57 幕間劇 鞍馬山にて5 父と娘と
47 ひとめあなたに逢いたくて
の前話。
綾羽が《カフェまよい》に来る前のはなしです。
『鞍馬山』
《カフェまよい》から、山を三つほど超えた場所にある霊山である。
妖怪の棲む妖異界では特別な山で、その頂上には大妖怪『天狗』が居を構え、その弟子である『烏天狗』たちが暮らしている。
妖異界の自警団のような役割を担っており、『烏天狗』たちは、その機動力と神通力で各地を飛び回り、調査や巡回、トラブルの対処にあたっている。
鞍馬寺、その奥の院に山の主『天狗』が座していた。
普段は、どっしり構え、ろくに動かない天狗が、今日はやけにそわそわしていた。
まだかまだかと、誰かを待って入り口のほうを気にしている。
そこに、やっと待っていたものの影を見つけ、たまらず飛びかかって、抱きしめた。
「あ、綾羽。やっと帰ってきたのか。パパは、パパは心配したんだよー。」
天狗は久しぶりに会った愛しい娘を、これでもかと抱きしめる。
普通の人間の娘とかわらない綾羽に比べ、天狗はその数倍の大きな体のため、押し潰されるか心配しそうになる。
「ちょっと! 苦しいわよ。パパ。」
綾羽はなんとか天狗を引き離した。
「綾羽、いったいどこに行ってたんじゃ。パパがいったいどれだけ心配したとおもってるんだい? 」
「もう! いいかげん子供扱いしないでよ。」
「しかし、いきなり家出なんかされたら、心配するじゃないか。 パパは心配で、夜も眠れなかったんだよ。」
妖異界に名を轟かせる大妖怪『天狗』も蓋を開ければ人の子・・ではなく、妖怪娘の親、だったらしい。
家出娘の帰還を待ちわびていたのだ。
「それは、パパが干渉しすぎるからでしょう? あたしは、そうゆうのが嫌なの! 自由にさせてほしいのよ。」
「しかしなあ。綾羽はまだ子供なんだし、心配なんだよ。それに、よりによって、『古都』に行くなんて。あそこの妖狐は鞍馬山と、あまり折り合いがよくないんだよ。もし、綾羽に何かあったら・・。」
「心配ないわよ。ただ、友達のとこに泊まりに行ってただけなんだから。狐と騒動なんか起こしはしないわ。・・・・あれ?ちょっとまって。」
綾羽はなにかに気づいた。
「ちょっと、パパ! なんであたしが『古都』に行ってたこと知っているの? あたし、誰にも言ってなかったわよ!」
「そ、それは、ちょっと小耳に挟んだんだよ。」
「嘘おっしゃい! また、あたしのこと『千里眼』で監視してたんでしょ。年頃の娘のプライベート盗み見するなんて、信じられない! サイテー!!」
綾羽は、天狗を突き飛ばすと、さっさと部屋を出て行こうとする。
「ま、待ちなさい。綾羽。パパは綾羽のことを想ってだね・・・。」
「ついてこないで!! もし、今度、『千里眼』で覗いたりしたら、親子の縁を切ってやるんだから!」
綾羽は大股で、天狗のいる奥の院から出て行った。
「まったく、パパったら、いつまでも子供あつかいして・・・。あたしだって、もう、お嫁にいってもいい年頃なんだから。」
綾羽はふと、ある烏天狗の顔を思い出した。
(あいつ、なにやっているのかしら・・・。)
綾羽は、廊下を歩いている烏天狗を見つけると、呼び止めた。
「ねえ、ちょっと聞きたいんだけど。」
「はい。あれ?綾羽さまではありませんか。いつお戻りに?」
「ええ、さっきね。・・それより、右近ていう烏天狗どこにいるか知らない?」
「え?」
烏天狗は目を丸くした。
「右近て烏天狗がいたでしょう。 その、頭の固そうな、融通の利かない、若い烏天狗。」
「え、ええ。でも、右近さんは、御山を降りましたよ?」
「え!?」
寝耳に水だった。
「いつよ?」
「もう、半月前になりますけど・・。」
「仕事をやめたって言うの? 烏天狗が?」
烏天狗は、ほとんどのものが鞍馬山の仕事に生涯を賭ける。山を降りるものなどほとんどいない。
「ええ。なんでも、甘味茶屋で仕事をするとかで・・・。」
「か、甘味茶屋? なによそれ?」
「『遠野』に人間の娘がやっている甘味茶屋ができたんですよ。」
「人間の娘? 人間がこの世界で、店をやっているの?」
「ええ。とてもおいしいんですよ。鞍馬山でも評判で・・・。綾羽さま?」
綾羽は、話の途中で飛び出した。
「まったく!どうゆうことよ。あたしに何も言わず御山を降りるなんて!」
翼を広げると、おおきく羽ばたく。
「パパは過干渉だし、婚約者は無責任だし、みんないったいあたしのこと、なんだとおもっているのよー!!」
『天狗』の娘 綾羽。
お嬢様にはお嬢様の悩みがあるらしい。
読んでいただいた方、ありがとうございます。
幕間劇その2でございます。
楽しんでいただければ幸いです。




