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妖怪道中甘味茶屋  作者: 梨本箔李
第八章 初霜
195/286

195 おひさしぶりです人間界

用語紹介。

『真宵の祖母の家』

真宵が祖母から相続した田舎の一軒家。

田舎のそのまた田舎。さらに集落から離れた山の中にある古い日本家屋。

何故か妖怪『迷い家マヨイガ』と同調シンクロしており、妖異界に繋がる接点のひとつとなっている。

《カフェまよい》が休みの週末、真宵は人間界のこの家で過ごしている。



神無月。

人間界と妖異界の距離が開く月。

その影響を受け、真宵は人間界に戻れなくなり、妖異界で過ごすこととなった。

その神無月もやっと終わり、真宵はひと月ぶりに人間界に戻っていた。




「うぅーん。久しぶりね。こっちの朝は。」


目覚めた真宵は、実にひと月ぶりの自分の部屋の光景に目をやった。

天井には照明器具がぶら下がり、テレビが設置され、机にはノートパソコンが置かれている。

枕元にはスマートフォンが充電器につながれたまま、放置されていた。


ここは妖異界ではない。


真宵が祖母から譲り受けた人間界の家の自分の部屋だ。


「ひと月ぶりか・・・。」


最初、まるまるひと月帰れないと言われたときは、どうなるのかと思ったが、過ぎ去ってしまえば、けっこう、あっと言う間だった気がする。

だが、これで終わったわけでもない。

物事には、たいてい、後始末、というものが付いてまわるのだ。


真宵は、枕元に置かれているスマートフォンを見る。

すると、端っこの小さな部分がチカチカと緑色に点滅していた。

「着信アリ」を示す合図である。


妖異界に電気製品は持ち込めない。

当然、スマートフォンはこの一ヶ月、こちらの世界に放置されていた。

バッテリーが切れてないのは、充電器につなぎっぱなしだったからである。


「なんにも、騒ぎにはなっていませんように・・。」


真宵は祈るように、スマートフォンを起動させる。


着信 28件

メール 62件


「ぐぅ。」


年頃の娘が、スマートフォンをまるまるひと月放置したのだ。

この程度しか連絡がないのは、むしろ珍しいことかもしれない。

多い人なら、仕事を除いても日に何十件とメールや電話でやり取りをする。

それに比べれば、真宵の場合は一日当たり電話一件、メール二件程度である。

だが、目の前に突きつけられると、けっこうな数である。

真宵は恐る恐る、内容をチェックした。




「はあ。」


大きくため息をついた。

幸いなことに、大事になっている様子はなかった。

電話の着信履歴は、六割が真宵の母親。それも、ほとんどがこの二週間位のものである。残りは友人からだ。

メールのほうは、半分位がダイレクトメール等の返信無用のもの。残りは電話の着信履歴と似たようなものだった。


友人のほうは、まあ、問題ない。

特に探しているという感じではないし、「最近、連絡がなく、こちらからしても返信がないので、ちょっと心配。」ぐらいなものだ。

この週末に連絡をしておけばいい。


問題は、母親の方だ。

最初は、「時間のあるときに連絡しなさい。」くらいなものだったが、ここ数日は、あまりに音沙汰がないので、心配して文面もヒステリックじみている。

これは、早急に連絡しておいた方がいいだろう。


しかし・・。


真宵はスマートフォンの画面の右上に表示された時刻を見る。


AM6:42


連絡するのには少々微妙な時間帯だ。

妖異界では朝早くから仕込みを開始し、夜はすることもないので早めに寝る、という習慣がついている。今日はこれでもゆっくり寝た部類だ。


(できるだけ早く連絡した方がいいかしら? でも、こんな時間に電話したら、余計に変に思われるかも・・。)


親を安心はさせたいが、変なかんぐりは御免こうむりたい。

真宵は少し悩むと、布団から立ち上がった。


「・・・先に用事を済ませちゃおうかな。」


誰に言うでもなく、言い訳が口から出た。

面倒なことはついつい後回しにする。

良くないことだと思っていても、誰もがやってしまうことだった。







真宵は人間界での週末、必ず行く場所がある。

地元の朝市だ。

そこまで大規模ではないものの、新鮮な食材が安く手に入るとあって、地元の人だけでなく、近隣の町や地域の人も買いにくることが多く、田舎のそのまた田舎の催し物にしては、なかなかの盛況ぶりだ。

さすがに何でも売っているわけではないので、足りないものはスーパーマーケットなどに買いに出かけるが、野菜などは極力、この朝市で買うことにしている。

市は土曜と日曜にやっているが、土曜の方が空いているので、真宵が行くのは大抵、土曜日の朝である。


「はあ。疲れた。」


朝市で店で使う野菜をしこたま買い込んだ真宵は、やっと家にたどり着いた。

ずっと毎週末、通っていたのに、この一ヶ月、顔を見せなかったせいで、よく行く店のひとにはいろいろと聞かれた。

「最近、顔を見せなかったんで心配だった。」「久しぶりに会えてうれしい。」「なにかあったの?」と、歓迎と心配でひとだかりができたほどだ。

とくに、懇意にしているシンタロウなどは、「こんな田舎に飽きて、もう来なくなったのだと思った。また逢えてうれしい。」と大げさなくらい喜んでくれた。

週末に買い物に来るだけの自分のことを、これだけ気にかけてくれているのはとてもありがたい。

その分、相手に嘘をつかないといけないのは胸が痛んだ。


「・・・さてと。」


真宵はポケットからスマートフォンを取り出す。

さすがにこれ以上は後回しには出来ないと、母親の携帯番号をダイヤルすると、耳元で、数回コール音が聞こえた後、繋がる。


「真宵?! あなた、いったいなにしてるの!?」


繋がった瞬間に、母の声が聞こえた。


「お、おはよう。お母さん。連絡くれてたのに返さなくって、ごめんね。」


「ごめんねじゃないわよ。ぜんぜん音沙汰なしで! この週末に連絡取れなかったら、そっちに行こうって、お父さんと話してたのよ。」


「ええ?」


あぶなかった。危うく大問題になるところだった。

両親がこちらに来て、車も財布も携帯電話も家にあるのに、娘の姿がないとなると事件性を疑う展開だ。捜索願とか出しかねない。


「ええ、じゃないわよ。そんな田舎でひとり暮らししてる娘が、いきなり連絡取れなくなったら心配するじゃない。ただでさえ、週末くらいしか電話に出ないのに。」


母親の言っていることはもっともだった。

一人暮らししている若い女性がいきなり一ヶ月もの間、音信普通になれば親としては心配もするし、様子を見に行こうとするのは、親心だ。


「ご、ごめんなさい。ちょっと、いろいろあって・・。」


「いろいろって何? あなた何かおかしなとこに巻き込まれているんじゃないでしょうね?」


妖怪がらみのことが、おかしなことか否かで言えば、イエスと答えるしかないのだろうが、そうもいかない。

なんとか誤魔化す方便を考える。


「え、えと。ちょっと、休みがもらえたんで旅行、そう、旅行に行ってたの。それで、携帯電話が壊れちゃって。ほら、旅先だとなかなか修理にも出せないし。帰ってきてから、修理に出して、修理から戻ってきたら、着信履歴とかメールとかすごいことになってて・・。それで、急いで電話したのよ。ホホ。」


「・・・。それで、本当にだいじょうぶなの?」


かなり、無理やりな言い訳に、なにかしら不審なものを感じながらも、真宵の母は尋ねた。


「え。ええ。もう、電話も直ったし、これからはちゃんと連絡するわ。心配かけてごめんなさい。」


心配してくれる母親に取って付けた様な嘘を並べ立てなければならないのは、心苦しい。

とはいえ、本当のことを言うのが最善かと考えると、そうも思えなかった。


「なにかあったらすぐ連絡しなさいよ。のどかな田舎って言ったって、最近はどこも物騒なんだから。」


「わかってる。戸締りとかはちゃんとしてるし。じゃあ、お正月にはたぶん帰るから。」


「はいはい。じゃあね。気をつけるのよ。」


そう言って、電話は切れた。

真宵はどっぷり疲れて、肩を落とす。


(まあ。警察に捜索願を出されなかっただけで、御の字よね。)


心配してくれるのはありがたい。

世の中には、失踪しても誰にも気に止めてもらえないひともいれば、一人暮らしで亡くなって、長い期間発見されないひともいるのだ。

そう考えると気にかけてくれる家族や友人がいるというのは、感謝以外のなにものでもないのだ。

だが、それだけに相手に嘘をついたり、言い訳を考えないといけないのは、心苦しい。

かと言って、本当のことなど言えるはずもない。

ことは複雑なのだ。


「さて、次は、友達にも連絡しておかなきゃね。」


一抹の面倒くささも感じながらも、真宵はスマートフォンの画面を操作するのだった。






読んでいただいた方ありがとうございます。

遅ればせながら新章です。

いまどきLin○じゃなくてメール?って思ったのですが、勝手に特定企業のアプリをおはなしにいれていいのかわからなかったので、メールにしました^^;。

真宵さん、意外にアナログってことで。



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