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妖怪道中甘味茶屋  作者: 梨本箔李
第二章 若葉
57/286

57 幕間劇 鞍馬山にて5 父と娘と

47 ひとめあなたに逢いたくて

の前話。

綾羽が《カフェまよい》に来る前のはなしです。



『鞍馬山』

《カフェまよい》から、山を三つほど超えた場所にある霊山である。

妖怪の棲む妖異界では特別な山で、その頂上には大妖怪『天狗』が居を構え、その弟子である『烏天狗』たちが暮らしている。

妖異界の自警団のような役割を担っており、『烏天狗』たちは、その機動力と神通力で各地を飛び回り、調査や巡回、トラブルの対処にあたっている。



鞍馬寺、その奥の院に山の主『天狗』が座していた。

普段は、どっしり構え、ろくに動かない天狗が、今日はやけにそわそわしていた。

まだかまだかと、誰かを待って入り口のほうを気にしている。

そこに、やっと待っていたものの影を見つけ、たまらず飛びかかって、抱きしめた。


「あ、綾羽。やっと帰ってきたのか。パパは、パパは心配したんだよー。」


天狗は久しぶりに会った愛しい娘を、これでもかと抱きしめる。

普通の人間の娘とかわらない綾羽に比べ、天狗はその数倍の大きな体のため、押し潰されるか心配しそうになる。


「ちょっと! 苦しいわよ。パパ。」


綾羽はなんとか天狗を引き離した。


「綾羽、いったいどこに行ってたんじゃ。パパがいったいどれだけ心配したとおもってるんだい? 」


「もう! いいかげん子供扱いしないでよ。」


「しかし、いきなり家出なんかされたら、心配するじゃないか。 パパは心配で、夜も眠れなかったんだよ。」


妖異界に名を轟かせる大妖怪『天狗』も蓋を開ければ人の子・・ではなく、妖怪娘の親、だったらしい。

家出娘の帰還を待ちわびていたのだ。


「それは、パパが干渉しすぎるからでしょう? あたしは、そうゆうのが嫌なの! 自由にさせてほしいのよ。」


「しかしなあ。綾羽はまだ子供なんだし、心配なんだよ。それに、よりによって、『古都』に行くなんて。あそこの妖狐は鞍馬山と、あまり折り合いがよくないんだよ。もし、綾羽に何かあったら・・。」


「心配ないわよ。ただ、友達のとこに泊まりに行ってただけなんだから。狐と騒動なんか起こしはしないわ。・・・・あれ?ちょっとまって。」


綾羽はなにかに気づいた。


「ちょっと、パパ! なんであたしが『古都』に行ってたこと知っているの? あたし、誰にも言ってなかったわよ!」


「そ、それは、ちょっと小耳に挟んだんだよ。」


「嘘おっしゃい! また、あたしのこと『千里眼』で監視してたんでしょ。年頃の娘のプライベート盗み見するなんて、信じられない! サイテー!!」


綾羽は、天狗を突き飛ばすと、さっさと部屋を出て行こうとする。


「ま、待ちなさい。綾羽。パパは綾羽のことを想ってだね・・・。」


「ついてこないで!! もし、今度、『千里眼』で覗いたりしたら、親子の縁を切ってやるんだから!」


綾羽は大股で、天狗のいる奥の院から出て行った。





「まったく、パパったら、いつまでも子供あつかいして・・・。あたしだって、もう、お嫁にいってもいい年頃なんだから。」


綾羽はふと、ある烏天狗の顔を思い出した。


(あいつ、なにやっているのかしら・・・。)


綾羽は、廊下を歩いている烏天狗を見つけると、呼び止めた。


「ねえ、ちょっと聞きたいんだけど。」


「はい。あれ?綾羽さまではありませんか。いつお戻りに?」


「ええ、さっきね。・・それより、右近ていう烏天狗どこにいるか知らない?」


「え?」

烏天狗は目を丸くした。


「右近て烏天狗がいたでしょう。 その、頭の固そうな、融通の利かない、若い烏天狗。」


「え、ええ。でも、右近さんは、御山を降りましたよ?」


「え!?」

寝耳に水だった。


「いつよ?」


「もう、半月前になりますけど・・。」


「仕事をやめたって言うの? 烏天狗が?」


烏天狗は、ほとんどのものが鞍馬山の仕事に生涯を賭ける。山を降りるものなどほとんどいない。


「ええ。なんでも、甘味茶屋で仕事をするとかで・・・。」


「か、甘味茶屋? なによそれ?」


「『遠野』に人間の娘がやっている甘味茶屋ができたんですよ。」


「人間の娘? 人間がこの世界で、店をやっているの?」


「ええ。とてもおいしいんですよ。鞍馬山でも評判で・・・。綾羽さま?」


綾羽は、話の途中で飛び出した。


「まったく!どうゆうことよ。あたしに何も言わず御山を降りるなんて!」


翼を広げると、おおきく羽ばたく。


「パパは過干渉だし、婚約者は無責任だし、みんないったいあたしのこと、なんだとおもっているのよー!!」



『天狗』の娘 綾羽。

お嬢様にはお嬢様の悩みがあるらしい。





読んでいただいた方、ありがとうございます。

幕間劇その2でございます。

楽しんでいただければ幸いです。

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