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妖怪道中甘味茶屋  作者: 梨本箔李
第一章 桜
27/286

27 モチツキキネツキ続続続 再び七人

人間界とは別の妖怪たちの棲む世界、妖異界。

ひょんなことから異世界で甘味茶屋を営むことになった真宵まよい。


剣も魔法もつかえません。

特殊なスキルもありません。

祖母のレシピと仲間の妖怪を頼りに、日々おいしいお茶とお菓子をおだししています。

ぜひ、近くにお寄りの際はご来店ください。

        《カフェまよい》  店主 真宵


本日は餅つき大会を実施しております

餅つきはまだ続いていた。

店主真宵は、いまのうちにと、減った醤油や大根おろしを補充する。

甘いもの中心の甘味茶屋なので、餡子主体で構成していたが、意外に醤油と海苔の磯部餅や大根おろしと醤油のからみ餅が人気だ。

(これは、普段のメニューも考え直したほうがいいかしら? あまいもの好きじゃないひともいるかもしれないし、ランチが終わった後も、軽食っぽいメニューもあったほうがいいかもね。)

そんなことを考えながら、テーブルの上を整頓する。



「まよいどの。なにか手伝おうか?」

烏天狗の右近は、真宵に近づいた。


「あら、だいじょうぶですよ。いま、なかでお餅をまるめてもらっていますし、せっかく来たんですから、右近さんとお友達と楽しんでください。」

真宵は微笑む。


「ああ、知り合いとは、さっき話してきた。それにしても、さっきの見上げ入道と一つ目入道の餅つきは、なかなかの迫力だったな。」


「ええ。すごかったですね。力強いっていうか、力任せっていうか、おいしいお餅がつけてそうですよね。・・・あれ?」


「まよいどの?」


真宵が、会話の途中で、何かに気づいて遠くを見つめる。

右近は真宵の視線の先をたどり、あるものに気がついた。


「あいつら。。」


動こうとした右近を、真宵が制す。


「だいじょうぶですよ。ただのお客さんですから。」

ニコッと笑顔をつくる真宵に、右近は顔をしかめる。


「まよいどの、あいつらは・・・。」


「だいじょうぶです。 失礼なことしちゃダメですよ。」

子供に言い聞かせるように念を押すと、真宵は店内へと入っていった。



店内では、餅をちぎり、丸める作業が続いていた。

働いているのは『座敷わらし』『ふたくち女』『天井さがり』。

天井さがりは天井から逆さにぶらさがったままで器用に餅を丸めている。


「みんな、ごくろうさま。 わるいんだけど、先に七つだけお餅いただいてもいいかしら?」

店に入ってきた真宵は、開口一番そう言った。


「なんだマヨイ。ひとりで七個も食うのか?」

天井さがりが茶化す。


「あら、まよいさんだって、ひとりで七個くらい食べられますよ。ねえ?」

ふたくち女は本気だ。


「いいえ。あたらしいお客さんが来たんです。ちょっとワケアリのお客さんなんで、先に食べさせてあげたいんです。」


「・・・・。」

座敷わらしは、七個という数字でなにか察したらしく、真宵を抗議めいた視線で見つめている。


「そんな顔しないの。心配ないんだから。」

真宵は優しく声を掛けるが、座敷わらしはぷいっと顔を背ける。


「・・・別に何も言っておらん。」


真宵はちょっと困った顔をしながら、餅を皿に七つのせると、それを持ってまた店の外へと出て行った。




真宵は皿を持ったまま、どんどん店から離れていく。

そして、立ち止まると大きな声で叫んだ。


「七人ミサキさーーん!! そんなとこにいないで、こっち来てくださーーい!」


後ろからついてきていた右近は、苦々しく忠告する。


「まよいどの。七人ミサキって妖怪は・・・。」


「わかってますよ。出会った人間を事故で死なせてしまう危険な妖怪さんなんでしょう? でも、そんなつもりで来ているんじゃないとおもいますよ。もともと海や河で彷徨っている妖怪さんなんでしょう?」


真宵が見ると、森の影に隠れていた人影が、ゆっくりとこちらへ歩いてきていた。

一列に並び、ここから見ると、電車ごっこかムカデ競争のようだ。

彼らは真宵の近くまでたどり着くと、ピタリと足を止め、一定距離を保ったまま、話し始める。


「・・・申し訳ない。招待もされてない我々が、こんなところまでノコノコとやってこられる道理はないのだが・・。」

七人ミサキの先頭の人物はバツが悪そうに、頭を下げる。


「なに言っているんですか。来てくださってうれしいですよ。ほんとはご招待したかったんですけど、どうやってご連絡していいかわからなくて。」

真宵は餅ののった皿を差し出す。


「今日は、七つの味で食べられるように用意したんですよ。ちょうど七人ミサキさんの数と同じだったので、全種類もってきました。喧嘩しないように食べてくださいね。」

真宵はくったくなく笑う。


「ええと、直接は触れたりしないほうがいいんでしたっけ。・・・右近さん、すみませんが、これ、七人ミサキさんに渡していただけませんか?」


「ああ。」

右近は真宵から皿を受け取ると、七人ミサキの先頭に渡した。


「ありがたい。」

七人ミサキは深々と頭を下げた。


「お餅は、すぐ硬くなっちゃうんで、早めに食べてくださいね。」


「わかった。感謝する。・・・それでは、このような祝い事に我々がいては、迷惑がかかる。早々に消えるとしよう。本当に世話になった。」


「そんな。迷惑なんかじゃないですよ。 それに、またお店のほうにもいらしてくださいね。 店内は無理でも、お持ち帰りならいつでもご用意できますので。


真宵の言葉にも、心にも偽りはなかった。本気でそう思っていた。

七人ミサキは、それには言葉で返そうとせず、ただ、すこし、哀しそうな笑顔を浮かべると、その場から消えていった。



「・・真宵どのは七人ミサキに同情しているのか?」

右近は尋ねた。


「え?同情とかじゃないですよ。そりゃあ、水の事故で亡くなられたことには心が痛みますけど・・。」

「では、なぜ、あそこまでするのだ? 人間にとっては、七人ミサキなど、もっとも忌避すべきタイプの妖怪だとおもうが・・。」


「うーん。そこまでする・・って感覚じゃないんですよね。あの妖怪さんが、私に何かしようと思って近づいてきたのなら、別ですけど、ただ、おはぎやお餅が食べたくて来てるだけでしょう? だったら、料理を作る側の人間としては、普通にうれしかったりするんですけど・・・・、変なんですかね?」


逆に聞き返されて、右近は戸惑った。

右近からすれば、変といえば変なのだ。

だが、右近は料理人でも菓子職人でもない。だれかに食べ物を作ることに喜びを感じる人間の感情は、よく理解できない。

理解できないものを、理解できないという理由で、おかしなことだと断じるのは、何か違う気がする。


「まあ、座敷わらしちゃんにも、あまりいい顔はされてないんですけどね。」


真宵はちょっと困った顔をしてみせる。

しかし、パッと表情を変えると、向きを変える。


「さぁ。そろそろ、お餅が出来上がる頃ですよ。はやく行かないと無くなっちゃうかもしれませんよ。」



餅つきの宴はまだつづいている。












読んでいただいた方、ありがとうございます。

餅つき大会がつづいてます。

今回ちょっと短めです。

実は、次回の分といっしょに書いたのですが、ちょっと雰囲気が違いすぎるので分けました。

七人ミサキをだすと、どうしてもおはなしが暗くなってしまいます。

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