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妖怪道中甘味茶屋  作者: 梨本箔李
第二章 若葉
44/286

44 試練3

アクセスしていただいた方、ありがとうございます。

今回のおはなしは 一章 07 試練 と連動しています。

お読みでない方、内容を忘れた方は、07 試練 を読んでいただいてから本文のほうに進まれることをお勧めしてます。(短いので、短時間で読めると思います)

面倒だと思われた方は、下の 登場妖怪紹介だけでも目を通していただけるとありがたいです。

よろしくおねがいします。


登場妖怪紹介

 『天邪鬼』

鬼族の子供。

小さいが角と牙を持つ立派な鬼。

ひとのやることにいちいち反対したり、自分が思っていることの反対を口にしたりとけっこう面倒くさい妖怪。

《カフェまよい》にあらわれては、へそまがりな言動で真宵を困らせているが、実は店の大ファンであったりする。


飲食業にはトラブルが付き物だ。

なにしろ、毎日、何十人ものお客を相手にするのだ。

お客にもそれぞれ個性があり、何度も通ってくれる常連をいれば、初めて来店するものもいる。

同じメニューを食べ続ける客もいれば、毎回違うものを注文するものもいる。

気軽に話しかけてくる客もいれば、注文するとき以外、一言も発せず黙々と食べる客もいる。

無論、満足して帰ることもあれば、不満を残して後にすることもあるだろう。

そんな、多種多様の客の対応をするのだから、そう一筋縄ではいかないのが、接客だ。

それは、妖異界でもおなじこと。

これは、人間の営む甘味茶屋で働きはじめた烏天狗の、《試練》のおはなしである。




「いらっしゃいませ。お好きなお席にどうぞ。」


右近はいつもどおり、来店した客を席へと誘導しようとした。

店に入ってきたのは、小さな子供、小学生の高学年くらいにみえる妖怪だ。

彼の頭には、角が一本はえていた。よくみると、口元にはちいさな牙が覗いている。鬼族の子供だ。


彼は『天邪鬼あまのじゃく』。

ひとの反対のことをやりたがり、気持ちとは真逆のことを言いたがる、ちょっと面倒くさい妖怪だ。


「あーあ、今日は奥のテーブルに座りたかったのになあ。」

天邪鬼が言った。

いつものことだ。窓際の席が満席なら窓際に座りたいと言い、奥の席が埋まっていれば奥の席に座りたいという。天邪鬼の天邪鬼なわがままだ。

いつもの真宵ならここで困った顔をするところだが、今日は相手が違った。


「そうですか。残念ながら、奥のテーブルは満席です。またの来店をお待ちしています。」


右近は、軽く礼をとると、仕事に戻ろうとする。

天邪鬼はあわてて右近を引き止める。


「ちょ、ちょっと待って。」


「なにか?」


「こ、この店は、お腹の空いたお客を追い出すのかい?」


右近は不思議そうな顔をする。

天邪鬼が何が言いたいのか理解できない。


「追い出すつもりはない。だが、奥のテーブルは空いていない。ほかの席で妥協するか、いったん退店して出直すか、決めるのは客である君だ。」

皮肉でもなんでもない、真面目に右近はそう言った。


「し、しかたないね。今日は、この席で我慢しようかな。」

天邪鬼はいつものペースを乱されて動揺していた。

とりあえず、手近な席に座って、陣取る。

いきなり、追い返されてはたまらない。


「そうか。それはよかった。」

右近にしてみれば、相手のペースを乱すつもりも、追い出そうとする意図もなく、普通に接客しているつもりなのである。


「今日のランチはなんだい?」


天邪鬼が尋ねた。

これも、天邪鬼がいつも使う手で、ランチがすでに終わっている時間に来て、ランチを食べたがるのだ。


「申し訳ない。今日のランチはすでに完売しています。」


「えー? 今日はランチを食べにきたのになぁ。」


天邪鬼は不満をぶつける。

しかし、右近は動じず、あくまで真面目に返す。


「そうですか。残念です。ランチはこの時間にはたいてい売り切れてますから、もう少し早い時間におこしすることをおすすめします。それでは失礼します。」


右近はさっさと席を去ろうとする。


「ちょ、ちょっと待って!」

あせって右近を引き止める。


「なにか?」


「ふ、ふつうは、ランチが売り切れなら他のものをおすすめするんじゃないの?」


「ランチを食べにきたお客に、食べたくもない菓子をお勧めするのは礼儀に反すると思ったんですが、お勧めしたほうがよかったですか?」


いたって真面目に右近は聞いた。

そう言われると、天邪鬼も返答に困った。


「そ、そうだね。せっかく来たから、何も食べないで帰るのはもったいないな。甘いものでも食べていこうかな。」


「そうですか。それはよかった。ご注文はお決まりですか?」


「なにかおすすめはあるかい?」


「おすすめですか? 『おはぎセット』がおすすめです。」


「今日のおはぎはなんだい?」


「今日のおはぎはつぶあんと胡麻です。」


「ええー。こしあんが食べたかったのに。」


「残念です。今日はつぶあんと胡麻です。」


「ちぇー。」


「・・・・・。」


「・・・・・。」


「・・・・・ねえ?」


「はい?」


「他のものはおすすめしないの?」


「『おはぎセット』をすすめました。」


「それがうまくいかなかったら、ほかにすすめたりしないの?」


「?? おすすめとは、自分が一番自信をもって提供できる品を提示することですから、あれもこれもおすすめしていては本末転倒だと思いますが。」


右近はいたって真面目に答える。

天邪鬼はまったく自分のペースがつかめない。


「じゃ、じゃあ、『おはぎセット』にしようかな。ホントは他に食べたいものがあるんだけど。」


「他に食べたいものがあるのなら、それを注文すべきだとおもいます。もし、それがこの店にない品でしたら、どうぞ、他へ行っていただいてかまいません。」


「え? で、でも・・。」


動揺する天邪鬼を、右近は真面目な顔でさらに詰める。


「うちの店には、どうぞお気遣いなく。希望の品を提供できないのはうちの問題ですので、お客様は、どうぞ遠慮なく、お好きな店でお好きなものを食べてください。またのご来店を心よりお待ちしております。」


右近がまっすぐな瞳で天邪鬼を見つめる。

追い出そうとか困らせようなどとは全くおもっていない真摯な眼差しだ。

出て行くつもりなど毛頭ない天邪鬼は、冷や汗をかいた。

追い詰められた天邪鬼は、おもわず普通に注文してしまう。


「い、いや、『おはぎセット』がいい。『おはぎセット』が食べたくなった。『おはぎセット』をひとつおねがい。」


「そうですか? かしこまりました。少々お待ちください。」


注文を終えた天邪鬼は、なぜかぐったりしていた。






「はい。これ御代です・・・。」


天邪鬼は代金を支払うと、とくに何も言わず帰っていった。



「あら?天邪鬼さん来ていたのね?気がつかなかったわ。」


厨房から出てきた真宵は、右近に聞いた。


「右近さん、天邪鬼さんの接客は大丈夫でした?わがまま言われたりしませんでした?」


「ああ、いろいろと希望があったみたいだが、我慢して受け入れてくれたようだ。心の広い客だな。別段、クレームのようなことも言われなかったが。何か?」


「ううん。だったらいいの。気にしないで。」


(あら、天邪鬼さん、今日は機嫌でもよかったのかしら?)


真宵は首をかしげた。




《カフェまよい》 店員 右近


真面目すぎて融通の利かない性格は、接客業にはあまりむいてないが、どうやら天邪鬼には天敵であるらしい。


読んでいただいた方、ありがとうございます。

天邪鬼 再登場です。

漫画でも小説でも、ひねくれものキャラ、けっこう好きです。



先日、感想をいただきました。

とても励みになります。ありがとうございました^^。

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