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妖怪道中甘味茶屋  作者: 梨本箔李
第一章 桜
24/286

24 モチツキキネツキ

人間界とは別の妖怪たちの棲む世界、妖異界。

ひょんなことから異世界で甘味茶屋を営むことになった真宵まよい


剣も魔法もつかえません。

特殊なスキルもありません。

祖母のレシピと仲間の妖怪を頼りに、日々おいしいお茶とお菓子をおだししています。

ぜひ、近くにお寄りの際はご来店ください。

        《カフェまよい》  店主 真宵


本日は餅つき大会を実施しております

本日は、土曜日。

本来なら、《カフェまよい》は定休日だ。

店主の真宵は、人間界へと戻っているはずである。

しかし、今日は特別な日。

真宵も、妖異界に留まり、店を開けている。

通常営業ではなく、常連さんを招待した『餅つき大会』だ。


鞍馬山の烏天狗右近は、この日のために、連日、夜遅くまで残業し、スケジュールを開けた。

それでも、丸一日、休日とういうわけにはいかず、少し遅れての来店となった。

中天くらいからはじめると聞いていたのだが、さすがにもうはじまっているだろう。


(ちっ。これも、仕事をサボる師匠のせいだ。)

右近は自分の師匠でもあり上司である鞍馬山のボス、大妖怪『天狗』に毒づいた。

以前よりは多少マシになったものの、あいかわらず仕事を部下に押し付けサボっている。

天狗が本気を出して仕事をしてくれれば、部下の烏天狗はずいぶん楽になるのだが、のらりくらりとかわし、逃げてばかりいる。

右近はそんな上司をなだめてすかして、時には《カフェまよい》のおはぎを土産に食べ物で釣っては、仕事するように誘導している。

そんな感じなので、仕事が効率よくはかどるはずもなく、山積みの仕事を長時間労働のハードワークでこなす毎日を送っている。



山を三つ越えて、《カフェまよい》にたどり着いた。

いつもは、店内は賑わっているが、店の周りは何もなくひらけている峠の茶屋だが、店の前に多数の妖怪の姿が見える。そのなかに、ひとり、人間の娘の姿が確認できた。店主の真宵だ。

いつもは店内で、厨房と客席を行ったり来たりと忙しくしている彼女だが、今日は比較的余裕があるようだ。いろんな妖怪の間をまわって、挨拶をしている。

いつものウェイトレス役ではなく、パーティーのホスト役としてがんばっているようだ。

(とりあえず、挨拶しておくのが礼儀かな。)

右近は、妖怪たちで賑わっているなかに入っていった。


「あ。右近さん、来てくれたんですね。」

右近が近づくと、こちらが声を掛けるよりはやく、真宵が気がついた。


「招待に感謝する。ずいぶんと盛況なようだな。」


「ええ。たくさんの方に来ていただいて。 ほら、いま河童さんとうわばみさんがお餅をついてくれてるんですよ。」


真宵が指したほうをみると、たしかに河童とうわばみが杵を振り上げていた。

まわりに妖怪たちが集まって歓声をあげている。


「あとで、右近さんもついてくださいね。」


「え、ああ。まだ餅をつくのか? あれでおわりじゃなくて。」


「もちろん! あれでも、もう三回目なんですよ。みんなたくさん食べてくれるので、まだどんどんつきますよ。」


なるほど。

たしかに、おおきく立派な臼だが、あの大きさでは一度や二度ついただけでは、ここにいる妖怪の腹は満たせないだろう。



「おーい。マヨイ! これくらいでイイカ?」

河童が手に持った杵を止めて、真宵を呼んだ。


「はーい。ちょっと待ってください、すぐ行きます。」

真宵は、河童たちに手を振った。


「ちょっと、見に行ってきますね。 右近さんもいきますか?」


「ああ、そうだな。」


ふたりは早足で、餅つきをしているところへむかう。



真宵は臼の中の餅をじっくりチェックする。


「はい。いい感じにつけてるとおもいます。河童さんもうわばみさんもごくろうさまでした。すぐに食べられるように丸めてきますんで、ちょっと待っててくださいね。 つきたてを食べていただきますから。」


「おう!まちきれないぜ。」

うわばみは金色の蛇の瞳を輝かせた。


真宵は水で手を清めると、つきたての餅を大きな板の上にのせる。


「右近さん、ちょっと運ぶの手伝ってもらってもいいですか?」


「ああ。かまわないよ。」

ふたりは、板の両端を持ち、餅を持ち上げた。


「みなさん、すぐ、次のもち米が蒸しあがりますので、それまで休憩しててくださいね。」


おおーー。

妖怪から歓声があがる。

もう、完全にお祭りムードである。



右近と真宵が、餅を茶屋の中まで運ぶと、入り口から程近い席に、『座敷わらし』と『ふたくち女』が座ったいた。

ふたくちおんなは、いつものように髪を結い上げ、着物姿だったが、その上から真宵が着ているのと同じ割烹着を着用していた。


「はーい、次のお餅がきましたよ。よろしくおねがいしますね。」

真宵は、板ごと餅をふたりの座っている席のテーブルに置いた。


「まかせてちょうだい。ちゃんと、喧嘩にならないように同じ大きさに丸めるから。」


ふたくち女はガッツポーズをしてみせると、さっそく片栗粉をつけ、餅を丸めだした。

座敷わらしも、それに習って黙々と餅を丸めだす。

ふたくち女の姿を見た右近は、真宵の袖をひっぱり、離れた場所に連れて行くと、小声で耳打ちする。


「真宵どの。 大丈夫なのか? あれはふたくち女だぞ。 あいつにかかったら、あの餅くらいあっとゆう間に腹の中だぞ。」


『ふたくち女』は顔と頭の後ろにふたつの口を持つ女妖怪だ。妖異界でも名の知れ渡るほどの大喰らいである。

右近にしてみれば、よりによって彼女に餅を任せるなど、正気の沙汰ではない。どうぞ、つまみ食いして全部腹に収めて下さいと言わんばかりだ。

真宵はプッと噴出すと、同じように右近に耳打ちする。


「だいじょうぶですよ。実は迷い家さんに監視をお願いしているんです。 本人にも、もしつまみ食いしたら出入り禁止にしますからねって、釘を刺してます。」


「なるほどな。」


たしかに、この店そのものである『迷い家マヨイガ』に、見張られていては、隠し事やつまみ食いなどできるはずがなかった。

見つかって出入り禁止をくらうほど、ふたくち女は馬鹿ではない。


「それに、ちゃんとお手伝い賃がわりにお餅もあげることになっているんで、安心してください。」

真宵はこっそり微笑んだ。



「なに、コソコソ話しているんだ?」

突然、ふたりの傍に少年の顔が逆さ吊りで降りてきた。


「きゃあ。」

おもわず真宵が右近の腕に飛びつく。

黒装束の少年妖怪『天井さがり』だ。

まるで、昭和の漫画にでてくる忍者よろしく、天井から逆さにぶらさがっている。


「もう! 天井さがりさん、おどかさないでっていつも言っているでしょう!」


天井から突然ぶらさがった状態で現れて人間をおどろかす。ただ、それだけで、危害を加えたりとり憑いたりはしない、善良といえば善良な、タチが悪いといえばタチが悪い少年妖怪は、妖異界にいるたったひとりの人間ということで、真宵を驚かすターゲットにしている節がある。


「オイラは普通に話しかけただけだよ。ふたりが内緒話しているから気がつかなかっただけだろ?」

天井さがりはうそぶいた。


「おまえは外で餅つきしないのか?」

右近は顔色も変えず、天井さがりに聞く。


「オイラ、外でいるのは落ち着かないんだよね。ぶらさがるものがないから、地面に立ってなくちゃいけないし。だから、餅を丸めるのも手伝ってたんだぜ。」


「あら、そうなの?」


「そうだよ。なのに、ふたくち女も座敷わらしもつまみ食いはだめだって、食べさせてくれないんだぜ?」


「ふふ。ちゃんとお手伝いしてくれたら、後で天井さがりさんのぶんのお餅も持ってきてあげるわ。」


「ホントウか? わかった。オイラ、ちゃんと手伝う。」

天井さがりは喜び勇んで、天井づたいに手伝いに行った。


「ちゃんと、手を洗ってから、手伝ってくださいねー。」


「わかってるー。」


真宵は隣の右近を振り返る。


「右近さん、私もお餅、丸めていきますね。運ぶの手伝っていただいてありがとうございました。」


「ん?ああ、せっかくだから、俺も手伝っていってかまわないか?」


「え?ええ、それはかまいませんけど。 外にたくさん妖怪さん来てますよ? お友達とかいらっしゃるんじゃないですか? お話とかしなくていいんですか?」


「オトモダチ?」

右近は首を傾げた。

友達といわれても、妖怪同士でよくわからない。


「いや、この間、煙羅煙羅えんらえんらといっしょに燻製を作るのを手伝っただろう。あれはなかなか興味深い体験だった。今回も迷惑でないなら、ぜひ手伝わせてほしい。」

真面目な顔で詰め寄った。


「そうでしたか。じゃあ、ぜひ手伝ってください。まず、こっちで、きれいに手を洗ってくださいね。」

真宵は右近の手をとり、引っ張った。




「みなさん、おまたせしました。 お餅ができあがりましたよー。」


真宵と右近が先ほどの餅を丸餅にしたものを、皿に盛って店から出てきた。

待ってましたとばかりに、妖怪たちが集まってくる。


「あ、だめですよー。最初のお餅は、ついてくれた河童さんとうわばみさん、それに手水をしてくれた濡れ女さんのものですよー。」


それを聞くと、妖怪たちのなかから、三人の妖怪が進み出た。

河童にうわばみに濡れ女だ。

それぞれひとつづつ、誇らしげに丸い餅を受け取った。


「餅はなにもつけずに食べるのか?」


右近が疑問をなげかけた。

すると、うわばみが笑いながら返した。


「おいおい、烏天狗。あれが見えないのか? 」

うわばみが指し示した方には、机が並べられ、上にはあんこやらいろいろはいったタッパ容器がのっている。


「自分で好きな味にできるようにしてあるんです。右近さんも、あとで食べてみてくださいね。」

真宵は笑顔で返しながら、妖怪たちに餅を配っていく。


「オイラはなにで食べようかなー。」

「俺はさっき、醤油と海苔で食ったからな。今度は甘いやつにするかな。」

「アタシはさっきの大根をすったやつをかけたのがまた食べたいねぇ。」

「へえ、あれ、そんなにうまいのか?俺もそれにするかな。」

妖怪たちは、もらった餅を皿にのせ、それぞれ自分が食べたい餡や醤油をかけて食していく。



おおかたの餅を配り終わると、餅をふたつ皿にのせ、右近に差し出す。


「はい、どうぞ。右近さんのぶんのお餅です。」


「ああ、ありがとう。 ふたつのっているがいいのか?」


「ええ。手伝ってくれたお礼です。好きな味で食べてくださいね。」

真宵は、右近をテーブルのほうへと誘った。



「・・ずいぶんたくさんあるんだな。」


右近は机の上に並んだものを見て迷った。

おはぎで見慣れたつぶあんやこしあんもあれば、見たことのないものもあった。

どれにすればいいか、簡単には決められそうになかった。


「ええと、左から、つぶあん、こしあん、ごまあん、ずんだあん、きな粉、醤油と海苔で磯辺、大根おろしと醤油でからみ。全部で七種類用意してみました。」


右近がおはぎで最も好きなのは、こしあんときな粉だ。

おそらく、餅であってもその二つを選べば、気に入るであろう事は予想できた。

しかし、まだ食べたことのない味を置いて、無難な選択をするのははたして賢明だろうか?

普段、メニューにない味を試してみたいという好奇心と冒険心がどうしても頭をは離れない。


「右近さん、あんまり悩んでいるとお餅がかたくなっちゃいますよ。」

クスクスと真宵は笑った。


「ああ。みたことのないのがあるので目移りするな。この緑色のやつも餡子なのか?」

右近はきれいな薄緑色の餡を指差した。


「はい。ずんだ餡といって、郷土料理なんですよ。枝豆の餡でちょっとくせがあるので好き嫌いがわかれる味ですね。おはぎにもつかったりするんですよ。」


おはぎにもつかう、のひとことでがぜん興味がわいた。

ひとつめの餅は、このずんだ餡で食べることを決めた。


「これをいただこう。」


薄緑色の餡を餅にたっぷりとのせてからませると、箸でつまんでかじりついた。

最初に感じたのは、未成熟な大豆の風味。新鮮な、でも青臭さののこる枝豆の味。

それが・・甘い。

思えば普通のこしあんも、大豆を甘く煮たものなのだが、生鮮さがつよい枝豆が甘く感じると、どうしても違和感がぬぐえない。

美味いかと聞かれると、正直、わからない。

ただ、まずいのかというと、そうでもない。

ひとくち食べ終わると、もう一口食べてしまう。美味しいからというより、もう一度確かめたくなるようなかんじだ。

たぶん、食べなれない味に舌や味覚がついていけてないのだろう。


「どうですか? ずんだ餅。 他の妖怪さんにもきいてみたんですけど、やっぱり賛否両論なんですよねー。」

真宵は、ちょっと考え込むようなそぶりをする。


「そうだな。まずくはない。でも、食べなれない味だから、評価に困るっていうのはあるだろうな。」

右近は正直に言った。


「そうですねー。おはぎセットにつかうのは止めておいたほうがいいみたいですね。」


《カフェまよい》のおはぎセットは日替わりの二種のおはぎにお茶がつく。つぶあん、こしあん、きな粉、青海苔、胡麻、などだ。

そこにずんだ餡をいれるかどうか、真宵は考えていたのだが、どうやら却下の方向になったようである。


「そうだな。自分で選べるなら、たまに注文してみたいと思うかもしれないが、選択の余地なくセットにはいっているというのは、嫌がる妖怪も多いかもしれないな。」

率直な意見だ。


「そうですねー。だとしたら、たまに特別メニューで単品販売するのが妥当ですかね。その場合、おはぎよりお団子とかのほうがいいかしら・・・。でも、手間のことを考えると・・・。」


真宵はブツブツと考え事をしながら独り言をつぶやく。

こういったところは、やはり経営者である。


「あ、ごめんなさい。いろいろ考えちゃって。 どうぞ、他のも試してくださいね。」



ひとつめの餅をずんだ餡で食べた右近は、好奇心に火がついたのか、まだ、味わったことのないものに心が魅かれていた。


「せっかくだから、まだ食べたことのない味がいいな。」

右近が呟くと、真宵が考える。


「そうですね。右近さんがうちの店で食べたことないっていえば、お醤油系とかですかね。」

右近はもっぱらおはぎセットを頼む客なので、甘いもの専門だ。


「醤油味か。たしかに食べたことがないな。」


醤油を塗り海苔で巻いて食べる磯辺巻き。大根おろしに醤油で食べるからみ餅。どちらも《カフェまよい》の通常メニューにはないものだ。


「あら。大根おろしが残り少なくなってますね。」


確かに、容器に入った大根おろしはかなり減っていた。それでもあと四、五人前はあるだろうが、次の餅がつきあがれば、すべてなくなるのは目に見えていた。


「なんだ、完売目前か?」


「いえ、大根おろしはあまり時間が経つと、色がわるくなって風味がおちるんです。だから、途中でおろして補充しようと思っていたんです。」


それでも、もうすこしもつかとおもっていたのだが、どうやら、のんべぇ系の妖怪たちの人気が集中したらしい。


「あとで、足しておくのでだいじょうぶですよ。」


その真宵の言葉で、右近の気持ちが固まった。

そこまで人気の食べ方なら、さぞかし美味いのであろう。


「なら、俺も、そのからみ餅という食べ方に挑戦するとしよう。」


皿の餅に大根おろしをたっぷりかけ、醤油をたらす。

餅にからませ、パクリとかぶりついた。


「これは・・・うまいな。」


ずんだ餅と違い、大根おろしに醤油という妖異界でも馴染みの深い味だ。そのため、ひとくち食べただけで断言できる。

うまい!

大根おろしの辛味と醤油の塩気が、餅のうまさと食欲をぐんぐんひきあげていく。

単純に考えれば、白米ともち米の違いはあれど、米を大根おろしと醤油で食べているわけだから、うまくないはずはない。

だが、米に大根おろしと醤油というシンプルなとりあわせなのに、これはもう、ごちそう、だった。


「真宵どの、これはメニューにいれてしかるべきうまさだ。ぜひ、普段の営業でも販売してもらいたい。」

右近は熱く語った。


「あ、ありがとうございます。か、考えてみます。」

右近の圧に、若干ひきながら真宵は返答する。



右近をはじめ、いろんな妖怪たちが餅を食べ終わった頃、蛇妖怪のうわばみが叫んだ。


「おーい。マヨイ。次の餅はまだかー? まだまだ喰いたりねえぞ!」

そうだ、そうだ。と、あちこちから声が上がる。


「はーい。もうそろそろ次のもち米が蒸しあがる頃なので、見てきますね。次は誰が杵を持つか決めておいてくださいねー!」


真宵は小走りで、店内へと入っていった。


餅つきの宴はまだまだつづく。








読んでいただいた方、ありがとうございます。

今回から餅つき大会で、新顔の妖怪は登場しません。

いままでに登場した妖怪さん、オールスターってかんじですかね。

全員出るわけではありませんが。


この季節なら、餅つき大会よりも花見が妥当だとおもうのですが、おはなしのつくりやすさと、妖怪のだしやすさを優先して、餅つきとあいなりました。

いまから思えば、おはなしのなかの季節と、投稿時期の季節を無理にあわせなくてもよかったかな、と、ちょっと後悔もしてたりしますが、あとの祭りですね。

お餅つき回は数回続く予定です。

よろしければ、この後もおつきあいください。

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