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妖怪道中甘味茶屋  作者: 梨本箔李
第二章 若葉
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49 ボクのおつかい

登場妖怪紹介



『オシラサマ』

『遠野』の古参妖怪のひとり。

『座敷わらし』や『迷い家』とは古い知り合い。

老人の姿の桑の木の妖怪で、農耕や養蚕を司る守り神である。

選択に迷ったときにムシの知らせで教えてくれるオシラセの神様ともいわれる。

四足歩行の獣の肉を供えると祟られるので注意。



妖異界にただひとつ、人間の店主が営む茶屋 《カフェまよい》。

今日はいつもと、若干かわった雰囲気が漂っている。

その理由は、入り口に貼り出された一枚の紙。


  〈本日、柏餅祭り 開催中〉


普段の看板メニューである『おはぎセット』や『まんじゅうセット』は、提供しておらず、三日間だけの特別メニュー『柏餅セット』が用意されている。

客の反応はなかなか好評で、なかにはおかわりする妖怪や、持ち帰りを頼む妖怪もいる。

それもあってか、店内はいつもより多少混雑しているようだ。



「いらっしゃいませー。」


店主真宵の声が店に響いた。

今日は柏餅祭り初日ということで、客の反応が気になり、客席の方で接客の仕事をしている。


「あら、山童やまわろくんじゃない。こんにちは。」


入ってきた客は、会ったことのある妖怪だった。

以前、オシラサマに木屑の調達をお願いしたとき、店まで持ってきてくれた妖怪である。

十才くらいの子供の妖怪で、前髪を長くして左目を隠している。


「こんにちは。まよいさん。」

山童はにっこり微笑んだ。


山童やまわろ

山に棲む子供の妖怪。

髪で片方の目を隠しているように見えるが、もともと一つ目。

握り飯や菓子などのお礼を約束すると、きこりや山菜取りなどの仕事を手伝ってくれる。

先に渡すと、食い逃げされることもあるので注意。


「いらっしゃい。こちらの席にどうぞ。」


真宵は空いている席に案内した。

いつもなら、お客さんの好きな席に座ってもらうのだが、今日は混雑していているので選択肢があまりない。


「まよいさん。忘れないうちに、これ、お返ししておきます。以前、持ってきていただいた水筒です。オシラサマがくれぐれもよろしくと言ってました。」


そう言って、竹でできた水筒と丁寧にたたまれた風呂敷を差し出す。


「ああ。前に燻製につかった木屑のお礼に、座敷わらしちゃんに持って行ってもらったやつね。わざわざ、返しにきてくれたの? ありがとう。」


水筒も風呂敷も、高価なものではないのだが、返しにきてくれるのは、やはりありがたい。


「オシラサマが、また、樹木関係でなにか入用だったら、遠慮なく言ってくれ、とのことです。」


オシラサマには、燻製の木屑だけでなく、餅つき用の立派な杵と臼もいただいている。

真宵はとても感謝していた。


「ふふ。ありがとう。オシラサマによろしくね。また、店のほうにも遊びに来てくださいって伝えてください。」


「ありがとうございます。伝えておきます。・・・あの、それで、お返ししてすぐ、なんなんですが、オシラサマが、《カフェまよい》の茶が飲みたいと言ってまして。できれば、また水筒にお茶の持ち帰りを頼めないでしょうか?」


《カフェまよい》のお持ち帰りはおはぎやまんじゅうや羊羹が主で、お茶のお持ち帰りはやっていない。

魔法瓶などないこの世界では、お茶はどうやっても冷めてしまう。やはり、冷めたお茶というのは風味や味が落ちてしまうのだ。

だが、一部の知り合いや客には、時間を掛けてじっくり抽出した『水出し緑茶』をサービスしている。

常温の水で煎れた緑茶は、ほのかに甘く、苦味少なめで、冷たくしても風味が落ちないので、なかなかの評判だ。

ただ、煎れるのに時間がかかるので、大量には確保できないのだ。


「はい。だいじょうぶですよ。お茶菓子もいっしょに包みますね。今日は、柏餅なんですけど、かまいませんよね?」


「はい。おねがいします。 あ、お会計のほうはちゃんとおねがいします。オシラサマからしっかりいいつけられてますので。」


「ふふ。わかりました。きちんといただきます。」


オシラサマにはいろいろと便宜を図ってもらっているので、ついついサービスしたくなるのが真宵の心中であった。

しかし、あまり度が過ぎると、向こうが気が引けてしまうというのも、わからないでもない。

あまり、意固地にならず、好意に甘えておくべきところは甘えておこう。


「それと、僕の分のお茶とその柏餅をおねがいします。僕は、ここで食べていきます。」


「はい。柏餅とお茶ですね。かしこまりました。」


真宵は笑顔で応えた。





(ふーん。これが柏餅か。)


山童は、興味深そうに柏餅を観察する。


(白い餅と緑色の餅。緑のは草の香りがするな。ヨモギ?)


山童は白い餅のほうを持ち上げる。


「この葉っぱは、食べなくて食べなくてもいいって言ってたな。」


少し、柏の葉をちぎって口に入れる。

たしかにあまりおいしくない。

強力にマズイってわけではなく、ちょっと青みがのこったただの葉っぱというだけだ。

普段から山の中で野草や木の実を食べている山童から言わせると、同じ葉っぱでも、もっとおいしいものがいっぱいある。

(でも、柏はけっこういいにおいがするからな。風味づけにはいいのかもな。)

それに、葉の表面がつるつるしているので、餅がくっつかず、食べやすい。


「あっ。おいしい。」


表面はつるんとしているのに、もっちりしていて、ふつうのお餅みたいなねばりはないが、たしかに餅だ。

中のこしあんは、なめらかでしっかりした甘さを適度な塩味がひきしめている。

(ほんとに、柏は葉っぱだけで、風味だけなんだな。)

パクパクと白の柏餅を全部食べてしまう。

皿には緑色の柏餅と、ちょっとはしっこが千切れた柏の葉が残っていた。

(こっちの緑色のほうは・・・・、やっぱりヨモギだ。)

緑色の方の餅には、たっぷりとヨモギが練りこまれていた。

たぶん、きちんとアクを抜いているのだろう。ヨモギの苦味と香りはしっかり伝わってくるが、エグみはまったくない。

(でも、これって、柏餅っていうより、蓬餅だよね。・・・まあ、おいしいから、どっちでもいいんだけど。)

たしかに、柏はくるんであってかすかに風味はついているが、葉をはがして食べると、ヨモギの香りや味のほうが強い。

(こっちのほうは、中身がつぶあんなんだ。芸がこまかいな。たしかに、ヨモギの苦味とあわせるならワイルドなつぶあんのほうがあってるかも。)

おなじ柏餅なのに、食べた印象が全然違う。白いのは滑らかで繊細で、緑色のは草の匂いがして素朴な感じだ。

(それにしても、不思議なお餅だなー。もう冷たくなっているのに全然かたくなってない。)

普通のもち米の餅なら、ここまで冷めているとかたくなっているはずだ。

(どうやってつくっているんだろう・・・。材料が違うのかな?)

山童は疑問に思いながらも、最後の一口まで、柏餅を堪能した。




「ごちそうさまでした。とっても、おいしかったです。」


山童は代金を渡すと、真宵から、オシラサマに頼まれた品を受け取った。


「はい。じゃあ、オシラサマによろしくね。」


「はい。お伝えしておきます。」


山童はかるくお辞儀をする。


「あ。そうだ。まよいさん。うちの山にも柏の樹はたくさんあるんですよ。もし今度、柏餅をつくるときに必要でしたら、採ってきますので、お言い付けください。」


「あら。じゃあ、今度頼もうかしら。おかげさまで、柏餅は評判いいみたいだから。」

真宵は微笑む。


「はい。ぜひ。  あ、その時はお安くしておきますので、ご安心ください。」


「うふふ。それは、うれいしいわね。」


「はい。なんだったら、お菓子とお茶の現物支給でもかまいませんよ。」


そう言って、山童は店をあとにした。




「どうした?マヨイ。」


山童を見送った真宵が、少しぼぅっとしているのを見て、座敷わらしが聞いた。


「ううん。山童くんて、まだ小さいのに、しっかりしているなぁっておもって。」


嫌味でなく本当に感心していた。

妖怪で見た目の年齢がどれほど意味があるのかわからないが、少なくとも山童はそれほど年を重ねた妖怪には思えない。


「山童は、山の仕事を手伝って、駄賃をもらっていた妖怪だからな。いまも、オシラやほかの妖怪の使いや手伝いをして駄賃を稼いでおる。まあ、働き者の妖怪じゃな。」


「へぇ。うちの小豆あらいちゃんといい、山童くんといい、妖異界の子供妖怪っていうのは、しっかりしているのねぇ。」


真宵はさらに感嘆の声を上げた。

そして、座敷わらしの顔をじっと見る。


(まあ、みための年齢よりしっかりしていると言えば、座敷わらしちゃんが一番そうなんだろうけど。)


「なんじゃ?わしの顔になにかついておるか?」


「ううん。なんでもないのよ。なんでも。」




『座敷わらし』

小さな童女の姿をした妖怪。

家にとり憑き、幸運と繁栄を与えるといわれている。


みためは幼いが、『遠野』に棲む妖怪のなかでも『もっとも古い妖怪のひとり』である。



読んでいただいた方、ありがとうございます。

今回の妖怪は「山童」でございます。

山童は、いろいろ各地におはなしがあるみたいですが、大きく分けるとふたつで、

ひとつは十歳くらいの子供のみための妖怪。

もうひとつは、垢だらけで、風呂にはいると、脂が浮いて超くさい妖怪。

・・・とうぜん、このおはなしにでてくるのは前者のほうをモデルにしてます。

ただでさえ、山童は一つ目で全身毛だらけだといわれているのに、そのうえ垢だらけの加齢臭って・・、それははたして、わらしなの? ってかんじです。 おっさんなんじゃ?


このおはなしにでてくるのは、普通の少年設定です。一つ目ですが、毛むくじゃらでも臭くもありませんので、よろしくおねがいします。

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