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妖怪道中甘味茶屋  作者: 梨本箔李
第一章 桜
18/286

18 麗しの兎耳

人間界とは別の妖怪たちの棲む世界、妖異界。

ひょんなことから異世界で甘味茶屋を営むことになった真宵まよい


剣も魔法もつかえません。

特殊なスキルもありません。

祖母のレシピと仲間の妖怪を頼りに、日々おいしいお茶とお菓子をおだししています。

ぜひ、近くにお寄りの際はご来店ください。

        《カフェまよい》  店主 真宵


さくら祭り 最終日


今回のおはなしは 04 癒しのねこまた を読んでからお読みいただけるようおねがいします。

短いので、すぐ読めます。

《カフェまよい》の店長真宵には、ひそかな楽しみがある。

まだ新米とはいえ、飲食店の経営者として、サービス業に従事するものとして、超えてはいけない一線はあるとわかっている。

接するのはあくまでプロとして。

それ以上でもそれ以下でもない。

相手に失礼があってはいけない。

特別扱いもダメ。

それを心に留めて、その上で、心の中でひそかに楽しむのだ。

きっとそれくらいなら許されるであろう。うん。きっと。


04 癒しのねこまた  より



「いらっしゃいませ。空いているお席にどうぞ。」

真宵は、ふたりのお客を席に案内する。


「まよいちゃーん。桜餅とお茶ね。 あたしは、道明寺のほう。」

「あたしは、長命寺のほうね。あのピンク色の皮が超カワイーのよね。」


ふたりの客は、耳をピンと立てて真宵に注文の品を伝える。

そう、耳を長く立てて。


彼女たちは『望月兎もちづきうさぎ』。

月で餅つきをしているとされている兎の妖怪だ。

名前を月兎げつと玉兎ぎょくとという。

十代後半の可愛らしい女性の姿をしている。腕や足首が、ふわふわの兎の毛で被われていたり、瞳が紅玉のような真っ赤だったりするが、なんといっても特徴的なのは、その頭から生えている長い耳だ。

まっすぐ立ったかとおもうと、ピコピコとアンテナのように動かしている。


「おまたせいたしました。桜餅とお茶のセットです。玉兎さんのほうが長命寺ですね。」

真宵が注文の品を、テーブルに並べる。


「きゅーん。かわいい。こんなピンク色のかわいい食べ物、妖異界にはないよねー。」

「うんうん。今日で桜餅がおわりなんて残念。」


今日が《カフェまよい》のさくら祭り、最終日である。

望月兎たちは、可愛らしいピンク色の餅をいたく気に入って、三日連続の来店である。


「好評なので、また作りたいとは思っているんですが・・、なかなか人手とか、時間とか、予定がたたなくて。」

そのうえ、道明寺と長命寺どちらを優先するかという、答えのない問題も抱えている。


「そっかー。またつくったら教えてね。ぜったい食べにくるから。」

「うんうん。かわいーピンクのやつね。」


真っ赤な瞳をパチパチしながら、真宵に期待の視線を送る。


「はい。期待にこたえられるようがんばります。 それじゃあ、ごゆっくり。」 

真宵は笑顔で席を後にした。



兎耳のふたりは、ふたつのピンクの桜餅のビジュアルを存分に堪能したあと、そっとつまみ上げる。


「この葉っぱのとこがおいしいんだよねー。」

「うんうん。パリパリしてて、ちょっと塩っぱいのもいいんだよねー。」


ふたりは、鼻をヒクヒクさせながら、手づかみで桜餅にかぶりつく。


「おーいしー。」


兎の顔が笑顔になるたび、頬からでた細い髭が揺れ、唇から少しだけ可愛らしい前歯が覗く。


「ねぇねぇ、ひとくちだけ、桜餅交換しようよ。」

「えー。・・ひとくちだけだよ?」


お互い自分の持っている桜餅を、相手の口に近づける。

せーの、と相手の桜餅をかじる。


「うーん。長命寺のしっとりした生地もおいしいね。」

「うんうん。道明寺のもっちりしたのもおいしいよ。」


ふたりは幸せそうに、相手の桜餅を褒めあう。

ふかふかの手の兎毛は、よく見ると、月兎は雪のような真っ白で、玉兎は優しいクリーム色だ。

その手でふたりは湯のみを持つと、ゆっくりと茶を飲んだ。


「あ、今日のお茶は玄米茶だね。」

「うんうん。ちょっと香ばしくって、おいしいよね。」


長い耳をぴこぴこ動かしながら、茶をすする。




ふたりは、その後、半刻ほど会話を楽しんだ後、席を立った。


「ごちそーさま。今日もおいしかったよー。」


月兎は真宵にふかふかの手で、代金を渡す。


「はい。これ、ふたりぶんね。」


「はい。たしかに。ありがとうございました。」


「それじゃあ、またねー。まよいちゃん。」

「ばいばーい。」


月兎と玉兎の後姿を見送る。

ふたりのお尻からは、丸いポンポンのようなかわいい尻尾がでていた。

歩くたびふわふわと揺れる。


「ありがとうございました。 またのご来店お待ちしてます。」


ふたりが店を出て行まで見送った真宵は、微笑んだ。


(月兎さんと玉兎さん、可愛いなぁ。 放課後、寄り道する女子高生みたい。)



「おーい、こっちに茶のおかわりをたのむ。」


「はい、すぐおもちします。」

《カフェまよい》は盛況で、ゆっくりしている暇はなかった。





《カフェまよい》店長 真宵 二十四歳。


犬よりも猫派



え? ウサギですか? ふつーに好きですよ。ふつーに。


ウサ耳とネコ耳が、似たようなものですって? 何いってるんですか! ゼンゼン違いますよ。


知ってます? ウサギって肉球が無いんですよ。いや、だからダメってわけじゃあないですけどね。


そういえば、最近、ねこまたさん、来てないなぁ。忙しいのかなぁ。















読んでいただいた方、ありがとうございます


今回の妖怪は 月にすむうさぎ、です。「望月兎」は勝手に名前をつけてしまいました。

妖怪というよりは逸話なんで、妖怪名みたいのがあまりはっきりしてないんですよね。

「月の兎」とかそのままウサギ とか。

個人名のほうで使った「玉兎」は中国でよばれている名前みたいです。


今回は、04 のはなしと対比させて、真宵さんの猫耳に対する熱量と兎耳に対するソレの差をおもしろく書けたらいいなあ、と思ったんですが、 ちょっとオチが弱すぎて、伝わらない感じですね。反省してます。

兎耳コンビは、インスタ映えとか気にしてる女子高生みたいなキャラにしたかったんですが・・。

あまりうまくいかなかったんで、またちがうおはなしで出せたらと思っています。

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