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妖怪道中甘味茶屋  作者: 梨本箔李
第二章 若葉
46/286

46 休日の過ごし方2

登場「人物」紹介


シンタロウ

人間界の真宵の家のある町の青年。ただの人間。

米農家の長男で、過疎化する町をなんとか盛り上げようと、町おこしや青年団の活動をしているナイスガイ。

真宵の祖母とも面識があり、なにかと真宵を気にかけてくれる。

真宵のことは、週末のたび、祖母の家のある田舎に遊びに来る変わり者だと思っている。

28歳 独身。

いま欲しいものは、かわいい嫁さん。

朝が来る。

いつもは、仕込みのため夜が明ける前に、起床する真宵まよいであるが、今朝は、窓から差し込む朝日を感じて目が覚めた。

「うーん。よく寝た。」

いつもより、幾分とゆっくりした睡眠に満足を感じながら、身体を起こす。

畳の上に敷かれた布団。古い天井。しかし、窓にはガラスのがはまり、電灯がぶら下がり、テレビや携帯電話充電器など、家電製品がおかれている部屋。

そう。ここは妖異界ではない。

人間界の、日本の、真宵の部屋である。

今日は、土曜日。

今日と明日は、《カフェまよい》は定休日である。

月曜日から金曜日までは妖異界で、土曜日と日曜日は人間界で。

真宵は開店以来、ずっとそんな生活を送っていた。




「さぁ。今日も一日、はりきっていきますか。」

真宵は自分に話しかけた。

休日といっても、やることはたくさんある。

まずは、いつもの朝市だ。

簡単な食べ物を売る屋台などもでているので、朝ごはんも食べられるし、店につかう野菜なんかも安く買える。

妖異界でも手に入れられるものはあるが、野菜というのは、意外に近代になってから外国から入って来たり、品種改良されたものも多い。

最近調べて知ったのだが、ジャガイモやタマネギでさえ、本格的に日本に広まったのは明治時代以降らしい。

妖怪の中には、ジャガイモをはじめて食べたひともいたくらいだ。

なので、やはり店で使う食材の多くは人間界からの持ち込みに頼らざるを得ない。




「やあ、まよいちゃん。おはよう。」


「おはようございます。シンタロウさん。」


いつものように、朝市を探索していると、いつものように声を掛けられた。

青年団のシンタロウだ。

まだ五月なのに真っ黒に日焼けした肌の好青年だ。

実家で農家をしながら、町おこしだ青年団だ町内会だと、忙しくやっている。

基本は米農家であるが、あいた土地でいろいろな野菜を作っており、この朝市には毎週のように直売所をだしている。それがまたおいしくて安いので、真宵は必ず立ち寄るようにしている。


「今日は、いつもよりひとが多いですね。」

真宵は挨拶がてらに聞いた。

少子高齢化の波を受け、過疎化のすすむ田舎のそのまた田舎の町であったが、この週末の朝市は意外と人気があり、地元のひとはもちろん、近隣の町からも車で訪れる客も多い。


「ああ、やっぱりゴールデンウィークだからかな。連休もそろそろ終わりだし。」


「え?ゴールデンウィーク? あ、そうか。」


本日は、五月の初週の土曜日。

ゴールデンウィークも佳境にはいるまっただなかである。

人間界と妖異界を行き来しているので、曜日はしっかり意識しているのだが、昨今の祝日とかにはとんと疎くなっていた。

妖怪には、学校も試験もないと歌っていた某有名アニメがあったが、妖怪さんにはゴールデンウィークもなかった。


「そうですよねー。ゴールデンウィークですもんねー。そりゃあ、ひとも多いですよねー。あっ、新牛蒡おいしそう。」


少々白々しく話題を変えようとする。


「そういえば、まよいちゃん、このG.Wはどうしてたの?」


「え?どうしてたって、どうもしてないですよ。いつもどおり・・・、って、いつもの感じでいつものように、まあ、ふつうに、ふつうのG.Wを過ごしてましたよ。」


いきなりの質問に、しどろもどろになって、わけのわからない返答をしてしまう。

シンタロウはちょっとおかしそうに笑う。

問い詰めたりしたいわけではなさそうだ。


「いや、この四日五日の二日間、青年団で催し物をやったんだよ。それで、もし、まよいちゃんが連休中、こっちにいるなら見に来ないかなぁっておもってたんだけど。」


「五日って昨日までですよね?」


「ああ。もう終わっちゃったんだけどね。それで、この前、まよいちゃんの家・・っておばあさんの家ね。に行ったんだけど。」


「え?家に来てくれたんですか?」


「ああ。でも家には誰もいないみたいだったんだけど・・・。」


「え、ええ。G.Wはこっちには来てなくて・・・。っていまもG.Wだっけ? えと、だから、そ、そう。今日、今日の朝、来たんです。それで、土日はこっちで過ごそうかなって。」


さらにしどろもどろになって、誤魔化す。

シンタロウには、週末だけ田舎の祖母の家に来て過ごす変わり者の娘だと思われている。というか、そういう風に説明していた。

まさか、週末以外は妖怪の世界で仕事してます。とは言えない。

祖母の家は、田舎のさらに田舎の山の中の一軒屋なので、ほとんど人も訪ねてこない。

そのおかげで、かなり苦しいこの設定でもなんとか誤魔化せてこれたのだ。


「ああ、そうなんだ。 それでね? まよいちゃん家に行ったときに、家の前に車が停まっていてさ・・。」


「え?」


ギクリ。と胸が鳴った。

車。 真宵が祖母の家に越してくる前に買った中古の自動車だ。

田舎で移動手段がないのはきついのと、店の買出しの野菜やら肉やらを運ぶのにも人力ではつらいので、貯金をはたいて買ったのだ。

当然、妖異界には持っていけないので、平日は家の庭に放置されている。


「だから、あ、まよいちゃん来てるんだー。って思って、ノックしたんだけど、誰も出なくてさ。」


しまった。

真宵は心のなかでつぶやいた。

まさか、あの山の中の一軒屋に知り合いが訪ねてくるとは思っていなかった。

(せめて、裏庭に隠しておけば・・。でも逆に不振がられるかしら?)


「え、ええ。実は、先週来たとき、ちょっと車の調子が悪くって、置いて行ったんです。電車、そう電車で帰ったんです。」


とりあえず、でまかせを言って誤魔化す。


「そうなんだ?大変だったね。車だいじょうぶ? あとでちょっと見てあげようか?」


「い、いえ、大丈夫です。もう直ったみたいで、今日も乗ってきているんですよ。なんか、勝手に直っちゃったみたいで。ええ、もう絶好調です。」


だんだんどつぼにはまっている気がした。

嘘に嘘を塗り固めるとはこういうことなのだろう。

これ以上、ボロがでないうちに、何とか話を変えようと試みる。


「そ、そういえば、青年団の催し物ってなんだったんですか?」


「え?ああ、いろいろだよ。婦人会のおばちゃんたちが民謡歌ったり、踊ったり。俺は青年団で太鼓たたいたし。」


「へぇ。シンタロウさん、太鼓たたけるんですか?」


「まあね。子供の頃からやってるし、祭りとか催し物でもよくたたいてるしね。」


まんざらでもない顔をするシンタロウに、真宵はここぞとばかりに畳み掛けた。


「へぇー。残念。シンタロウさんの太鼓たたくとこ見たかったなぁ。うーん残念。昨日来てたら、絶対見にいっていたのに。惜しかったなぁ。」


「え?そう? そうか。それはおれも残念だったな。そうだ。また、夏祭りでも太鼓たたくからさ。そのときは、絶対見にきてよ。」


「えー、絶対行きます。夏祭りかぁ。楽しみだなぁ。夏かぁ。はやくこないかなぁ。あ、そろそろ行かなきゃ。また、帰りにお野菜買いに来ますね。それじゃ。」


「あ、ああ。待って・・るよ。」


真宵は手を振ると、そそくさとその場を後にした。




(ふう。なんとか誤魔化せた・・・かな?)

まさか、車でアシがつきそうになるとは。

やはり、裏庭に隠しておくのが賢明だろうか?

それとも、車はずっとここに置いて、電車で遊びに来ている設定にするべきか?

しかし、それだと、駅で見かけたことがない。と言われたら、弁明しようがない。なにしろ田舎の田舎駅なのだ。乗り降りしている人間はたかが知れている。

(なんか、まるで逃亡犯か潜伏している犯人みたい。)

真宵は、重いため息をついた。

いつもより少しひとの多い朝市のなかをぶらぶら歩く。

いつもなら、来週のメニューに必要なものを買い漁っているのだが、まだ動揺がおさまっていないのか、なかなか何から買えばいいのか頭が回らない。

と、すると、真宵の目にあるものが映る。

この朝市では、あまり見かけたことがないものだ。


「おじさん! これってもしかして。」


真宵は野菜やら山菜やらの商品が並んでいる中の葉っぱを指差した。

それは手のひら大のおおきな葉っぱで、何十枚も重ねて一束にしている。


「ああ、これかい? これは柏の葉だよ。家の庭に古い柏の木があってね。ほら、もう柏餅の季節だろ? 欲しいひともいるかと思って、ちぎって採ってきたんじゃ。まぁ、最近じゃあ、あまりじぶんのとこでつくる家も少なくなってるから、そんなには売れないんだけどね。」


おじさんは、笑って言った。

しかし、真宵は真剣であった。


「おじさん、これってそのままつかうの?」


祖母のレシピノートに柏餅そのものの作り方は書かれていた。

だが、祖母も柏の葉はどこからかもらってきたか買ってきていたようで、葉のほうは細かくは書かれていなかった。


「え? ああ。そのまま水でさらしてつかってもいいけど、軽く湯で熱を通したあと水で洗ったほうが、アクが抜けるね。保存したいなら乾燥させるか、塩漬けにする方法もあるけど・・・。お嬢ちゃん、自分で柏餅つくるのかい? 若いのに感心だねぇ。」


「ええ。これっていくらなんですか?」


飛びつきたいところではあるが、そうはいかない。

経営者としては、コストや売値も計算しないといけない。

真宵の目がキラリを光った。


「えーーと、一束五十枚くらいあるから、二百五十円かな。」


「安い! いいの?こんなにいっぱい束になってるのに。」


単純計算で一枚五円だ。


「まあ、ただの葉っぱだからね。日干ししたのや、塩漬けにしたやつは手間の分もう少しもらうけど、これは、ちぎってきただけだからね。」


「買う!買います! 」


真宵は前のめりになって、詰め寄った。


「ありがとよ。えーと、一束でいいかい?ちょっと多いかな?。」


「いえ、全部ください。」


「五十枚束になってるけど、いいのかい?」


「いえ。そうじゃなくて、そこにある柏の葉、全部ください。」


おじさんは驚いて目をむいた。


「全部って、一、二、三、四・・、全部で八束、四百枚もあるんだよ?」


「ええ。それ全部ください。」


おじさんは、目を白黒させながら真宵を見た。


「お嬢ちゃん。お店でもはじめるのかい?」


真宵は、是とも否とも言わずにっこりと微笑んだ。







読んでいただいた方、ありがとうございます。

ひさしぶりの人間界の休日話です。

妖怪さんは登場しません。

たまにはいいんじゃないでしょうか?

あと、おわかりのかたも多いでしょうが、次回は柏餅のおはなしです。

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