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妖怪道中甘味茶屋  作者: 梨本箔李
第二章 若葉
54/286

54 ベーコンベーコン

登場妖怪紹介


煙羅煙羅えんらえんら

煙の妖怪。『煙々羅えんえんら』ともいわれる。

煙そのものが妖怪化したものとも、煙に霊が憑きかたちをとったものともいわれる。

比較的無害な妖怪で、人を襲ったり、祟ったりとの伝承はほとんどない。

姿は、まちまちで、老人の姿だったり、美しい女性の姿だったりと多説ある。

座敷わらしとは古い知り合い。

《カフェまよい》で燻製つくりを手伝ったことがある。


妖異界にただひとつ、人間の店主が営む茶屋 《カフェまよい》。

その厨房には、勝手口がひとつついている。

普段は、従業員が出入りするくらいのものだが、今日は少し違うらしい。




「すいません。煙羅煙羅さん。わざわざ来ていただいて。」


店主の真宵は隣にいる白い煙の塊に話しかけた。

真宵たちがいるのは、店の裏、厨房の勝手口から出てすぐのところである。

そこに大きな木の箱が置かれており、その前で真宵と白い煙の妖怪、煙羅煙羅と話していた。


煙羅煙羅えんらえんら

煙の妖怪。『煙々羅えんえんら』ともいわれる。

煙そのものが妖怪化したものとも、煙に霊が憑きかたちをとったものともいわれる。


「昨日、煙羅煙羅さんなしでやってみたんですけど、大失敗しちゃって。」


「ホホホ。いつでもよんでくれてかまわんといっておいたじゃろうに。まよいちゃん。」


煙羅煙羅は体のまわりの煙をモクモクと動かした。

髪も髭も全部煙でできており、真っ白ななので、サンタクロースのような顔で、遠目に見ると、綿の塊のようにも見える。


「ええ。でも、あんまり甘えるのも悪いかなと思って、自力でやってみたんですけど、だめでした。」


「具体的にはなにがダメだったんじゃ?」


「うーん、なにがと言われると、あれもこれもですね。まず、煙が隙間から漏れちゃったんですよね。」


真宵は目の前に置かれた箱、自作の燻製器を指して言う。

昨日、燻製を作ろうとして、やってみたのだが、これがまた大失敗だった。

まず、箱の隙間から煙が漏れ出した。

幸い、店の厨房ではなく、外でやったので、店内に煙が充満する事態は避けられた。

さらに、燻製しようとした豚肉から脂が滴り落ち、その油のせいで燻製用の木屑チップが燃えてしまったのだ。

木屑は燻すために煙を出さなくてはいけないのだが、油のせいで炎をだして燃えてしまった。


「しかし、前に、わしが来たときは成功しておったじゃろう?」


以前、煙羅煙羅を招いて、燻製を作ったことがあった。

そのときは、多少、煙がもれるというハプニングがあったものの、とりあえずは成功を収めたのだ。


「ええ。でも今回はちょっと、前より難易度が高いんですよ。ベーコンを作ろうと思ってるんです。」


「べーこん?」


「はい。えーと、ひらたく言うと、豚のバラ肉をかたまりのまま塩漬けにして、燻したいんです。」


「ホホホ。そりゃあ、また豪気じゃな。」

煙羅煙羅は愉快そうに笑う。


燻製といえばベーコンは定番だ。

しかし、肉をかたまりのまま燻すため、下ごしらえも大変だし、温度調節とか燻す時間とか、ちょっと難易度が高い。

何事も挑戦!とばかりにやってみたのだが、見事に玉砕してしまった。


「それで、昨日の失敗を反省して、燻製器も改良したんですけど。」


真宵は、手作りの燻製器を開ける。

つくり自体は簡単なもので、木製の大きな箱に金網で仕切りをつけただけのものだ。扉を開けると、中の仕切りが金網でできた本棚みたいなものだ。

四層になっていて、一番上が食材。網の上に置いてもいいし、天井部分から吊り下げることもできる。二番目がその食材から落ちる脂を受け止める皿置き場。三番目が燻製用の木屑を置く場所。そして一番下が加熱用だ。


「ここにお皿を置かなかったせいで、脂がチップに落ちて失敗しちゃったんですよね。」

二層目に置いてある皿を指差した。


「なるほどのう。・・ん?そこにいるのは、ふらり火ではないか? なにをしておるんじゃ?」


燻製器の一番下の層に、小さな火の玉が浮かんでいた。

いつもより、かなりサイズは小さいが、『かまど鬼』のひとり『ふらり火』である。


「なにしてる、とはご挨拶ね。 燻製つくりに協力しているんじゃないの!」

ふらり火はふわふわと浮かんでいる。


「昨日は、普通に火で温めたんですけど、よくよく考えたら、煤も出ないし、温度調節もできるし、かまど鬼さんにお願いしたほうが、うまくいくと思うんですよね。」


「ふふ。それで、あたしが選ばれたってわけ。」

ふらり火は誇らしげだ。


「ホホホ。それで、わしはなにをすればいいのじゃ?」


「はい。煙が漏れないように見張るのと、もし漏れたら煙を操って漏れるのを防いでもらえます? できますよね?」


「ホホホ。朝飯前じゃ。」

煙の妖怪である煙羅煙羅にとって、煙を操作するのは簡単なことだ。


「あと、できれば、箱の中で、きちんと食材に煙がまわるようにしてほしいんです。前に作った燻製たまごやナッツも、煙羅煙羅さんに手伝ってもらったやつのほうが、おいしくできたんですよね。しっかり燻製の香りがついてて。」


「ホホホ。うれしいことをいってくれるのう。」

煙羅煙羅はサンタクロースのようなモコモコの髭を揺らして喜んだ。


「ふらり火さんもよろしくね。ちょっと煙いかもしれないけど、我慢して。」


「フフ。まかせてちょうだい。アタシ、はりきってるのよ。」

ふらり火がうれしそうに揺れる。

三人のかまど鬼のなかから燻製に選ばれたのを喜んでいるらしい。


「はりきりすぎて、焦がさないでね。温度調節は打ち合わせのとおり。燻されて白い煙が立つのが正解、煤が出て焦げ臭い黒い煙になったらアウトよ。」


「だいじょうぶ。ちゃんとできるから安心して。」

ふらり火は自信満々だった。


「よし、それじゃあ、豚肉持ってきますから、はじめましょうか。たぶん、二、三時間かかるとおもいますけど、よろしくおねがししますね。」


「ホホホ。まかせておきなさい。」

「ふふ。バッチリよ。」


そうして、《カフェまよい》の燻製ベーコンつくりの幕があけた。





ベーコン作りをしているとはいえ、茶屋は通常営業している。

ランチタイムは終わっているとはいえ、右近と座敷わらしだけにやらせるわけにもいかず、たまに様子を見に来たり、お茶をさしいれしたりするだけで、煙羅煙羅とふらり火にまかっせきりだった。


「そろそろいい時間ですね。」

真宵は手に手袋をはめる。


「ホホホ。やっと完成というところかのう。」


「すみません。ほとんど、まかせっきりにしちゃって。」


「ホホホ。たいしたことはしとらんよ。天気もよかったから、日向ぼっこしておったようなもんじゃよ。」

煙羅煙羅は微笑んだ。


「ふらり火さんもお疲れ様。もう熱さなくて大丈夫よ。大変だったでしょう?」


「ふふ。問題なしよ。」

ふらり火は燻製器から飛び出した。

真宵の肩の高さ辺りでふわふわ浮かんでいる。

こうしていると、たしかに元鬼火である。


「それじゃあ、いきますよ。 うまくできてますように。」


真宵は祈りながら、燻製器の箱を開けた。

一気に立ち昇る煙のなかから、豚肉の塊を取り出す。

店から持ってきた机の上のまな板に置いた。


「うん。いい感じかも!」


真宵はできあがったベーコンを満足気に見つめた。

しかし、煙羅煙羅は首をかしげる。


「まよいちゃん。わしにはなにやら、生焼けっぽく見えるんじゃがのう。これで、なかまで火が通っておるのかい?」


「ええ。これでいいんです。ベーコンは元々、保存するために作ったものですから。塩漬け効果と煙のコーティングでバッチリなんですよ。実際に食べるときは、もう一度火を通しますしね。」


「ホホホ。そうゆうもんなのかい。人間界の食いものはおもしろいのう。」

煙羅煙羅はますます興味深深で、ベーコンを穴をあくほど見つめた。


「・・・ちょっとだけ、味見してみます?」

真宵は、小声で言った。


「ホホホ。それはぜひ、してみたいのう。」


「ふふふ。あたしも、ちょっとしてみたかったんです。ほんとは、冷蔵庫で何時間か休ませたほうがいいんですけどね。」


「ホ? 豚肉を休憩させるのかの? まだ、生きとるのか、この豚?」


「や、休ませるっていうのは、ちょっと時間を置くってことです。」

(あれ?なんか、このやりとり前にもあったような・・・・。)


真宵は、まだ、熱を帯びたベーコンを少しだけそぎ落とす。

うまい具合に、皮、脂身、肉の三層にわかれてベーコンぽい。

たしかに、中の肉部分は薄いピンク色で半生だ。


「ちょっと、炙ったほうがおいしいですから、厨房で焼いてきますね。」


しかし、それはふらり火が止めた。

「あら、炙るならあたしがやってあげるわよ。」


「あ、そうか。」

いま、ふらり火はふわふわ浮かぶ人魂みたいなので失念していた。

便利なかまど鬼がすぐそばにいたのだ。


「じゃあ、ふらり火さん、おねがいね。ちょっと強火のほうがいいかも。焦がさない程度にね。」


「まかせて。」


ベーコンの切れ端を、串にさしてふらり火にかざす。

ジジジ、と音がして表面が炙られ、脂が滴っていく。

ポッ。 急にふらり火の炎が大きくなる。


「ふらり火さん、だいじょうぶ? 」


「あ、ごめんなさい。 その豚肉の脂が・・・・。」


「あ、脂が落ちた? 熱かった? 」


「いいえ・・。おいしくて。」


「え?」


「その、ベーコンていう豚肉の脂、・・・すっごくおいしい。滴り落ちた脂が、あんまりおいしくて、つい、ちからがはいっちゃった。ごめんなさい。」


「ううん、ならいいのよ。火加減は気をつけてね。」

(・・そうだった。かまど鬼さんて、油が好物だったんだっけ。)


そう。ふらり火に限らず、かまど鬼は油が大好きだ。特に調理につかった油は大好物で、揚げ物の油などは、かまど鬼たちが残さずたいらげている。食材の風味がうつっておいしいのだそうだ。

それなら、ベーコンから滴る脂はたまらないだろう。


「はい、これくらいでいいとおもいます。」


ふた切れ焼いたベーコンをひとつを煙羅煙羅にわたす。


「それじゃあ、いただきましょうか。」


示し合わせたように、同時に口に入れた。


「あら、おいしい。」

「ホホホ。こりゃあ、うまいのぉ。」


口入れた瞬間から、桜のチップの燻製香でいっぱいになり、噛むと大量の脂と肉汁があふれ出す。

また、しっかり塩漬けにされているので、噛めば噛むほど脂といっしょに塩味がにじみ出るので、食欲を刺激して唾液が止まらない。


「ホホホ。大成功じゃな。」


「ええ。おいしいです。・・・でも、ちょっと塩っぱいかも。」


「そうかのう? うーん。たしかに、脂と塩でのどが渇く。酒が欲しくなる味じゃのう。」


「そうですねぇ。おつまみとかなら、これくらいでもいいんでしょうか。これだけで食べると、ちょっと塩味がきついかも。・・・、でも、他の食材とあわせておかずにするなら、これくらいでも・・・。」


真宵は、頭のなかで、いろいろメニューを考えた。

ベーコンは焼いただけでもおいしいし、いろんな料理に使える。

ほうれん草と一緒に炒めただけでも、一品料理になるし、アスパラガスなんかも相性バッチリだ。スープに入れれば出汁がわりにもなる。その上、保存もきくという万能食材なのだ。


「ふふふ。これで、おいしいランチができますよ。」


「ホホホ。そりゃあ、ぜひ食べにこにゃあならんのう。」


「ええ。ぜひ、食べにきてください。」



「なにを、食べているんだど?」


急にどこかから声がして、直後、地面からドロドロの塊が盛り上がってくる。

次第に、頭や腕の形が見えてくると、上半身なのがわかる。


「ど、泥田坊さん。どうしてここに?」


泥田坊どろたぼう

田んぼ仕事で、泥に足をとられて動けなくなったり転んだりするのを妖怪のせいにされたことから生まれた妖怪。

地中から腕や顔を出した状態で動き回るが、下半身は決して地中から出さない。

田んぼ仕事を怠けて、田を荒廃させると、家まで来て仕事をせかす。


「おーぷんてらすで、おはぎを食べて、帰ろうと思ったら、なんかいい匂いがしたんだど。」


どうやら、匂いにつられてやってきたらしい。

店の表にあるオープンテラスに、そこまで匂いが強く届いたとは思えないが、妖怪の中には鼻のいいものもいるので、嗅ぎつけたのだろう。


「ベーコンていうんですよ。今度、ランチにつかおうと思って、作ってたんです。」


すると、泥田坊は、がっくりと肩を落とした。


「・・・ランチだか。だったら、オラは食えねえだど。」


「え?あ、そうか・・・。」


泥田坊は、オープンカフェだけの客で、茶屋の中には入れない。

いつも、泥だらけなので、『迷い家』が嫌がって、入れてもらえないのだ。

べつに、悪さをする妖怪ではないので、ちょっとかわいそうである。


「オープンカフェは、お茶とお菓子だけだものね。」


ランチタイムは忙しいので、外の席まで気が回らないのだ。

なので、オープンカフェの席はお茶とお菓子のみとなっている。

当然、泥田坊は、ランチは食べられないというわけだ。

かわいそうだが、ひとりだけ特別扱いするわけにもいかない。


「・・・じゃあ、ちょっと味見してみる?」


「いいんだか?」


真宵は仏心でつい言ってしまった。

一切れ、ベーコンを炙ると、泥田坊に差し出す。


「うまいど! オラ、こんなうまいもん、初めて食べたど。」


泥田坊は、興奮気味にはしゃいだ。

いまにも踊りだしそうである。


「ふふ。よかったわ。・・・じゃあ、そろそろ、片付けないとね。」


山間の峠にあるこのあたりは、陽が陰るのがはやい。

店、本来の片付けもあるので、そろそろ燻製器や机を片してしまおうとした矢先、そうは問屋が卸してはくれなかった。


「あっ。ほら、何かやっているわよ。」


そう言って、店の表側からやってきたのは、女郎蜘蛛、その他、常連の妖怪たちだった。

泥田坊とおなじく、匂いを嗅ぎつけてきたようである。


「マヨイちゃん。なにやってるんだい?」


女郎蜘蛛の問いに、真宵が答える前に、泥田坊が声をあげる。


「ベーコンっていうのをつくってるんだど! 熱々で塩っぱくて、むちゃむちゃうまいんだど!!」


泥田坊に悪意はなく、ベーコンのおいしさに興奮していただけだったのだが、これは、まずかった。

聞いたことのない料理の名前とサクラチップの燻製香、そして、脂の炙られた匂いに妖怪たちが殺到した。


「なに? それ、新作料理? 食べられるの?」

「いい匂い。 泥田坊だけズルイ!」

「俺にも食わせろ!」

「アタシも食べたい。」

「ひとくち、ひとくち。」


真宵は、妖怪たちに囲まれて、為す術なく、こう言うしかなかった。


「・・・みなさんも、試食してみます?」


そして、妖怪たちに、試食をさせていると、その騒ぎを聞きつけ、店の中にいた妖怪までもが出てきて、試食させろと騒ぎ出した。

そうなると、もう後には引けず、そこにいる全員のぶん、ベーコンを振舞うこととなってしまった。


ひとりぶんは、ほんの一口分なのだが、さすがに人数がいると馬鹿にならない。

ベーコンの塊は、瞬く間に半分以下に減ってしまった。


「なぁ、マヨイ。このうまいベーコンていうのは、いつ来たら食べられるんだい?」


ひとりの妖怪が聞いた。

まわりの妖怪も教えてもらいたがっていた。


「そ、そうですね・・・・。まあ、そのうち・・。」

真宵は苦笑いする。


(みなさんが、試食しなかったら、明日にでもランチにつかおうとおもっていたんですが・・・。)


心の中でため息をついた。

もちろん、口には出せないが・・・。


手元に残ったベーコンは半分以下。

明日のランチ、三十人前をまかなえる量は残っていなかった。







読んでいただいた方、ありがとうございます。

煙羅煙羅、再び。

燻製、再び。

です。

自分はインドア派なんで、というかたんに怠惰なんで、

自分で燻製つくりとかは、まったくしたことがございません。

ベーコン作りは、ネットで調べた知識だけで書いちゃいましたので、おかしな点がありましたらご容赦ください。



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