281 幕間劇 白い狐とおひなさま3
古都の一角、白萩邸と名付けられた邸宅に白狐が帰り着いたのは、もうかなりの夜更けだった。
見張りの衛士と宿直の狐以外は皆、床に就いている。
寝ずに主人の帰りを待っていた妖狐たちが、白狐のまわりに集まってくる。
「おかえりなさいませ、白狐様。首尾はいかがでした?」
行灯の光に照らされた部屋で、ひとりの妖狐が尋ねた。
「うーん。まあまあね。稲荷寿司は火曜と木曜の二日だけ売り出されるんだって。持ち帰りもできるみたいよ。けっこう早めに売り切れるらしいから、使いを出すときは注意しなさい。」
「さすがは白狐様!どうやって情報を仕入れたんですか?」
「・・・秘密よ。それは教えてあげない。」
「ええー。白狐様、最近、秘密主義ですよねー。」
「そうよねー。私達にも教えてくださらないなんてねー。」
「あれ?白狐様、なんかいい匂いのするものもってます?」
「・・・鼻が利くわね。」
今はニンゲンの姿に化けていても、狐は狐。
鼻は野生の鼻だ。
白狐が持っている菓子の匂いを、しっかり嗅ぎつけていた。
「しょうがないわね。少しだけわけてあげるわ。」
そう言って白狐は小さな包みを取り出した。
そっと口を開くと、なかから三色のアラレが顔を出す。
「うわぁ。かわいい!」
「これ、食べ物なんですか?」
「みたことない、こんなの!」
妖狐たちは、白狐の持つ包みに群がる。
「騒がないで!他のものが起きちゃうでしょ。屋敷の狐みんなにわけてあげられる量はないの。あなたたちだけよ。内緒。いいわね?」
「はぁい。」
「やったぁ。寝ずに待ってて、よかったわぁ。」
「明日、皆に自慢しよう。あ、言っちゃダメなんでしたっけ?」
喜ぶ妖狐たちにそっとひなあられを配る。
「あ!アタシ、そのピンクのがいいです!」
「わたし、緑のがいい!」
「私も!」
三色あるアラレに妖狐たちは興味津々だ。
「静かにって言ってるでしょ! わかったから。」
白狐は五人の妖狐たちにそれぞれ三色のアラレを一粒づつ配る。
「これで文句内でしょ。みんなそれぞれ三粒ずつ。」
「はぁーい。」
「わあ。おいしそう。これアラレなんですね。」
「こんなカワイイのはじめて見たわ。」
「あ!食べたら、口の中でとけちゃった!」
「ホントだ!サクって噛んだら、消えちゃったわ!」
ひなあられを頬張りながら、妖狐たちはキャッキャキャッキャとはしゃいでいる。
「ああん。もうなくなっちゃった。白狐様。もう少しくださいな。」
「あ!私も!」
「だ、ダメよ!」
白狐は慌てて、包みを閉じると懐に隠す。
「ええー。いいじゃないですか、もうちょっとだけ。ね?」
「そうそう。まだ残ってるじゃないですか? みんなで食べましょう。」
「ダメったらダメ! このお菓子は売ってないやつなのよ! なくなったらもう手に入らないんだから!」
「ええ?そんなのどうやって手に入れたんですか?」
「売っていないって、ソレ、あの《カフェまよい》のやつじゃないんですか?」
「え?ええと。。。。。」
どこから説明したらいいのか、どこまで言っていいのかわからず、白狐は言葉に詰まる。
「と、とにかく、あげるのはそれだけ! いいわね!」
白狐はいそいそと立ち上がると、さっさと自分の部屋の方へと消えていった。
「ちぇー。白狐様のけち。」
「それにしても、おいしかったわね。あのアラレ。」
「ええ。あんなに軽い食感のお菓子はじめて。」
「ああん、もう一回食べたいのにー!」
残された妖狐たちは、すでに胃の中に消えてしまったひなあられの味の余韻に、後ろ髪を引かれるのであった。
読んでいただいた方ありがとうございます。
前回の続きでございます。
ちょっと短いです。おまけってことで^^;。
次回から、ちょっと趣向が変わって幕前劇です。
あのお姉さまがニンゲンだったときのおはなしです。




