263 幕間劇 商売繁盛、揚げもってこい
252話の後日談です。
妖異界のなか、もっともおおきな都である『古都』。
大妖怪、白面金毛の妖狐『九尾』が治めている。
その一角に評判のよい豆腐屋が一軒があった。
妖怪『豆腐小僧』が営む豆腐屋である。
「おおおお。これは、なかなか乙な味でやす。」
店の主、『豆腐小僧』は揚げたての油揚げを頬張りながら、味の感想を述べた。
「が、頑張りました。か、《カフェまよい》のまよいさんが丁寧に教えてくれて。」
そう言ったのは、この油揚げを揚げた妖怪『油すまし』だ。
油すましは先日まで、《カフェまよい》に油揚げの作り方を教えてもらうため、短期修行に行っていた。
特訓のおかげで、自分でも納得のいく油揚げを作れるようになったと、自負している。
「うーん。これなら、前みたいにクレームが殺到することもないでやすね。」
「へ、へえ。それなんですけど、い、稲荷寿司をつくるときには、油抜きってのをやらないとおいしくならないそうで。前につくったのが、評判悪かったのは、そ、そのせいもあるみたい・・です。」
「そうなんでやすか?」
「へ、へえ。なんで、こ、今回は、油抜きの仕方を教えてから売るか、あらかじめ、あ、油抜きをしたものを別に売るか、し、したほうがいいと思うんです。」
「ふむ。」
豆腐小僧は腕を組んで考え込む。
「・・・でも、それって手間やコストがかさむんじゃないでやすか? いやでやすよ。経費は安いほど、儲けは多いほど、いいでやすからね。」
商売人らしいことを言って、口を尖らせる。
「い、いえ。あ、油抜きはたいした手間もかからないし、経費も・・・。ゆ、湯を沸かす薪代くらいのもんです。」
「ほう。そうでやすか。それなら、いいでやすね。そうしましょう。」
経費がかからないと聞くと、コロッと態度を変えて、豆腐小僧が笑う。
「そ、それで、問題はこの油揚げをいくらで売るかなんですが・・・。」
「うーん。それなんでやすよねえ。狐妖怪さんたちは油揚げが大好きでやすし、かなり、売り上げは見込めると思うんでやすが・・。」
豆腐小僧は頭を悩ませる。
「たしか、ウチの木綿豆腐一丁で、四枚の油揚げが作れるんでやしたっけ?」
「へ、へえ。そ、それ以上薄くすると、破れやすくなるから、これくらいがいいだろうって、ま、まよいさんが・・。」
「とすると・・。」
「で、でも、豆腐の四分の一の値段ってわけには、い、いかないですよね?」
「あたりまえでやす!」
豆腐小僧が語気を強める。
「手間だってかかってるし、油代や薪代だってかかるんでやす。そんなことしたら大赤字でやす!」
「へ、へえ。」
「・・・、それに、あの店に収める分は割引価格にするって約束してしまったでやすからね。そのぶんの儲けもなんとかひねり出さないといけないでやす。いっそ、高級油揚げってことで、高値で売るってのもひとつの考えでやすね。」
豆腐小僧がちょっと悪い商売人の顔になる。
「あ、あの・・。」
「なんでやす?」
油すましは言いにくそうに口を開く。
「あ、あんまり、暴利な商売をすると、き、狐妖怪さんに睨まれるんじゃあ・・・。」
それを聞いて、また豆腐小僧の顔色が変わる。
「そうでやすよねえ。『古都』で商売している以上、狐さんの機嫌を損ねるわけにはいかないでやす・・。」
店のある『古都』は狐妖怪の都。
棲んでいる妖怪は多種多様だが、その支配者はまぎれもなく『九尾』率いる狐妖怪たちだ。
そこで、狐妖怪を敵にまわすのは都全体を敵にまわすに等しい。
それでは客商売など続けていけるはずなどないのだ。
「うーん。なんとかならないでやすかねえ。」
「あ、油揚げの件は『黒狐』さまも噛んでいることですし、あ、あまり危ない橋は渡らないほうが・・。」
「うーん。そうでやすねえ。」
商売人豆腐小僧は利益としがらみを天秤にかけ、頭を悩ませるのであった。
読んでいただいた方ありがとうございます。
幕間劇でございます。
豆腐屋さんコンビの営業会議ってとこでしょうか。




