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妖怪道中甘味茶屋  作者: 梨本箔李
第一章 桜
25/286

25 モチツキキネツキ続

人間界とは別の妖怪たちの棲む世界、妖異界。

ひょんなことから異世界で甘味茶屋を営むことになった真宵まよい。


剣も魔法もつかえません。

特殊なスキルもありません。

祖母のレシピと仲間の妖怪を頼りに、日々おいしいお茶とお菓子をおだししています。

ぜひ、近くにお寄りの際はご来店ください。

        《カフェまよい》  店主 真宵


本日は餅つき大会を実施しております

餅つき大会は続いていた。


現在、臼と杵で餅をついているのは『てなが』と『あしなが』。

手水は『女郎蜘蛛』がやっている。

だがこの三人、相性が悪いというか、テンポが悪いというか、ギクシャクギクシャクしてうまくつけていない。

てながは、手が長すぎて、臼からかなり離れた位置から、杵を振り上げている。

リーチが長いせいで、一回一回のインパクトはすごいのだが、コントロールが悪く、臼の縁を引っ掛けたり、杵を振り上げた反動でよろめいたり、とにかくテンポが悪い。

あしながはあしながで、長い足せいで臼よりはるか高い場所にいるため、杵を振り上げても、その力をうまく臼に叩きつけることができない。少し離れてみたり、膝をついたり、中腰の姿勢でやってみたりと、いろいろ工夫してみてはいるが、どうやってもうまく力が入らず、つくたびにへっぽこな音を辺りに響かせている。

そして、そんなふたりのふがいない餅つきを間近で見て、イライラをつのらせているが女郎蜘蛛だ。

ふたりのつくタイミングが、バラバラなせいで、うかつに手水をいれようとすると、指ごと餅をつかれそうになる。


「ああ、もう! あんたたち、なんかこう、ポンポンポン、って、調子よくつくことできないのかい?」

女郎蜘蛛がたまらず、不満をぶちまけた。


「むむー。この杵なんか使いにくいっテ。もっと、長い腕になじむ杵はないのかっテ。」


「この臼、低くて使いにくいシ。もっと背の高い臼はないのかシ?」

てながとあしながはブツブツと文句を垂れ流す。


「あんたたちの身体に合った道具なんて、そうそうあるわけないだろう! ブツクサ言ってないで、ちゃんとしな!」



「なんだか、盛り上がってますねぇ。」


すこし引きつった笑顔を浮かべながら真宵は言った。

手には大きなトレイに餅をのせた皿を並べている。


「いいのか? だれか他のやつに代わらせたほうがいいんじゃないのか?」

隣で手伝っている烏天狗の右近が応える。


「ええ。お餅はつきかたが下手でも、食べられなくなるわけじゃありませんし、みんなでワイワイ楽しんでもらえれば、それが一番だと思いますので。」

真宵は微笑んだ。


「そうゆうものなのか?」


右近にはいまいち理解しがたい。

どちらかといえば合理主義な右近にしてみれば、うまいものをうまく作って、美味しくいただくほうが良いようにおもえる。

しかし、真宵には真宵の考えがあるのだろう。

この人間の娘はそこまで合理主義でも儲け主義でもないことはわかっていた。

《カフェまよい》のメニューはどれもお手頃で、あれだけ人気でも値上げしたり高値で売りつけたりしない。

今日の餅つきにいたっては、完全にサービスで、一円の金も受け取ろうとはしなかった。

つまり、餅をつけばつくほど、妖怪たちが食べれば食べるほど、店的には赤字になるわけなのだが、真宵は満足そうに働いている。

右近には理解しがたい反面、とても興味深い。



「あれ?MAYOI! まだ餅残ってるのかYO!」

「MAJI?おれら、まだたべれるZE。クレYOYOYO!」


ふたりの青年が、真宵が餅ののったトレイを持っているのをめざとく見つけ、寄ってくる。

ひとりは真昼間なのに、提灯をぶら下げており、もうひとりは、きれいな春空なのに唐傘をさしている。

『化け提灯』と『唐傘お化け』である。

ふたりとも人間の青年のような姿をしているが、実はこれは分身で、本体は彼らの持っている提灯と唐傘である。

いったいどこで仕入れてきたのか知らないが、おかしなラッパー言葉でしゃべり、着ている着物も、いったいどこの民族衣装ですか?と尋ねたくなるような、派手な柄と色使いである。


「だめですよー。これは、店の中で働いてくれている人達の分です。」

真宵は、笑顔を絶やさないままで、ピシャリと言った。


「チェッ。おれらも食い足りないのにYO。」

「BOOOO!」


「お餅はついただけじゃ食べられないんですよ。裏でもち米を洗ったり、蒸したり、お餅を丸めたりしてくれるひとがいるから、美味しく出来上がるんです。 もう少ししたら、いまついているぶんが食べられますから、ちょっと我慢してください。」

真宵は、ふたりをたしなめながら、トレイを店内へと運んでいった。



「みなさん、おつかれさまです。 次のお餅がつきあがるまで、少し時間があるとおもうので、この隙に食べちゃってください。」


「ああ。待ってましたわ。」

「やっと、きたか!」


大喜びなのは、『ふたくち女』と『天井さがり』だ。

ふたりとも、今日は餅を丸める手伝いをしてくれていた。


「味付けは、適当に見繕ってきちゃいましたけど、いいですよね?」


外に食べに行ってもらってもいいのだが、あまりゆっくりしていると、次の餅がつきあがってしまう。あまり悠長にもしていられないのだ。


「ええ、どれもおいしそうです。」

「オイラも好き嫌いはない!」

ふたりは餅を目の前に大はしゃぎだ。


「ほら、座敷わらしちゃんも、一緒に食べちゃって。」


「わしもか?」


「今のうちに食べちゃわないと、食べ損ねちゃうかもよ。」


「わかった。もらう。」


三人の妖怪は、それぞれ自分の餅に舌鼓を打つ。


「それじゃあ、みなさん、このあともお手伝いよろしくおねがいしますね。」

真宵は笑顔で言うと、右近とふたり厨房へと入っていった。



「小豆あらいちゃんおつかれさま。お餅持ってきたわよ。」


厨房に入ると、そこでは、小豆あらいが忙しそうに働いていた。

今日、つかわれているもち米を仕込んでいるのは小豆あらいだ。

真宵がホスト役をしているので、ある意味一番忙しくしているのは彼なのかもしれない。

しかし、当の小豆洗いにしてみれば、小豆や米を洗うのは大好きなので問題なかった。


「マヨイ、そろそろ次のもち米が蒸しあがるゾ。」

かまどに設置された蒸し器を指して、言った。


「ほんとう?じゃあ、それは私がやるから、お餅食べてていいわよ。みんな、まだまだ食べそうだから、休憩しておかないとへばっちゃうわよ。」


「ワカッタ。 餅食べるゾ。」

小豆あらいは真宵から餅を受け取ると、うれしそうにかぶりついた。


「さあ、ぬらりひょんさんも、食べてくださいね。」


真宵は厨房にいたもうひとりの妖怪に声を掛けた。

蛸のような大きな頭をした老人、『ぬらりひょん』だ。

普段は、常連として客席にいるぬらりひょんが今日は厨房で割烹着を着て働いていた。


「ふん。」


ぬらりひょんは真宵からひったくるように餅の皿を取る。

その姿を奇妙に感じた右近は、真宵に尋ねた。


「ぬらりひょんも手伝いをしているのか?」


「ええ。」

真宵は笑顔で答えたが、ぬらりひょんは苦虫を噛み潰したような顔だ。


「無理矢理、手伝わされとるんじゃ。」

ぬらりひょんは不満げに言う。


「むりやり?」


「もう!ひとぎきの悪い。ぬらりひょんさんが、食い逃げするからでしょう? なんでもするから許してくれってゆうから、今日のお手伝いを頼んだんじゃないですか!」


食い逃げやつまみ食いを繰り返す、迷惑な常連ぬらりひょんは、何度目かの出入り禁止を真宵と『迷い家』から言い渡されそうになり、今日の手伝いを条件に許してもらうこととなった。


「そのジジィ、あんまり役に立ってないゾ。」

小豆あらいが茶化した。


「ええい。うるさいわい。だいたいなんでワシがこんな小僧の助手なんじゃい!」


「あら、小豆あらいちゃんは開店以来ずっと、小豆やもち米の仕込みを手伝ってくれてるんですよ。いまじゃ、ひとりで下拵えできるんだから。ねえ?」


小豆あらいは、フフンと胸を張った。


「さあ、そろそろもち米が蒸しあがる頃ね。右近さん、ちょっと手伝ってもらっていいですか?」


「ああ。」


右近が返事をする。

それを見て、ぬらりひょんが言う。


「なんじゃ。おぬしも食い逃げして手伝わされておるのか?」


右近は不快そうに、顔をしかめた。


「あんたと一緒にするな。」



真宵と右近は協力して、蒸したてのもち米を、店外まで運ぶ。

蒸したてのもち米は火傷しそうなほど熱々で、もくもくと湯気を立てている。

真宵はもち米を臼のなかに入れて、まわりの妖怪たちに呼びかける。


「はーい。次にお餅ついてくれるのはだれですかー?」


すると、女郎蜘蛛が続けて言った。


「今度は、ちょっと骨のあるやつらがついてよね。もう、へなちょこのついた餅はごめんだよ。」


妖怪たちから、ドッと笑いが起きる。

先ほど、女郎蜘蛛といっしょに餅をついた、てながとあしながは、頭をかきながらつぶやいた。


「女郎蜘蛛はきついっテ。」

「わしらも、がんばったんじゃシ。」



そんなことをしていると、ドスン、と大きな地響きが起こる。


「そんなら、わしらにつかせてもらおうかのう。見上げの。」

「そうじゃのう。わしらならうまい餅をついてみせようぞ。一つ目の。」


真宵や妖怪たちが隠れてしまうような、大きな人影が近づいた。


「遅くなったが、なんとか間に合ったようじゃのう、。見上げの。」

「おまえさんが、ちんたらしとるから遅れたんじゃぞ。一つ目の。」


「過ぎたことをいつまでも言うもんじゃないぞ。見上げの。」

「あいかわらず、いいかげんじゃのう。一つ目の。」


ふたりの大男。『見上げ入道』と『一つ目入道』は山のように大きな体を揺らして、言いあいをはじめた。


「見上げ入道さん、一つ目入道さん、こんにちはー。 参加してくれるのはうれしいんですが、その大きさじゃあ、お餅はつけないとおもいますよー。」

真宵は、ふたりの入道にむかって大きな声で呼びかける。


「おお、すまんすまん。このままではいかんらしいの、見上げの。」

「そうじゃな。このままでは、うまくつけそうにないしのう。一つ目の。」


二人の入道は、なにやら念仏のようなものを唱えると、ふたりそろって、シュルルと小さくなった。


「これくらいで、いいかのう?」


二メートルほどの身長まで縮んだ見上げ入道が尋ねた。


「ええ。だいじょうぶですよ。それじゃあ、がんばって下さいね。」

と、真宵は杵を二人にわたした。


「それじゃあ、今度はあたしが手水をしようかしらぁ。」

名乗りを上げたのは『骨女』だ。


「今度のつきては骨がありそうだから、手水も骨のある女がやったほうがいいでしょう?」


骨女はカラカラと乾いた音をたてた。

真宵には笑っていいのかどうかわからなかったが、まわりの妖怪たちにはうけているようだった。


「骨女さん、よろしくおねがいしますね。 見上げ入道さん、一つ目入道さん、おいしいお餅をつきてくださいね。」


「まかしといてぇ。」

「期待しておれ。のう、見上げの。」

「もちろんじゃ。のう、一つ目の。」


真宵は笑顔で返すと、その場を三人に任せた。



真宵と右近が臼から離れると、真宵は会場の隅で、ある一団を発見する。


「あ、あれ、鞍馬山のみなさんじゃないですか?」

真宵が指した方向には、右近と同じ山伏のような装束をつけた一団が集まっていた。


「ああ、本当だ。来ていたんだな。」

右近は言った。


「お話してきたらいかがですか? ずっとお手伝いしてもらって、ほかの妖怪さんとお話できてないでしょう?」


「ああ、じゃあ、ちょっと行って来るかな。」

どのみち、今ついている餅が出来上がるまで、とくに手伝うようなこともないはずだ。


「後で、また手伝いに行くので、少しだけ失礼する。」


「いいんですよ。気にしないで、右近さんも楽しんでいってください。」

真宵は笑顔で手を振った。



右近と別れた真宵は、会場を見渡して、いろいろ確認する。

餡子や大根おろしは足りているか。

つかい終った皿や湯のみが放置されていないか。

なにかほかに問題はないか。

とりあえず、いまは大丈夫なようである。

(ちょっと、一服できそうね。)

そんなことを考えていると、真宵の耳に大きな音が響いた。

ゴォン ゴォン

乾いたような音の主は、ふたりの入道がつく杵と臼がぶつかる音だった。

ふたりの入道が力いっぱい振り下ろす杵が、おおきな臼に叩きつけられ、まるで木製の鐘のように音を立てる。


「だいじょうぶかしら・・。臼、壊れちゃったりしないわよね?」


あまりの迫力に、一抹の不安を覚える真宵だったが、それを聞いていたものが、笑って否定する。


「ヨホホ。わしがつくった臼は、あれくらいのことでは壊れたりせんとおもうがのう。」


真宵は聞き覚えのある声に、振り返った。


「オシラサマ!」


そこには、顔も腕も手の指も木の枝のように細長い老人妖怪『オシラサマ』が立っていた。


「ヨホホ。遅くなってすまんのう。」


「来て下さったんですね。」


オシラサマは、この餅つき大会の発端となった臼と杵を提供してくれた妖怪である。

旧知の仲である座敷わらしを通じて、招待はしていたものの、「一年の半分くらいは寝とぼけとるヤツじゃからのう。本当に来るかどうかはわからんぞ。」と座敷わらしには言われていた。


「ヨホホ。せっかくの招待をすっぽかすわけがなかろう。」


「来てくださってうれしいです。あ、この前の燻製は食べていただけましたか?」


この間、燻製を試作する際にも、オシラサマから、いろんな木の木屑を燻製チップ用に、いただいていた。

この餅つきの招待を伝えるとき、座敷わらしに野菜やナッツの燻製をお礼に持たせていたのだ。


「ヨホホホホ。いただいたよ。あれはうまかった。特にあんなうまい木の実ははじめて食べたわい。よくわからんが、燻製とゆうんじゃって? 」


「はい。オシラサマからいただいた木屑で燻したんですよ。本当になにからなにまでお世話になりっぱなしで。今日のオシラサマからもらった臼と杵でついたお餅も、食べていってくださいね。」

真宵は満面の笑みでそう言った。


「ヨホホ。そうさせてもらおうかのう。楽しみじゃ。」


「いま、ついてるお餅が出来上がるまで、ちょっとお待ちくださいね。すぐできるとおもいますよ。・・あ、オシラサマ、のど乾いていませんか? お茶、飲みませんか?」


「ヨホホ。それじゃあ、いただくかのう。」


喜びすぎて、少々はしゃいでいる真宵をオシラサマは目を細めて見つめた。

知らない人が見れば、祖父と孫娘のように見えたかもしれない。


「はい。あっちで、お茶が飲めるようになっているんですよ。」

真宵はオシラサマの手をひっぱった。


「高女さーん。オシラサマにおいしいお茶を煎れてあげてくださーい。」

今日は朝からお茶を配る手伝いをしてくれている女性妖怪『高女たかおんな』に声を掛けた。



餅つきの宴はまだつづいている。














読んでいただいた方、ありがとうございます。

餅つき回、二話目となります。

あと、何話か続くとおもいます。


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