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妖怪道中甘味茶屋  作者: 梨本箔李
第二章 若葉
51/286

51 オープンテラスはじめました

オープンテラス 開催中


現在、《カフェまよい》ではオープンカフェを実施しております。

『遠野』の景色を楽しみながら、お茶とお菓子をおたのしみください。



注意。誠に申し訳ありませんが、ランチは店内でお召し上がりください。


妖異界にただひとつ、人間の店主が営む茶屋 《カフェまよい》。

その店主、真宵にはおおきな野望があった。

現在、その野望を現実のものとするべく、従業員のあいだで話し合いがもたれていた。



「おーぷんてらす?」


従業員の妖怪たちは揃って首をかしげた。

人間界と妖異界の接点が急速に消えていってから、幾久しい。

近代になって入ってきた外来語や、現代の若者言葉などは、通じないことも多い。

とはいえ、妖怪たちも適応能力が高いのですぐに覚えて使いこなしている。

たとえば、『ランチ』などは、最初は説明していたが、いまでは、《カフェまよい》にくる妖怪でその意味を知らないものはいない。

特に、《カフェまよい》の従業員たちは、真宵と仕事をしているせいで、そういった言葉に触れることが多い。

タッパー、ボゥル、ピーラーなどの調理器具や、カレー、フライ、ソースなどの料理名など、カウンターやテイクアウトなど、真宵がついつい使う言葉はいつの間にか覚えて普通に浸透している。

そんな妖怪たちからしても、初耳の単語だった。


「そう! オープンテラス! やるなら、いましかないと思うのよね。」


前々からやりたいと思いながら、人手不足で断念していた。

右近が従業員として加わり、仕事も慣れてきた今なら、やれないことはない。

欲を言えば、桜の季節がベストシーズンだったが、まだ、五月の中旬。悪い季節ではない。

いまやらないと、すぐに梅雨が来て、それが明ければ夏。暑くてオープンテラスはいまいちだろう。

やるなら、いましかない!

そう考えると、いてもたってもいられなくなっていた。


「で、その、オープンテラスというのは、具体的になにをやるのじゃ?」


座敷わらしが代表して尋ねた。

たぶん、真宵以外は誰もわかっていない。


「えーと、オープンテラスっていうのはね、中庭とか店の先に椅子とテーブルをおいて、そこで、お茶や食事をしてもらうことよ。」


「・・・なんのためにじゃ?」


「え?」


「なんで、すぐ横に家があるのに、屋根のない場所で、茶を飲んだり飯を食ったりするのじゃ? 店の中ですればよかろう?」


「え、なんでっていわれると・・。」


まさか、そんな根本的な疑問をぶつけられるとは思わなかった。

しかし、座敷わらしにしてみれば困らせようとしたわけではなく、本気で意味がよくわからなかった。

座敷わらしは本来、家に憑く妖怪で、あまり外には出たがらない。

右近は烏天狗なので、野宿も平気。木の上で寝たりもする。当たり前にやっていることなので、わざわざ、店にまで来て、外で食事する意味がわからない。

小豆あらいは細かいことは気にしないので、どうでもいい。

結局、三人とも、なにゆえ真宵がわざわざ手間をかけてまで、そのオープンテラスとやらをやりたがっているのか、わからないのだ。


「そ、外で、ご飯を食べると、いつもよりおいしく感じたりしません? ピクニックとか遠足とかのお弁当とか。」


「飯は外で食うとうまいのか? 右近。」

「いや、俺は感じたことはない。むしろ、飯は冷めたものより、炊きたてのほうがうまいと思っていた・・・。」


「い、いや。そうゆうんじゃなくて。」


「ほ、ほら。お花見とかみんな好きでしょう? このあいだのお餅つきも外でやったけど、たのしかったでしょう?」


「マヨイどの。桜はもう散っていますよ。花見の季節じゃないでしょう?」

「餅つきは外でやるとたのしいもので、家の中でやるとつまらなくなるのか?」


「そ、そうゆう意味じゃないんだけどな・・。」


こうなってくると、真宵自身、なぜオープンカフェをそんなにやりたいのか、わからなくなってきた。


「それに、マヨイ。何度も言うたとおもうが、この店が安全なのは、迷い家が危険な妖怪を入れないようにしているからじゃ。 そとに席を設けるということは、その安全地帯から外に出る、と言うことじゃぞ。」


「でも、お餅つきのときは外でやったけど、なんともなかったわよ?」


「あのときは、多数の妖怪の目があったからのう。わしも迷い家も気をつけて目を光らせておったしの。一日二日のことならまだしも、日々の営業で店の外にでるとなると、どんなやっかいごとが起こるかもしれんぞ。」


普段は温厚で優しい座敷わらしだが、こういったことに関しては意外と厳しい。

真宵の安全面を思ってくれてのことなのだが、少々大げさに考えすぎと感じることもある。



「まあ、いいんじゃないのか? 外と言っても店のすぐ前なんんだろう? 」


意外なことに、右近が賛成にまわってくれた。


「そ、そうですよね。右近さん。店のすぐ前に、椅子とかテーブルを置くだけですし、そんなに危なくないですよね。」


「ああ。それに、ランチタイムは基本的にマヨイどのは厨房だし、一日、せいぜい四時間かそのくらいだろう? それなら、俺も注意してるし、客の妖怪たちもいるんだし、悪さする妖怪はそうはいないだろう。」


「・・・・・。」


「やっぱり、座敷わらしちゃんは反対?」


真宵は残念そうに尋ねた。

オープンテラスのあるカフェは真宵の昔からの夢だったが、座敷わらしの反対を押し切ってまではしたくない。

座敷わらしの反対は、真宵のことを想ってくれているとわかっているからだ。


「・・・・右近が責任もって警戒するというのなら、いいのではないか。迷い家と烏天狗のおる店で無茶をする妖怪もおらんだろうしな・・。 じゃが、気は抜くな。どんな妖怪がどんな気まぐれを起こすかは、だれにもわからん。」


「ほんとう? よかった。だいじょうぶ。ちゃんと気をつけるって約束するわ。」


真宵はおもわず、座敷わらしを抱きしめた。

おそらくは反対されると思っていた。

たぶん、賛成ではなく、容認してくれただけなのだろうが、それでもうれしい。


「それで、マヨイどの。そのオープンカフェというのは、どんな準備が必要なのだ?なにか特別なことをするのか?」


「ううん。そんな大げさなことはしないわ。そうね・・、ちょっと長めのベンチみたいな長椅子をひとつと、あとはテーブル席をふたつくらい用意すればいいわ。ランチはやっぱりなかで食べてもらって、お茶やお菓子を外の景色を見ながら楽しんでもらう感じ。」


「とすると、長椅子とテーブルふたつ、あと椅子が何脚かあればいいわけか。」


「そうね。今度、人間界に戻ったときに見繕ってくるわ。」


真宵はワクワクがとまらなかった。

夢が少しづつ現実になっていくのは、どうしてこんなに楽しいのだろう。


「その程度のものなら、わざわざ持ってこなくとも、迷い家に出してもらえばよかろう?」


座敷わらしがなんともなく言った。


「え? そんなことできるの?」


座敷わらしは頷いた。

迷い家はこの《カフェまよい》そのものといっていい妖怪だ。

茶屋の店舗部分も母屋の住居部分も、すべて妖怪迷い家なのである。

そして、迷い家はその間取りや内装を自由に変えられる。

部屋数を増やすのも減らすのも思いのままだ。

本来、ただの民家であったのを、半分、茶屋にしたのも、工事したわけでもリフォームを頼んだわけでもない。

真宵の要請に応え、迷い家が自分でつくりかえたのだ。

広めの厨房も、風呂や洗面所が母屋内についているのも、全部真宵の要望だ。

内装に関しても、釜戸やテーブル椅子など、お願いしたとおりにしてくれた。

元が古い日本家屋の妖怪なので、高層マンションに変われとか、大理石の天板のシステムキッチンを用意しろ、とかは無理なのだが、叶えられる範囲内なら大抵のことはやってくれる妖怪なのだ。


「でも、店の外に出しちゃっていいのかしら?」


なんとなく、建物内にある家具やものは、迷い家の一部なので、勝手に持ち出したり、捨てたりしてはいけないものだと思っていた。


「店のすぐ前なのだろう? その程度でグダグダ文句をゆうようなやつではなかろう。どんなものが必要か、もう少し詳しく説明しておけば、明日の朝には用意しておいてくれるじゃろう。」


「ほんとう? 迷い家さん。」


真宵は、天井に向かって尋ねた。

本当は、迷い家の中にいるわけなので、別に天井でなくとも、床でも壁でも好きなところに向かってしゃべればいいのだが、なんとなく、迷い家に話しかけるときは天井に向かって話す癖がついていた。


   ・・・モンダイナイ。


建物が震えて、家鳴りのような音とともに低い声が聞こえた。

迷い家の声である。


「すごい。それじゃあ、もうさっそく、明日からできるじゃない、オープンカフェ!」


真宵は飛び上がって喜んだ。

また、ひとつ夢が叶おうとしていた。

その喜ぶ姿を見ながら、従業員の三妖怪の想いはそれぞれだった。


「まったく、迷い家といい、右近といい、真宵に甘すぎるの。」


座敷わらしがつぶやいた。

右近が、オープンカフェに賛成に廻ったことを言っているのだろう。

しかし、右近にしてみれば心外だった。


(どちらかと言えば、座敷わらしが過保護すぎるのだと思うのだがな。)


あえて、言葉にしなかったが、そう思った。

座敷わらしは、真宵を危険から遠ざけようとするあまり、安全地帯から一歩も出さないようにしている気がする。

もちろん、真宵を危険なめに遭わせたくないという気持ちは、右近も同じだが、あまり過敏になりすぎるのもどうかと考える。


「マア、オレは関係ないナ。厨房からでないシ。」


そう言うと、小豆あらいは自分の持ち場である洗い場に戻って行った。

この件に限れば、小豆あらいが一番オトナな対応なのかもしれない。






次の日。

迷い家は約束どおり、真宵の願いの品を用意しておいてくれた。

大きな背もたれのない長椅子は、上に緋毛氈をかけて座布団を置くことにした。

小さめの机が二つに、椅子が八脚。椅子は普段は二つづつ置いておいて、お客さんの数によって追加するようにする。


そしてオープンカフェの初日は開店した。

茶屋を訪れた妖怪たちは、昨日までなかった椅子や机に興味を見せ、ランチは中でしか食べられないと聞くと、食事の後にまんじゅうを注文して、オープンカフェで食べる妖怪までいた。

初めのものめずらしさもあるのだろうが、とりあえずは好評といっていい反応であった。


「まよいちゃん。このおーぷんかふぇ?って言うのはなかなかいいわねぇ。 外でお茶とお菓子をいただくなんて、気持ちがいいわ。」


そう声を掛けたのは『女郎蜘蛛じょろうぐも』だ。

毛倡妓けじょろう』『骨女ほねおんな』のいつもの三人でお茶を楽しんでいた。

そういえば、なにかで、お店の目立つ席やオープンカフェの道路から見える席に、可愛い女の子や美女を座らせておくと、売り上げや集客が上がるというのを聞いたことがある。

意図的にしたわけではないのだが、この三人なら其の点は申し分ないであろう。

なにしろ妖異界の花街における三美女妖怪だ。


「ありがとうございます。喜んでいただけてよかったです。」

真宵は笑顔で応えた。


「ほんと、天気もいいし、暖かいし、ちょうどいい季節ね。」


「ええ、梅雨にはいったら、外は無理だし、梅雨が明けたら暑くなりますしね。やるなら、今しかないって思って、おもいきってはじめたんです。」


「そうねぇ。暑くなったら、むりよねぇ。骨女なんか、化粧が落ちたら、骸骨だものね。」

女郎蜘蛛が笑った。

骨女は、ある男に恋するあまり、死んで骨になっても男のもとに通いつづけたという女の妖怪である。

そのため、ほんとうの姿は骸骨で、今の綺麗な顔はすべて、白粉と化粧でつくったものであるらしい。


「ちょっと、女郎蜘蛛。それを言ったら、あんただって蜘蛛でしょ。そんな姿、全部偽者じゃない!」


女郎蜘蛛は名のとおり、蜘蛛の妖怪である。


「偽者って失礼ね。みんな私の美貌にまいって花街の通ってくるのよ。」


「嘘おっしゃい。手下の蜘蛛つかって男を絡めとってるくせに!」


「まあまあ、自分を取り繕って美しく見せている妖怪はたいへんね。」


「何言ってるのよ、毛倡妓。あんたなんか、あの毛羽毛現けうけげんとおんなじ毛玉妖怪でしょ! 美人面しないでよ。」


「ち、違うわよ。たしかに毛羽毛現のおじさまは大好きだけど、私は生まれたときから、天然の美女妖怪よ。」


「嘘おっしゃい! この毛玉女!」


「なんですってー! キィイーー。」




真宵は、いまにも掴み合いに発展しそうな女妖怪の喧嘩から、こっそり逃げ出した。


(お、女同士の友情とか、難しいっていうけど、妖異界でもおなじなのね。)


まあ、喧嘩するほど仲が良いとも言うし、あえて止めなくてもいいだろう。


「それにしても、いい天気。おもいきってやってよかったわ。」


そんなことを言いながら、空を見上げていると、どこからともなく声が聞こえた。


   ・・・スマ・・ス。


「え?」


おもわず、まわりを見渡すが、だれもいない。

お客の妖怪は、それぞれ友人たちと会話を楽しんでおり、真宵に声をかけた感じはない。


(気のせいかしら?)


    ・・・コシ、・・イ・・ダカ・。


また、まわりを見渡してみる。

やはり、だれもいない。喧嘩している三美女や談笑している妖怪が何組かいるだけだ。


(やだ。怖い。・・・・これって、まさか、座敷わらしちゃんが言っていた、タチの悪い妖怪の仕業なんじゃ。)


店の中なら、迷い家が守ってくれるから安心だが、外ではどんな妖怪に出会うかわからない。

座敷わらしに言われた言葉が思い浮かんだ。


(み、店の中に入ったほうが、いいわよね。)


真宵は、振り向くと、即座に店内へ駆け出した。

しかし、その足首を何者かがガシリと掴んだ。


「きゃーーーーー!!!」


真宵は力いっぱい叫んだ。


(ごめんなさい。ごめんなさい。座敷わらしちゃんの忠告を聞かなくてごめんなさい。右近さん、小豆あらいちゃん、誰でもいいから助けて!!)


しかし、掴まれた足は、まるで底なし沼に踏み込んだようにズブズブと地に沈み込んでいく。


「いやーーーーー!!」


もう一度叫んだところで、ふいに足を掴んでいた力が離れた。



「どうした!マヨイどの!」


悲鳴を聞きつけ、店のなかから右近が飛び出してきた。

うしろから、座敷わらしもついて来ている。ほかにも、店の客の妖怪たちもゾロゾロと出てきた。


「だいじょうぶか。マヨイどの。」


「右近さん・・・。」


真宵は右近の腕にしがみついた。

まわりに妖怪たちが集まってくる。


「どうしたんだい?まよいちゃん。なにか、わるさされたのかい?」


女郎蜘蛛が心配そうに声をかけた。


「・・・あ、足を急につかまれて・・・ひきこまれそうに。」


真宵は足を見ると足首にしっかりと指のあとがついていた。

血の気の引いた顔で、座敷わらしを見る。


「ごめんね。座敷わらしちゃん。私、ちゃんと忠告を聞いていれば・・・。」


しかし、座敷わらしは表情を変えず、じっと地面を見つめていた。


「なんじゃ。泥田坊ではないか。」


座敷わらしは言った。

すると、まわりの妖怪が、わらわらと散っていく。

「なんだ、泥田坊か。」

「なによ。泥田坊じゃない。」

「泥田坊だって。ひと騒がせねぇ。」

「泥田坊? なんだつまんない。」


「え? え? え?」


真宵は訳がわからず困惑する。


「おい。泥田坊。お前、マヨイどのを脅かしたのか?」


右近が地面に向かって話しかけると、地面からボコボコと顔が出てくる。


「きゃあ。」


「心配ない。泥田坊はそんな危険な妖怪じゃない。」

右近は真宵をなだめる。


「ゴ、ゴメンナサイだど。」


泥まみれの妖怪は、上半身だけ地中から出て、頭を下げた。


泥田坊どろたぼう

田んぼ仕事で、泥に足をとられて動けなくなったり転んだりするのを妖怪のせいにされたことから生まれた妖怪。

地中から腕や顔を出した状態で動き回るが、下半身は決して地中から出さない。

田んぼ仕事を怠けて、田を荒廃させると、家まで来て仕事をせかす。


「だ、だって、わたし、急に足を掴まれて、引きずりこまれそうになったのよ。」


怖い思いをした真宵は納得できない。


「キュ、キュウじゃないど。ちゃんと声をかけたんだども、きいてくれなかたんだど。」


右近と座敷わらしの視線が真宵に集まる。


「え? あれ? ちょっとまって。」


真宵は記憶をたぐりよせる。

たしか、急に声がして、まわりを見ても誰もいなくて、怖くなって、逃げようとしたら、足を掴まれた。

・・・、たしかに先に声をかけられていた。


「で、でも、声が聞こえて、姿が見えなかったら怖いじゃないですか!」

あらためて抗議する。


「ちゃんと姿は見せてたど。すぐ足元にいたのに、キョロキョロして、見てくれなかったんだど。」


再び、真宵に視線が集まる。


「え?あれ?」


たしか、急に声がして、まわりを見ても誰もいなくて、怖くなって・・。まわりは見た。

足元は・・・・、見なかった気がする。


「で、でも、足をいきなり掴まれたら・・・、怖いじゃないですか。」

再び抗議する。

抗議するが、先ほどより声が弱くなっている。


「ごめんだど。でも、せっかく来たのに、注文もきいてくれなかったら、なにも食べられないんだど。」

泥田坊は泥だらけの頭を、泥だらけの手でさすった。


「注文もとらずに、逃げ出したのか?」

座敷わらしが真宵に聞く。

それだけ聞いたら、接客業の人間としてはダメダメだ。


「・・・だって、まさか注文だなんておもわなかったんだもの・・。」


真宵はだんだん声が小さくなっていく。


「で、でも、だからって、引きずりこまれそうになったのよ、わたし。」


「?? そんなことしてないど。 足をつかんだだけだど。」


「え?でも・・。」


「これじゃろうな。」

座敷わらしが泥田坊のまわりの地面を指差す。


「泥田坊はまわりの土を泥化しながら移動する。泥に足が沈んだのを、引きづりこまれると勘違いしたのじゃろう。」

たしかに、胸元くらいまで地上にでている泥田坊のまわりは、土が泥のようになっていた。ここに足をとられれば、たしかにひきづりこまれると勘違いするかもしれない。


「だって・・・ほんとに・・こわかったんだもん。」

真宵は小さく体をすくめた。


「お、おらも悪かったんだど。おら、店の中にはいれないもんだから、逃げられたら、なんにも食べられなくなるとおもったんだど。だから、つい、足をつかんで、ひきとめてしまったんだど。」


「お店に入れないの?どうして?」


「泥田坊は、迷い家から出入り禁止にされておる。」

泥田坊ではなく、座敷わらしが答えた。


「そうなの?なんで?」


「泥田坊は見てのとおりの、泥まみれの妖怪じゃ。だから、迷い家は中に入れようとせん。あやつは意外と綺麗好きじゃからのう。」


「・・・・そんなことで出入り禁止に。」


迷い家は危険な妖怪は絶対に入れないが、そうでない妖怪はついつい入れてしまう情の深い妖怪だと思っていたが、まさか、そんな理由で出入り禁止にしていたとは。

まあ、迷い家にしてみれば、茶屋の中は体の中も同然なので、たしかに泥まみれの泥田坊はありがたくない存在だろう。


「おら、一度はこの店のおはぎが食べてみたくて。だども、いれてもらえないから、あきらめていたんだ。けんども、今日から、外でも食べられるって聞いて、急いでやってきたんだど。」


「なのに、注文しようとしたら、私が逃げちゃったわけね。ごめんなさい。」


すべてが納得したとき、危うく自分が泥田坊にあらぬ罪を被せてしまうところだったことに気がついた。


「おはぎが食べたかったのね。 ご注文は『おはぎセット』でよかったのかしら?」


「そうだど。やっと、ここのおはぎが食べられるんだど。」


喜ぶ泥田坊に、真宵は微笑んだ。

そして、『おはぎセット』におわびのおまんじゅうをひとつ付けておいた。





読んでいただいた方、ありがとうございます。

オープンテラスはじめました。

裏タイトルとしては、真宵さん冤罪事件をおこしかける。です。

まあ、女性の足をつかんでいるので、まるっきり冤罪ってことでもないんでしょうが。


初登場妖怪としては、泥田坊です。

泥田坊は好きな妖怪さんなので、出したかったんですが、ビジュアル的に飲食店にはいるのはどうか?ということで、出せずにいました。どうやったらだせるかなーと考えて、こういった形になりました。

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