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妖怪道中甘味茶屋  作者: 梨本箔李
第十一章 薄氷
261/286

261 宴2

登場妖怪紹介。

『琴古主』

筝の付喪神。

筝の腕は名人級で、花街の妓女たちにも教えている。

普段節制している反動か、一度食欲に火がつくと止まらないタイプ。



妖異界にただひとつ、人間の店主が営む茶屋 《カフェまよい》。

定休日は土日。

正月や盆などを除き、基本的に平日は営業日となっている。

しかし、今日は特別に店主である真宵の誕生日を祝う宴が開催されていた。




「あの踊っていたの、右近さんだったんですか?」


先程、唄と和楽器の演奏にあわせ、見事な舞を演じていた人物。

面霊気の面を付けていたので、誰だろうとは思っていたのだが、まさか右近だとは思わなかった。

目の前で、装束姿の右近を見てもまだ信じられないくらいだ。


「・・・。まあ、そうとも言えるし、そうじゃないとも言える。」


「??」


よくわからない返答に真宵は頭を傾げた。


「ほっほ。ありゃあ、わしが踊っていたようなもんなんじゃあああ。」


右近の右手にある面霊気が笑う。


「それってどういう?」


「踊っていたのは右近じゃが、右近を動かしていたのは面霊気じゃからな。」


隣にいた座敷わらしが言う。


「面霊気はかぶったものを操ることが出来る。元々、面とか化粧は別人格になるためのものでもあるからの。」


「別人・・・。」


「ニンゲンでも、化粧をしたり面を付けたら別人のように性格が変わったり、憑依されたように振舞う役者なんかがおるじゃろう?」


「ああ。たしかに。」


そういう話はたまに聞く。

舞台なんかでトランス状態になったり、自分じゃない誰かになったような不思議な感覚に陥るのはプロの間では珍しいことではないらしい。


「じゃから、実際踊っていたのは右近じゃが、その出来云々は面霊気のおかげじゃな。まあ、不器用な右近に、あのような舞が舞える道理があるまい。」


座敷わらしの一言に、右近は顔を一段と不機嫌にする。


「で、でも、かっこうよかったですよ。右近さん。」


それも、面霊気のおかげと言ってしまえばおしまいだが、実際素晴らしかったのもまた事実だ。


「最初は、マヨイどのの祝いに何か贈るつもりだったんだがな。だが、マヨイどのがモノを欲しがっているのをあまりみたことがないし、こちら世界の特別な宝は人間界には持ち出せない決まりだからな。あまり特殊なものを贈っても意味がないかと思ってな。」


「手元に残るものが無理なら、心に残るものをなにか考えようと言うことになった。」


右近の言葉に座敷わらしが続けた。


「それで、休みの日に色々相談していたらな。この面霊気がどうしても、舞台で舞と音楽を贈れとうるさくてな。」


「芸ほど、心に残る贈り物はないんじゃぞおおおおお!」


また面霊気が叫んだ。


「それで、仕方なくやることになったんじゃが、これまた右近が唄が下手でのう。」


一同がドッと笑う。


「お、俺はこういった芸事は苦手なんだ!」


「右近のウタはひどかったゾ!」


小豆あらいがケタケタ笑った。


「それで、金長が唄、右近が踊りを担当することになった。ちょうど、面霊気を使えば、どんな不器用者でも、それなりに踊れるからのう。」


「わしのおかげなんじゃああああ!!!」


言われてみれば、以前、面霊気がもう一度舞台に立ちたいと懇願していた。

その時は、とても叶えられそうにない願いなので、あっさり流したのだが、こういったかたちで叶えられて、面霊気はご満悦だ。

真宵もなにより、皆が自分のためにあれこれ考えてくれたのが、なにより嬉しい。


「ふふ。素敵でしたよ。面霊気さんも右近さんも。もちろん、他のみなさんも。ありがとうございます。こんな素敵なプレゼント、一生忘れないと思います。」


右近達が舞ったのは面霊気の面の名前と同じ『おきな』という題目だ。

おめでたい時にだけ舞う特別な舞である。

真宵にはそこまではわからない。内容すらほとんど理解できていない。

だが、それでも心から感動できた。



「おおい。そろそろ、飯に手をつけてもかまわんかのぉ。」


そう言ったのは大きな身体をした猿妖怪『狒狒ひひ』だった。


「わしら、腹が減って、倒れそうだじょう。」


相方の『猩猩しょうじょう』も大げさにお腹をさする。


「ああ。そうだな。どうぞ、皆、食ってくれ。」


「おお。」


「やっと、食えるじょう。」


右近の言葉に、多くの妖怪が歓声を上げた。


「そう言えば、こんなたくさんの料理、右近さんと金長さんで作ったんですか?」


真宵は、テーブルに並べられた料理を見渡す。

から揚げ、フライ、煮物、ロールキャベツ、おでん、様々な料理が大皿で並べられていた。

自分達で取り分けられるようにした立食形式だ。

この人数の腹を満たすのだから量は当然だが、種類も豊富でとても二人だけで作ったとは思えない量だ。


「ああ。夜中から寝ないで作ったからな。マヨイどのに教わったものばかりだが、それなりにうまくできていると思う。あとで、味をみてくれ。」


「ええ。楽しみだわ。」


真宵はテーブルの一角に、以前、論争になった『ポテトサラダ』が二種類並べられているのを見て、つい顔が綻んだ。

あのとき引き分けにおわったのが、まだ二人とも納得していないのかと思うと、おかしかった。


(意外と根に持っているわね。)


それだけ自分の舌と味に自信を持っているのだから、あながち悪いことでもない。

今日は人気投票するわけではないので、決着はつかないだろうが、お互い負けまいと真剣に作ったのだろう。

ぜひ、あとで両方とも味見させてもらおう。



「ああ、言い忘れるところだった。今日の料理の食材は店のものを使わせてもらったが、安心してくれ。今日集まった妖怪から会費を貰っているので、赤字になるようなことはない。」


「ええ?」


いきなりお金の話が出て驚いた。


「お、お金とっちゃってるんですか?」


「ああ。」


当然、とばかりに右近が言った。


「祝いの席だからと多めに包んでくれる妖怪も多くてな。おかげでそれなりに利益も出た。勝手に店を休みにして申し訳ないと思っていたんだが、店に迷惑がかかるようなことにはならなくてよかった。」


「そんな。お金なんかよかったのに・・。」


こんなお祝いをしてくれただけで大満足なのだ。

料理の材料費くらい、店で出してもかまわなかったのだ。

真宵は皆に申し訳なく思った。


「ふふ。そんなこと気にしなくってもいいのよ。みんなまよいちゃんになにかしてあげたかったんだから。お祝いくらい包ませてちょうだい。」


そう言ったのは『骨女』だった。


「そうだぜ。それに、ちゃんとモトはとるつもりだしな。」


笑いながら言ったのは『河童』だ。

手には好物の『きゅうりのぬか漬け』をしっかりキープしていた。


「そうですか? じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいますね。」


ここにきてお金のことであれこれ言うのも無粋だろう。

皆の気持ちというのなら、素直に感謝するのがいいのかもしれない。



「さて。じゃあ、前座も終わったことだし、ほんとの舞ってものみせてあげましょうかね。」


そう言って女郎蜘蛛が前に出た。


「ぜ、前座じゃとおおお?」


右近が持っている面霊気は不満そうに言ったが、その声は周りの妖怪の声にかき消された。


「おおお! 女郎蜘蛛。あんたが舞うのかい?」


「ふふふ。私だけじゃないわよ。」


そう言うと、すっと骨女と毛娼妓が出てきた。


「おおおおおおお!!まさか三人で? こりゃあたまげた。こんなのそうそう見れるもんでもないぞ。」


「ふふ。今日は特別よ。他ならぬまよいちゃんのためですもの。花街の三美女の舞。とくとごらんあれ。」


「おおおおおおおおおおおお!!!」


大きく歓声が上がった。


花街の三美女。

それぞれひとりを宴に呼ぶだけでも、目玉が飛び出るような金額が発生する。

それが三人揃い踏み。どこぞのお大尽でもそうそう見られるものではない。

それが無料で観られるというのだから、妖怪達は大騒ぎだ。


「琴古主先生。伴奏をお願いできます?」


筝の妖怪である琴古主は、一心不乱に料理を口に運んでいた。

いきなり、話を振られて喉を詰まらせそうになる。


「ん。ゴホゴホッ。・・あら。ワタクシとしたことが・・。ええ。もちろんですわ。おまかせください。すぐ用意しますわ。・・・あっ!その、鶏肉のやつはワタクシのですよ! 手をつけないでくださいまし!」


自分の料理を確保しておいてから、琴古主は再び筝の用意にはいった。


「まよいちゃん。ちゃんと観ていてね。」


妖異界に名を轟かす花街の三美女。

その舞に《カフェまよい》の店内は大きな熱気に包まれたのだった。





「ふふ。こんな素敵なお誕生日、初めて。」


いままでも両親や友人に祝ってもらったことはあったが、ここまで大勢集まったのは生まれて初めてだ。

三美女の優雅な舞を堪能した後も、いろんな妖怪が虚空太鼓の太鼓の音に合わせて踊りだしたり、歌いだしたりと賑やかだ。

右近たちが用意した料理も好評で、皆、満足しているようだった。


「さて。ちょっと失礼しますね。」


そう言って真宵が席を立つ。


「どこか行かれるのですか?」


金長の問いにニッコリ笑う。


「ええ。私も何か見繕って、一品つくってきます。」


「料理をですか?」


「マヨイ。今日はおぬしが主役じゃぞ?」


座敷わらしも呆れた言い方だ。


「うん。でも、なにかお礼がしたくって。冷蔵庫にあるもので簡単なのをつくってくるわ。」


言葉以外でなにか返そうとすると、真宵には料理くらいしか思いつかなかった。


「ちょっと、待っていてね。すぐ、戻ってくるから。」


真宵はそう言って、厨房の方へと消えていった。


「あいかわらずだな。マヨイどのは。」


「ええ。真宵殿らしいです。」


右近と金長の言葉に、思わず妖怪たちの笑みがこぼれるのだった。





読んでいただいた方、ありがとうございます。

前回の続きでございます。

予定ならあと数回つづいて、右近達の舞台を書くつもりだったんですが、無理だと悟って、早々に切り上げました^^;。

次回から幕間劇です。

あと、関係ないですが、楽器関係の妖怪を探していたとき思ったんですが、意外と笛の妖怪っていないんですよねー。

自分がみつけられなかっただけかもしれませんが。

琵琶関係は意外と多いのに。


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