顔はところどころ化粧がおち、なかの『骨』がのぞいている。

そう。素肌でもなく肉でもなく骨が。

よく見ると、袖からでている手の指も数本が骨だけしかなかった。


「こんな姿じゃ、お座敷はおろか、外にも出れやしないわ。」


骨女はおおきくため息をついた。


「そろそろなくなる頃だと思ってね。」


白粉婆は、荷物から木箱に入った白粉を骨女に渡す。

ふつうは陶器や貝殻でできた白粉入れに小分けして販売するのだが、このお得意様は使う量がハンパないので、木箱にいれたまま渡している。


「はい。これ御代ね。それと、これはいつものやつ。」


骨女は白粉婆に銭のはいった袋と、どこかで見たような包みをわたす。


「ありがとよ。じゃあ、たしかめさせてもらうよ。」


白粉婆は袋の中の銭の数を確認する。

よもや『すがの』の高級妓女である骨女が、支払いの銭を誤魔化すなどというケチなことをするとはおもっていないが、なにごとも念には念をいれ、信用しすぎないのが白粉婆のやり方である。

骨女もわかっているので、いまさら文句をつけるつもりはない。


「はいよ。たしかに。 それと、こっちもみさせてもらおうかねぇ。」


白粉婆は銭を懐にしまうと、包みのほうを開けた。


「新作の和菓子よ。『紫陽花』だって。見た目も美しいし、風流でしょ?」


包みを開けると《カフェまよい》の和菓子、『紫陽花』が折り詰めのなかに並んでいた。


「ほう。こりゃあ、見事だね。でも、味のほうはどうなんだい? 見た目だけじゃ意味ないだろう?」


「ふふ。味もいいわよ。練りきり餡の上品な甘みとなかの餡子玉のこしあんのバランスがよくって。抹茶とよくあう菓子よ。」


「ほう。そりゃあ楽しみだ。」


白粉婆は大事そうに折り詰めを包みなすとそれを持って、席を立つ。


「それじゃあ、また、なくなる頃に来るよ。」


「ええ。わかってるとおもうけど・・・。」


「ああ、あんたが、ほんとは骨しか残ってない女で、その顔が白粉でつくった偽もんだなんて、だれにも吹聴したりしないよ。」


そう言い残し、白粉婆は部屋を後にした。


(まったく、あの骨だけ女に高い銭を払ってる男どもの気が知れないよ。)





白粉婆は骨女の部屋を出た後、さらに、『すがの』のなかでも、高級妓女にしか与えられない部屋のひとつの戸をたたいた。


「じゃまするよ。」


白粉婆が部屋に入るとそこには、艶やかな緋色の着物を着た『女郎蜘蛛』が座っていた。

十二畳ほどの広めの部屋には高級そうな調度品や衣装が所狭しと並べられているが、部屋のあちこちには尋常ではないほど蜘蛛の巣が張られており、まるで没落した貴族の屋敷か何かのようだった。

高級な調度品にも、蜘蛛の巣が張り、小指の先ほどの小さな蜘蛛が蠢いていた。


「あら、白粉婆。待っていたのよ。もう、白粉がなくって。」


女郎蜘蛛ははいつものように美しく着飾り、いつものように髪を結い上げていたが、顔は化粧が落ち、普段の二つの目とは別に、眉毛の上に二つ、頬のあたりに二つ、合計六個の目が白粉婆を見つめていた。

女郎蜘蛛は、蜘蛛とおなじく複数の目をもっていた。普段は白粉で隠しているのだ。

他にも、化粧の落ちたところから、体毛のようなものが見え隠れしており、素顔がかなり蜘蛛に近いことを想像させた。


「こんな姿じゃ、お座敷はおろか、外にも出れやしないわ。」


女郎蜘蛛はおおきくため息をついた。


「そろそろなくなる頃だと思ってね。」


白粉婆は、荷物から木箱に入った白粉を女郎蜘蛛に渡す。

ふつうは陶器や貝殻でできた白粉入れに小分けして販売するのだが、このお得意様は使う量がハンパないので、木箱にいれたまま渡している。


「はい。これ御代ね。それと、これはいつものやつ。」


女郎蜘蛛は白粉婆に銭のはいった袋と、どこかで見たような包みをわたす。


「ありがとよ。じゃあ、たしかめさせてもらうよ。」


白粉婆は袋の中の銭の数を確認する。

よもや『すがの』の高級妓女である女郎蜘蛛が、支払いの銭を誤魔化すなどというケチなことをするとはおもっていないが、なにごとも念には念をいれ、信用しすぎないのが白粉婆のやり方である。

女郎蜘蛛もわかっているので、いまさら文句をつけるつもりはない。


「はいよ。たしかに。 それと、こっちもみさせてもらおうかねぇ。」


白粉婆は銭を懐にしまうと、包みのほうを開けた。


「いつもの『おはぎ』よ。つぶあんと青海苔ね。」


包みを開けると《カフェまよい》の看板商品、『おはぎ』が折り詰めのなかに並んでいた。


「ほう。青海苔はひさしぶりだね。 海苔と餡子なんて、変な組み合わせなんだけど、意外と癖になるんだよねぇ。」


「ふふ、そうね。私たち、妓女の間では、油断すると青海苔が歯にくっついちゃうから、嫌がられるんだけど、味はいいのよねぇ。」


「ふふ。こりゃあ楽しみだ。」


白粉婆は大事そうに折り詰めを包みなすとそれを持って、席を立つ。


「それじゃあ、また、なくなる頃に来るよ。」


「ええ。わかってるとおもうけど・・・。」


「ああ、あんたが、ほんとは蜘蛛女で、その顔が白粉でつくった偽もんだなんて、だれにも吹聴したりしないよ。」


そう言い残し、白粉婆は部屋を後にした。


(まったく、あの子持ちの蜘蛛女に高い銭を払ってる男どもの気が知れないよ。)





白粉婆は女郎蜘蛛の部屋を出た後、さらに、『すがの』のなかでも、高級妓女にしか与えられない部屋のひとつの戸をたたいた。


「じゃまするよ。」


白粉婆が部屋に入るとそこには、艶やかな萌黄色の着物を着た『毛倡妓けじょろう』が座っていた。

十二畳ほどの広めの部屋には、金魚の絵が描かれた陶器やら、赤や黄色の糸でつくられた手鞠など可愛らしいもので飾られ、部屋の主の趣味が色濃く写し出されていた。

ひとつひとつは高級品なのだが、可愛らしいもので統一されているせいか、嫌味がない。


「あら、白粉婆。待っていたのよ。もう、白粉がなくって。」


毛倡妓はいつものように美しく着飾り、いつものように自慢の髪を優雅に垂らしていたが、その顔は目も鼻も口もないのっぺらぼうだった。


「こんな姿じゃ、お座敷はおろか、外にも出れやしないわ。」


毛倡妓はおおきくため息をついた。


「そろそろなくなる頃だと思ってね。」


白粉婆は、荷物から木箱に入った白粉を毛倡妓に渡す。

ふつうは陶器や貝殻でできた白粉入れに小分けして販売するのだが、このお得意様は使う量がハンパないので、木箱にいれたまま渡している。


「はい。これ御代ね。それと、これはいつものやつ。」


毛倡妓は白粉婆に銭のはいった袋と、どこかで見たような包みをわたす。


「ありがとよ。じゃあ、たしかめさせてもらうよ。」


白粉婆は袋の中の銭の数を確認する。

よもや『すがの』の高級妓女である毛倡妓が、支払いの銭を誤魔化すなどというケチなことをするとはおもっていないが、なにごとも念には念をいれ、信用しすぎないのが白粉婆のやり方である。

毛倡妓もわかっているので、いまさら文句をつけるつもりはない。


「はいよ。たしかに。 それと、こっちもみさせてもらおうかねぇ。」


白粉婆は銭を懐にしまうと、包みのほうを開けた。


「おまんじゅうよ。今日は『酒蒸し饅頭』よ。のんべえ妖怪はみんな食べたがってるヤツなんだから。」


包みを開けると《カフェまよい》の饅頭、『酒蒸し饅頭』が折り詰めのなかに並んでいた。


「へえ、噂には聞いたことあったんだが、これが『酒蒸し饅頭』かい? 開けただけでいい匂いが漂ってくるよ。」


「ふふ。なんでも人間界のいいお酒をつかっているんだって。たまにしかつくらないから、簡単には手に入らないものよ。」


「ほう。そりゃあ楽しみだ。」


白粉婆は大事そうに折り詰めを包みなすとそれを持って、席を立つ。


「それじゃあ、また、なくなる頃に来るよ。」


「ええ。わかってるとおもうけど・・・。」


「ああ、あんたが、ほんとは髪の毛しか残ってないのっぺらぼうな女で、その顔が白粉でつくって書いただけの偽もんだなんて、だれにも吹聴したりしないよ。」


そう言い残し、白粉婆は部屋を後にした。


(まったく、あののっぺらぼうの毛だけ女に高い銭を払ってる男どもの気が知れないよ。)




白粉婆は、花街の三美女といわれる妖怪の部屋を後にして、呆れたようにため息をつく。


まったく女というものは、いつまで経っても、幾つになっても、妖怪になってまでも、変わらないものだ。

美に執着し、若さに執着し、そのためには金を惜しまない。

男も同じだろう。

美しい女のためにはいくらでも大金を払う。

それを愚かというか、哀れというか、欲と呼ぶか、業と呼ぶか。

しかし、そうであるから白粉婆の商売はいつの時代も順調だ。


「それにしても、今日は『新作の和菓子』に『おはぎ』に『酒蒸し饅頭』か。大漁だね。」


白粉婆は三つの包みを大事そうに抱える。

白粉婆は《カフェまよい》に行ったことがない。

ここ『古都』からあの甘味茶屋まではかなり遠く、年老いた婆の足で行くのは困難だ。

『輪入道』や『片車輪』に銭を払って、運んでもらうことも可能だが、白粉婆はその必要がないと思っている。

わざわざ足を運ばなくとも、こうやって、白粉を欲しがる客をつかえば、いくらでも手に入るのだから。


白粉婆は『すがの』を出た。

売り上げで重くなった懐の銭と、菓子のつまった包みの重みに満足な笑みを浮かべながら。








読んでいただいた方ありがとうございます。

今回は「白粉婆」と花街三美女妖怪でございます。

コピペだらけですがご容赦ください。

ちなみに、おはなしで「白粉婆」がただの白粉売りの婆さんになっておりますが、本来は自分が顔に真っ白な白粉をして旅人をおどろかしたりする妖怪です。

また、花街ですが、花魁のような娼妓と芸妓舞妓をあえてごちゃまぜにしてつかっています。

ご了承ください。


5/14 一部、妖怪の名前が間違っていましたので修正しました。

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