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妖怪道中甘味茶屋  作者: 梨本箔李
第八章 初霜
199/286

199 習い事?お教室?

《カフェまよい》本日の夜の賄い。

大根と鶏肉のごった煮。

蓮根のきんぴら。

豆腐とわかめの味噌汁。

白飯。


最近では夜の賄いは、真宵の指導の下、右近や金長が作ることも多い。



妖異界にただひとつ、人間の店主が営む茶屋 《カフェまよい》。

定期的に餅つきや盆踊り、芋煮会など、催し物を開催している。

店主の真宵に言わせると、普段世話になったいる妖怪たちへの感謝の気持ちであるらしい。





「また、なにかよからぬ事を考えておるのか?」


座敷わらしが呆れたように言った。


「そんな、大事おおごとじゃあないわよ。ちょっと、店内の半分を貸しきりにするだけ。」


店はすでに閉店し、従業員達は夜の賄いを食している。

閉店後のいつもの光景だが、今日は真宵がとある提案を持ち出していた。


「つまり、客の妖怪に自分で菓子を作らせるってことか?・・・なんのために?」


「素人に作らせても、あまり良い出来になるとは思えないのですが・・。」


右近と金長は反対はしないまでも、その意図や意味がよく解らないらしい。


「うーん。お料理とかお菓子作りって、やってみると楽しいでしょう? でも、なかなか自分では一から用意するのは面倒だったり大変だったりするから、その子供用の体験教室みたいなものなんだけど・・。」


今回、真宵がやりたがっているのは、子供の妖怪を対象にしたお菓子教室だ。

だが、こちらの世界には、こういった体験教室やカルチャースクール的なものはないらしく、真宵以外の従業員はキョトンとしている。


「あの・・、客に働かせるのはもてなしとは真逆だと思うのですが、いいのでしょうか?」


「え、えと、働かせるとか、そうゆうんじゃなくて・・・。」


「それに、出来の悪い菓子はあまり喜ばれないんじゃないか? きれいな完成品をもらったほうが子供も喜ぶぞ?」


「えーと、出来不出来は二の次で・・・。」


なかなか、新しい価値観と言うのは理解してもらえないものであるようだ。


「そうだ。ほら、右近さん。うちに仕事に来る前に、煙羅煙羅さんと燻製作るのを手伝って料理に興味を持ったって言ってたじゃないですか?」


「ああ。」


「それと、同じです。普段、料理もお菓子作りもやったことない、あまり興味もない子供に体験してもらうんです。意外とやってみたらおもしろかったり、興味を持ってくれたりするものなんですよ。右近さんが前のお仕事を辞めて、うちに仕事しに来てくれたみたいにね。」


「ああ、なるほど。」


やっとひとつ納得してくれたと感じ、真宵は満足する。


「なるほど、子供のうちから料理に興味を持たせ、将来、従業員にスカウトするのか。なかなか、壮大な計画だな。」


「ああ、そうゆうものなのですか。これは感服しました。そんな先のことまで考えての計画だとは思っていませんでした。」


「そ、そんなつもりはなんですけど・・。」


感心する右近と金長に、真宵はズッコケそうになる。

それでは幼い子供を洗脳して囲い込む、悪質なセミナーみたいではないか。

そんなつもりは毛頭ない。


たぶん、ふたりにとっては、料理は仕事なのだろう。

料理が遊びでもあるという意識があまりないのだ。



「まあ、店内で、やるのならば問題ないじゃろう。よからぬ輩は入って来れんじゃろうしな。」


座敷わらしは珍しく賛成にまわってくれた。

こういった催し物は、人数の関係で野外で行うことが多く、安全面の関係で、座敷わらしは反対することが多い。


「それで、誰を呼ぶつもりでおるのじゃ?」


店に来る妖怪で子供に限定するとなると、数は限られる。

本来、妖怪は見た目の年齢と実年齢は全く違うので、あまり意味はないのだが、人間である真宵は、それをあえて無視している。

目の前の座敷わらしなどは、ここにいる妖怪の誰よりも年月を生きた妖怪なのだが、真宵はあくまで子供扱いだ。


「うん。実はね、今日、雪女さんが来て、一度、『凍りの国』の子供達を連れてきたいんだけど、かまわないかって聞かれたのよ。だから、それにあわそうと思って。」


『雪女』はこの店の客であり、また協力者でもある。

厨房に置いてある冷蔵庫のなかには『つらら鬼』と『冬将軍』が働いており、この妖怪達を紹介してくれたのが『雪女』だ。

『雪女』は氷雪妖怪の棲む『凍りの国』を統括していて、小さな子供の妖怪の面倒を見ているらしい。


「ほら。だいぶ涼しくなってきたでしょう? 今くらいの気温なら、雪女さんが一緒にいれば山から下りてこられるんですって。」


真宵はまだ会った事がないのだが、『雪女』が面倒を見ている子供の妖怪は『雪ん子』と『雪わらし』といって、基本的に冬以外は『凍りの国』のある山から降りては来られないらしい。

あまり強い妖怪でない氷雪妖怪は暑いと溶けてしまうのだという。


「なるほどな。あそこの子供となると十人程か。」


「ええ、それに、河童さんところの『岸涯小僧がんぎこぞう』くんと、『よぶこ』さんと『こだま』さんでしょ。『夜雀』ちゃんは昼間は出て来られないから無理として、『鉄鼠』さんちのふたりのお子さんと・・・、ねこまたさんとこの『化け猫』のクロちゃん。あ、でも、鉄鼠さんたち鼠妖怪と猫妖怪って相性悪いんでしたっけ?席を離して置けば平気かしら?」


真宵は招待する子供妖怪の数を指折り数える。


「ああ。『山童』くんを忘れるところだった。しっかりものすぎて、子供だって忘れちゃうのよね、時々。」


その山童とて、本当は真宵よりは年上だったりするのだが、気にしていない。

あくまで見た目で判断している。


「あと、『管狐』さんとかも呼びたいんだけど、連絡がつかないわよね。一回だけしか来店してないお客さんのお連れだし。」


狐、というワードに、座敷わらし、右近、金長の三人がピクッと反応したが、真宵は気がつかなかった。

他にとりこぼしがないか必死に思い出そうとしている。

そこに灯台下暗しで、忘れていた妖怪を見つけた。

隣で味噌汁をすすっていた従業員小豆あらいだ。

彼もどう見ても、小学生か中学生くらいの子供にしか見えない。


「あ、忘れてたわ。小豆あらいちゃんもどう? 同じ年くらいの妖怪さんと一緒にお菓子作るの。楽しいわよ、きっと。」


それを聞いて、小豆あらいはギョロっとした大きな目で、真宵を見上げる。


「オレハ、中で仕事をしてるゾ!」


「・・あら。そう? きっと楽しいのに。・・まあ、気が変わったら言ってね。」


最近教えてもらったのだが、『小豆あらい』は姿を現さず、音だけで人間を怖がらせる妖怪なので、あまり人前に出るのは好きではないらしい。

そのせいか、小豆あらいは客席には出ないで、ずっと厨房のなかで仕事をしている。

こんなときくらい同年代の妖怪と楽しんでもいいと思うのだが、無理強いするのもおかしいので、個人の意志に任せることにした。


「あ、座敷わらしちゃんは? お店の中だし、一緒にどう?」


『座敷わらし』も見た目は幼女だ。

こちらも、座敷に現れる妖怪なので、野外での催し物はあまり参加したがらない。

今回のお菓子教室は、店内でやる予定なので問題ないはずだ。


「わしか? なんで毎日、仕事で菓子作りの手伝いをやっておるのに、わざわざ、そんなものに参加するのじゃ?」


「う。そう言われると・・・。」


真宵個人としては、いろんな子供達とふれあえるよい機会だと思っているのだが、座敷わらしにしてみれば、普段仕事でやっていることをあえてやる意味が解らないらしい。

あまり深く考えると、ひとりよがりでやっている気になってしまいそうなので、考えるのを止めた。

もともと自由参加、希望者のみ、の予定なので、無理強いする気はさらさらないのだ。


「まあ、来たとしても二十人程度だろう? それなら、店の半分も使えば十分だろうし、自分達でつくってもらうなら、そんなに手間はかからないだろう。 当日は店のほうは任せてもらって、マヨイどのは、そちらの教室とやらに専念してくれてかまわない。なにか手伝いがいるなら遠慮なく言ってくれ。」


「某も、必要ならなんでもしますので、遠慮なく。」


「ありがとう。じゃあ、今週の金曜日、午後三時くらいからやる予定なのでよろしくね。」


従業員にはあまり関心を持たれなかったが、とにかく『第一回お菓子作り教室』の開催は決定した。

真宵も女性。女のさがか、母性本能か、子供はやっぱりかわいい。

小さな催し物ではあるが、たくさんの子供達とふれあえるとなると、今から楽しみで心躍るようであった。





読んでいただいた方ありがとうございます。

菓子教室開催の前フリでございます。

今回は夏祭り、芋煮会の反省を踏まえて三回程度で終わる予定になっていますのでご安心を^^;。

次回は狸妖怪さんのおはなしです。

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