190 感謝感謝の芋煮会10 小噺 文吾 宗助
ご招待妖怪紹介
『文吾』『宗助』
件の牧場で働く狸妖怪。
牛の世話をしながら牛酪つくりに励んでいる。
妖異界にただひとつ、人間の店主が営む茶屋 《カフェまよい》。
突然見舞われた、人間界に帰れないというトラブルも何とか切り抜けた。
来週はもう十一月。
神無月の影響から抜ける。
つまり、この週末が、真宵が妖異界で逗留する最後の週末ということになる。
そのため、今日は世話になった妖怪を招いて『芋煮会』を催している。
『芋煮会』も開幕から一段落たち、喧騒も少し鳴りを潜め、落ち着いてきた。
最初は我先にと、鍋に群がっていた妖怪たちも、今度は、あそこの鍋が美味い、あそこの肉が最高だ、と情報交換を駆使し、もっとも美味な味を探しはじめていた。
それに伴い会話も弾み、楽しそうな雰囲気である。
「へえ。宗助と文吾は、そんなことやってたのかー。」
「まあな。金長様の御力になるため、日々、精進している。」
「まあ、いろいろ大変ですけど、なんとかやっていますよ。」
件の牧場で働く狸妖怪である宗助と文吾は、ひさしぶりに故郷である『久万郷』の友人達と旧交を温めていた。
「ふぅん。牛酪ねぇ。薬で使うってのは聞いたことあったけど、料理にもつかえるのか。うまいの?」
「ああ。もちろんだ。『くれぇぷ』という、小麦粉と卵を混ぜて薄く焼いたものに塗るだけで馳走になる。」
「芋に塗っても美味しいんですよ。」
文吾も宗助も誇らしげに胸を張る。
「それだけじゃ、ないぞ。『ちぃず』というほんのり甘くて酸っぱいのも作っている。あれを作っているのは、この世界では俺達だけだろうな。」
「そうですよね。聞いたこともない食べ物ですし、誰も知らないですよね。蜂蜜をちょっと垂らしただけで、甘酸っぱくて不思議なお菓子になるんですよね。」
聞いていた狸たちは、ゴクリと唾を飲み込む。
「そんなうまいもの、毎日食っているのか?」
「まあな。牛乳は使い放題だし、件さんから、肉も遠慮なく食っていいっていわれているからな。食事には不自由しない。」
「それに牛乳も飲み慣れると、美味しいんですよ。最初は、慣れてなくてよくわかりませんでしたけど。」
「そうだな。川で冷やすと特に美味いな。」
「へえ。牛の乳がねえ。」
狸たちは文吾たちの話に興味津々だ。
「それに、休みの日は、この店に来るのも楽しみですよね。文吾さん。」
「ああ。今日はこのような催し物をやっているが、普段は昼時に来ると『ランチ』というのが手頃な値段で食べられる。」
「らんちって、この『芋煮』みたいなやつか?」
「うーん。ちょっと違うな。『ランチ』は大抵、白米と味噌汁、それに主菜と副菜で定食になっている。しかも、それが毎日違ったものが食えるんだ。今日は魚、明日は鶏肉ってな。」
「へーえ。」
「それも、『久万郷』じゃ、見たことのないような料理が出るんですよ。知らない料理なのに、みんな美味しくって。」
「ええ。天国じゃん。俺も来ればよかったー。」
「ら、楽していい思いしているわけじゃあないぞ。仕事は大変だしな。」
「え、ええ。すごい大変ですよね。」
「牧場主の件さんは、いい方だが、なにせ身体が小さく力も弱いからな。自分達を頼りにしてくれている。」
「ええ。僕たちが来て、牧場の仕事が楽になったって、感謝されてますよね。」
「ああ。今日の牛肉だって、自分達に感謝して件さんが持たしてくれたものだ。いつも世話になっているからってな。」
「そ、そうなんですよ。」
「へえ。そんなに頼りにされてるのか。」
狸たちは感心の声をもらす。
「やっぱり、仕事はキツイのか?」
「も、もちろんだ。牧場は朝早いし、重労働だしな。乳をしぼったり、牛を解体したり、出産を手伝ったり、やることは山ほどある。」
「それに、この店に肉や牛乳を配達するのも、僕たちの仕事なんですよ。」
「へえ。」
「配達に来ると、まよいさんが、お菓子を土産にくれたりもしますよね。」
「ああ。ここの菓子はうまいぞ。」
「ええ?なんだよそれ。『久万郷』じゃあ、甘いものなんて、めったに食えないのに。」
「だ、誰でも、そんなによくしてくれるわけじゃないさ。」
「そうですよね。僕たちだからこそ、いろいろやってくれるんです。」
「そうなの?」
「そうだ。牛酪作りだって、自分達が妖力を使ってやったら、まよいさんはすごい感心してたしな。」
「ええ。驚いてましたよね。人間は妖力なんて使えないし。すごい!さすがだ!って大騒ぎでした。」
「へえ。すげえな。」
狸たちは二人の話を真剣に聞き入っていた。
「じゃ、じゃあ、そろそろ行くか、宗助。」
「そ、そうですね。他にも挨拶したいひともいますし。」
ふたりは立ち上がって、移動しようとする。
「ああ。もし、時間があったら、こっちの話、また聞かせてくれよ。」
「あ。ああ。時間があったらな。」
「それじゃあ、また。」
ふたりは手を振ると、その場を去った。
「ね、ねえ。文吾さん。ちょっと、話を大きくしすぎましたかね?」
「そ、そうだな。ちょっと、調子に乗りすぎたな。だが、あいつらも、『芋煮会』が終わったら、里に帰るし、バレやしないさ。」
「そうですよね。」
「そうさ。」
ふたりは顔を見合わせて頷く。
久しぶりに会った友人には、つい、見栄を張りたくなるものであるらしい。
読んでいただいたかたありがとうございます。
次回でやっと芋煮編最終幕です。
気がつけば十一月も半分終わっており、だいぶ遅れてしまった感が^^;




