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妖怪道中甘味茶屋  作者: 梨本箔李
第十二章 土筆
281/286

281 幕間劇 白い狐とおひなさま3


古都の一角、白萩邸ハクシュウテイと名付けられた邸宅に白狐が帰り着いたのは、もうかなりの夜更けだった。

見張りの衛士と宿直の狐以外は皆、床に就いている。

寝ずに主人の帰りを待っていた妖狐たちが、白狐のまわりに集まってくる。



「おかえりなさいませ、白狐様。首尾はいかがでした?」


行灯の光に照らされた部屋で、ひとりの妖狐が尋ねた。


「うーん。まあまあね。稲荷寿司は火曜と木曜の二日だけ売り出されるんだって。持ち帰りもできるみたいよ。けっこう早めに売り切れるらしいから、使いを出すときは注意しなさい。」


「さすがは白狐様!どうやって情報を仕入れたんですか?」


「・・・秘密よ。それは教えてあげない。」


「ええー。白狐様、最近、秘密主義ですよねー。」


「そうよねー。私達にも教えてくださらないなんてねー。」


「あれ?白狐様、なんかいい匂いのするものもってます?」


「・・・鼻が利くわね。」


今はニンゲンの姿に化けていても、狐は狐。

鼻は野生の鼻だ。

白狐が持っている菓子の匂いを、しっかり嗅ぎつけていた。


「しょうがないわね。少しだけわけてあげるわ。」


そう言って白狐は小さな包みを取り出した。

そっと口を開くと、なかから三色のアラレが顔を出す。


「うわぁ。かわいい!」

「これ、食べ物なんですか?」

「みたことない、こんなの!」


妖狐たちは、白狐の持つ包みに群がる。


「騒がないで!他のものが起きちゃうでしょ。屋敷の狐みんなにわけてあげられる量はないの。あなたたちだけよ。内緒。いいわね?」


「はぁい。」

「やったぁ。寝ずに待ってて、よかったわぁ。」

「明日、皆に自慢しよう。あ、言っちゃダメなんでしたっけ?」


喜ぶ妖狐たちにそっとひなあられを配る。


「あ!アタシ、そのピンクのがいいです!」

「わたし、緑のがいい!」

「私も!」


三色あるアラレに妖狐たちは興味津々だ。


「静かにって言ってるでしょ! わかったから。」


白狐は五人の妖狐たちにそれぞれ三色のアラレを一粒づつ配る。


「これで文句内でしょ。みんなそれぞれ三粒ずつ。」


「はぁーい。」

「わあ。おいしそう。これアラレなんですね。」

「こんなカワイイのはじめて見たわ。」

「あ!食べたら、口の中でとけちゃった!」

「ホントだ!サクって噛んだら、消えちゃったわ!」


ひなあられを頬張りながら、妖狐たちはキャッキャキャッキャとはしゃいでいる。


「ああん。もうなくなっちゃった。白狐様。もう少しくださいな。」

「あ!私も!」


「だ、ダメよ!」


白狐は慌てて、包みを閉じると懐に隠す。


「ええー。いいじゃないですか、もうちょっとだけ。ね?」

「そうそう。まだ残ってるじゃないですか? みんなで食べましょう。」


「ダメったらダメ! このお菓子は売ってないやつなのよ! なくなったらもう手に入らないんだから!」


「ええ?そんなのどうやって手に入れたんですか?」

「売っていないって、ソレ、あの《カフェまよい》のやつじゃないんですか?」


「え?ええと。。。。。」


どこから説明したらいいのか、どこまで言っていいのかわからず、白狐は言葉に詰まる。


「と、とにかく、あげるのはそれだけ! いいわね!」


白狐はいそいそと立ち上がると、さっさと自分の部屋の方へと消えていった。


「ちぇー。白狐様のけち。」


「それにしても、おいしかったわね。あのアラレ。」


「ええ。あんなに軽い食感のお菓子はじめて。」


「ああん、もう一回食べたいのにー!」


残された妖狐たちは、すでに胃の中に消えてしまったひなあられの味の余韻に、後ろ髪を引かれるのであった。



読んでいただいた方ありがとうございます。

前回の続きでございます。

ちょっと短いです。おまけってことで^^;。


次回から、ちょっと趣向が変わって幕前劇です。

あのお姉さまがニンゲンだったときのおはなしです。


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