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妖怪道中甘味茶屋  作者: 梨本箔李
第八章 初霜
202/286

202 お菓子作り教室開催2

お菓子教室 材料について。


練りきり餡は八色用意しています。

赤、桃、橙、黄、青、緑、紫、白。お好きな色でおつくりください。


中のあんこ玉用の餡はこしあんを用意しています。



妖異界にただひとつ、人間の店主が営む茶屋 《カフェまよい》。

秋も深まりを見せる今日。

店では、お菓子作り教室なるものが開催されていた。





「じゃあ、まず、餡子をこれくらいの大きさに丸めてみてね。欲張ってあんまり大きくすると後でうまくいかなくなりますからね。」


「「はあーーい。」」


真宵の声に、子供の妖怪達が、返事をする。

それぞれテーブルに配られた、餡子をちぎり、手のひらでころころ転がす。


お菓子作りといっても、餡子をはじめから作るわけではない。

さすがにそれはハードルが高すぎる。

今回の教室では、用意された材料を丸めたり、飾ったりして和菓子にする。

仮に、うまくいかなくとも、味はさほど変わらないという寸法だ。


「最初は茶巾絞りのお菓子を作ります。いま作った餡子玉を包めるくらいの練りきりを取ってください。一色でも何色か混ぜてもかまいません。それを薄く平らにのばします。」


口で言うだけでは、伝わらないので、真宵は実際にやってみせる。

練りきり餡はすでに作ってあり、色も付け各テーブルに並べてある。

やることは、子供がやる粘土遊びとそうは変わらない。難しくはないだろう。


「色はどんな色でもいいのー?」

雪わらしのひとりが尋ねた。


「ええ。好きな色を使ってね。八色用意したから、どれでもね。」


様々な天然色素で色を付けた練りきり餡は、まるで色粘土だ。

パステルカラーなので、子供の食いつきもいい。


「練りきり餡をのばしたら、さっきの餡子玉を包んでください。優しくね。それで最後にぎゅーって、茶巾でね。」


真宵が手元で、茶巾を絞る。


「あんまり力を入れすぎても潰れちゃうけど、茶巾の跡がしっかり残るくらいには力をこめてね。ほら。茶巾の跡がそのまま模様になるのよ。」


真宵が茶巾のを開くと、中から小さな巾着袋のような練りきりの和菓子が顔を出す。


「うわぁ。」


「かわいい。」


「薄いみどりいろ!」


席をまわって、できた和菓子を見せると、妖怪達は不思議そうに覗き込む。


「色は好きなのでいいのよ、これは白い練りきりと緑色のでつくったけど、赤でも桃色でも黄色でも青色でも。自分の好きなので作って見てね。」


「わーい。」


子供達は、奪い合うように、色とりどりの練りきりに手を伸ばす。


「あたし、桃色!」


「僕、黄色!」


「僕、緑と赤と・・黄色もつかう!」


皆、めいめいに練りきり餡を取ると、真宵に教えてもらったとおり、それを薄くのばしはじめる。



「わからないことがあったら、何でも聞いてくださいねー。」


真宵はテーブルを回りながら、子供達の様子を見る。


「あ。太郎君に次郎君。」


一番端っこのテーブルに鼠妖怪『鉄鼠』の家族がいた。

皆、椅子に座って作業をしているが、鉄鼠の家族だけは、身長が足りないので、椅子の上に立って作業していた。

彼らの身長は、一番大きなお父さん鉄鼠ですら、真宵の太ももくらいまでしかない。


「無理して、おっきいの作らなくてもいいのよ。自分にあった大きさで作ってくれていいからね。」


鉄鼠の子供、太郎鼠と次郎鼠は、小さい身体にもかかわらず、真宵が作ったものと同じくらいの大きさの餡子玉を作り、それを練りきりで包もうと悪戦苦闘していた。

小さな鼠妖怪。さらにその子供の手のひらは、あまりに小さく、うまく餡を薄くのばせないでいるようだ。


「そうだよ。もうちょっと、小さいのを作りな。」


母親の母鼠カカソが呆れて言う。

しかし、二人の息子は聞こうとしなかった。


「やだ!おっきいのつくる!」


「うん。大きいのがいい!」


皆より小さいのを作ると損をすると感じているのか、ふたりは小さな手で、必死に練りきり餡をのばす。


「まったく。欲張りでちゅねぇ。困ったものでちゅ。」


父親の鉄鼠はピンとたった髭を触りながら、子供達を見守っている。


「それにしても、マヨイさん。いつも、よくしてくれて、ありがとうございまちゅ。今日のお誘いも子供達は大喜びでちゅ。」


「ほんとにねぇ。お世話になりっぱなしで、申し訳ないよ。」


鉄鼠夫妻が、真宵の方を向きなおし、深々と頭を下げた。


「いえいえ。今日はいろんなお子さんを呼んでの催し物なんですよ。来てくれて嬉しいです。それに鉄鼠さんにはお店の方もお世話になっていますし。」


鉄鼠はたまに木の実を集めて、店に持ち込んでいる。

銀杏、栗、胡桃、栃の実。

いずれもメイン食材にはなりにくいが、ランチや饅頭に大活躍の食材だ。

おかげで店のレパートリーも増えた。


「いやいや。お世話になっているのはこっちの方でちゅ。おかげで美味しいお饅頭が食べられて、家族みんなで喜んでいるんでちゅ。」


「ほんとにねえ。ありがたいことだよ。」


「ふふ。これからもよろしくお願いしますね。」


「こちらこそでちゅ。」


「あ。お子さん達がうまくできないようでしたら、手伝ってあげてくださいね。道具とかも、普通サイズのものしかなくって、ちょっと使いにくいと思いますから。」


「わかりましたでちゅ。」


「ほら。やってあげるから、こっち貸しな。」


「やだ!自分でやる!」


「そうだ!母ちゃんは手をだすな!」


「まあ!なんだって!」


仲良く喧嘩しながら、鉄鼠の家族は一緒にお菓子をこね回していた。

ここの家族はいつも一緒で賑やかだ。

真宵は微笑ましい光景に、目を細めながら次のテーブルに移動した。





「こら!岸涯小僧!つまみ食いするな!」


こちらのテーブルでは、保護者役の河童が、生意気盛りの岸涯小僧に手を焼いていた。


「マヨイ。せっかく呼んでくれたのはありがたいが、コイツには向いてないみたいだ。」


小学生くらいの目がギョロっとした岸涯小僧の前には、潰れた餡子玉と千切れた練りきり餡が散乱していた。


「コノママ食ってもウマイんダ!」


練りきり餡の欠片をつまんで口に放りこむ岸涯小僧の頭を、河童が小突く。


「今は食うんじゃないんだ。菓子をつくる時間なんだ。ちゃんと、言われたとおりしろ。」


「ナンデダ! 味は同じダロ!」


岸涯小僧は、こういった菓子作りや細工にはあまり興味を持たないらしい。

人間でも、細かいことをするより、外を走り回っている方が性に合っている子供も多い。

無理もないだろう。


「あらら。岸涯小僧ちゃん、お菓子作りはつまらない?」


「甘いものより魚のほうがウマイゾ!アジフライ食わセロ!」


岸涯小僧は河童と同じ河に棲んでおり、魚が大好きだ。

特に、《カフェまよい》のアジフライがお気に入りなのだ。


「こら!今日は、菓子を作って食う日だって言ってるだろう。まったく。」


河童は眉間に皴を寄せる。

生意気盛りの息子を持った父親のようだ。

外でサッカーしたがっている子供に、机に座って本を読めと言っても、そう簡単には言うことを聞いてはくれない。

だが、そんな時に古今東西、有効な策があるのを真宵は知っている。

可愛らしくいえば、ご褒美。えげつない言い方をすれば、買収だ。


「ねえ、岸涯小僧くん。ちゃんと、お菓子が作れたら、帰りにお魚が入ったおいしい『おにぎり』をお土産にあげるわよ。」


「ナニ?」


「今日は『おにぎりセット』で『マグロの角煮おにぎり』を作ったの。食べてみたくない?」


「食いタイ!」


「でしょ。ちょっと塩っぱめに醤油で煮たマグロの身がホロホロになってて美味しいのよ。鮪好き?」


「マグロ?食ったことナイ!食わセロ!」


「ふふ。じゃあ、ちゃんとお菓子も作ろうね。いい?」


「ワカッタ!俺、マグロ食う!だから、お菓子もちゃんと作るゾ!」


岸涯小僧は潰れた餡子を再び丸めなおす。

どうやら、やる気になってくれたようだ。


「・・・マヨイ。オイラより、コイツのあつかいがうまくなったな。」


「え? そ、そんなことないですよ。河童さん、岸涯小僧くんが手間取っていたら、助けてあげてくださいね。」


食べ物で釣るという、少々、あこぎなやり方で誘導した真宵は、若干、誤魔化しながら次の席へと移った。





今回、もっともてこずっていた保護者役の妖怪と言えば、『ねこまた』だろう。

彼女が保護している『化け猫』クロは、ある意味、だれよりもやる気満々で、だれよりも壊滅的だった。


「ああーー。もう、だめだって言ってるにゃ。餡子は優しく包むんだにゃ。」


ねこまたの注意も聞いているのか聞いていないのか、クロは餡子玉にするこしあんも、包むようの練りきり餡も、ごっちゃまぜにして無理やり丸めていた。

練りきりの色も、目に付いたもの全部使っているので、マーブル模様と言うか、混沌とした餡子の塊が出来上がっている。

岸涯小僧はやる気なく、なげやりにやっての結果だったが、クロは全力で楽しみながらやった成果が、この惨状である。


「お菓子できたよーーー!! おいしそう?」


いろんな色が混じりあった前衛的な色彩の塊を、誇らしげに掲げる。


「そ、そうね。かなり個性的ね。おいしそう・・・かどうかは、個人の好みかも。」


絵の具を全部パレットにぶちまけたような色の塊に、真宵はおもわず顔がひきつる。


(か、海外で売ってるカップケーキとかチェリービーンズにこうゆう色のを見たことあるかも・・。)


たまにテレビとかで見る、海外のお菓子には、日本人とは待ったく違う美意識で作られたものがたまにある。

そういう意味では、クロの作ったものはワールドワイドだ。


「はあ。全然言うこと聞いてくれないにゃ。」


ねこまたは、ほとほと参った様子でため息をつく。

どうやら、やんちゃすぎる黒猫に、手を焼いているらしい。


「ボク、ねずみさんと遊んでくるーー。」


お菓子づくりが一段落したクロは椅子からヒョイと飛び降りる。

鉄鼠たちの方に行こうとするが、ねこまたが即座に首根っこを捕まえた。


「こら。今日はねずみさんのとこに行っちゃだめにゃ!」


「ええーー。なんでー。このお菓子見せてあげたいのに。」

クロはつまらなそうに、口を尖らせる。


「ダメったらダメにゃ。ねずみさんは忙しいにゃ。邪魔したらダメなのにゃ。」


「ちぇー。」



「ク、クロちゃん。みんな、まだ作ってるから、もうひとつ作ってみたら?材料はまだ余ってるから。ね?」


「うーん、わかったー。」


真宵の提案に、クロはまた椅子に戻ると、こしあん手に取る、

両手でこねくりまわしているが、丸めているのか、握り潰しているのかはさだかではない。



「ねこまたさん。大変だとは思いますけど、クロちゃんの監視、お願いしますね。」

真宵はそっと、ねこまたに伝える。


「まかせておくにゃ。絶対、鉄鼠の家族のとこには行かせないようにするにゃ。」


猫妖怪は、鼠妖怪を見ると、ついつい追い掛け回してしまうらしい。

食べる訳でもいじめている訳でもなく、ただ、小さくて動きの早い鼠と遊びたいだけなのらしいが、追いかけられる鼠妖怪はたまったものではない。

ねこまたのように大人になると自制もきくのだが、クロの様な子猫妖怪は、鼠妖怪を見かけただけで、ソワソワする。

今回は、猫妖怪も鼠妖怪も両方参加するので、真宵はねこまたに、しっかりクロの監視をお願いしていた。


「まったく。いろんな子猫妖怪を世話してきたけど、こんな手間のかかる猫妖ははじめてにゃ。」


夢中で餡子をこねくりまわすクロを見て、ねこまたは大きくため息をついた。



妖怪達はそれぞれ個性的だが、皆、それぞれ今回の催しを楽しんでいるようだ。

そういった意味では、とりあえず成功と言えるだろう。

真宵は内心、ホッと胸を撫で下ろすのだった。





読んでいただいた方ありがとうございます。

お菓子教室つづきです。

次回でおわりですのでよろしくおつきあいください。


ここ数日で評価してくださった方が何人かいらっしゃいました^^。

いままでにしていただいた方も含めて、感謝とお礼を申し上げます。

とても励みになります。

今後とも、『妖怪道中甘味茶屋』をよろしくお願いします。


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