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妖怪道中甘味茶屋  作者: 梨本箔李
第十章 旭日
232/286

232 幕間劇 真宵のお正月

店主 真宵。


現在、両親の住む実家、久那川くなかわ家に帰省中。

三が日が終わるまではこちらで過ごす予定。




正月。

《カフェまよい》は休みである。

従業員はそれぞれ里帰りし、おもいおもいの時間を過ごしている。




真宵の実家、久那川家の正月は平和であった。

親戚一同が会する事もなく、挨拶回りの知り合いがひっきりなしに訪れるようなこともなく、真宵は昼食を食べた後は何をすることもなく、父親とふたりでさしておもしろくもない正月の特別番組をテレビで見ていた。


「真宵。あなた、正月からだらしないわよ。」


台所の方からやって来た真宵の母が、コタツに足をつっこんだまま寝転んでテレビを見ている真宵に渋い顔をする。


「なによ。別にいいでしょ。特にすることもないんだから。」


数日前に帰郷した真宵だったが、実家に帰ると意外とすることがない。

帰ってすぐは久しぶりに会った両親と色々話も弾んだのだが、この年になると親と話したい事や話せる事というのは意外と限られてくるものだ。

世代も違う。興味があることも違う。現在住んでいる環境も違う。真宵にいたっては別世界での生活のことは内緒にしているので、ますます話題が制限される。

一緒にいてもこうやって会話もなくテレビを見て時間を潰すくらいしかないのが現実だ。


「ほんとにめったに帰ってこないのに、帰ったら帰ったでゴロゴロしてばかりで。」


「ばっかりってことないでしょ。おせち料理だってほとんど私が作ったのよ。」

真宵が不満そうに返す。


真宵の母は「面倒だし、どうせみんなたいして食べないから。」というドライで合理的な理由で今年はおせち料理は用意しない予定だった。

正直、真宵もそこまでこだわってはいないのだが、実家に帰って特にすることもなかったので自分が作ると名のりをあげた。

ボーっとしているよりは料理でもしているほうが気が紛れるというのが本音だった。

事前から準備していたわけでもないので、お店で買ってきたものを詰めただけの品も幾つかあるが、それなりに伝統的なおせち料理が今日、久那川家の食卓に並ぶこととなった。



「そうだねえ。真宵が作ってくれたおせちはおいしいよ。」


母娘の口喧嘩が始まらないよう気を使ったのか、真宵の父が穏やかな口調で言った。


「そうでしょ。お母さんなんかぜんぜん作らないくせに。」


「おせち料理が食べたいならいくらでも買ってくるわよ。今じゃどこのデパートでも通販でも立派なの売っているんだから。去年だって、せっかく高いの買ったのに、あなたも真宵もろくに食べなかったじゃない。だから、今年は買うのやめたのに。天邪鬼なんだから。」


「うーん。やっぱり真宵が作ってくれたのと買ったのじゃ違うんだよなあ。」


「もう。あなたは真宵に甘いんだから。」


プイと顔を背けて自分もコタツに座る母親を尻目に、父と娘は顔を見合わせてちょっとだけ微笑む。

父親というのは幾つになった娘にもついつい甘くなるものだ。

ひさしぶりに帰ってきた一人娘となるとさらにというところだろう。


「それにしても、真宵は料理がうまくなったねえ。」


「そう?」

父親の一言に、寝転んでいた真宵がむくっと起き出す。


「うん。おせち料理もおしいしかったし、お雑煮もちゃんと出汁からとって作ったんだろう?」


「あら?それは私への嫌味かしら?」


母の冷たい視線を感じ、父は肩をすくめて小さくなった。

ちなみに真宵の母は真宵が小さな頃から、顆粒だしや出汁入り味噌を愛用している。

「手間隙かけずにそれなりにおいしいものを。」が母のモットーである。


「い、いや。君へのあてつけで言ったんじゃないさ。真宵に感心しているんだよ。家にいた頃から料理は好きだったけど、そのころと比べてもずいぶんと料理の腕が上がっただろう?」


「うーん。まあ、それはね。おせちもどうせ店で売っているの買って来て重箱に詰めるんだと思ってたら、黒豆まで自分で煮だすんだもの。驚いたわよ。」


「だろう?」


真宵が作ったおせち料理は田舎風。

いわゆる昔からあるポピュラーなものだ。

黒豆。田作り。かまぼこ。伊達巻。紅白なます。昆布巻き。こんにゃく。くわい。かずのこ。他。

豪華なイセエビも、最近流行のローストビーフもはいっていない極々普通のおせちだ。

しかし、黒豆も田作りも昆布巻きも自分で一から作るとなるとなかなかの手間がかかる。

さすがにかまぼこなどは店に売っているものを買ってきて詰めただけだが、そのほとんどを真宵は自分でつくってみせた。


「なにか料理教室とか通っているのかい?」


「え?ううん。そうゆうのは別に・・。ほら。一人暮らしだと節約のために自炊するからついついね。いろいろ作ってるうちに腕も上がるのよ。ハハ。」


まさか、毎日、異世界で料理してますとも言えない。

真宵は笑って誤魔化した。


「そうか。・・・なあ、真宵。いっそ、そういった仕事を探してみるのはどうだい? 飲食関係の会社とか。父さんも仕事関係でいくつかそっち方面の会社に知り合いがいるから、どこかお願いしてみようか?」


「ええ?」


「あら、いいじゃない!」

真宵が答える前に母親の方が答えた。


「そうしなさいな。真宵。一昨年まではちゃんとした仕事に就いてたんだし、お願いしたらなんとかなるかもよ。」


「い、いまだってちゃんとしてないわけじゃないわよ。」


「それか、会社勤めが嫌なら、いっそなにか店を出すことを考えてみたらどうだい? 少しならウチで開店資金を援助することもできるんだよ。」


「え、えと。」


もうすでに異世界で甘味茶屋をやっていますとも言えず、言いよどむ真宵に、また母の方が先に答える。


「あら。だめよ店なんて。」


「なんでだい?」


「だって、この子、もうすぐ二十五才よ。店なんかはじめて、結婚のときに足かせになったらどうするの? 借金したり、店を離れられないってなったら、相手だって逃げちゃうかもしれないわ。」


「わ、私、結婚なんてまだ考えてないのよ!」


「何言ってるの。あなたもうすぐ二十五よ。四捨五入したら三十なんだから。そろそろ本気で考えなさい。」


「む、娘の人生、勝手に四捨五入しないでよ!」


「まあまあ。」


エキサイトしそうな母娘を父がなだめた。


「最近じゃあ、三十過ぎて結婚なんて普通なんだから。真宵だって三十路過ぎでも、全然気にすることないぞ。」


「・・・お父さんも、私を三十路みたいに扱わないで。私まだ二十五・・、じゃなくて。まだ、二十四才なんだから。」


「そんなこと言っていると、三十なんてすぐよ。 お見合いだって、やっぱり若い娘の方が条件いいんだから。」


「私、見合いするなんて言ってませんけど!」


「あら?じゃあ、自分で見つけられるの? そういうお相手いるの? この間のクリスマスとかあなたどうしてたのよ?」


「そ、それは・・・。」


妖怪さんたちと仲良く仕事してました。などどは言えない。


「し、仕事してたけど・・・。」


「ホラみなさい。あんな田舎じゃ、仕事も出会いもそうそうあるものじゃないわよ。さっさと引き上げてこっちに帰ってきなさいよ。ウチに住むのが嫌なら、一人暮らし用のアパートやマンションなんかいくらでもあるんだから。」


「ああ!もう!そうゆう話はいいの! 私は当分好きにやるつもりなんだから!」


真宵はふてくされた様に、またコタツの布団に横たわる。


心配してくれているのはありがたい。

頭では解っていても、こういろいろ言われると鬱陶しくなるのが親子というものである。




(はあ。今頃、みんな何やってるかなあ・・・。)


不器用なイケメン烏天狗や古風な元不良の狸妖怪、ちょっと口うるさい幼女や働き者の少年妖怪の顔を思い浮かべながら、そんなことを考える真宵であった。








読んでいただいた方、ありがとうございます。

そして、おはなしのなかでは、あけましておめでとうございます^^;

幕間劇ですが、お正月のおはなしなので、新章のほうにまわしました。

ちょっとイマサラ感のあるお正月話ですが、おつきあいくださいませ。

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