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妖怪道中甘味茶屋  作者: 梨本箔李
第七章 神無月
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190 感謝感謝の芋煮会10 小噺 文吾 宗助

ご招待妖怪紹介

『文吾』『宗助』

件の牧場で働く狸妖怪。

牛の世話をしながら牛酪つくりに励んでいる。



妖異界にただひとつ、人間の店主が営む茶屋 《カフェまよい》。

突然見舞われた、人間界に帰れないというトラブルも何とか切り抜けた。

来週はもう十一月。

神無月の影響から抜ける。

つまり、この週末が、真宵が妖異界で逗留する最後の週末ということになる。

そのため、今日は世話になった妖怪を招いて『芋煮会』を催している。




『芋煮会』も開幕から一段落たち、喧騒も少し鳴りを潜め、落ち着いてきた。

最初は我先にと、鍋に群がっていた妖怪たちも、今度は、あそこの鍋が美味い、あそこの肉が最高だ、と情報交換を駆使し、もっとも美味な味を探しはじめていた。

それに伴い会話も弾み、楽しそうな雰囲気である。



「へえ。宗助と文吾は、そんなことやってたのかー。」


「まあな。金長様の御力になるため、日々、精進している。」


「まあ、いろいろ大変ですけど、なんとかやっていますよ。」


くだんの牧場で働く狸妖怪である宗助と文吾は、ひさしぶりに故郷である『久万郷』の友人達と旧交を温めていた。


「ふぅん。牛酪ねぇ。薬で使うってのは聞いたことあったけど、料理にもつかえるのか。うまいの?」


「ああ。もちろんだ。『くれぇぷ』という、小麦粉と卵を混ぜて薄く焼いたものに塗るだけで馳走になる。」


「芋に塗っても美味しいんですよ。」


文吾も宗助も誇らしげに胸を張る。


「それだけじゃ、ないぞ。『ちぃず』というほんのり甘くて酸っぱいのも作っている。あれを作っているのは、この世界では俺達だけだろうな。」


「そうですよね。聞いたこともない食べ物ですし、誰も知らないですよね。蜂蜜をちょっと垂らしただけで、甘酸っぱくて不思議なお菓子になるんですよね。」


聞いていた狸たちは、ゴクリと唾を飲み込む。


「そんなうまいもの、毎日食っているのか?」


「まあな。牛乳は使い放題だし、件さんから、肉も遠慮なく食っていいっていわれているからな。食事には不自由しない。」


「それに牛乳も飲み慣れると、美味しいんですよ。最初は、慣れてなくてよくわかりませんでしたけど。」


「そうだな。川で冷やすと特に美味いな。」


「へえ。牛の乳がねえ。」


狸たちは文吾たちの話に興味津々だ。


「それに、休みの日は、この店に来るのも楽しみですよね。文吾さん。」


「ああ。今日はこのような催し物をやっているが、普段は昼時に来ると『ランチ』というのが手頃な値段で食べられる。」


「らんちって、この『芋煮』みたいなやつか?」


「うーん。ちょっと違うな。『ランチ』は大抵、白米と味噌汁、それに主菜と副菜で定食になっている。しかも、それが毎日違ったものが食えるんだ。今日は魚、明日は鶏肉ってな。」


「へーえ。」


「それも、『久万郷』じゃ、見たことのないような料理が出るんですよ。知らない料理なのに、みんな美味しくって。」


「ええ。天国じゃん。俺も来ればよかったー。」


「ら、楽していい思いしているわけじゃあないぞ。仕事は大変だしな。」


「え、ええ。すごい大変ですよね。」


「牧場主の件さんは、いい方だが、なにせ身体が小さく力も弱いからな。自分達を頼りにしてくれている。」


「ええ。僕たちが来て、牧場の仕事が楽になったって、感謝されてますよね。」


「ああ。今日の牛肉だって、自分達に感謝して件さんが持たしてくれたものだ。いつも世話になっているからってな。」


「そ、そうなんですよ。」


「へえ。そんなに頼りにされてるのか。」


狸たちは感心の声をもらす。


「やっぱり、仕事はキツイのか?」


「も、もちろんだ。牧場は朝早いし、重労働だしな。乳をしぼったり、牛を解体したり、出産を手伝ったり、やることは山ほどある。」


「それに、この店に肉や牛乳を配達するのも、僕たちの仕事なんですよ。」


「へえ。」


「配達に来ると、まよいさんが、お菓子を土産にくれたりもしますよね。」


「ああ。ここの菓子はうまいぞ。」


「ええ?なんだよそれ。『久万郷』じゃあ、甘いものなんて、めったに食えないのに。」


「だ、誰でも、そんなによくしてくれるわけじゃないさ。」


「そうですよね。僕たちだからこそ、いろいろやってくれるんです。」


「そうなの?」


「そうだ。牛酪作りだって、自分達が妖力を使ってやったら、まよいさんはすごい感心してたしな。」


「ええ。驚いてましたよね。人間は妖力なんて使えないし。すごい!さすがだ!って大騒ぎでした。」


「へえ。すげえな。」


狸たちは二人の話を真剣に聞き入っていた。



「じゃ、じゃあ、そろそろ行くか、宗助。」


「そ、そうですね。他にも挨拶したいひともいますし。」


ふたりは立ち上がって、移動しようとする。


「ああ。もし、時間があったら、こっちの話、また聞かせてくれよ。」


「あ。ああ。時間があったらな。」


「それじゃあ、また。」


ふたりは手を振ると、その場を去った。






「ね、ねえ。文吾さん。ちょっと、話を大きくしすぎましたかね?」


「そ、そうだな。ちょっと、調子に乗りすぎたな。だが、あいつらも、『芋煮会』が終わったら、里に帰るし、バレやしないさ。」


「そうですよね。」


「そうさ。」


ふたりは顔を見合わせて頷く。



久しぶりに会った友人には、つい、見栄を張りたくなるものであるらしい。


読んでいただいたかたありがとうございます。

次回でやっと芋煮編最終幕です。

気がつけば十一月も半分終わっており、だいぶ遅れてしまった感が^^;


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