表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖怪道中甘味茶屋  作者: 梨本箔李
第二章 若葉
39/286

39 夜雀再び

登場妖怪紹介


『夜雀』

体長五十センチメートルほどのコロコロした身体をもつ雀の妖怪。

夜にしか出没せず、山道などを歩くと、チィチィチィと雀のような鳴き声とともに、目の前が真っ暗になる現象を引き起こす。

昼間に出歩くことができないため、《カフェまよい》に来店することができず、真宵の好意で、毎週水曜日の夜に、持ち帰りのお菓子を買いに店を訪れる。


詳しくは 19 夜の侵入者 をお読みください。


妖異界にただひとつ、人間の店主が営む茶屋 《カフェまよい》。

開店は、中天より少し前、午前十一時くらい。

閉店は、日没前となるため、季節により多少変わる。

古参の実力妖怪が多く、比較的治安の良い『遠野』であっても、日没後はタチの悪い妖怪が出没しやすいということで、日が暮れる前の閉店が慣習となっている。

とはいえ、何事にも例外は付き物で、日没後に訪れるものもいないわけではない。



コンコン。


《カフェまよい》の入口がノックされた。

閉店後、すでに、入口には鍵が掛けられている。


「こんばんわー。」


小鳥が鳴くように高く、子供のように舌ったらずな声が聞こえる。

厨房でいた店主の真宵は、新人従業員の右近に声を掛ける。


「あら、たぶん夜雀ちゃんね。右近さん、ちょっと入れてあげてくれる?」


「夜雀? 夜雀が来てるのか? この店に?」

右近は意外そうに問うた。

『夜雀』はさほど危険な妖怪ではないが、夜しかでない妖怪なので、昼限定で営業している《カフェまよい》とは無関係だと思っていた。実際、客として通っていたときも出くわしたことは一度もなかった。


「ああ、右近さんは、初めてですよね。 毎週水曜日の夜に来ているんですよ。お持ち帰り専門なんですけど。」

真宵は微笑んだ。


「そうなのか。なら、入れてもかまわないんだな?」


「はい。入れてあげてください。」


それを聞いて右近は、入口へと向かった。




夜雀が、店の前で待っていると、カチャカチャと鍵を開ける音がして、ガラリと戸が開いた。

てっきり、真宵が開けてくれたのかと思ったが、そこにいたのが、長身の男性妖怪だったので、夜雀はおもわず飛び退いた。


「チュチュン?!」


警戒する夜雀に、右近は無表情で語りかける。


「夜雀だな。話は聞いている。どうぞ、入ってくれ。」

右近からすれば、丁重に案内したつもりだったのだが、そのかたい表情と、夜雀の三倍以上ある身長差のせいで、かなりの威圧感を感じさせた。


「お、おじゃまします。」

夜雀は萎縮しながら、オズオズと店内に入る。


「あ、夜雀ちゃん、いらっしゃい。」

厨房から顔を出した真宵が、声をかける。


「こんばんは。いつもお世話になります。」

夜雀は礼儀正しく、ペコリと頭を下げた。


「いいのよ。こちらこそ、いつもごひいきにしてもらって、ありがとう。今日は、おはぎにしたんだけど、よかったかしら?」

夜雀はいつも閉店後の来店のため、あらかじめ真宵が適当な品を見繕っている。


「はい!おはぎ、だいすきです。」

夜雀は喜んで答えた。


「えーと、いちおう、六個用意したんだけどどうする? 多すぎるなら、二個でも四個でも、かまわないのよ。」

六個入りおはぎは、《カフェまよい》のお持ち帰りの定番だ。

一部の妖怪が買い占めたりしないように、常連が決めたローカルルールなのだが、いつのまにやら完全に定着していた。

しかし、小さな夜雀が食べるには、少々多いようにも思われる。


「だいしょうぶです! ぜんぶたべられます。」


「そう? おまんじゅうと違って、おいておくと固くなっちゃうわよ?」


「へいきです! かたくなるまえに、たべられます。」

夜雀は一歩も引かない構えだ。


「わかったわ。じゃあ、包んであげるからちょっと待っててね。」

真宵は笑顔で返すと、厨房に戻った。


「椅子に座って、待っているといい。すぐにできるだろうから。」

右近も、そう言うと厨房に入っていった。


夜雀は言われたとおり、チョコンと飛び上がり椅子に座る。

ひとり客席に残されて、落ち着かない様子でキョロキョロしてると、厨房のほうからなにやらよい匂いがしてくる。


(・・いいにおいだな。お菓子じゃないよね? ご飯かな? どんなごはんだろう?)


昼に来店できない夜雀にとって、《カフェまよい》のランチは手の届かない存在だ。

噂では、ときどき聞くものの、味や内容については想像がつかない。

夜雀は、椅子を降りるとこっそり厨房のほうに忍び寄る。


(ちょ、ちょっとだけ、覗いてもいいかな? 覗くだけならいいよね?)


夜雀がそっと、厨房を覗こうとしたとき。


「なにをやっておるんじゃ?夜雀。」


「ピイィィィィィイイイ。」


突然、後ろから座敷わらしに声をかけられ、夜雀は飛び上がるほど驚いた。


「なになに?どうしたの?」

真宵が騒ぎを聞きつけでてきた。


「ごめんなさい。ごめんなさい。」

夜雀が半分腰を抜かしてしゃがみこんだまま、頭を隠して謝っている。


「こやつが、なにやらコソコソ覗いておったのじゃ。」

座敷わらしがうそぶいた。


「ごめんなさい。ごめんなさい。なにかいい匂いがしたから気になって。覗こうとしただけです。なにもたくらんでません。」

ひたすら謝っている。


「べ、べつにいいのよ。そんなに謝らなくても。 ああ、においは賄いの準備してるからね。・・そうだ、よかったら、夜雀ちゃんも食べていく?」


「え?いいんですか?」

おもわぬ誘いに、夜雀が色めき立つ。


「よいのか? あまり甘やかすとつけあがるぞ?」

座敷わらしが釘を刺しにくる。

こころなしか、座敷わらしは夜雀にあたりがきつい。

というか、いじめて楽しんでいる節がある。


「もう。イジワルいわないの! どうせ、試食会も兼ねているんだから、いろんな妖怪さんから、意見が聞きたいわ。さあ、入って。賄いはいつも厨房で食べてるのよ。」




「はい。おまちどうさま。今日の賄いは『親子丼』よ。」

真宵は、皆の前に丼を並べた。

前はもう少し簡単なもので賄いをすませていたのだが、最近はもっぱらランチメニューの試食会と様相を変えていた。

右近という従業員が増えたおかげで、注文を受けてから焼いたり揚げたりできるようになり、提供できるメニューの幅が増えた。

すぐにとはいかないが、ランチタイムのあとも簡単な食事を提供する計画もある。

『親子丼』もその候補である。

鶏のもも肉と卵、それに玉葱というありふれた組み合わせだが、店でよく使う食材でつくれるのはいい。

本来は最後に三つ葉をそえるのだが、今回は店になかったので、青葱をすこし使ってみた。


「夜雀ちゃんも、遠慮せず食べてね。」

真宵は隣にいる夜雀に微笑んだ。

そして、皆で手を合わすと、試食会がはじまった。


「ウマイ。ウマイゾ!マヨイ。」

最初に感想を言ったのは小豆あらいだ。

勤労少年妖怪の小豆あらいは、よく働き、なんでも好き嫌いなくよく食べる。


「鶏肉もやわらかくて美味いが、このたまごが、なんというかトロンとして絶品だな。」

料理人志望の烏天狗右近はひとくちひとくち確かめるように、親子丼を食していた。


「おいしいです。おいしいです。こんなのはじめてたべました。」

素直に感動しているのは、夜雀だ。

ちいさな羽根のついた手で、どんぶりを持ち上げ、懸命にかきこんでいる。


それを見ていた座敷わらしが夜雀に話しかける。

「のう。夜雀よ。この料理がなぜ親子丼といわれるか知っておるか?」


「しらないです。」

夜雀は首を振る。


「この料理はな、鶏肉と鶏卵がつかわれておる。つまり鶏の親とその子供である卵をつかっておるから親子の丼なんじゃ。」

これは、夜雀が来る前に、真宵が座敷わらしたちに教えた知識である。

しかし、座敷わらしはそこに真宵が言っていない話を付け加える。


「だからの。親子丼をつくるときには、必ず卵を温めている母鶏が選ばれる。いつ生まれるかと指折り数えておる母鶏を卵と引き離し、悲痛に泣き濡れるのを絞めにかかるのじゃ。母鶏は最後にひとめ我が子に会わせてくれと懇願するが、再会できるのはおいしく調理された丼の上というわけじゃ。だから、親子丼を食べるときは、成仏できぬ怨念がまわりに漂い、食事するものに・・・。」


「ピィィィィィイイイイイ。」


夜雀が耳を塞いで鳴きだした。


「座敷わらしちゃん! そんな怨念めいた料理じゃありません! 大丈夫よ、夜雀ちゃん。鶏さんと卵は別にほんとの親子じゃないし、卵も無精卵だから、どんなに温めても孵らないのよ。」

真宵がなだめると、夜雀は落ち着いて、残りの親子丼を食べだした。


(まったく、もう。座敷わらしちゃんたら、なんで夜雀ちゃんをからかうのかしら? だいたい、親子とかそんなこと考え出したら、なにも食べられないじゃない。・・・あれ?)


真宵は、ふいにあることを思いついて、不安になった。

恐る恐る夜雀に尋ねる。


「よ、夜雀ちゃん、いまさらなんだけど、鶏肉とか卵とか食べても問題なかった、、、のよね?」


夜雀は質問の意味がわからず、キョトンとする。

「鶏肉もたまごも、だいすきですけど。どうかしましたか?」


「ううん。ならいいのよ。ぜんぜん。気にしないで。」

真宵はほっと息をつく。

しかし、正面に座っている右近を見て、また不安になる。

(う、右近さんて、カラスの妖怪さんなのよね? いつも人間の姿だから忘れていたわ。)

一度みせてもらった、真っ黒なカラスの顔を思い出す。


「あ、あの。右近さん。つかぬことをお聞きしますが、鶏肉とかって、食べるの好きだったりします?」

少々、気が動転しているせいか、おかしな質問になる。


「?? 鶏肉か? 別段、好物ってわけでもないが・・・。ああ、でも、この前、マヨイどのが作ってくれた『鶏の唐揚げ』は最高だったな。無論、この『親子丼』もうまい。」


「そ、そうですか。 ちなみに、ともぐい、とかって気にしたりは・・。」


「ともぐい?」

右近は首をかしげる。

意味が良くわからないみたいだ。


「い、いえ。いいんです。気にしないでください。ええ、ほんと。オホホ。」

真宵は、笑って誤魔化した。


(そうよね。いくら鳥の妖怪さんだからって、べつに鶏肉がタブーってわけないわよね。それだったら、いままで店に来たお客さんから、なにか言われてるわよね。いままで、そんな話、一回も・・・・。あれ?)


真宵は、さらに思い出して青くなる。


(オシラサマ! オシラサマって、たしかお肉もたまごも駄目だったわ。やっぱり、妖怪さんにも共食いとかタブーなんじゃ・・・あれ?)

真宵はまた思い出した。


(オシラサマって、たしか桑の木の妖怪だったはずよね? お肉関係ないんじゃ・・・あれ?)

また、なにかを思い出す。段々混乱してくる。


(私、オシラサマにナッツの燻製あげちゃったんだけど・・、あれって木の実よね? 木の妖怪さんからすれば子供みたいなものなんじゃ? あれ? 子供は種になるのかな? あれ?ナッツって実だっけ?種だっけ?)


完全に混乱し、パニック寸前の真宵であったが、ピタッと考えるのをやめた。


(よし! 気にしないことにしよう!)


考えたところで、今更どうにもならないし、食べられないものはむこうから申告してもらうのを期待しよう。

真宵はそう結論付けた。

気を取り直して、自分の親子丼を口へと運ぶ。



でも、もし鶏の妖怪さんがきたら、鶏肉の料理ってだしてもいいのかしら?


そんな疑問を心の片隅に抱えながら。





読んでいただいた方ありがとうございます。

妖怪としては夜雀の再登場です。

裏テーマとしては妖怪にともぐいはあるのか?ですかね。

まあ、鷹とかカラスは、他の鳥を襲って餌にしたりしますから問題ないとはおもいますが、夜雀が雀を食べていいかとなると微妙ですね。

とりあえず、真宵さんとおなじく 「気にしない」でおこうとおもいます。


たぶん、猫妖怪のねこまたさんが玉ねぎの入った料理とかも食べたりしますが、「猫にたまねぎ食べさせちゃだめ!」とかのつっこみはご容赦ください^^;

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ